【テーマ】変わらない景色 たりき
- 2017.06.30 Friday
- 23:46
5月初旬。
色とりどりの山々の緑、心地よい空の青、流れる雲の白。
田植えの季節。
世間ではゴールデンウィークと呼ばれるが、私にとっては田植え休みに他ならない。
この日のために準備されて水が張られた茶色い田んぼに稲が植えられていく。
あぜ道に腰かけて空を見上げると5月の薄い青空に白い雲が流れている。
ぐるっと見渡しても周りが山に囲まれているのは20年前と変わらない。中高への通学時にいつも遠くに眺めていた南西の山は、今は新緑の鮮やかな緑と濃い緑が色とりどりでとても綺麗だ。
ただこの景色の写真だけを見た人ならば、すぐそばを走る高速道路のおかげで大阪市内まで1時間足らずで着いてしまうなんて信じないかもしれない。
休みだからだろう。高速道路を走る車の音はいつもよりも大きく聞こえてくる。
その高速道路は20年前には既にあったが、その向こう側にある国道沿いの道の駅や、いくつかのコンビニはここ10年くらいにできたものだ。
私と父が作業を始めてから1時間くらいしたとき、隣の田んぼでも田植えが始まった。
「今年はたくさん作るみたいやな。」
機械での田植えは息子さんに任せているおじいさんが話しかけてきた。
「そうみたいです。」
「でも、あんまりできんやろ。」
「そうですね。他の田んぼより出来が悪いと秋にいつも父が嘆いています。」
「そうやろな。川のそばでジャリばかりやからなあ。」
そう言われてはっと気が付いた。
たしかに、うちの田んぼはすぐ隣に川が流れている。
これも私が物心ついたときにはもうちゃんと整備されていて、どんな大雨のときもあふれそうになったという話すら聞いたことがない。
ただし、昔はそうではなかったのだろう。整備が行き届いていなかった時代は氾濫することもあっただろうし、そのせいでうちの田んぼを含む周りの田んぼは砂利混じりで稲が上手く育たないということなのだろう。
秋、稲刈りのときもなるべく手伝うために帰省するようにしているのだが、出来上がりの袋数が父の言う目標に達したことがない。いつも1割くらい少ないのだ。
父は、何が悪いのかなあなんて言っているが、元々の土壌の問題があるのかもしれないということに初めて気づかされたのだった。
朝一は茶色だった田んぼは稲の緑に変わった。ところどころ曲がってるような気がするのはご愛敬。
秋になったら収穫に時期を迎え、一冬越えてまた来年もこの変わらない景色を見に戻ってくるのだろう。
田植え休みに。