【テーマ】水なんて大嫌い!(上) がりは
- 2016.09.30 Friday
- 23:59
俺の世を忍ぶ仮の姿は通信会社の営業マン。
雨の日も雪の日も嫌いだ。
水は大嫌いだ。
なぜ水が嫌いになったのか。
今日は特別に教えてさしあげよう。
ケース1 滝
「がりはさん。お願い助けて!」
「どうしました、○○さん。あなたは運がいい。私は全社の中でもこの手のトラブルに最も強い男です。」
「いや、まだ何も言ってないんですけど!いっつも変わんないわね、感心しちゃう。ちょっと落ち着いたわ。」
「でしょ?で、どうしたんです?」
「△△店で電話が使えなくなったのよ。」
△△店は50を超えるお客さんのお店の中でも3番目に大きい上、物流倉庫を併設しており、電話が通じなくなることはあってはならない。
「げ。とりあえず想定通りお店用のケータイ3つに転送設定しときますよ。もちろん修理の手配もしますけど。」
「うん助かる。お願い。」
「わかりました。今転送入れましたよ。」
「はっやー!いっつも思うんだけどさ、どうやってやってるわけ?」
「毎回教えてるんですけどね、○○さんと僕の秘密のあれですよ。」
「あー!あれね。悪用されるとまずいから、て奴ね。」
「そうですそうです。で、なんで電話使えなくなったんですか?」
「お店からは『滝が』としか・・・。」
豪雨の中修理班と合流し、店舗の裏手から現場に入った俺の目に飛び込んできた光景は忘れることができない。
滝だった。
さやさやと音を立てて流れる滝だった。
電話の交換機が設置されている壁一面を流れる滝だった。
屋根の一部に穴が開いており、逃げ場を探した水がたどり着いたのが、店舗の表と裏を隔てる壁だった。
おそらく長い時間かけてじゅくじゅくとそのあたりを侵略、機が熟したと見るや一気呵成に流れ落ちたようだ。
交換機の買い替え、設置場所変更工事などで急場をしのいだが、根本解決にならない。
店舗部分、物流部分を含めてそれまであった不都合な点を解消する解決策をてんこ盛りにした店舗の建て替え提案をここぞとばかりに突っ込み、全て呑んでもらった。
前から稟議にかけていたのだが、反対派の専務をどうしても突破できなかった。
○○さんの役員会でのプレゼンを手伝わせてもらい、根拠資料として現場で撮影してきた滝の写真とムービーを提示、抜群の効果を上げた。
一年後新店舗が立ち上がり、売り上げも好調だという。
店舗のインテリアとして水の流れる壁が採用されているのはブラックジョークが過ぎると思うのだが、△△店のアイデンティティの一つなんだそうだ。
その壁には交換機ついていないからいいけれど。