【テーマ】借り物競走  がりは

  • 2017.10.31 Tuesday
  • 12:00
日曜の子供の運動会を見に行って、代休の子供はぐっすり寝ている月曜日。
いい気なものだ、今年の運動会も終わりだ、俺はかれこれ運動会に何年参加してないのだろうか、と思っていた俺の耳元で
「よーい!」
誰かが大声を張り上げる。
受ける暇もなく耳がきいーんとなる。
「ドン!て言ったらスタートな。」
おっさんの声だ。
右肩に小さなおっさんが乗っている。
赤地に白の2本のラインが入ったジャージを着て、下はピタピタで股間がもっこりするほど上に引っ張っている。
スポーツ刈りで四角い顎に髭が青い。
「よーい!」
俺は何のレースに参加するのだ、と頭を素早くめぐらす。
そうか、借り物競争か?
「ドン!」
言われた瞬間に走り出す。
自分の部屋に入りながらパジャマを脱ぎ、アーガイルの靴下、薄い黄色のワイシャツ、こげ茶のスラックス、エンジのネクタイ、濃紺のジャケット、左手にハミルトンの馬蹄型、マッキントッシュのくすんだオレンジのコートを身に着けて部屋を飛び出す。
そういえば会社人生は障害物競走のようなものだしな、と。
権威を借り物競争している奴らもいる。
はは。
玄関に用意してあった茶色の皮のトートバッグを左手で拾い上げながら、定期券、財布、ケータイ、鍵を右手で集めて靴を履く。
鋭いホイッスルが鳴る。
「しまった!」
妻と二人の子供に行ってきますのキスをするのを忘れていた。
忘れられたのを察知したのか下の子がキスをさせてくれない。
半ば強引におでこに刻印すると今度は首ったまにかじりついて放してくれない。
妻の人形遊びによるアシストでようやく解放され、ようやく靴を履き、家を出る。
「行ってきます!」
アパートの階段を駆け下り、ごみ捨てに出てきた一階の奥さんにも挨拶を忘れず外に駆け出した。
ピッピ―!
再びファウル。
ごみ捨ては俺の当番だった。
腐っても仕方ない。
肩のおっさんの顔は厳格さを増している。
階段を駆け上がり、家のドアを開けると妻がごみをまとめておいてくれた。
「ありがとう。あいしてる。」
ときつく抱きしめて、二つのごみ袋を手にして再出発。
視界の左上にせわしなく動くラップタイム表示が。
次の関門まで五分を切っている。
それはきっと徒歩十分の場所にある駅で乗るいつもの電車なのだろう。
俺は何人もの人を置き去りにし、いくつかの信号を無視して(これはファウルにならなかった。)駅の階段を駆け上がり、何とか乗ることに成功した。
左上のラップがまた五分。
次は二駅先のターミナル駅での乗り換えか。
しかし五分ということは階段を2本駆け上がって運が良ければ乗れるあの電車に乗れというのか。
おっさんを見ると力強くうなずいた。
お前誰だよ。
汗をぬぐいながら息を整える。
階段に最も近い戸口に移動しなければ。
満員の車内を移動するわけにもいかず、駅に止まったタイミングでホームに降り、戸口を移動した。
するとやはりというべきか、そこはすでに押しくら饅頭状態で、すでに車体から人がはみ出ている。
鞄を肩にかけた俺は雄たけびを上げながら両手を広げてでかい饅頭に突進した。
一度目は跳ね返されホームに転げた。
二度目は重心を下げ押し込んだのだが饅頭の反感を買ったのか先ほどよりも強い力で弾かれた。
発車ベルが鳴り終わりかけたラストチャンス、饅頭と饅頭の間にソイソイソーイと掛け声をかけながらスライドして入っていくと何とか入り込むことができた。
おっさんはそっぽを向いている。
ターミナル駅まであと1分50秒。
ドアが開いたら中央に近い右足を出し、車内から押し出される圧力を利用して加速、二番手で階段を上がり、二つ目の階段の後半で、電車から降りてくる群れに呑まれる一番手を交わす形で俺がトップに立つ、とシミュレーションを重ねる。
隣の若者の肘が痛い。
業腹だがこいつを先に行かせるか。
みなの息が整いつつある。
列車がターミナル駅に進入する。
ホームでは人がごった返している。
全員が俺を止めようとしている。
止められるなら止めてみろ。
電車が止まる。
エアーが抜ける音がする。
残りは26秒。
ドアが開く。
おっさんが笑う。

波瀾万丈の古代祭祀 Mr.Indigo

  • 2017.10.31 Tuesday
  • 00:00

10月31日、ハロウィンである。

現代の日本においては、午前中に幼児たちが人気キャラクターのコスチュームに身を包み行列を成して近所を巡り、夜には大都会の歩行者天国で奇抜な格好をした若者たちが存分に羽目を外す日として知られている。

しかし、自分が子供の頃には日本にそんな行事はなく、私は長らくハロウィンという言葉すら知らなかった。この風習を知ったのは、アメリカで仮装した少年が他人の家に入って射殺されるという事件があった時だ。

そんなハロウィンが、いったいなぜ日本で急速に浸透したのだろう。妻に聞いてみたところ、経済効果が凄いのだという。確かに衣装は売れる。凝る人はいくらでも金をかけるに違いない。テーマパークもイベント開催で一儲け。そのほか、洋菓子やキャラクターグッズも限定商品を用意すれば儲かるに違いない。

ちょっと調べてみたところ、ハロウィンのイベントやグッズ販売が日本で広く行われるようになったのは、私が高校〜大学生の頃のようだ。もう20年ほど経っている。今の時代の流れを考えると、急速というほどでもない。単に自分が興味を持っていなかっただけか。

ともあれ、ハロウィンは舶来文化を抵抗なく取り入れ日本風にアレンジするという、日本人の特性がよく現れた行事だと言えるだろう。


さて、私は長らくハロウィンはキリスト教に由来するものだと思っていた。それが間違いというわけではないようだが、さらに歴史をたどれば実は古代ケルト人の悪霊退散の祭祀に起源があるということをこのほど知った。仮装はもともと悪霊を怖がらせるためにしていたらしい。

私はへそ曲がりなのか、そうなるとクリスマスなどより面白そうで、興味深く感じられる。そこで、ハロウィンやケルト人について調べてみることにした。

今から2500年ほど前、ケルト人はヨーロッパ各地に居住していた。もっとも、この名は古代ギリシャ人が付けた、北方の屈強な民族の総称である。ゆえに、ケルト人の中には多数の民族があり、文化にはそれぞれ差異があっただろう。

ちなみに、ケルト人のことを古代ローマではガリア人と呼んだ。そして、ローマ帝国が領土を広げていくにつれ、ガリア人すなわちケルト人はスコットランドやウェールズ、アイルランドなどに残るばかりとなったとされている。

もっとも、ケルト人は文字を持たなかったので、文献史料はギリシャ・ローマ側のものに限られる。したがって、ケルト人の文化についての記述を鵜呑みにすることはできない。

ただ間違いないのは、ケルト人の部族が行っていた祭祀がいつしかキリスト教社会の一部に取り込まれ、形を変えながらもハロウィンとして生き残ってきたということである。

そして、今の盛り上がりの発端は、ハロウィンがアイルランドやスコットランドからの移民とともにアメリカへ渡ったことにある。自由の国アメリカに行けば、面白いものは受容され発展していく。カボチャが登場したのもアメリカでのことだった。そして、アメリカで普及した時点で、いかようにも変形する日本文化に入り込むのは遅かれ早かれ必然のことだったのかもしれない。


今となっては、深夜の渋谷にでも行こうものなら悪霊も逃げ惑うばかりであろう。もっとも、当事者たちはそんなことなど頭にないだろうが…。


できれば丁寧に2017年1月を振り返る(1)  Mr.アールグレイ

  • 2017.10.30 Monday
  • 00:35

2017年1月を振り返っていきます。

なにしろ60本ありますので息切れしないように、無理しないように、頑張らないように、進んでいきたいと思います。

 

新年のごあいさつ

 

ハッガリーニさんのごあいさつ。

 

本年は我々一丸となりまして、ネクストステージへと移行して参ります。

 

11月になりましたが我々はネクストステージに移行できているでしょうか。

あ、うべべさんの作品が小説現代に掲載されましたね。

これは立派にネクストステージ!

どんどん続くとネクストステージ感がもっともっと出ますので、皆さん続きましょう。

 

 

2016年11月の振り返りを丁寧に(3) Mr.アールグレイ

 

自作なので紹介だけー。

 

2016年11月MVP がりはの記者会見(1)  がりは

 

11月のMVPの記者会見が1月にずれこんでますね。

ふふふ。

テーマとMVPの二冠に輝いたがりはさんが、テーマよりもMVPを重く見たような発言をした記者に怒り、MVPの会見を別に設定したからですね。

マッチポンプもここまでくるとすがすがしいです。

 

「あのよ、数寄屋橋次郎でもジョエル・ロブションでもいいよ、行ってみてさ料理食べたらうまいだろ?それ、素材作った人のおかげです、て食ってかかる奴いる?いないよなあ。小野さんなりジョエルなりがありがとうありがとうって言われるよなあ。彼らの調理こそがオリジナルだからだよ。PREMIERにおいて俺が残している作品、たとえばテーマコンテスト見てみろよ、同じ材料もらってみんながよーいドンで料理して、結局勝ってるの誰だよ。」

―がりはさんです。

「聞こえねえよ。」

―がりはさんです!

「インターネットでご覧になっている全世界のみなさんに伝わるようにもっと大きな声で!!」

―がりはさんです!!!

「うるせえ!!声がでけえよ。そうだよな、俺だよ。なんの変哲もない素材でも腕で食わせるの。はい、次!」

 

すごいですよね。

よくぞここまで。

小野さんもロブションさんもこれを読んだら怒るのではないでしょうか。

失笑まで持っていければがりはさんの勝ちですね。

がりはさんの記者会見は普通の人が躊躇なくブレーキを踏むところで躊躇なくアクセルを踏むところが面白いです。

いつか誰かにものすごく叱られてほしいと願っています。

「なんの変哲もない素材でも腕で食わせるの。」

私も言ってみたいです。

 

超・年の差コンビ Mr.Indigo

 

紹介だけー。

奈良の文化財シリーズは、つきをつかまえろ!をつかまえろ!でがりはさんがやっていたような細かい注釈を付けて頂くと楽しめると思います。

 

2016年11月の振り返りを丁寧に(4) Mr.アールグレイ

 

自作なので紹介だけー。

実は一月は本数が多いけれど自作が多いので何とかなるんじゃないかと思っています。

明るい悩み相談室PREMIER(255)〜意地悪、強くなりたい〜  がりは

  • 2017.10.29 Sunday
  • 17:38

明るい悩み相談室PREMIER、本日の担当医がりはです。

こんばんは。

今日はどうされましたか?

 

前までは、他人は他人、私は素敵やから何を言われてもなんとも、という感じでしたが、最近、イジワルを言われるとすごくへこむようになりました。強くなりたいです。

 

ほうほう、わっかりますわっかります。

私もね、そういう経験を重ねてきました。

こんなに毎回渾身の回答を重ねてきているのにね、全然問題が解決してないとか言われるんですよー。

それも多分相談者じゃない人から。

凹みますよねー。

私も強くなりたいです。

一緒に頑張って強くなりましょう!

じゃ、お互いに修行をして一年後の同じ時間にまた会いましょう!

 

・・・そうですよね、なにも変わっていないように見えますよね。

でも、仲間がいるって知っただけで心強くないですか?

最近のJ-POPの歌詞にはこういうのが多いと聞いて使ってみたんですが効きませんでしたか。

営業は売り上げを管理するのではなくプロセスを管理すべし、いやプロセスではなく方針を管理すべし、なんてことを言いますが、最終的には金ですよね。

意地悪を言われるとへこむという悩みがあるならばそのへこみから逃げてはいけませんよね。

どんなルートを通ってもいいからそのへこみを何とかしましょう。

 

へこみを何とかするには「意地悪を言われないようにする」「へこまないようにする(鍛える)」「へこんでもすぐに戻るようにする(柔軟になる)」という三つのルートがあるように思います。

一つ目からいきましょう。

意地悪を言われないようにするには、意地悪を言われたら「嫌だ」と伝えて二度と言われないようするか、意地悪を言いそうな人の周りに寄らないのがいいと思います。

意地悪を言われた時に「嫌だ!やめて!」というのは幼稚園くらいの時に習いますが、大人になると攻撃側もずる賢かったりするので「え?意地悪なんか言ってませんよ。言いがかりはよしてください。あなたちょっとおかしいんじゃない?」というような反撃を用意している可能性があります。

その反撃を封じる魔法の言葉をあなたに授けましょう。

「え?それはどういう意味ですか?」

これを是非練習してください。

意地悪だなあと思うようなことを言われたらすぐに唱えてください。

「え?意地悪ですよ?」

とうっかり言ってくれれば

「意地悪はやめてください!!」

と叫んでやればいいのです。

何か違うことを言って、意地悪でないことを示してくれればあなたはへこむことはありません。

練習していないととっさには出てこないので練習を。

二番目については毎朝腹筋をする、毎朝走るという手段があります。

三番目については楽しみなことを増やすという手段があります。

説明してほしい?

少しは自分で考えたらどうですか!

 

・・・ほら。

いまこそあの呪文を。

 

※明るい悩み相談室PREMIERではあなたのお悩みを受け付けております。

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馬券の現実(67)〜天皇賞(秋)予想〜 たりき

  • 2017.10.28 Saturday
  • 21:46

伝統のGI天皇賞(秋)の予想です。今年は例年以上に豪華なメンバー構成のような気がするのは私の気のせいでしょうか。さらには先週に引き続き雨の予報ということもあって予想は難解を極めそうです。

まずは過去の傾向から。

 

続きを読む >>

俺たちの仲間、俺たちの代表 Mr.Indigo

  • 2017.10.28 Saturday
  • 18:46

日曜日の午後11時過ぎ、ようやく次女が眠った。前日の運動会の疲れが残っていたのか昼寝がいつもより長く、なかなか眠れなかったようだ。

休日の次女の寝かしつけは私の役割である。抱っこで背中を叩きながら歌を歌っていると、やがて次女がぐったりしてくる。そこで彼女を布団に置き、背中を叩きながら歌い続ける。このまま眠れば私は解放されるのだが、必ずしもうまくいくとは限らない。すぐ起きてしまうこともあり、そうなるとスタートからやり直しである。この日は何度も繰り返す羽目になり、眠るまで小一時間を要した。

ちなみに、長女はたいてい勝手にすぐ眠ってしまう。妻はこの時間にのんびり入浴。平日はなかなか長風呂ができないのだ。


さて、ようやく一息ついたところでパソコンの前に座り、開いていた選挙速報を更新する。

「よし」

小声でつぶやく。我々が属する小選挙区で当選を果たしたのは、37歳で2児の父である村井英樹氏。4人の候補者の中でたった1人しかいない子育て世代、育児仲間が勝った。優勢だとは聞いていたが、結果を見て安堵した。

村井氏が2児の父であることを知ったのは数ヶ月前、駅前で配られていた冊子を読んだ時のことだ。「私事ですが2人目の子供が…」という旨の記載があったのだ。もっとも、冊子を読んでいない人もそのことを知っていたはずだ。公示後にあちこちで掲示されたポスターにも「37才2児の父」と記されていたのだから。

前回・前々回の勝者である村井氏があえてポスターに新しい要素を入れてきた。それはすなわち若いだけでなく2児の父であることもアピールしたいということだ。当然、メインターゲットは我々の世代ということになろう。

実際、この記載は38歳2児の父である私の心を惹きつけた。育児支援とか少子化対策といったありきたりな言葉よりよほど効いた。この男は俺たちの仲間だ。そう思わせる力があった。

幼い子供がいるというのは、日本の未来への思いがより切実であるということだ。この子たちが大人になった時、この国はどうあるべきか。2児の父であることをあえてアピールした氏は、それを真剣に考え模索しているはずだ。

しかし、37歳かつ2児の父である男など数知れずいるに違いない。こんないたって普通のことがアピールポイントになるのは、本来なら好ましいことではないだろう。さらに付け加えると、村井氏ら自民党の若手議員が打ち出した社会保険を子育て支援に導入する「こども保険制度」という構想も、日本がマトモな状態であれば必要ないものだ。いわば窮余の策である。


生物学的に少子化を食い止められるのはほぼ30代までだ。ゆえに、政界でも若手が中心となって超党派で少子化対策や育児支援を推進してほしいと私は願う。これまでの手法では少子化を食い止められなかった。新世代による新しい方策が求められているのだ。

私が村井氏を応援する、そしてそのことをこの場で表明する最大の理由はここにある。我々の子供たちが子育て世代になる頃には少子化が改善され、「37才2児の父」というような普通のことをわざわざ記載する候補者がいなくなっていることを願ってやまない。


できれば丁寧に2017年1月を振り返る(0)  Mr.アールグレイ

  • 2017.10.27 Friday
  • 00:00

選挙が終わりましたね。

政治について何か書くのは危険であるという空気がどことなくあります。

たりきさんが競馬について野球について書くように、IndigoさんがPREMIERについて書くように、マルーンさんが山について書くように、がりはさんがプロレスについて書くように、政治について書く人がいても良いと思うのですけれども。

民主主義は多数決だ、というのは嘘だ、と誰かしっかり語っていただけないでしょうか。

できればハッタリストさんやミッチーさんに書いてほしいです。

(最優秀作品賞をもらうと願い事をしても良いというルールはありませんでしたっけ?)

PREMIERの選挙は毎月行われていて投票率がなかなか上がりませんが、ハッガリーニさんはどんなことを考えておられるのか聞いてみたいです。

(願い事は一つだけというルールでしたっけ?)

 

ヤマブキさん、がりはさん、ありがとうございました。

少し勇気が出ました。

色々考えたのですが特に妙案も出ず、さりとて辞めることもできず。

がりはさんが時々使うあの小沢健二のライナーノーツにあった(オザケンのCDなんてライナーノーツのために買ってました。)「せいぜい堂々とやろう。」ということくらいしかできないと思いました。

あのライナーノーツ(「犬は吠えるがキャラバンは進む」)にはまったく痺れてしまって当時は暗唱できるほど読みました。

今読んでも表現する者としての覚悟と含羞が絶妙にミックスされた名文だと改めて感心します。

機会があれば是非読んでみてください。

(できれば「犬」も聴いてみてください。)

そんな名文がPREMIERにも数多くあるので、うまく紹介していけたらと思います。

私はPREMIERの文章に何度も笑い、感動し、泣き、せつなくなり、励まされてきました。

また、投票結果を見る度に他のみなさんの読み解きに感心しています。

うべべさん(受賞おめでとうございます!かっこいいです!)が葉山さんのコメントをPDFにして持っておられた気持ちは大変よくわかります。

私も葉山さんにコメントをもらいたかったです。

それはかなわないようなので、私が少しでも葉山さんが果たしておられた役割のほんの一部でも担うことができたら、とおこがましくも思うようになりました。

また書いている方々におもねることなく、緊張感のある中で進めていけたらな、とも思っています。

 

枕を書いていたら千字に近づいてしまいました。

次回から今年を振り返っていきます。

できれば丁寧に。

せいぜい堂々と。

鉄の海(71) by Mr.ヤマブキ

  • 2017.10.26 Thursday
  • 00:00

 息の上がった状態では肩や首まで使って何とか呼吸をしようとする。速く深い呼吸が繰り返されるが、徐々に落ち着いてきて、今度は顎を上に突き出すような呼吸へと変化する。下顎呼吸、といって、文字通り下顎を突き出すような呼吸のことだ。それは死戦期に起こることが知られていて、これが出るともう長くないと皆思う。Fさんもとうとう下顎呼吸になってきてそのときは近いと感じさせる。

 

 一方でMさんはようやく退院の準備が整う。この期間、奥さんと娘さんが毎日付きっきりでお見舞いに来ていた。本当は病院の面会時間は午後からなのだが、この状況なので黙認するようにしていた。

 

「今日で退院ですね」

「先生ありがとうございました」

 

 Mさん含め、三人とも穏やかな表情の中に、アサリの砂みたいにわずかな不安が紛れ込んでいる。

 

「先生に診ていただいて本当に良かったと思います」

「そう言っていただけるとうれしいです」

「ここの看護師さんたちにも良くしてもらいました。本当にお世話になりました」

「ありがとうございます、伝えておきます」

 

 言われ慣れているのは事実だ。けれども、良かったと言ってもらえるのはいつでも嬉しい。特に長く診た症例、悩んだ症例についてはそうだ。情が移る。

 Mさんに関しては肺癌を治したり余命を何年も伸ばしたりするような大きなことは何もできなかった。ただ数か月の命、それと、それまでに良く過ごしてもらうことを心掛けただけで、ほとんど何も出来なかった。治療の選択肢の少ない戦いは医療者にとっても辛い。その辛い戦いを当の患者さん本人から評価されることは犯しがたい聖性がある。どんな偉い医師が評価するとも違う、無二の評価なのだ。

 

 PHSが鳴り始める。Mさんたちに断って出る。

 

Fさんの血圧が下がって脈が伸びてきてます」

 

 とうとうその時が来たようだ。

 

「分かったもう少ししたら行く」

 

Mさん、お家でゆっくり過ごしてください。次診てくれる先生も僕の信頼している往診専門の先生なんです。よく過ごせると思いますよ」

「そうでしたか」

 

 これまでこの病室で何度か繰り返された重たい沈黙とは違う、暖かな沈黙が流れる。

 

「呼ばれているので、もう行きますね」

「先生、本当にありがとうございました」

「では、失礼します」

 

 家族揃って会釈してくれる。雪のような冷たい輝きが過る。

 

 余韻に浸る間もなくその足でFさんの病室へ向かう。病室のモニターはFさんの心拍数がすでに0であることをけたたましいアラームで知らせる。ベッドではFさんが呼吸を止め、冷たく目を閉じている。死んでしまうと急に精巧な人形に見えてしまうのは何故なのだろうか。Fさんの左頬に右手を当てる。

 

「よく頑張られましたね」

 

 聴診器を取り出し、心音・呼吸音が無いことを確認する。眼球にペンライトを当てて瞳孔の大きさが変わらないことを確認する。死亡の三要件を満たしている。現在の時間でもって、Fさんの死亡を確認とする。誰も聞いていない部屋でそう告げて深く頭を下げる。

【テーマ】親たちの運動会  Mr.Indigo

  • 2017.10.25 Wednesday
  • 19:00

無我夢中だった。まさに今行われている戦いに勝つことしか頭になかった。

目の前にいるのは長女の担任のS先生。私のすぐ後ろでは親父A氏が奮闘しているはずだ。この面子で戦うことはもう二度とない。私は必死で綱にしがみつき、腰を落としていた。もともと腕力が乏しく、貧弱な筋肉は既に疲労困憊だった。しかし、残された戦力である体重を生かすべく私は粘った。

 

「今年が、最初で最後だ」

日常の通園でもしばしば意識してきた。4月に次女が保育園に入り、長女が最高学年になった。つまり、姉妹が一緒に保育園に通うのは今年度だけ。2人がともに園児として参加する運動会も、最初で最後ということになる。

もっとも、次女はまだ姉と参加することに意義があるという段階だと思っていた。歩けるようになり、かけっこで完走できる見通しが立っただけで、私は満足していた。親子遊戯もあるが、長女がこの学年のときは固まっていた。期待するのは酷だ。本人の記憶には残らないのだし。

しかし長女は違う。1歳の頃からずっと、これまでの人生の大半において同じクラスで過ごしてきた仲間達と臨む最後の運動会だ。6歳だとそれなりに記憶が残るだろうし、良い思い出になればと思っていた。

 

ただ、本人にそんな意識はなかったようだ。周回コースを2周するかけっこでは、2周目の3コーナーあたりで力を抜いてしまった。4人中3番手で前とも後ろともかなり差がつき、逆転の可能性はまずないのだが、流すことを覚えるのはまだ早い。

「うーん、もうちょっと執念が欲しいかな」

率直な感想を妻に言った。

「女の子だからいいよ」

妻は「無理しない、無茶しない」がモットーだ。程々でよいという考えなのだろう。

親子競技の二人三脚は勝ったものの、2組での対戦だったので昨年のような爽快感はなかった。まあ、今年は直線コースから周回コースに変更されたから、交錯の危険性を考えると仕方ないが。

そして保護者競技の綱引き。今年はこれが最も熱くなった。4チームによるトーナメントで、1回戦を長期戦の末制し、迎えた決勝が冒頭の場面である。

このチームには長女のクラスの保護者が集中的に配され、人数調整要員としてS先生が加わった。私はなんとしても先生方の粋な計らいに応えたかった。

 

1回戦に続き、2回戦も苦戦を強いられた。一進一退のせめぎ合いから、一度はリードを許した。体が少し前に移動しているという自覚もあった。

しかし我々はこらえた。少し盛り返したか。両チームの実力は伯仲していて、こうなると我慢比べ、根性勝負だ。やがて綱が急に軽くなった。相手方の疲労が限界に達したのか。それから形勢は傾いた。

「いける!」

チームの誰もがそう思っただろう。相手方に耐える力は残っておらず、ほどなく審判の先生が右腕を上げた。

まず親父A氏、さらに見慣れた面々とハイタッチを交わしていく。そして記念撮影。見慣れた子供達が集まってきた。彼らにもわかっただろう。自分たちの親が力を合わせ、必死に頑張って勝利を掴んだということが。

 

運動会の保護者競技には、もちろんレクリエーションや子供達の息抜きという意味合いもあるだろう。しかし、それだけではないと私は思う。親が真剣に頑張る姿を見せることにも意義があるのではないか。

大の大人が力を合わせ目の色を変えて戦い、勝って喜びを分かち合う。次女はまだまだだろうが、長女はその姿を見て何か思うところがあるのではないか。

「綱引きやってみた〜い」

この日はその程度の反応だったけれども。

明るい悩み相談室PREMIER(254)〜投了の真相〜  がりは

  • 2017.10.25 Wednesday
  • 00:00

明るい悩み相談室PREMIER、本日の担当医がりはです。

こんばんは。

今日はどうされましたか?

 

せっかく藤井ブームがきてて、将棋知らない人にもニコニコとかAbemaTVで中継みてもらったのに、翌日仕事場で「なんでここで相手が投了したのか分からない」と聞かれて、どうにもうまく回答できず悩んでます。

 

ほうほう、わっかりますわっかります。

私もよくわからないんですよねー。

なんで投了するのか、とか。

自玉が詰まなくて、自分の時間が切れなくて、相手の時間が切れるか、相手が参ったするかすれば勝ちなんですよね。

であれば局面が悪くなったら他の手段で追い詰めたらいいと思うのですよ。

 

たとえば相手の時間を切らすためには水分の摂取を勧めるなんて方法がありますよね。

藤井君、将棋が強いとはいえまだ中学生ですから。

サイダーやコーラの新味なんか飲んでみたくなるんじゃないでしょうか。

そこにMr.Pinkから仕入れたこの不思議な液体を・・・・

一丁上がりですね。

はは。

 

また、立ち合いにグラビアアイドルを水着で呼ぶという方法もあります。

藤井君、将棋が強いとはいえまだ中学生ですから。

もうね、将棋にならないでしょう。

これは序盤に投入するといいかもしれません。

ははは。

 

トイレなどに立った時、帰ってくる頃合いを見計らって、足元に危険なタックルをかますという方法もあります。

その上で周囲を圧する声で「手を出すな!これは俺とあいつの勝負だ!!」と言い放ち「と、藤井君も言っておる。」と静かな声で言えばみんなコケてくれるでしょう。

タックルをしなくてもゴールキーパーよろしく盤と藤井君を結ぶ線分上にポジションを取り、絶対に近づけないという手段もあります。

駒に触れさせない、と。

駒に触れなくても符号で示せば有効というルールがありますので、素早く喉だけはつぶしておきましょう。

 

藤井君を削るのが嫌であれば、相手の手番中に突然胸をかきむしって倒れるという方法もあります。

藤井君、将棋が強いとはいえまだ中学生ですから。

オロオロする可能性大です。

 

また、「参った」を言わせることに注力する意味ではクイズを出すのも良いでしょう。

「藤井君、約1,600メートルをポンド・ヤード法ではどう表記する?」

「1マイルです。」

「では、『来た』の謙譲語は?」

「引っかかりませんよ。『参った』ですね。」

ちょろいもんです。

藤井君、将棋が強いとはいえまだ中学生ですから。

 

まあ最終的にはトイレに立つ振りをしてバックに回り、すっとスリーパーで締め落としてしまえば藤井君が気づくことなく勝つことができます。

藤井君、将棋が強いとはいえまだ中学生ですから。

 

で、職場での質問はきっと上記のような手段があるのに、なぜ行使せずに負けを認めるのか、彼は本気で戦ったのか、ルールというしがらみに縛られて本当に大切な物を見失っているのではないか、という問いだと思います。

ここまで読んで頂いたあなたにはもうお分かりかもしれませんが、回答例をお示ししますね。

「藤井君、強いから。」

これで、お相手が何を想定されていても大体返っているのではないかと思います。

おほほ。

 

※明るい悩み相談室PREMIERではあなたのお悩みを受け付けております。

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