【テーマ】水なんて大嫌い!(上)  がりは

  • 2016.09.30 Friday
  • 23:59

俺の世を忍ぶ仮の姿は通信会社の営業マン。

雨の日も雪の日も嫌いだ。

水は大嫌いだ。

なぜ水が嫌いになったのか。

今日は特別に教えてさしあげよう。

 

ケース1 滝

「がりはさん。お願い助けて!」

「どうしました、○○さん。あなたは運がいい。私は全社の中でもこの手のトラブルに最も強い男です。」

「いや、まだ何も言ってないんですけど!いっつも変わんないわね、感心しちゃう。ちょっと落ち着いたわ。」

「でしょ?で、どうしたんです?」

「△△店で電話が使えなくなったのよ。」

△△店は50を超えるお客さんのお店の中でも3番目に大きい上、物流倉庫を併設しており、電話が通じなくなることはあってはならない。

「げ。とりあえず想定通りお店用のケータイ3つに転送設定しときますよ。もちろん修理の手配もしますけど。」

「うん助かる。お願い。」

「わかりました。今転送入れましたよ。」

「はっやー!いっつも思うんだけどさ、どうやってやってるわけ?」

「毎回教えてるんですけどね、○○さんと僕の秘密のあれですよ。」

「あー!あれね。悪用されるとまずいから、て奴ね。」

「そうですそうです。で、なんで電話使えなくなったんですか?」

「お店からは『滝が』としか・・・。」

 

豪雨の中修理班と合流し、店舗の裏手から現場に入った俺の目に飛び込んできた光景は忘れることができない。

 

滝だった。

さやさやと音を立てて流れる滝だった。

電話の交換機が設置されている壁一面を流れる滝だった。

屋根の一部に穴が開いており、逃げ場を探した水がたどり着いたのが、店舗の表と裏を隔てる壁だった。

おそらく長い時間かけてじゅくじゅくとそのあたりを侵略、機が熟したと見るや一気呵成に流れ落ちたようだ。

交換機の買い替え、設置場所変更工事などで急場をしのいだが、根本解決にならない。

店舗部分、物流部分を含めてそれまであった不都合な点を解消する解決策をてんこ盛りにした店舗の建て替え提案をここぞとばかりに突っ込み、全て呑んでもらった。

前から稟議にかけていたのだが、反対派の専務をどうしても突破できなかった。

○○さんの役員会でのプレゼンを手伝わせてもらい、根拠資料として現場で撮影してきた滝の写真とムービーを提示、抜群の効果を上げた。

一年後新店舗が立ち上がり、売り上げも好調だという。

店舗のインテリアとして水の流れる壁が採用されているのはブラックジョークが過ぎると思うのだが、△△店のアイデンティティの一つなんだそうだ。

その壁には交換機ついていないからいいけれど。

【テーマ】水なんて大嫌い!(下)  がりは

  • 2016.09.30 Friday
  • 23:58

ケース2 懺悔

最近豪雪が年に2回くらい降るが、その1回の時だった。

「がりはさん、今日は本社じゃなくて××店に来てくれない?がりはさんと打ち合わせたあと、××のマネージャーと打ち合わせなんだよね。」

「いいっすよ。□□さんに呼ばれれば火の中水の中。」

「今日雪だけどねー。」

「駅まで迎えにきてもらえます?」

「何分かかる?」

「20分で行きます。」

「オッケー。」

××店はお客さんのお店のラインの中では最上位、その中での旗艦店であり、外装からかなり凝っている。

なんでもドイツの建築家に設計してもらったんだそうだ。

お客様の運転でお店に着き、人のいないショールームで打ち合わせ。

まあ、こんな豪雪では誰も来ない。

低い音量でグールドのゴルトベルグ変奏曲が流れている。

誰の趣味だろう。

「ゴールドベルト変装曲?金のベルトで変装する時の曲ですか?へーんしん!みたいな。」

□□さんはノリノリだ。

他の出入りの業者は口々に厳しい人だ、怖い人だと言い、言いづらいお願いを俺経由で伝えてもらおうとする始末。

そんな業者にはしっかりお灸をすえてやったが。

来年と再来年、この会社をどのくらい直して行くのかを議論していた。

我々は打ち合わせの時にA3の白い紙を真ん中に置いて、それにごちゃごちゃと書き込んでいき、話がまとまるとちょっと照れながら隅にお互いのサインをして、それをコピーしてお互いに保管するのが常だった。

 

話がまとまって、見えたー!明るい未来が見えたー!と立ち上がって両手を横に広げ、オカダカズチカのレインメーカーポーズを取った。

その時に見上げた天井が異様に低く、一瞬思考が停止した。

「逃げて!」

叫ぶと同時に□□さんの腕を取って逃げた。

少し遅かった。

すごい量の冷水が頭の上に降ってきた。

打撃の痛さ、水の冷たさ、息のできなさが同時に襲ってきた。

幸い水はすぐやみ、びっくりして出てきた××店のスタッフの皆さんの迅速な対応で□□さんと俺は助かった。

15人が7日間緊急避難できるように各店舗に毛布や食料、カセットコンロなどを配備したのは□□さんの一年前の仕事だった。

 

凝ったデザインの屋根の一部に雪がたまり、圧力で雪が解け、コーキングが甘かったところから水が浸入、出口を求めてさまよった水が行きついたのは俺の頭の上の天井ボードだった。

ドイツ人のデザインで天井は平板でなく、俺の頭の上が一番低くなる構造だったみたいで。

 

濡れた衣服を着替え(店長がコンビニで買ってきてくれた。)、毛布にくるまりストーブにあたってココアを飲みながら□□さんは言った。

「がりはさん、ひょうきん懺悔室みたいになってましたよ。いやー、いいもの見た。」

 

天井から漏れた水は床下に配線されていた電話線の腐食部分にも行きわたり、交換機がショート。

電話は不通になり、俺は即修理手配。

駆け付けた修理班に

「がりはさん、何遊んでるんですか。手伝ってくださいよ。」

と言われのけぞった。

 

あと二つ、大きな水の事故があったのだが今回はこの辺で。

水なんて嫌いだよ。

【テーマ】「備中高松城水攻め」 byアフリカの精霊

  • 2016.09.30 Friday
  • 23:55

 戦国において水攻めと言えば、備中高松城と忍城であろう。

 他にもあったのだろうが、この二つが突出して有名である。

 昔は前者しか知名度がなかったものであるが、和田竜によってのぼうの城が映画化されまた真田丸にも出てきたことから最近では知名度的には逆転したのではないかと思う。

 ということで「水」をテーマにした作品の今回は備中高松城を扱おうと思う。

 

 備中高松城、備中という国名が指す通り岡山県にある城である。

 1582年、信長の家臣である秀吉は中国地方の覇者である毛利家と戦っており、岡山県にあるこの城は最前線であった。

 勢いは織田家にあり、3万対5千、毛利方は籠城するしかなかった。しかしこの備中高松城、周りを泥炭地で囲まれており城自体も堅固に出来ており秀吉は攻めあぐねてしまう。しかも城主は清水宗治。戦国ファンには結構有名な律儀で戦上手の武将であり、攻められても撃退するだけの力量がありそれでいて毛利家への忠誠心の高さから一向に降伏しようとしない。

 

 そこで秀吉はこの泥炭地を逆手にとる戦略を思いつく。正確には軍師の黒田官兵衛もかかわっていたと思うが、川をせき止め4キロ四方を池にしてしまい高松城を水没させるのである。これをするには大人数の農民が必要であろうが、そこは秀吉、破格の報酬を払うことを約束して12日で完成させてしまうのである。

 戦意をなくした高松城が落城寸前になるところで歴史的一大イベント本能寺の変が起きて信長が死ぬ。慌てた秀吉は毛利家と和睦し、清水宗治1人の切腹で城兵5千の命は救うことを約束して明智光秀に戦いを挑みに行く…といったのが歴史的な流れである。

 

 さて、これで名を挙げたのは誰かということに注目したい。秀吉の戦略はスゴイ。攻めにくい城なら水没させてしまえば良い、という考えをするところに頭の良さがうかがえる。そして実行力と統率力、農民を不満なく総動員させあっという間に池を完成させてしまったところに秀吉の人使いのうまさがある。

 しかしである。この備中高松城の水攻めで名を挙げたのは誰かというと実は負けた側の清水宗治だったのである。ドラマなんかでこの水攻めを取り上げられる時、絶対といっていいほど清水宗治は律儀で武士道精神の溢れた演じ方が成される。そして水没してからも城に入った農民や家臣たちを励ます様子が描かれる。はっきりいってカッコよく描かれる。

 そして何よりも最後の切腹シーン。5000の兵の命を救うために自分一人が犠牲になる。切腹は水没した城から出た小さい小船の上で行われる。誰も声を発しない静寂の中、両軍から計35000人の前で水没した城を背景に腹を切るのである。切腹シーンまでカッコイイ。

 

 和睦条件として清水宗治の切腹を織田方に提案された毛利は初めは断ったという。毛利方によって宗治はそれほど惜しむべき武将であったようである。しかしドラマによっては宗治自身がその要求を飲むように提案する場面もあるくらいなのである。

 高松城の水攻め。秀吉の素晴らしい戦略を行動力により堅固な城は落ちた。しかしこれで名前を挙げたのは勝った側の秀吉ではなく、5000の兵の命を救った負けた側の清水宗治だったのである。

【テーマ】水の意思 by Mr.ヤマブキ

  • 2016.09.30 Friday
  • 00:00

 長い宇宙の旅には、お気に入りの本が数冊あればいい。手塚治虫という古代の東洋人が書いた火の鳥という作品は、今では読む人も少ないが、いつまで経っても手放せない。もう何億光年来ただろうか。変わり映えしない暗黒空間の連続。また、本を開いて初めから読み始める。

 

 今では水が共通思念を持つことは常識だが、過去の書物を読むと彼らもそれを感じ取っていたことが分かる。意思を持ったように流れる川、一か所に集まろうとする水滴たち。沼や湖を覗き込んだ時のその表情。それらは決して迷信などではなかった。科学的に示されたのは、水が共通思念を持ち、一体となろうとする性質を持ち、そして、死へと向かおうとしていることである。

 その声明が発表されたとき、人々は驚いた。水が死のうとしているということに。だが本当に驚くべきだろうか。我々は死に向かって生きている。どんな生命体もそうだし、無機物ですら存在する限り消滅する方向へと進むよりない。水だけがその法則から逃れられるわけではないのだ。

 

「交代の時間よ」

 

 奥から彼女が呼ぶ。

 

「またそれ読んでたのね」

「この本に出てくるロビタというロボットを知っているかい」

「残念だけど、その本は読んだことないの」

「ロビタは人間と別のロボットの頭脳をインプットされた機械なんだ。他のロボットと違って人間臭くて人気が出てたくさん複製されるんだが、あるとき一部のロボットが溶鉱炉で処分されると残りのロビタ全てが集団自殺するんだ。訳あって月面で動けなくなっていたロビタだけがそれを免れる」

「それがどうしたの」

「いや、別に」

 

 彼女と交代してコールドスリープに入ろうとする。

 

「あれを見て」

 

 窓からは巨大なガス団の流れていくのが見える。場所によっては、地球の水の100兆倍に相当する水蒸気の一団が存在することが知られている。あれもそういった大量の水の一部なのだろう。今、宇宙にあるすべての水は宇宙の中心に集まりつつある。集まった後、水は死のうとしている。死ぬということは時間的・空間的に制約を受けないということだ。それは完全な消滅という形で訪れる。そのとき宇宙は消滅した水の分だけ空間が歪み、耐えられなくなって崩壊する。そのあとには、何も始まらない。

 

「そうだ、水をくれないか」

 

 コップに注いだ一杯の水を飲み干す。我々二人と同じようにとにかく宇宙の外へ脱出しようとしている人々がいて、彼らの確保している水だけが月面のロビタと同じように自殺を免れている。

 

「ロビタは月面で何していたの」

「人を殺していたよ。自分がただのロボットでないと証明するために」

 

 外ではガス団が一層濃く、右手の窓を占めていた。

 

「次に目覚めることがあるだろうか」

「大丈夫、そのときが来たら起こすわ」

「そう」

 

 宇宙の片隅のえぐり取られたような無音。

 

「おやすみ」

鉄の海(24) by Mr.ヤマブキ

  • 2016.09.29 Thursday
  • 00:00

 医者の業務はいくつかあるが、大きく分けると病棟と外来と処置になる。大きな病院が午前で外来の受付が終わるのはそのためで、働いていないわけではなく入院患者を診ているのだ。処置は、外科であればもちろん手術だし、循環器内科なら心臓カテーテル、消化器内科なら胃カメラなどその科特有の手技があって、その合間に病棟業務をこなすことになる。病状説明をしてくれ、と突然来る患者家族もいるのだが、外来や処置中であれば対応は難しい。すぐに対応する医者は結構だが、心臓カテーテル中にピッチで話をされてはカテーテルを受けている患者がたまったものではないだろう。できるだけIC、つまり病状説明を希望するなら、時間を合わせて来てもらうようにしている。

 

 その日の外来は予約がかなり多く、事前に予習はしていたがとても午前中には終わらない予感がする。開業医の外来とは別で、病院の外来は飛び込みや紹介なども受ける初診外来と、専門科の疾患を定期的に診続ける専門外来に分かれる。今日は専門外来なので再診患者ばかりだから、事前に検査の結果や治療方針を確認してスムーズに診療を進められるよう予習をしておく。それでも、診療は予測しないような方向に進むこともあって、一人1015分という枠は簡単に使い果たされてしまう。

 朝一番の外来は肺気胸の再診だ。が、その前に重要なことがある。外来前には必ず、調子の悪い入院患者がいないか確認しておく必要がある。いつ終わるとも知れない外来の合間に急変の報告が入った、では自分の首を絞めてしまう。病棟はおおむね落ち着いていた。人工呼吸器に乗せられているような重症患者も重症なりに安定していたし、抗癌剤投与中の癌患者も、肺炎の患者も、その患者なりの落ち着き方を示していた。一人気になったのは、肺炎で入院しているCOPDの患者だ。COPDは俗に言う肺気腫とも近い病気で、主に喫煙が原因で肺が不可逆的な損傷を受けて喘息のような発作を呈す。今回は純粋に肺炎での入院で、抗菌薬の点滴投与で改善傾向にあるようだった。それが朝会うと少ししんどいと言う。確かにやや息遣いは荒いように思うが、体内の酸素量を示すSpO2の低下はなく、聴診でもCOPDの発作を示すwheezeは聴取しない。COPD患者は慢性的に呼吸苦や倦怠感を訴えることも多く、現時点では緊急で何か行動を起こす根拠に乏しいと考えて一旦様子を見ることにした。もちろん、嫌な予感はするのだが。

 肺気胸の若者は、できるだけ仕事に支障がないようにと朝一番の予約だったので、こちらもそれに配慮して早めに診察をする。前回は気胸を治すため、胸にチューブを入れて入院していた。気胸が落ち着いたのでチューブを抜いて皮膚を縫って閉じた。気胸の再発がないかの確認と、縫った部分の抜糸のための受診だ。どうやらレントゲンには異常はない。皮膚もしっかりとくっついており2本糸を抜いて診察は終了する。診察時間は5分。次は長くなりそうなのでよいペースだ。次の患者は気管支鏡検査の結果説明。結果は、肺癌だ。

【テーマ】公園の水道  Mr.Indigo

  • 2016.09.28 Wednesday
  • 00:00

水がなくて困ることがある。長女と公園で遊んでいる時である。

公園には水道があって当たり前だと思っていたが、子育てをしているうちに、そうでもないことに気づいた。水道が設置されていない公園も、けっこうあるのだ。

 

今はそれほどでもないが、3歳の頃の長女は砂場遊びが好きだった。そして、砂場遊びで欠かせないのが水である。

砂上の楼閣という言葉を持ち出すまでもなく、乾いた砂というのは非常に崩れやすい。例えば人気キャラクターの顔の型に乾いた砂を入れてひっくり返し、平たい場所に置いても、型を外すと一瞬で崩壊してしまう。山を築くか穴を掘るかしかできず、それも四方から砂が流れ落ちるので効率が悪い。

ところが、砂に水を含ませるだけで、作業は非常に楽になり、バラエティに富んだ物が作れるようになる。キャラクターの顔を並べることもできるし、山を作ればトンネルを掘ることもできる。

ゆえに、幼児達は如雨露や小さなバケツを持ち、水道で水を入れて砂場まで運んでいく。回数がかかっても、目的のためなら労力を惜しまず何度も繰り返す子が多い。

水があることで、砂場遊びの魅力は飛躍的に向上するのだ。

 

ほかにも、何かと水は役立つ。転ぶなどして軽い怪我をした時はもちろん(ウチの子はしみるのが嫌で泣きわめくが…)、シャボン玉の液(最近は100均にいろいろある)をこぼした時や、ボールが汚れた時など、さまざまな場面で重宝するのだ。

そして、何より子供の習慣付けに水は必要不可欠である。遊び終えると、バケツやスコップなど自分の砂場遊びの道具を水で洗い、最後に自分の手を洗う。水道があってこそ、こうした遊びの基本を教えられるのである。

 

では、なぜ水道のない公園がいくつもあるのか。もちろん、水道を引くには工事が必要であり、小規模な公園だと投資額が需要に達しない可能性もなくはない。しかし、晴天の休日に行けば保護者を含めて十数人いるような公園でも、水道がないことがある。

理由は間違いなく悪用防止であろう。我々が子供の頃にも、友達に水をかけるなどの悪戯をすることや、栓を閉じるのを忘れて出しっぱなしにすることもあった。幼児だと栓を強く回し過ぎて自分が濡れてしまうこともある。子供達の行動を見たところ、それは今も変わらない。管理する側としては、面倒な話だろう。

 

それでも水道は必要だと思う。遊び方のバリエーションや擦り傷などの応急処置もさることながら、地域全体として正しい遊びを教える必要があるのだ。

子供は子供なりに自由に遊べばいい。ある程度の年齢になれば、危険度は自分達でわかるだろう。しかし、あくまで公序良俗に反しない範囲でのことだ。自分達より小さい子供の存在も配慮しなければならない。

4〜5歳になれば、公園では子供だけで遊べる。しかし、保護者の役割が消えるわけではない。迷惑な行為は抑止する必要がある。そして、抑止という子供の成長を促す機会を、水道が作ってくれるのだ。

したがって、公園の水道は子供の社会における成長に欠かせないものだと思うのである。

伝説のチーム  Mr.Indigo

  • 2016.09.27 Tuesday
  • 00:00

「あ〜明日仮病できひんかな〜。まあ無理か…」

「来ていただきたいのは山々なんですけどね〜」

後輩某君はこう言って笑った。社交辞令的な面はあるかもしれないが、15年ほど歳が違う若者にこう言ってもらえるのは実にありがたいことだ。

 

私は東京某所へ大学将棋部の後輩の応援に来ていた。38年ぶりの団体全国大会。近隣に住んでいる以上、行かない手はなかった。育児に追われていて体調も芳しくない妻に頭を下げ、私はスーツ姿で会場へ赴いた。

対局室に入った私は顔見知りの現役部員を見つけ、彼と周囲の集団に声をかけた。

「OBで2003年卒業のIndigoです」

若者達はそれぞれ軽く一礼した。直前の対戦の結果は雰囲気でわかった。

「どない?」

「いやぁ…」

「お通夜ですわ…」

ここまでの成績は2勝2敗の五分。この時点で2敗しては上位進出は厳しい。誰もがわかっていることだった。

「ちょっといい?」

口は出すまいと思っていたが、状況が状況なので私は作戦を変えた。

「このチームは既に伝説のチームなんや。38年ぶりのことをやったんやから。せやから将棋の内容とか、そんなんどうこう言うつもりはないです」

そう、自分にそんな資格はない。

「せやけど、俺はみんなより15年ほど長く生きてる。その人生経験から言わしてもらうと…」

私は語気を少し強めた。

「まだ始まったばっかりやないか。次勝ったら生き返る。あと全部勝ったら2着やんか」

いきなり熱いオッサンが出てきて、彼らも困惑しただろう。しかし、指をくわえているよりはいいと私は判断した。

「ほかにもOB来るから。流れ変わるで!」

何の根拠もない発言である。しかし、選手の気分が少しでも変われば良いのだ。

「そっすね!」

彼らも私の意図を汲み取ってくれたようだ。

 

「やっとこれ脱げるわ〜」

7時間後、私は満面の笑みを浮かべつつ、スーツの上着を脱いでネクタイを外した。もうゲンをかつぐ必要はない。

「今日はもうないですからね」

あれから3連勝で、チームは2位まで浮上していた。みんな本当に強かった。昼前のお通夜のような空気は見事に消え去っていた。オッサンのくせに既にずいぶん集団に溶け込んでいた私は、後輩たちにこう語りかけた。

「ほんまにええチームやなぁ。とにかく雰囲気がいい」

「こんな感じで仲もいいですしね」

誰かが即答した。変に謙遜したりしない。自分の属するチームへの誇りが感じられた。大学将棋部の理想の姿が、そこには見えた。素晴らしいチームに出会えて、私は幸せを実感した。

「俺はOBとして、このチームを誇りに思う」

「そして、俺はこの大学に入って良かったと、心の底から思ってる」

正直な本心を、私は彼らに告げた。

彼らは紛れもなく、伝説のチームだった。

 

翌日、さすがに仮病はできず、私は会社へ行った。後輩たちのことは気になっていたが、急ぎの仕事がいくつもあった。

仕事が落ち着いたところで、私は結果を見た。この日の午前中に行われた首位チームとの決戦こそ敗れたものの、堂々の3位入賞であった。

昼食休憩に出た私は会社近くのコンビニで軽食を買い、イートインスペースで上半身を伏せた。こみ上げてくるものが、少なからずあった。

「真田丸 佳境」 byアフリカの精霊

  • 2016.09.26 Monday
  • 22:15

 ついに佳境に入った真田丸。見てる人も見ていない人も少し私の話に付き合ってください。

 

 関ヶ原も終わり残すとこは大阪の陣のみとなりました。まだ終わっていませんが通じて見て演出的によかったと思える私の好きな作品の作り方をしている箇所がありました。

 それは「徹底した真田目線」という部分でした。

 徹底した真田目線、それは様々な場面で見受けられました。例えば本能寺や関ヶ原など歴史的重要事件であろうとも真田が直接は関係していないのでナレーションのみで終わらすということを徹底していました。

 本能寺はその後の真田家の運命に多大な影響を与えた事件ですが、それ自体は織田家の内部の事件であり真田家は直接関係ないですし、関ヶ原も関ヶ原で起きた戦自体には真田家は関わっていません。真田家からしてみれば「あれっ、信長死んじゃったの?」とか「三成もう負けちゃったの?」って感じであっという間の出来事だったのでしょう。ナレーションのみという表現は真田家にとってちょうど良い表現だと思います。

 

 また先日の場面でも加藤清正が死ぬシーンがありました。死ぬシーンと言っても真田家とは関係ないのでナレーションのみで死ぬのですが、服部半蔵による暗殺とされていました。実は加藤清正の死には様々な説があるのですが、その一つに関ヶ原では東軍に属しながらもその後も豊臣秀頼に忠誠を誓う加藤清正を疎ましく思った家康による暗殺死という説があるんです。ただ、やっぱり一般的な説にはなりえてないのですがこの真田丸ではこれが採用されてました。家康憎しの真田家目線から見れば、病死とするよりもこれがあっていそうな気がしました。

 

 以上のように真田目線ということをはっきり表に出している真田丸。あとは大阪の陣を残すのみとなりました。

以前私の日記において真田幸村は現代において過大評価されているといいましたが、その理由の一つとして大阪夏の陣において戦場に遅刻するといった失態をし仲間の後藤又兵衛とかを見殺しにしていることがあります。これを真田丸ではどう評価するか。仕方のない遅刻とするのかはたまた幸村の失態として表現するのか…。幸村目線としてどういった描写となるのか楽しみですが、私の好きな毛利勝永のどういった活躍が描かれるかが楽しみでなりません。

 私が思うに大阪の陣における豊臣方のMVPは彼でしょう。世間的に幸村になっているのは家柄や知名度、最後の華々しさにおいて差があるからだと思います。今まで一度も見たことのないみなさんも大阪の陣だけ見ても面白いと思います。そしてその時、片隅でいいので毛利勝永のことを見て戴ければと思います

2016年8月の試合後記者会見(上) がりは

  • 2016.09.26 Monday
  • 00:01

(試合後の記者会見にて)

 

―がりは選手、MVP獲得おめでとうございます。今回Indigo選手と同着でのMVP獲得となりました。感想をお願いします。

 

MVPが同着?

おい、統括本部!

同着の時の規定をそろそろ作った方がいいんじゃねえの?

なあ、おい。

いいルールがあるよ。

MVPで獲得票数が一緒だったら、最優秀作品賞での得票数で競ればいいんじゃねえの?

サッカーでもさ、あるじゃんか。

勝ち点が並んだら得失点で、みたいな。

最優秀作品賞が得失点に相当する、て言いたいわけじゃねえからな、そこんとこ間違えずに書いとけよ。

でさ、そうだったら今回どうなんだよ。

 

―えー。最優秀作品賞でがりは選手6票、Indigo選手4票です。

 

だろ?文句ねえだろ。お客さんがよ、どっちを求めてたかわかるだろ。

それからよ、Indigo、あいつが言ってたよな、団体戦だって。

団体戦で勝ったのどっちだよ。

ロスタイムだドーハだとガタガタ言う前にそこんとこ謳ってみろよ。

大体よ、自分の書いた作品全部に票が一票ずつ入って「空前絶後」て。

作品が非力だって言ってるようなもんじゃねえか、泣けてきちゃうよな。

空前絶後ってよどういう意味だよ?あん?

 

―「今までに一度もなく、これからも起こらないと思われる、ごくまれなこと。」です。

 

手前は記者のくせに、言葉の意味もスマホ頼みかよおい。

で、今回のやつ、空前絶後なの?

 

―・・・・・

 

どうなんだよ。第三者の厳正な目から見てよ。空前かつ絶後なのかって聞いてんだよ。

 

―そこまでではないかと・・・

 

あん?聞こえねえよ!

 

―空前絶後というほどのことはないかと。

 

そうだよな。大体、自分のやったことで空前絶後なんてよ。嘘でも他人に言ってもらわねえとな、そういうのは。他にあるかい?

 

―ただいまお話に出ましたIndigo選手についてどう思われますか?

 

いいんじゃねえの?毎月毎月本数書いてるし、俺に噛みついてきてるのもいいよ。聞いてる話じゃもう来月分くらいまで入稿してるらしいしな。レギュラーの鑑だぜ。ハッガリーニが泣いて喜んじゃうよ。今月も作品が足りない、今月も多様性が。。。とかよくこぼしてたからな。そういうところを評価する声もわかる。わかるよ。俺からは以上だ。

 

―認めておられるということですか?

 

グッドレスラーだと言ってるんだ。それ以上言わすな。次!

2016年8月の試合後記者会見(下) がりは

  • 2016.09.26 Monday
  • 00:00

―今回かろうじてMVPを獲得されましたが、最優秀作品の防衛には失敗しました。その辺についてどうお考えですか?また、この間発表された「最優秀作品賞受賞の辞」の中で自らへの投票を拒むような表現がありましたが、それとの関連はどうお考えですか?

 

どうお考えですかってよ。今回俺防衛に失敗したと思う?ハッタリがよ、自分も言っているように自分に投票してるじゃんか。しかもそれは何かを評価したわけではなくて、寄付という行為を広めるという目的の元に行われたテロみたいな奴なわけじゃんか。その一票どけてみ?2票で追ってたのは誰だよ。

 

―がりは選手の二作品です。

 

そうだろうよそうだろうよ。ハッタリはよ、俺に投票したことほとんどねえよ。でもよ、MVPの投票コメント見てみろよ。ばっちり俺に暗号送ってるじゃねえか。読み上げてみ?

 

―「ベテラン、パチ屋、東京五輪がおもしろかったです。 最近の

 

そこまででいい!全部俺の作品じゃんか。これでわかるだろ。「兄貴、今回はどうしても寄付を広めてえんだ、すまねえ。」ってあいつの気持ちがよ。だから俺は胸張ってるよ。どこ見たら俺が今回防衛に失敗したって思えるのかこっちが聞きたいね!てめえらみんな寄付したかこの野郎。それから、受賞の辞の影響?あってもなくてもそんなの関係ねえよ。あ、一つ言っておきたいんだがよ、俺はロスタイムうんぬんよりもより多くの投票で決まった方がいいと思ってるからよ。期限過ぎたあと投票するのって勇気いるじゃん。仮にも名前残ってるんだしよ。でもそれを乗り越えて投票してくれたあいつ、アンコール=トモだっけ?サンキューな!今度は時間内に投票してくれよな!

 

―少し角度を変えて質問させてください。今回のMVPの勝因はなんだと思いますか。

 

正直わからねえ。面白い作品、イカれた作品、美しい作品、書く奴いっぱいいるよ。でもさ、俺にはココ(左胸を右手のこぶしでドンと叩く。)があるからよ。それがある限りはどんなテーマで何書いたって琴線をかき鳴らすことができるって信じてる。それが勝因かな。

 

―ベストコメントの発表をお願いします。

 

それはこの場でやることじゃねえだろう。然るべき場で然るべき時にやるからよ。待っててくれよな。

 

―それでは最後にファンの皆様に一言お願いします。

 

投票ありがとよ!俺はよ、青鬼さんだからよ、俺のこと応援しちゃだめだぜー?でも投票はしてくれよな!以上!

calendar

S M T W T F S
    123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930 
<< September 2016 >>

カウンター

ブログパーツUL5

selected entries

categories

archives

recent comment

links

profile

search this site.

others

mobile

qrcode

powered

無料ブログ作成サービス JUGEM