日常  Mr.マルーン

  • 2017.05.31 Wednesday
  • 12:00

朝目が覚めると、世界が裏返ってしまったような強烈な違和感に襲われた。

そんなときも普通に起きて、シャワーを浴び、着替え、朝食にジャムをたっぷり塗ったトーストを食べ、昨日の残り物と冷ごはんを弁当としてタッパーに詰め、歯を磨きながら朝のニュースを見て、スマートフォンを充電器から引き抜き、鍵をかけ、出勤するところまで、いつもと変わらずにできる。しかし、私の手が行っていることなのに、奇妙に現実感がない。

世界と私の間には不可視の膜があって、その膜に阻まれて感覚が鈍くなっているみたいだ。そのくせ、妙にコントラストが強くてちかちかする。

もちろん、世界が裏返るわけはないし不可視の膜なんてものは馬鹿にしか見えない。おかしいのも馬鹿なのも私だ。

いつからおかしくなってしまったんだろう、今朝見た夢の所為だろうか(ストーカーに高所から突き落とされて半身不随になったうえ声を失った少女がその男にレイプされる夢だった)、と吊革に揺られつつ考えているうちに、違和感はイヤホンから流れる音楽とともに日常生活の中に溶けていって徐々に元に戻ってくる。

そうそう。いい調子だ。世界はいつだって当たり前のものだけでできている。

バーコード状に禿げたサラリーマンが生臭い息を吐きかけてきながら私の尻をしきりと撫でまわしている。最悪だ。私はしかたなく、彼の顔の真ん中にぎょろりと一つある血走った目玉にアイスピックを突き刺し、車両を移動する。

乗ったときにはそれぞれ人の形をしていただろうにぎゅうぎゅうに詰め込まれるうちに全部一緒くたにくっついてしまったらしい紙粘土人間たちがにゅるにゅるとホームに塊で出てくるのを横目に職場へ急ぐ。駅員が一人ずつちぎって成形してやっている。みんな大変だ。

イヤホンは無駄に陽気な音楽を垂れ流している。私はハイヒールを高らかに鳴らして極彩色の街を歩く。蛍光ピンクの空がまぶしい。今日はいい天気だ。

視界がぶれて灰色がかった街と似たような顔と似たような格好の人間たちが無表情にぞろぞろと歩く世界が一瞬重なる。

まだ消えないか。私はどれだけおかしくなってしまったんだ。

めまいがする。頭も痛い気がしてきた。

ちょっと病院に行った方がいいのかもしれない。いい医者がいるって話を最近聞いたから、会社帰りに行ってみようか。

しかし本当におかしくなってしまっていたとしたらどうだろう。あの蓋のある建物に私も入るんだろうか。

それも悪くない気はする。衣食住は保たれるらしいし。

巨大なタケノコが職場のある辺りに落下してにょきにょきと天を衝く竹に成長していくのが見える。あーあー、と思っていると上司から電話がかかってきて、今日の仕事は休みだと告げられた。ちゃんと日当出るんだろうな。これで連続178回目の出勤失敗だ。採用されてからまだ一度も出勤したことがない。私はいつになったら仕事ができるんだろう。歓迎会だけはやってもらった。

仕方ないから帰って寝なおすことにする。次に目が覚めたときにどっちに転んでいるかはまだわからない。まあ、どっちでも似たようなもんだし、どっちでもいいか。

 

 

明るい悩み相談室PREMIER(225)〜ないです〜  がりは

  • 2017.05.31 Wednesday
  • 00:00

明るい悩み相談室PREMIER、本日の担当医がりはです。

こんばんは。

今日はどうされましたか?

 

ないです。

 

ほうほう、わっかりますわっかります。

投了ですか。

お疲れさまでした。

まずは、そう言わせてください。

あなたが孤独で辛い戦いを今まで生き延びてきてくださった、そのことにまず敬意を払いたいと思います。

矢尽き刀折れ馬は射られ仲間とはぐれ四肢をもがれても噛みついたあなたを笑うものなどいません。

何がかかったどんな戦いだったか、あえて問いません。

まずはお疲れ様です、体を休めてください。

 

今はまだ声がかすれて出ないかもしれませんね。

あの羽生善治であっても勝率は七割ですから三割は負けているのです。

あなたが最善を尽くしても今日はあなたの日ではなかったのかもしれません。

大切なのはあなたが全力を尽くしたということ。

全力を尽くしたんでしょう?

顔を上げてください。

胸を張ってください。

一度負けたからってそれがなんだ!

百回負けても、百一回目に勝てばいい!

五年前、新日本プロレスの冴えない若手だった高橋広夢選手は獣神サンダーライガー選手に完敗したそのバックステージで叫びました。

その後四年半の海外修行を経てメキシコのスペルエストレージャ、カマイタチとなり、凱旋帰国後は高橋ヒロムとなった彼はIWGPJr.ヘビー級の王者となりました。

そしてこの間獣神サンダーライガー選手に完勝しました。

その試合は五年前の二人の試合を下敷きにした素晴らしい作品でした。

 

まずはこの一局にしっかりと向き合い、一つでも直すところが見つかったら次からはそのミスをしない、それだけでいいんです。

百回負けたら百個強くなってますよ。

百一回目に勝てるかもしれません。

百一回目に負けちゃったら?

百二回目に勝てばいいんです。

あきらめなければ全ての敗戦は過程です。

最後の大勝利にむけた溜めです。

夜明け前が一番暗いのです。

 

え?ええええっ?

投了してない?

どうして対局中にそんな紛らわしいこと言うんですか。

悩んでる暇なんかないですの略?

そうでしたかー。

なんで顔上げなかったの?

盤上に集中してて?

そうでしたかー。

周りの人たちも止めてくださいよー。

じゃ、対局頑張って!

 

 

※明るい悩み相談室PREMIERではあなたのお悩みを受け付けております。

ブログにコメント、投票時にコメント、ハッガリーニにメール、電話、伝書鳩、のろし、などの手段でどうぞ。

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【テーマ】商店街のキッコ  Mr.マルーン

  • 2017.05.30 Tuesday
  • 12:00

商店街の外れ、シャッターの閉まった空き店舗の前。

穏やかなアコースティックギターの音が響いている。彼女は彼の傍らでまどろみながらそれを聞いている。

「俺な、東京に行くんだ」

——えっ

「俺の音楽を認めてくれる人がいて、CD出してくれるって」

——すごいじゃない

「でも、ほんとにうまくやっていけるかどうか…」

——だいじょうぶよ、あなたなら。だって私はあなたの歌が好きだもの

「それで、しばらく会えないんだ」

——仕方ないよ。応援しているから。

「でもさ、東京で成功したら、俺の歌が認めてもらえたら、お前と住めるぐらいでかい部屋を借りてさ。絶対迎えに来るから」

——ええ。待ってるわ。ずっと。

 

 

午前6時。キッコは目を覚まして、一つ大あくびをし、ぐぐっと伸びをする。簡単に身支度を整えて、朝の散歩に出かける。

早朝の商店街はまだ人通りがほとんどなくて、シャッターもほとんど閉まっている。キッコはアーケードを独り占めした気分で得意げに通路の真ん中を歩く。タイルの地面がひんやりして気持ちいい。

ときどき、朝練に出かける中学生が自転車で通り過ぎていくから、そういう時は端っこによけなければいけない。商店街の中は自転車を押して歩けと書いてあるのに、なんで私がどかないといけないのか。キッコはいつも憤慨する。

カラスたちがゴミをあさっているのを横目に、商店街の端まで来ると、踏切がある。踏切を渡ると小さな公園があるから、陽の当たらないベンチを選んでキッコはくつろぐことにした。気まぐれに、スズメやハトをからかってみたりしながら、ぼんやり過ごしていると、商店街のほうがにぎやかになってきた。キッコは立ちあがり、再び商店街に戻る。

忙しなく人が行きかうアーケードの隅を進んでいき、昔ながらの練り物屋の前で止まった。

「あら、今日もきたの」

店主の女性が顔をほころばせる。「ちょっと待ってね」

キッコはショーケースの前でおとなしく待っている。

店の奥に引っ込んだ店主が、練り物の切れ端を放ってくれた。トウモロコシ天。今日のキッコの朝食だ。

「おいしい?」

ここの店主はいつも優しいので好きだ。にゃあ、と答える。

練り物屋に礼を言ってまた歩き出した。八百屋、魚屋、花屋、と通り過ぎていく。

朝から焼鳥屋の前に椅子を出してビールを飲んでいる老人が二人。キッコが道の反対側で座っていると、手招きしてきた。寄っていくと、鶏ももをひとかけら投げてくれた。

「お前さんはいつもこの商店街にいるなあ」「俺らもだろ」「違いない」

鶏肉と引き換えに少し撫でさせてやる。武骨な手だが、不愉快な撫で方ではない。

「最近暑いからなあ。お前さんも気をつけろよ」

「俺らも下手したらくたばるぜ」

キッコはゲラゲラ笑う男たちの手をすり抜けて、商店街の外れに向かう。

もうすっかり日が昇って、アスファルトが反射してまぶしい。日の当たった地面に足を降ろすと、熱い!慌てて飛びのいて日陰に戻った。キッコの柔らかい肉球が軽く火傷してしまった。

姦しい笑い声がしたのでそちらを見ると、女子高生が二人でこっちを見て笑っていた。

失礼な。何か文句があるのか。キッコがちょっと睨みつけてやると、「カワイイー」等と言いながら去っていった。

まあ、かわいいというのは悪い気はしないのだけれど。

仕方なく戻って目立たない隅っこで横になっていると、聞えた。キッコは耳をぴくぴくさせてその音をとらえた。たっと走り出す。

レンタルビデオ店の前。キッコは座り込んで、かかっている音楽を聴いている。

あの人の声がする。あのころに比べて少しかすれた。でも、キッコにはすぐわかる。

あの人は、まだ来ない。

もう、ずっとこの商店街で待っている。

誘ってくるオスたちをみんな袖にして、ヒトには見えないもう一本のしっぽが生えても、それでもまだ待っている。

我ながら、なかなか馬鹿な猫だ。

ひとつあくびをした。

 

そうしてキッコは、今日も商店街にいる。

 

 

ムチャつなぎ  Mr.Indigo

  • 2017.05.30 Tuesday
  • 00:00

「私、Indigoさんの頭の中見てみたいです」

ある時、後輩の女子社員に言われた。

「俺も見てみたいわ」

正直な思いである。自分の脳味噌の構造がどうなっているのか、自分でもわからないのだ。

 

まず、誰もほとんど覚えないようなことを記憶しているという特性がある。例えば、仕事でやり取りをする神社仏閣や観光施設の広報担当者の名前を私は実によく覚えている。

「Indigoさん、●●神社の写真を手配してくれって言われたんですけど…」

「あー、●●神社の甲さんはいい人やからすぐ送ってくれるよ」

「あと■■高原の写真も要るんです」

「▲▲市観光協会がいいのを持ってる。担当は乙さんだったかな…」

「なんで名前まで覚えてるんですか」

「前にやったからね」

記憶を頼りにメールを検索。出てきたメールを後輩に転送。

「ここに連絡してみて」

「すご〜い。ありがとうございます〜」

こういった具合である。10年以上前、違う仕事をしていた時も「Indigo君の記憶力はモノが違う」と言われたことがある。

しかし、記憶と習熟は違うようで、ほとんど進歩していないこともある。特に、コミュニケーションにおける欠点は顕著だ。よく会話はキャッチボールに例えられるが、私は暴投や捕逸が非常に多い。要するに話の流れに乗るのが下手なのである。

 

さて、話は30年近く前にさかのぼる。小学校で理科の授業参観があり、我々は電池の直列つなぎ・並列つなぎなどについて教わった。

「じゃあ、これは何つなぎ?」

授業の最終盤、先生が黒板に書いた回路は、一見直列つなぎのようだが、電池の方向が逆で、豆電球は点灯しないというものだった。

解答者として指名されたのは私だった。私は臆することなく上記内容を指摘し、豆電球は点かないと断言した。

「そう、正解!」

先生は私を褒めた。お調子者のガキは鼻高々である。

「ちなみに、このつなぎ方はこう言う」

先生は以下の6字を黒板に書いた。

〈ムチャつなぎ〉

見ていた母は大いに喜んだ。我が子が正解して褒められたことではなく、我が子を形容する言葉を教えてもらえたことに。

「あんたはムチャつなぎやから…」

それ以来、母は私の思考回路をムチャつなぎと言うようになった。先生は私の思考回路がムチャつなぎだと言ったわけではないのだが…。

 

しかし、社会人をやっていると「俺ってムチャつなぎやな…」と感じることがしばしばある。典型的な例が前述のコミュニケーションである。自分の脳内で話題が飛躍してしまい、場に合わない発言をすることが少なからずある。

注意深く話を聞いているつもりなのに、なぜこうなってしまうのか。見られるものなら、本当に自分の脳味噌の構造を見てみたいと思う次第である。

もっとも、たとえ構造を見ることができたとしても、現時点の自己分析を超える成果はあるまい。もう40年近くこの脳でやってきたのだ。マイナスに働かないように注意を払うにしても、生来のムチャつなぎは生涯治らないに違いない。

 

もっとも、冒頭の発言は親しみのこもった冗談である。一風変わった脳味噌は、長所や魅力でもあるのだ。

無能なわけではないのだから、良い部分をより生かせる環境づくりが今後の課題なのだろう。もっとも、コミュニケーションをうまくやらないと環境は変えられないのだが…。

塔のたもとで Mr.Indigo

  • 2017.05.29 Monday
  • 12:49
―今月の雑兵日記PREMIERダイジェストはMr.ホワイトの特集です。スタッフ一同奈良を訪れておりまして、Mr.ホワイトの過去の作品に登場した興福寺五重塔さんとお送りしていきます。よろしくお願いいたします。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
―Mr.ホワイトはランニングでこのあたりを通ったり、お子さんを連れてこられたりしているようですが…。
「嬉しいことですね。ここが気に入ってもらえるのは」
―静かで、優しく、穏やか、という感想がありました。
「そうですね。それが奈良の魅力だと思います」
―Mr.ホワイトはあえて奈良に住むことを選んだようですが、どう思われますか。
「彼は高い教養とすぐれた感性を持っています。そんな彼にはぴったりの場所だと思いますよ。奈良を愛した文豪・志賀直哉を思い出します」
―凄い名前が出てきましたね。CMの後は、Mr.ホワイトの最近の活躍について振り返ります。

<雑兵日記PREMIERの予想ならPスポ!本紙担当・渡海文殊が4月の予想を振り返ります>
「はっはっは、テーマコンテストは馬単的中、MVPは3連複的中、最優秀作品賞も押さえとはいえ単勝的中じゃ!」
<テーマコンテストの馬単もMVPの3連複も圧倒的1番人気じゃないですか!?当てて当然です。MVPの本命に推したインディゴブルーが3着だったから、予想屋としてはアウトですよ。一騎討ちとか言ってたのに!>
「…正直、ナラノホワイトを軽視していたな。告白シリーズの巧みさは前月から指摘していたが、ホワイトデー企画が終わったから…」
<インディゴブルーはどうなんですか?いつまであんなの推すんですか!?>
「奴は文殊の知恵をも狂わせるほど往生際が悪い。待っているのはおそらく無間地獄じゃ…」
<そうじゃなくて、予想屋としての反省を…む、逃げやがったな。待て〜!>

―さて、Mr.ホワイトは今回MVPと最優秀作品賞の二冠に輝きました。その原動力は言うまでもなく小説「告白」です。この作品についてはどのような感想を持たれましたか?
「とにかく構成が巧みですよね。それぞれ別の人物が主人公になって、一人称のストーリーをつなげていき、最後にしっかり収束させています。並大抵なことではありません」
―そうですね。
「そして、それぞれの人物の他者に対する観察や心情が細かく描かれています。彼の長所が発揮された素晴らしい作品だと思います」
―なるほど。
「おそらく、この作品は完成までに相当な時間と労力を要したでしょう。MVPの投票コメントで、がりは氏がこの作品に報いたいと語っていましたが、同じ物書きとしてそう思うのも頷けます」
―エッセイ「メメント」も好評でした。
「親としての深い愛情が感じられます。幼き日の断片的で曖昧な記憶というのは万人に共通するものですから、論理的でなくても説得力がありますね。最後の一文に心打たれたという人も多いのではないでしょうか」
―そうですね。最後に彼の今後の活動についてですが…。
「作品の質に関してはPREMIERの精鋭たちの中でもトップクラスです。仕事や育児もあるでしょうが、毎月のように最優秀作品賞の有力候補を出してきてほしいと思います」
―本日は奈良から興福寺五重塔さんとお送りしました。ありがとうございました。
「ありがとうございました」

<この番組は、Pスポの提供でお送りしました>

ANSP2O【17】〜疎外感〜 Mr.臙脂

  • 2017.05.29 Monday
  • 00:00

どうなさいました?

医療面談No.17

(1stはこちら


「友人が3人とも証券会社で働いていて、4人で飲むと、会話についていけないことがあります。会う前に経済面を読み込んでみたりするのですが疎外感は一向に取れないのです。もっと会話に参加したい!」

医療面談結果

むしろ会話に参加するチャンスです。事前の予習など一切不要です。

ご友人の会話を聞きながらご自分が解らないことを積極的に質問していきましょう。門外漢ならではの質問は、反ってご友人に新しい刺激となるに違いありません。
素朴、基本的、単純な質問を繰り返していくうちに、やがでご自分の専門や職務に近い領域がご友人からの回答の中にきっと見えてきます。
その機を逃がさずに「私の分野ではそれはこうなんだけど」と差異を示し、異職種間の比較へと話をつなげていけば、ご自分が話の中心にもなり得ます。

酒の席での同職種間の話は、確認・同意・助言へと集約されることがしばしばです。
そこへあなたが質問しつつ参加することで、新鮮・予想外・発見という要素が加わり何らかの創意工夫へと繋がる可能性が出てきます。

また、ご自分にとっても、予習するよりも質問への回答を得る方がはるかに勉強になるはずです。
とはいえ、証券マンのご友人への質問が核心に迫りすぎてインサイダーな会話とならぬようご注意ください。
お大事にどうぞ。
 

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馬券の現実(13)〜日本ダービー回顧〜 たりき

  • 2017.05.28 Sunday
  • 22:53

超がつくほどのスローペースでしたね。。

 

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御礼 Mr.ホワイト

  • 2017.05.28 Sunday
  • 20:02

4月の最優秀作品とMVPに選んでくださりありがとうございました。自分の書いたものを説明するのは気が引けるのですが、今回は少しだけ書いておこうと思います。

「告白」は書くのにすごく苦労した文章で、ある意味では4年半かかっているとも言えます。お気付きの方がいらっしゃったかどうかわかりませんが、2012年10月のテーマが「告白」でした。本作はそのために書き始めたものです。ゲイが告白するというアイデアを中心に多視点の小説を書こうとしたのですが、考えても考えても筆がまったく進まず「これは参ったな」と思ったときに発表されたのが葉山悟氏の「告白の<じじょう>」でした。

【テーマ】告白の<じじょう>(上)

【テーマ】告白の<じじょう>(下)


ゲイの告白というアイデアが丸かぶりな上に作品の出来が素晴らしく、私はまた「これは参ったな」と思って自分の「告白」を書く筆を置きました。そのときにできていたのは告白1〜3の原型のようなものですが、ネタがかぶってしまいましたし、何よりもどうやってもここから前に進めそうな気がしませんでした。「告白の<じじょう>」に投票したコメントを葉山悟氏が喜んでくれたのが良い思い出です。

ベストコメント賞発表!


それから4年半、「告白」はボツ原稿として眠っていました。ところが2017年3月にホワイトデー企画が開催されてしまい、その御礼として何かそれなりのものを書かねばならなくなったときに、「告白」を引っ張り出して最後まで書き上げるしかないと腹を括りました。ウンウン考えているうちに前とは違うアイデアが出てきて何とかかたちにできたというのが正直なところです。

多視点特有のズレを散りばめて物語を少しずつディスクローズしていくという構成で自分としては難しいことをやったつもりですが、実際書いてみると難しいことをやろうとするとどんどん面白くなくなるもので、難しくはあると思うけど面白いかどうかは自信がなかったので、最優秀に選んでいただいて嬉しかったです。

湊かなえの「告白」からの影響を指摘されましたが、そこはまったく意識していませんでした。意識したのは内田けんじ監督の2つの映画「アフタースクール」と「運命じゃない人」です。いずれもミニシアター系と呼ばれる邦画で、そのせいか「告白」もたぶんミニシアター系っぽい軽さというかちゃちさが出てるように思います。「アフタースクール」はゼロ年代のミニシアター系邦画の傑作で、アマゾンプライムでも観られるのでぜひ観てみてください。ちなみに私がずっと前に書いた長編の「コンサート」はクリストファー・ノーラン監督の「メメント」というハリウッドインディー系の映画を意識して書いたものですので、多分そのへんでテーストも違ってきてるんだろうと思います。

最後になりますが、「告白」は心のどこかで葉山悟氏のことを思いながら書いたものですので、葉山悟氏からの影響も大きいと思います。いま思えば、警官が出てきたりするのも告白の<じじょう>と同じです。葉山悟氏と読んでくださった皆様に御礼申し上げます。ありがとうございました。
 

NHK傭兵講座(1) うべべ

  • 2017.05.28 Sunday
  • 10:00

不「皆さん、こんにちは。司会のフェニックス・不死美です。日曜日のひととき、NHK傭兵講座でお楽しみください。それでは先生をお呼びしましょう。『神を殺した男』こと、うべべ先生です」
う「戦場に友はいない。なぜなら私の顔を見て生きている者などいないからだ。どうもうべべです。宜しくお願いします」
不「今日は第一回ということで、新兵にもわかりやすい説明をお願いいたします。まず最初に『傭兵』とは何か、からスタートです」

 

傭兵とは?

 

不「先生、傭兵とは何でしょうか?」
う「傭兵とは、ジュネーブ条約で『金銭などの利益により雇われ、直接に利害関係の無い戦争に参加する兵』と定義されています、が!」
不「が?」
う「言っておきたいのは、金目当てで傭兵になる人なんてほとんどいないということです」
不「そうなんですか?」
う「はっきり言って、傭兵は儲かりません。傭兵として働くのは物価が安い国がほとんどで、往復の飛行機代やら装備やらで、基本的には赤字です」
不「儲かるどころか、赤字なんてびっくりです」

う「アルバイトなどでお金をしっかり貯めることが傭兵としての第一歩です」
不「何だか切ないですね」

う「傭兵は、実際に戦闘の最前線に赴く『前線』とそれを支援する『後方』とに分かれて、ローテーションを組みます。大体、前線に一週間くらい参加して、生きて後方に戻ってこれるのは二割くらいです」
不「たった二割ですか。十人が前線に行ったとすると、無事に帰れるのは二人だけ……」
う「厳しい世界です。儲かるわけでもなく、かつ常に危険と隣り合わせです」
不「では一体なぜ、傭兵になるのでしょうか?」
う「そう思いますよね。それについては、本日の講座の最後で明らかになるでしょう」

 

傭兵の生活

 

不「前線、後方それぞれどんな生活をしているのですか?」

う「まず前線ですが、基本的に不眠不休です。食べる時間もほとんどありません。多くの食料を持って移動することはできないので、ポケットに入るような軽食で済ませます。私の場合はカロリーメイトを愛用してました。動物や木の実などを現地調達することもあります」

不「かなり壮絶な現場ですね」

う「後方は、戦線から離れているので、そこそこ普通に生活できます。前線から戻ると、とりあえず泥のように眠ります。ただ、異常な興奮状態にあるので、ささいな物音で目が覚めたりします。回復したら、武器の整備や調達などを行います」

不「ある程度ゆっくりできるということですね」

う「傭兵は期間で雇われるのがほとんどなので、後方に戻ると、ほぼ毎回送別会と歓迎会をしていますね。もちろん贅沢はできませんが、一応お酒も飲めます。特殊な世界なので、新しく来る傭兵といっても大抵は顔見知りです」

 

傭兵になるには?

 

不「先生、そもそも傭兵ってどうやったらなれるんですか」
う「『民間軍事会社』といういわゆる派遣機関に所属する方法があります。傭兵は実力社会ですから、実力が認められれば入ることができます」
不「実力といわれても、どうやってその実力をつけるんですか」
う「日本人が傭兵になる場合は、自衛隊として経験を積んでいることが多いです。戦闘のスキルも、武器の知識も豊富ですから」
不「なるほど。でも先生は元・自衛隊ではなかったはずですが」
う「私の場合、両親がテロリストで、紛争の果てに投獄されて私を獄中出産し、そのまま脱獄して三歳から民族解放軍に参加しましたから、元々経験豊富でした」
不「……そうですか」
う「日本人の傭兵で有名なのは、高部正樹さんですね。彼は元・航空自衛隊です。自衛隊では、たとえば小銃を百以上の部品に分解して組み立てるという訓練を何度も繰り返します。こういった自衛隊の知識やスキルは非常に高く、世界で通用します」
不「自衛隊以外のひとは、どうやって派遣機関に売り込むのですか」
う「正規軍と違って階級などはないですから、基本的には口コミがすべてです。傭兵として働いている知人などの伝手で、自らの戦闘経験を売り込んでもらうのです。たとえば戦闘に三回生き残っていれば、百人に一人の逸材ですからね。先ほど実力社会といいましたが、まさに傭兵はとんでもない実力者の集まりだということです」
不「厳しい道のりですね。本当に傭兵になれるか、自信がなくなってきました」
う「この講座でしっかり勉強すれば、あなたも必ず傭兵になれます。そこまでして、あなたはなぜ傭兵になりたいのでしょうか」

不「わかりません」 

う「私にもわかりません。『答えは神のみぞ知る』、ということです。ただ神は私が殺してしまったので、もはや誰にもわかりません」 

不「……」 

 

 

不「そろそろお時間となりました。先生、来月のテーマは何でしょうか」
う「来月のテーマは、『みどり』です。皆さんどしどし投稿してくださいね」
不「それでは皆さん、よい日曜日をお過ごしください」

【テーマ】幻想商店街へようこそ by Mr.ヤマブキ

  • 2017.05.28 Sunday
  • 01:28

 ようこそはじめまして。

 本日は当市の名物であります幻想商店街へお越しいただきまして誠にありがとうございます。ここからの案内はバスガイドに代わりまして、わたくし高階、高階が務めてまいります。

 商店街と言えば、まずは八百屋を忘れることはできません。左手をご覧ください。こちらでは多種多様な野菜を取り扱っております。各国の一般的な野菜はもとより、食用可能なあらゆる植物を取り寄せております。これは高山植物のエーデルワイスですね、こちらは食虫植物のウツボカズラですね、これは砂漠に育つと呼ばれるキソウテンガイですね。そちらの区画の野菜にはお触れにならないようお願いします。マンドラゴラは奇声を上げ精神を狂わせますし、平行植物たちは触れることで消滅してしまいます。

 さて、次は右手をご覧ください。魚屋が見えてまいります。まず飛び込んでくるのは吊るされた巨大なホオジロザメの姿でしょうか。映画ジョーズのモデルともなった巨大なサメを店長が豪快に捌いていく様は圧巻の一言です。その隣に置かれているのはリュウグウノツカイ、メガマウス、シーラカンスといった希少種ですね。切り身で置かれているのは、ネッシーとシーサーペントです。もちろん本物ですよ。あの巨体を店に置くのは難しいというだけの理由です。もし信じられませんようでしたら、お買い上げの上、実際に召し上がってみてはいかがでしょうか。

 そろそろ商店街の奥まで来たようです。ご紹介いたしますのは、左手の肉屋でございます。ありとあらゆる生き物の肉を取り揃えております。今日は珍しくケルベロスの肉が入っているようですね。この赤身の色調をご覧ください。毒々しささえ感じられる赤身こそ地獄の番犬にふさわしいでしょう。その奥にはドラゴンや鼻行類として知られるナゾベームの肉までございます。そして、こちらに見えますのが目玉商品、古来より珍味中の珍味として扱われてきました商品でございます。この肉が何の肉なのかお知らせする前に、当商店街名物の肉屋の店主をご紹介いたします。彼が一目置かれているのはまさにその肉へのこだわりでございます。どんな肉でも美しく捌きこなすその包丁運びはもとより、獲物の確保から店頭に並べるまで非常に洗練された形でやってのけるのです。いかがされましたか?どうして逃げるのですか?……逃げても無駄ですのに。

 

 さて、入り口はあっても出口がないのが幻想商店街。案内は高階、高階でした。

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