【テーマ】水族館  がりは

  • 2017.02.28 Tuesday
  • 08:34

東京都葛西臨海水族館はマグロの回遊の展示を目玉にしていた。

 

私はこの水族館が大好きだ。

小学生の時に初めて行った水族館はここだった。

中学一年生の時に初めて電車に乗ってデートをしたのもこの水族館だった。

 

それはデートと呼ぶかどうか微妙なくらい淡い清いものであったが(ダブルデートだったし。)制服じゃない彼女と会うのはとても嬉しかった。

小学生までは無料、中学生から有料の入場料をちょろまかそうと、「小学生でーす。」と言ってゲートを通ろうとしたら、他の三人は通れて私だけ引っかかった。

「小学生ですっ。」と言い張ったが、「じゃあ干支は!」と決めつけられて「いぬ・・・の次。」としか答えられなかった私は料金を払ってマグロを観ることになった。

とてもかっこ悪くて、どの水槽よりもブルーな気持ちになった。

そんな私の左手の手のひらをそっとつまむように彼女は握ってくれた。

それが初めて彼女と手をつないだ瞬間だった。

月並みな言い方だが、そこだけとても熱くなったし、その熱はそれから二年くらい私を折りにふれて温めてくれた。

 

大人になってからもこの水族館にはよく行った。

仕事に疲れたある日、彼女と示し合わせて会社を休んでデートをすることにした。

平日の水族館は誰もいないのではという私の予想に反して、老人と訳ありカップルでにぎわっていたことに少々面食らった。

幸いマグロ前は空いていて、ゆっくりと時間を過ごすことができた。

世界の様々な環境に棲む魚たちには目もくれず、マグロの水槽の前にずっといた。

環状の水槽の内側からマグロやカツオの回遊が見られる。

その水槽の前の階段状になったベンチが我々はお気に入りで、深い青の水槽を音もなく回遊するマグロを眺めながら彼女の膝枕でうとうとするのがとても好きだった。

その日もいつものように微睡んだ。

マグロは旋回をする時に普段はしまっている秘密の背鰭をぴょこんと出してブレーキをかける。

マグロはほとんど決まったポイントで旋回を行い、逸脱することは稀だ。

マグロは時々互いにぶつかっているし、一定数傷を負ったまま泳いでいる。

そんな発見とも言えないトリビアを再確認しながら深く眠ってしまった。

 

目が覚めたけど目がまだ開かなくて、起こさないでいてくれたことに感謝しながらも、随分深く眠ってしまった気がしてごめんと言った。

いいよ、と綿菓子みたいなふんわりした声。

どれくらい寝てた?

だいぶ長い間。起きないかと思った。

 

目を開けると深い青。

違和感。

マグロが一匹もいない。

     

マグロは?

いないよ。今日は初めからいなかったよ。みんな死んじゃったんだよ。

そうか。

と言って私はまた眠ってしまったのだけど、再び起きた時には彼女は消えていて、マグロもやはりいなかった。

 

結婚をして子供と一緒に時々水族館に行くのだけど、私はもうあの大きな水槽の前で長い時間を過ごすことはない。

子供もペンギンが気に入っているようだ。

妻に「あれ、マグロ復活してる!」と言われてもそれはカツオだと訂正することもない。

 

 

若者も公園に行こう  Mr.Indigo

  • 2017.02.28 Tuesday
  • 00:00

「知らない人について行ってはいけません」

日本の小学生で、こう言われたことがない人はほぼ皆無だろう。30年ほど前、宮崎某なる凶悪犯が世間を震撼させていた頃、私も何度となくそう指導された。

当然の話である。いつまでも親や先生の目の届くところにいるわけではない。自分の身は自ら守ることが必要だ。

ただ、それによって子供達と善良な大人の間に壁を作ってしまうという副作用もある。特に10代後半〜20代前半くらいだと、用もないのに子供に声をかけるのはなかなかハードルが高いだろう。

少子化が社会問題となって久しいが、このあたりにもひとつの原因があるのかもしれない。すなわち、遠くない未来に結婚・出産を考えることになる世代が実際に子供と触れ合う機会が、極めて少ないのではなかろうか。

もし子供とコミュニケーションを取れれば、その楽しさがわかるのではないかと思う。自分も子供と遊びたい、子育てがしたいと思う人も出てくるはずだ。

ただ、現実的な問題として子供側の警戒心がある。しかし、それが薄まり子供達とコミュニケーションを取る機会を作る絶好の場所がある。それが公園である。

 

子供が多い時間帯に公園へ行けば、必ず何かが起こる。特になにもしなくても、ベンチに座ってさりげなくその時を待っていればいい。

例えば、誰かが蹴ったボールが転がってくる。それを笑顔で返してやるだけで、何らかの反応があるはずだ。

「ありがとう」

相手が5歳くらいならこう言われるだろう。もう少し大きければ「ございます」がつくかもしれない。

「いいよいいよ、気をつけてね〜」

これで立派にコミュニケーションが成立する。目を輝かせて遊ぶ子供達に触れて、清々しい気分になるのではないか。相手側も優しい人で良かったと思うに違いない。

 

また、たとえ会話がなくても、若者と子供が公園で出会うことには、少なからぬ効果があると思っている。

ある日、長女と公園で遊んでいると、若い女性が1人でやってきた。彼女は鉄棒で軽くウォーミングアップをした後、ダンスの練習を始めた。身のこなしが良く、素人目にはかなりの実力者のように見えた。

「あのお姉さん、何してるの?」

長女が聞いてきた。

「ダンスの練習してるんじゃない?運動会でダンスとかあるでしょ」

結局、我々と彼女の間に会話はなかった。しかし、互いに互いを意識したことは間違いあるまい。

ウチの長女はダンスに情熱を燃やす「大きいお姉さん」の姿を、彼女は親子での公園遊びの様子を見ることができた。本来の目的とは違うが、予期せぬ収穫があったのだ。

別の公園で、ジャグリングをしている青年を見かけたこともあった。ほぼ無言で失敗もたまにあり、披露ではなく練習なのは明らかだった。

彼も、ボールが飛んでくるなどの突発的なことがない限り、子供と触れ合うことはなかった。しかし、子供達には彼の真剣に練習する姿が、彼には楽しく遊ぶ子供達の姿が目に入っていただろう。会話はなくても、お互い何か思うことはあったはずだ。

 

都市の公園は敷居が低い。子供を見守る大人がたくさんいるからである。それを逆用して、公園へ行ってみてはいかがだろうか。大学生くらいの若い人に、私はそう勧めたい。日本の少子化対策のみならず、個人の豊かな人生のヒントにもなるだろうから。

本当はもっと便利なエクセル たりき

  • 2017.02.27 Monday
  • 23:59

エクセルは、本当はもっと便利だ。

2006年からつけ始めた私の競馬収支ファイルのように数字を入力したりそれをグラフ化したりするだけではまだまだ級位者といったところ。

最近では、知れば知るほど本当にすごいソフトだなと感心しきりです。

 

1)

ゼロから始まる数字を入力したいことがあろうかと思います。例えば商品コードなどで002563と入力するような場合です。

エクセル上ではそのまま入力すると2563と表示されてしまいます。そんなときは初めに「'」を加えて「'002563」と入力するのがよろしい。

ちゃんと002563と表示されます。ただし、数字ではなく文字列として保存されてしまいますので後ほどその数字を計算させる必要があるときは注意が必要です。

 

2)

Ctrl」キーと「C」でコピー、「Ctrl」キーと「V」で貼り付けができるというのは知っていますね。コピー&ペイスト(貼り付け)を略してコピペなんて言いますよね。

エクセルでは数式をコピペすることも可能です。

しかし、例えば掛け算のどちらか一方を固定させたいというときがあります。例えばドル単価に為替をかけて計算させるときです。

そんなとき「=A1*B1」という計算式をそのままコピペすると上手く計算できません。コピペによってA1B1もどちらも移動してしまうからです。

そんなときにはA1の表示に「F4」キーを押してみましょう。「$A$1」と表示されるはずです。

この$は式の固定を表してA1というセル番号はコピペによりA(横列)も1(縦列)も移動しないという意味になります。ちなみに「F4」キーをさらに押すと横列と縦列のどちらかのみを移動させないような設定も可能です。

=$A$1*B1」という数式をコピーすればどのセルに貼り付けてもA1セルは移動せずそのままです。

 

3)

膨大なデータ量のエクセルファイルから調べたいワードを検索するには「Ctrl」キーと「F」を同時押ししてみましょう。

ダイアログが出現し「検索する文字列」を入力することができます。

 

さらに、同じダイアログの別タブを使うと置換という操作も可能です。

例えば1月向けに作ったファイルをすべて2月に変更したいとき。

1月入庫量」「1月売上量」「1月末在庫量」といったセル一つ一つを変更していく必要はありません。このタブを使えば一瞬です。

この便利な機能を知ると知らないとでは作業性がまったく異なります。

 

 

え、文字だけではわかりにくいって。

まあ、こんなに便利な機能がいろいろあるらしいということを分かってもらえれば結構です。

後は、ちょっと困ったときに周りのパソコンが得意そうな人に聞くなりちょっとインターネットで調べればすぐに検索できますから。

【テーマ】ツナ缶七変化  Mr.マルーン

  • 2017.02.27 Monday
  • 12:00

1.ツナたまキャベツ

キャベツをざく切りにしたものを、耐熱のどんぶりに敷き詰める。

このとき真ん中を少しくぼませる。

ツナ缶をキャベツの真ん中に入れる。

その上に生卵を落とし、箸などで黄身をつついていくつか穴をあける。

軽く塩コショウをふる。

ふんわりラップをかけてレンジで様子を見つつ3〜4分チンする。

卵が程よく半熟になったら、ケチャップ、ソース、ポン酢、マヨネーズ、七味など好みの調味料をかけて、豪快に混ぜる。

ざくざく。

食べる。

 

2.ツナトマぶっかけそうめん

トマトはさいの目に切る。キュウリは細切りにする。

そうめんを適当なかたさに食べたいだけゆで、冷水で〆る。

どんぶりにそうめんを盛り付け、トマト、キュウリ、ツナ缶をどばっとのせる。

めんつゆをぶっかける。

わけぎ、ショウガなど好みの薬味をのせる。

ちゅるりん。

食べる。

オリーブオイルをかけてイタリアン風も可。

 

3.ツナツナ人参サラダ

小松菜をさっとゆでて冷水にとる。よく絞ったら5cmほどの長さに切る。

人参は細切りにし軽く塩をふってもんでおく。

ボウルに小松菜と人参とツナ缶を入れ、マヨネーズと塩コショウで和える。

しゃきしゃき。

食べる。

 

4.ツナオニオントースト

玉ねぎ半個を薄くスライスし、塩を振って揉み、しばらく置く。

じんわり水気が出てきたらよく絞る。

玉ねぎ、ツナ缶、マヨネーズ、コショウを混ぜる。

食パンに具材をのせ、上からピザ用チーズをかける。

トースターで10分から12分ほど焼く。

こんがり。

食べる。

 

5.ツナ入りオムレツ

卵をといて、ツナ缶を入れ塩コショウし、よくまぜる。

熱したフライパンにサラダ油を多めに入れる。

卵液をフライパンに流し込む。

なんか、がんばってオムレツの形に焼く。

ならなかったらあきらめてツナ入りスクランブルエッグにする。

ふわふわ。

食べる。

 

6.ツナマヨ丼

米を炊く。

ごはんをどんぶりによそう。

ツナをのせる。

醤油、マヨネーズ、七味をかける。

ほかほか。

食べる。

 

7.And, as you like♡

【テーマ】マグロ転生  Mr.X

  • 2017.02.27 Monday
  • 07:55

スマホでゲームをしながら自分の部屋で酒を飲んでいた。つまみが足りないなと思って一階へ降りようとした時、足を滑らした。

気がつくと、目の前にお釈迦様が立っていた。自分が知るお釈迦様の姿だが、後光が強過ぎて表情が読み取れない。

「お前はダラダラし過ぎだ。常に動き続けなさい」

一言呟くようにそういったのが聞こえたかと思ったら、マグロになっていた。

それ以来、自分は泳ぎ続けている。一日中泳ぎ、イカや小さい魚を追い続けている。
一度休もうとしたけれど、そうするとエラを通る海水が少なくなるせいで息苦しくなり、とてもじゃないが「のんびり休む」というわけにはいかなかった。泳ぎ続けるにはエネルギーがいるからずっと食べ物を追い続けることになる。夜寝て目がさめると記憶とは全然違う場所。寝ながらだって泳いでいるから当然だ。

もう、サメかシャチかクジラだかに食べられてしまいたい、こんな泳ぎ続ける生活は嫌だ。何度もそう思った。しかし、月日を重ねていくとこの苦しい生活にも慣れ始めている自分がいた。要するに、サメなどの外敵を避けつつ、餌を食べ続ければいいのだ。何度か危ない目に遭いつつも、サメがどういうところで、どんな風に攻撃してくるか、経験を積むごとに危険性は下がっていく。深度、海水温、潮の流れから、どこに行けばイカやイワシが食べられるのかが分かるようになってきた。

体が大きくなり、つるんでイカを取る仲間達と、どうやったらメスのマグロに出会えるのか、冗談が混じりながらも真剣に相談している時、突然、網に巻き込まれた。わけがわからず暴れていると周りの海上に引き上げられ、驚く間もなく、これまで経験したことがないような冷たさの中で意識がなくなった

目の前にお釈迦様が立っていた。

「動き続ける生活、どうだった?」

急にそんなこと聞かれてもマグロの脳ではよく分からないけど、

「大変でしたが、慣れたら自分のペースでできるようになったので、それなりに楽しめました」

と答えた。そうすると、お釈迦様は怒ったような、笑ったような、泣いたような表情をして姿を消した。

気がつくと、病院のベットで寝ていた。頭から血を流して倒れていたので母が救急車を呼んだらしい。幸い、重くはなかったけれど数日入院することになった。

ベットから動いてはいけないし、退屈だ。とりあえず今はスマホのゲームの続きがとにかくやりたい。

2016年11月の振り返りを丁寧に(14) Mr.アールグレイ

  • 2017.02.26 Sunday
  • 23:29

2月の投票も終わりましたね。

今回の投票はMVPとは何かについて考えさせられました。

私にとってはIndigoさんとのハードなやり取りはとても勉強になったので私にとってはMVPはIndigoさんなのですが、私の原稿はA.ハッガリーニさんが全てチェックしていて、私が躊躇した時に背中を押してくれましたし、なかば強引に今回のテーマコンテストに巻き込んでくれたのはがりはさんの作品でした。

PREMIER全体を見ると私の振り返りで自己言及の比率が高まったところをマルーンさんやヤマブキさん、臙脂さんがしっかりとおさえてくださっていて、今回私は全体への貢献を重くとってマルーンさんに投票しましたが、Indigoさんに入れるべきだったのではないかとまだくよくよしています。

MVPは複数投票を許していないのは、賞の重みを担保していると思いますが今回の私のように苦しむ人もいらっしゃるのではないでしょうか。

 

とはいえ、私は11月の振り返りを続けます。

少し間が空きましたが、お前の頭の上のハエを追えと編集長から檄を頂きましたので。

 

日本語検定(初段) うべべ  

 

うべべさんの「人を食った」としかいいようのない楽しい作品です。

 

う「昨日ハガキが来ていた、新しいリボ払いのキャンペーンの件ではないですか?」
女『ご本人にしかお伝えできない内容ですので、申し訳ありませんがお答えできません』
う「わかりました。生年月日をお伝えします。〇〇〇〇年〇〇月〇〇日です」

 

謎を提示されると解かずにはいられない人がいます。

うべべさんはきっとそうなんでしょう。

元傭兵とは思えないくらいちょろいですね。

マルーンさんが恐らく私のことを「妖怪マスクウーマン」として書いてくださいましたが、その中で私は千文字程度の小説を提示されると読まずにいられない化け物として描かれています。

うべべさんが謎を解かずにいられないように、妖怪もそうなんですね。

その性が戦場で命取りにならないことを祈ります。

うべべさんの作品は大好きです。

いつになったら読ませてくれるんでしょうか。

あんなにお願いしたのにな。

 

【テーマ】オムツ by Mr.ヤマブキ

 

すごく緊張感のある作品で、この作品が高く評価されなかった理由を私たちはもう少しよく考えた方が良い気がするのですが、今のところそんな動きはありませんね。

私なりに考えてみたいと思います。

この小説の肝は特殊で不便である種情けない状況に置かれている主人公を描きながら、最

後の最後にあなたもそうではありませんか、と切り返してくるところにあるように思いますがここに違和感がありました。

私にとっては下記の部分が全てで、切り返すのであればここを突き付けるべきではないかとおもうのです。

人生に支障が出るような病気かもしれないが、でもそれこそが人生そのものとなりつつある。

おそらくヤマブキさんの文章もそこを意図されているのではないかと思うのですが、切り返している文章は「人生の落とし穴」と表現されていて、ニュアンスがずれているように思います。

こんな細かいところ、普通は読まないのかもしれませんが、私は共感をベースに違和感を感じたところを掘り下げるので、気になってしまいました。

ここまで申し上げておいて何なんですが、上記の違和感の話は恐らく高く評価されなかったことと関係ないように思います。

新聞記者との対話(上)  Mr.ホワイト

  • 2017.02.25 Saturday
  • 23:13

高校生の頃、新聞記者にインタビューされたことがある。現代の若者は何を考えているかというテーマの連載のために色々なカテゴリーの若者たちを取材していたようで、私の前が「中卒で働く若者」枠で、私は「勉強ができる子」枠だった。勉強はそれなりにできたがピカイチだったわけではないので、なぜ私が選ばれたのかはわからない。新聞記者が伝手をたどっていく中で一番偏差値が高そうだったからかもしれない。

 

駅を降りると新聞記者が車を停めていて、その助手席でインタビューを受けることになった。よく覚えていないのだが、新聞記者は確か入社3〜5年くらいの若いお兄さんで、当時17歳だった自分と十も離れていなかった。話し始めてすぐに彼の優秀さがわかった。話をするのも上手いが、何よりも話を引き出すのが上手すぎた。話していると、自分が考えたことをしゃべっているというよりは、自分がモヤモヤと感じていたことを考えさせられているような気になる。当初、インタビューは1時間程度の予定だったが、結局3時間くらい彼と話したように記憶している。

 

「僕なんかはさ、普通に勉強して普通にそこそこの私学に入ったんだけど、やっぱりそこまで突き詰めて勉強できなかったっていうかね、だから君みたいな人を見てるとすごいなあと思うよ」

「うーん・・僕は勉強ができるよりも、新聞記者になれるほうがすごいと思いますけど・・。勉強はしてますけど、僕には目的がないので」

 

「いや、そこなんだけどね、目的ないのに勉強できるっていうのはどういうことなのかなと。僕にはそれはできなかったから、そこがよくわからないんだよ」

「人それぞれでしょうけど、僕の場合は得意なことに集中しようという、それだけですね」

 

「得意なこと?」

「学校のテストとか、昔から得意だったんですよ。人と比べてたいして勉強してないのに点数はよかったので、これは人より得意なんだろうなと。逆に、僕は中学校のころ陸上部だったんですけど、走るのはどれだけ熱心に練習しても速くならない。陸上ほど圧倒的に才能がモノをいう競技はないですから、その意味では良かったのかなあと。向いてないことはやるべきじゃないってわかりましたから」

 

「なるほど。そんなこと、考えたこともなかったな」

「まあでも、色々だと思いますよ。僕もそうですけど、がんばって勉強してる人ってちょっと歪んでるんですよ。暗い人が多くて。あれはなんていうか・・見返してるんでしょうね・・」

新聞記者との対話(下)  Mr.ホワイト

  • 2017.02.25 Saturday
  • 23:12

「見返すって親とか?」

「いえ、そうじゃなくて、学校のクラスには、なんていうのかな、表の人と裏の人がいるんですよ。人と仲良くなるのがうまい人はそういう人たちで集まっちゃうし、そういう人の周りを囲める人も彼らの仲間になれる。でも、僕もそうなんですけど、人と仲良くなるのが苦手な人たちはそのメインのグループに入れずに、そういう人たちだけで集まっちゃう。要は・・ハジかれたっていうことですけど・・でも、それを認めたら終わっちゃうから、自分たちはハジかれたんじゃなくて、出て行ったんだと思いたいんですよ。だからがんばって勉強して、自分たちは賢いから彼らと付き合わないんだと、そう思い込みたいっていうところも多分あるんですよ・・」

 

「それは・・いじめとはやっぱり違うんだよね?」

「全然違います。いじめではないです。彼らは暗い僕らを下に見てるし、暗い僕らは僕らで、彼らをどこかで下に見たいっていう、それだけです。ただそれだけなんですけど、自分たちが下に見られるだけの存在ではないということを何かで確かめないと、僕らはやっていけないんですよ・・」

 

「・・すごいね。やっぱり賢いわ。大学の講義聞いてるみたい」

「全然、本当にすごくないです。新聞記者のほうがすごいですよ。仕事してる大人って学校の先生くらいしかちゃんと見たことないけど、今日は話していて、やっぱすごい大人はいるなあって思いました。」

 

「いやあ、僕はまだペーペーで、失敗ばっかだよ」

「ひとつ聞いていいですか?」

「ん?」

「仕事ってやっぱり、大変ですか?」

「ああ、まあ大変は大変だねえ。毎日家に帰るのは深夜だし。でもね、僕はずっと新聞記者になるのが夢だったから、やっぱり楽しいね。いろんな人のいろんな話を聞けて」

「すごいな。夢が叶ったんですね。夢持ってる時点ですごいと思います」

「まあ、みんな夢なんて持ってないもんだから、気にしないでいいよ」

 

お仕事がんばってくださいと言って僕らは別れた。僕はたぶんしゃべりすぎた。明確にするのを避けていたことを明確に言葉にしてしまったのだ。当時はスクールカーストという言葉がまだない時代だった。それに気づいていたとしても、言葉にしなければ誤魔化せたのかもしれなかった。

 

その後、僕に対するインタビューは記事になった。だが、僕はそれを見るのが怖くて、見ることができなかった。結局、今に至るまで、一度も見たことがない。

【リバイバル】メトロに乗って Mr.ホワイト

  • 2017.02.24 Friday
  • 18:00

職場へ行くために、大阪市営地下鉄を使っているが、
阪急・JR沿線育ちの自分は、地下鉄がどうも好かない。
暗い、汚い、くさい、という気がするのである。
気がするものは気がするのだから、どうしようもない。
「地下鉄なぞという愚劣なものには、一生乗りたくない。」とは、
貧乏臭さを毛嫌いした伊丹十三の言である(『女たちよ!』より)。

ある金曜日、仕事で遅くなって夜11時の地下鉄に駆け込むと、
電車は酔っ払った人たちで満員だった。
みんな、酔っ払ってフラフラしている。顔が火照って赤い。
仕事でフラフラになって青い顔をしている自分とは対照的だ。
てめえら、オレが働いてるのに酔っ払いやがってと、無性に腹が立つ。
となりに、30代のカップルがいた。
満員なので、身体をピタリとくっつけ、腕を相手の背に回し、
お互いを見つめあって幸せそうに笑っている。
あ、と女が声を出して、うれしそうに言った。
「ねえ、当たってるよ、足に。」
絶句。
ナニがじゃ!!とも言えず。
夜の地下鉄は、きわめて破廉恥である。

ある日、めずらしく早く帰れて夕方7時の地下鉄に駆け込むと、
なんだかいつもとメンバー構成が違う。若干、若い人が多い。
学生も地下鉄を使っていることを忘れかけていた。
となりに、大学生らしきカップルがいた。
おとなしいかんじのふたりで、髪の毛は黒く、シンプルな服装だった。
ほとんどしゃべっている様子はなかったけれど、ずっと手をつないでいた。
男のほうだけ、梅田で降りた。
降りたといっても、駅のホームに下りただけで、
停車している電車の開いたドアを挟んで、
手はつないだまま、まだ見つめあっている。
梅田は人が多く乗り降りするから、停車時間が長い。
「発車します。ドアが閉まります。」
というアナウンスで、はじめてつないだ手を解いた。
解いた手で、じゃあね、と手を振って、
彼女の姿が見えなくなるまで、彼氏は電車を見送っていた。
夕方の地下鉄は、なかなか悪くはないかもしれない。

 

(プリミエールフライデーのリバイバル企画。

 早く帰れたあなたが見ることができる世界と早く帰れなかったあなたが見ることができる世界の断絶。)

【リバイバル】真実はいつも一つだけっ! Mr.Pink

  • 2017.02.24 Friday
  • 18:00

でも、事実は無限にあるものなのよ?
坊や?

みなさま、おこんばんわ。
今宵も、貴男の傍に忍び寄るMr.Pinkでございます。

金曜日のアフターシックス
ほっとした、気の緩んだその瞬間。

狙います。その隙を。
頂きます。そのハート。

さあて。
これだけ、脅しておけば当分は、大丈夫やろ・・・。

突然ですが、今日は何の日でしょう。



いえ。
私の誕生日じゃありませんよ。

違います。
執筆陣の記念日じゃありませんよ。

おしい。
けど、電池月間じゃない。

正解は、「コナン切手」発売開始日でした。

・・・

って、だーさん。そんな、怒らんでもよろしいがな。
記念切手の発売日。

これ、マニアは欠かしちゃいけない、チェックポイントなんだから。

義理と褌と発売日は欠かしちゃならねぇって、昔から言うでしょ。

郵便局営業開始は、午前九時。
会社始業時間は午前八時(一時間ノーギャラ)。

この矛盾を如何にせん?
社会人ともなりますとね。

二律背反した局面をも乗り切らなくてはならない時があるのです。
よく見ておきなさい。

無理難題を、どうやってこなすのか。
取引、駆け引き。探り合い。






ピンク「すみません。一瞬だけ郵便局行かせてくださいm(_ _)m ≒ 土下座」

上司A「・・・5分で戻れるならええケド、それより遅れたら今日残業やってもらうで?(ノーギャラ)」

ピンク「(クっ・・・)かしこまりました。ありがとうございます」


郵便局が目の前にあるから、よかったものの。
これが10km先だったら、絶望的やな・・・。

とりあえず、抜け出して9時開門と同時に飛び込んで、「コナン切手30枚下さいっ!」と、怒鳴り込む変人アリ。

局員 「え?すみません。30枚、うちの割り当ての全部になってしまうのですが・・・」

ピンク「くださいっ!(睨みつける)」

局員 「え・・・ええぇ〜・・・全部はちょっと、もうしわけ・・・」

ピンク「くださいっ!(万札を叩きつける)」

局員 「あの・・・ちょっと・・・」

ピンク「くださいっ!(机を叩きつける)」

局員 「ひ、ひいぃ!」

さすがに、ビビってたなぁ。
お気の毒様。
けど、こっちも、仕事が控えてるんでね。
はよせな、今日の発注間にあわへんし。

全力ダッシュで戻って9時4分。

上司 「あと1分遅かったら、遅刻扱いで人事に報告してたで。」

・・・ひ、ひいぃ!

 

(プリミエールフライデーのリバイバル企画。

 プレミアムフライデーとは真逆の思想の会社で数寄と仕事を両立させるMr.Pinkの奮闘。)

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