【三題噺】羊か脳か食べ物 Mr.マルーン
- 2017.04.30 Sunday
- 22:35
お題:ブリッジ(アール様)、新四段(ダックスフンド様)、羊頭狗肉(ヤマブキ様)
硝煙のにおいが立ち込める埃っぽいビルの中に、男と女が身を潜めている。男が差し出した携帯食のぼそぼそしたビスケットをかじりながら、女がつぶやいた。
「羊の脳みそって、おいしいらしいわね。」
「食いたいのか?」
敵が周りにいないことはセンサーでわかっているから、男も雑談に応じる。
「そうね、一回ぐらい食べてみてもよかったかもしれないわ」
「珍味だって話だからな」
「そうそう、犬もなかなかおいしいらしいわね」
「好みは分かれそうだが…」
「中国に行けば食べられるかしら」
「俺はちょっと遠慮したいな」
小声で雑談しながらも、油断なく周囲をうかがっている。早くここを脱出しなければ。
「じゃあ、羊頭狗肉って、おいしいものがたくさん、って意味なのかしら」
「違うと思う」
「ねえ、そんな風に考えていると、奴らの姿もなんとなく犬の体に羊の頭が載っているように見えて、おいしそうに見えなくもないわよね」
男はそろそろ黙らせたくて、見えない、と言おうとしたが、この女がひとたびくだらない話を始めると止まらないことを思い出して、応えるのをやめた。
「ほら、ファーストのあの子、何て言ったかしら、髪の毛がちょっともじゃもじゃだったでしょう。羊っぽかったわ」
「そう、だったかな」
AIにすら無敗を極めた驚異の中学生新四段。まさかそれが、脳みそをエイリアンに寄生されていたとは。地球上で最も演算能力が優れた新鮮な脳として、彼はファーストに選ばれたのである。
のだとかなんとか、研究所のやつらが言っていた。正確にはエイリアンじゃないらしいが、末端の彼らにはよくわからない。
「でも羊頭狗肉って、羊がいいほうで狗がごまかしの肉でしょう」
「ああ」
「あの子は逆だった、ってことになるわね」
「そうだな」
女が持っていたマシンガンにマガジンをはめ込み、緊張した面持ちで目配せする。男もうなずいてそっと腰を上げた。
銃を構えて飛び出した先には、ブリッジの姿勢で異様な速度で迫ってくるヒト、だったもの。
「十匹!」
「わかってる!」
正確に頭をやらないといけない。そうしなければあいつらは何度でも再生する。二人は冷徹なまなざしで確実に敵を仕留めていく。
生き残るために。