西尾根から下って登り返すコースの難易度がわからなかったため、下山をピストンにするか周遊にするかこの時点では決めかねていたのだが、同じく最高点で休憩していたご夫婦の旦那さんに「楽勝だよ!」と言われたので周遊コースをとることにした。
雪庇に注意しつつ、まだ雪のしっかりと残った尾根を歩いていく。トレースの所々に踏み抜いた穴が開いている。私も何度かやってしまった。ゲイターを付けているため怪我のリスクはそれほどだが、いきなりはまるので結構びっくりする。
雪がなくなると、ガレ場の滑りやすい急坂が始まる。地図上でも「踏み跡わかりにくい」とあり実際にわかりにくい。目印のピンクリボンを頼りに慎重に下る。今回の山行で一番危険を感じたポイントだった。
急坂を下りきると樹林帯に入り、やれやれと思っていると、登山道のわきに小さな白い愛らしい花を見つけた。ミスミソウだ。
ミスミソウの可憐さに癒されつつさらに下ると、今畑の廃村に出た。私は歓声を上げた。打ち捨てられた村の跡に一面福寿草が咲いている。ポンポン山の群落は完全に山の中だったが、ここは石垣の隙間、民家の跡地、あぜ道のわきと、人の暮らしの気配がする場所だ。かつてはこの花が咲くのを合図に畑の苗を植えたりしただろうか、などとしみじみする。
村人が植えたのだろうか、梅の花も美しく咲き誇っていた。
今畑の廃村からはしばらく林道を歩き、落合の集落から再び山に入る。ここから汗拭き峠まで谷筋を登っていくのだが、この道が荒れていると聞いていた。
すれ違った年配のパーティに「榑ヶ畑に行くの?登り返したいへんね」「若いから大丈夫よ!ひょいひょいよ!」「渡渉があるけど川の水が多いから気を付けて」などとアドバイスを受けた。
実際道は崩落箇所もありかなり荒れていた。5,6本の杉の木が根こそぎ谷に向かって倒れている。根の浅さに、杉の保持力の弱さが見て取れた。
渡渉については、2度ほど雪解けで増水した沢を渡らねばならなかったが、何とかクリア。トレッキングポールのありがたみを実感する。
とはいえ意外と大した急登はなかったなと思っていると、最後にロープが引かれたほぼ崖のような斜面が立ちはだかった。上の方に目印がある。これか。きついって言われていたやつは。というか先ほどのジジババ集団はここを下ってきたのか。
げに、山にいる高齢者の体力は驚異的である。
ひいこら言いつつ一気に斜面を登りきると、朝通った汗拭き峠に戻ってきた。
そこから登山口まではもう近い。やれやれといったところである。
普段なら下山のシーンは省略するところであるが、あまりにも盛り沢山の山行であったので、最後まで全部書いてしまった。写真も多めである。
なんにせよ、大変に満足の山行であった。ついでに下山後の近江牛の焼肉も最高だった。
ところで、霊仙山がある滋賀県は実は内陸県だが、琵琶湖でしじみが獲れる。
しじみは淡水域または汽水域に生息するので、実は海は関係ないのだよなあ、などと帰りの電車でPREMIERを読みながら考えていた。
大切な読者様からのお題を、「無理に乗っかる必要もない」と。ふうむ。
作家としてはそれぐらい鷹揚であるべきだろうか。私は神経質すぎるかな。
とはいえ、登山も、三題噺も、リサーチ力が重要だと思ったり思わなかったり。