【テーマ】ロックな魂  がりは

  • 2016.04.30 Saturday
  • 23:59
「もう僕には時間があらへんねんっ!」
お笑い番組を見ながら夕食を取っていたのだが、話の雲行きが怪しい方へ行き、とうとう弟が爆発した。
お笑い芸人がマシンガンのようにギャグを飛ばし、それがいちいち受けているのを聞きながら、俺は身構えた。
数年ぶりに母が手を出すかもしれないと思ったからだ。
 
弟の主張は今自分はバンドをやっていてこれに専念したい、今通っている短大で手に職をつけたところで、自分はCADの技師として一生を終えるつもりはない、学校に生かしてもらって感謝しているが、自分がやりたくないことを頂いたお金で嫌々続けるのも失礼な話なので卒業まで半年というこのタイミングではあるが、学校をやめて家を出たい、ということだった。
 
我が家は父親が事業に失敗、こしらえた借金を返済するために馬車馬のように働いているところ、母親が必死に働き生活を支えるだけでなく私を大学にやり、弟を短大にやっていた。
私は一浪して行った一つ目の大学を辞め、いたたまれなくなって家を出、時々家に帰ることができる程度にほとぼりを冷ましたところだった。
 
「どういうことやねん。」
父は静かに言った。
「親父は黙っててくれ。僕はあんたみたいな人に関わっている時間もないねん。」
私は頭を抱えた。
「もういっぺん言うてくれ。今なんて言うてん。」
「僕には時間がないねん。」
「その前に何か言うたやろっ!」
「言うてない言うてない、言うてないよな?」
たまりかねて私が間に入った。
「で、何がしたいって?」
母が少しかすれた低音で言った。
背筋がぞくりとし、間に入るために前傾だった姿勢がのけぞった。
 
「僕はバンドがしたいねん。音楽やりたいねん。」
「音楽やるのは勝手や。でも学校は出なさい。」
「僕には時間がないねん。」
「あるやないか。売るほどあるやないか。」
「兄ちゃんは黙っててくれ!自分は大学やめたくせに!」
「やかましわい!お前は出ろ!」
「あんたは黙ってなさい!」
母に言われて私は黙った。
 
誰も話さない。
お笑い芸人のギャグは続いていて、乗りに乗っていた。
たまりかねて私は電源を切った。
弟は私が食卓に置いたリモコンをさっと取り、また電源を入れた。
私はすぐに切って、テレビの方にリモコンを放った。
 
弟は席を立ちそれを取りに行こうとしたので私は右手で行く手をふさいだ。
腕に感じた彼の腹筋は私の知っているよりもはるかに分厚く、これは一筋縄では行かないなと思った。
最後に喧嘩したのは三年前だ。
今回は勝敗が変わってもおかしくない。
 
「座りなさい。」
母が言った。
私達は目も合わさず無言で力比べを続けていた。
「座りなさい!」
しぶしぶ座った。
 
「なんでそんなに音楽やりたいの。」
静かに問うた母に、しばらく黙ったのち弟が立ち上がって言った。
「僕の、僕のロックな魂が止められへんねん!!」
 
我々三人は腹がよじきれるほど笑った。
「ロックな魂って!」
「あかんあかん、もう一回言うて!」
「もう一回言われたら死んでまう。」
「いやいやいやいや名言出ましたよ。」
「あかんあかん助けてくれ。」
 
弟はそこそこ名の通ったミュージシャンになったが三十を過ぎてしばらくして突然引退。
ロックな魂が眠ったから、というその理由を私はコンビニで立ち読みした雑誌で読んだ。

 

【テーマ】消費税VS理系魂   ハッタリスト

  • 2016.04.30 Saturday
  • 23:50

魂ってなんやねんと思いつつ検索してみると、
2010.12.11 誕生日週間問題VS理系魂
2012.05.26 ハッタリストVS暗算
魂という言葉を使ったことがなんと2回もありました。
両方とも「理系魂」で、両方とも闘っています。

そういうわけで今日も闘います。
敵は消費税です。なぜか?
消費税が10%になると困ることがあるからです。

計算が、簡単すぎて、つまらない

我々は10進数を使っているので、10の約数である5や10は相性が良く、計算が簡単になります。
今どきは「税抜き表示のみ」はそんなに見かけないので、考えるべき問題はこんな感じでしょうか。


税込み141円の商品がある。
税抜きの価格は何円か?

消費税8%の場合、考え方は例えばこう。
税抜き価格12.5円ごとに消費税が1円増えるので、おおよそは
 100円→108円
 113円→122円
 125円→135円
 131円→141円
のようになります。
小数点以下を切り捨てるか切り上げるかは小売店の自由なので、
 切り捨てなら税抜き131円
 切り上げなら税抜き130円
が正解です。
実際は、切り捨ての店のほうがかなり多いと感じます。
初めて切り上げの店を発見したときは、かなり驚きました。

ところが、これが消費税10%になると、こう。
141円?じゃあ、
 切り捨てなら税抜き129円
 切り上げなら税抜き128円
ってところ?
予想が楽にできるので、まともに計算するより適当に見当をつけて逆算するほうが簡単なのです。
つまらん、これはつまらん。

だいたい買い物のときに考えていることと言えば、目についた商品の税抜き価格か、買い物かごの中身の合計金額くらいです。
消費税10%でキリが良くなったら、税抜き価格の計算だけでなく、合計金額の計算も簡単になってしまうのではないでしょうか?
理系魂が錆びます。

これらの問題に関する限り、10%よりも12%の方が面白いのは明らかです。
家計の負担が重くなる?
そんなことは文系にでも心配させておけばよろしい。

【テーマ】物書きの魂 Mr.Indigo

  • 2016.04.28 Thursday
  • 08:56
私の名刺には、ライターという4文字が記されている。さまざまな業務の一部に過ぎないが、ライティングの仕事もあるのだ。
その1つに、会員制のツアー情報誌の特集記事の執筆がある。これはクライアントが指定した神社仏閣や観光地について、指示に沿ったテーマで書くというものだ。
素材も視点もクライアントの要望によって異なるから、自分との相性ははっきり出る。原稿を提出する時に自分で出来不出来はわかるし、先方からの修正指示の量もほぼ予想通りになる(まれに明らかな改悪を強いられることはあるが)。
一方で、時々会心作が生まれることもある。自分でも手応えがあり、クライアントや掲載施設の赤字もほとんど入らず、私の原稿がほぼそのままの形で世に出るわけだ。これは本当に嬉しい。物書きとしての魂が快哉を叫ぶ。

さて、私は先程「物書き」という言葉を使い、「ライター」という言葉を避けた。前者の方がより魂なるものにマッチしていると判断したからである。
ライターは他者に依頼されたことを書く職業であり、書くことは生きるための手段という意味合いを持つ。一方、物書きは損得勘定なく自らの意思で書きたいことを書く存在である。独断と偏見に基づいて、私はそう定義したい。
内容にもよるが、仕事で書く文章に魂を宿らせることは難しい。しかし、クライアント側の意向や題材、私の志向などさまざまな事象がうまくマッチした時、文章に魂が宿り、ライターではなく物書きとして執筆している気持ちになれる。前述の情報誌のバックナンバーを見ても、出来の良い文章は仕事だという意識を持たず楽しんで書いている。
一方、PREMIERの文章は自分の書きたいことを好きなように書いている。読者受けを考えたりもするが、それも自分の意思の範疇だ。物書きとして、自分なりに魂を込めて書いているつもりである。

ともに故人となってしまったが、真部一男、河口俊彦という棋士がいて、両氏はすぐれた物書きでもあった。
真部氏は将棋世界に将棋論考という連載を持っていて、それがある時将棋ペンクラブ大賞を受賞した。
そのことを河口氏は将棋世界でこう評した。
『(前略)うがった見方をすれば、独断と偏見を押し立てているから、将棋論考がおもしろいのである。』
確かにそうだろう。思い返せば、河口氏の文章も独断と偏見に満ちていた。自分よりはるかに強い一流棋士の将棋にも、忌憚なく批評を加えていたように思う。
もちろん読者の関心を見極めることは重要である。両氏とも、読者の興味を引く話題や対局を取り上げていたから、長く連載を持ち高い評価を得ることができたのだ。
しかし、それは読者に媚びることではない。ファンサービスを重視するあまり、物書きとしての魂を失っては本末転倒である。
魂というのは人間の心の根源となるものであり、そこには多かれ少なかれ独断と偏見が含まれる。それを極力抑制しないことによって、その人にしか書けない文章が生まれてくるのだと私は思う。

そして、独断と偏見が詰まった物書きの魂の巣窟であるからこそ、PREMIERは私にとって非常に居心地の良い場所なのである。

鉄の海(14) by Mr.ヤマブキ

  • 2016.04.28 Thursday
  • 00:00
「お世話になります。先生、父はいかがでしょうか」
「そうですね、お会いになって感じられたと思いますが、肺炎自体は良くなって、昨日からは抗生剤の治療も終わりになっています」
「そうですか、ありがとうございます」
「ただ、一つ問題があります。食事を出したのですが、なかなか食事量が増えてきません。今のところ1割くらいです。普通、誤嚥性肺炎の人は飲み込む力が落ちてきて誤嚥性肺炎になりますから、大抵飲み込めないという問題が出てくるんですけども、お父さんの場合はそこは大丈夫みたいです。食べられないのは、もちろん体が衰えてきて食欲自体もかなり落ちてきているのはあるんですが、どうやら食事することそのものを認知症で忘れてしまっているみたいなんです」
 
 想像したことも無かっただろう。え、と言ったきり言葉を詰まらせてしまった。ここでの間の取り方、こちらの仕草が、良い患者説明か否かを分ける。目を逸らさず、かといって圧迫するでもないやりかたで、聞き手に言葉が入っていきそうな間で話し始める。
 
「認知症は最後にはそんな状態になってしまいます。看護師がスプーンを口に持っていくと食べるのを嫌がったり、口に入れても噛まずに吐き出したりします。もちろん、無理に押し込めば食べられるのでしょうけど、それくらいしないと食べるということ自体が難しくなっています」
「じゃあもう食べられないということですか?」
「そうです」
 
 そう言われて長女は俯く。その気配を察して、思いを巡らせる時間を作る。
 
「これからは栄養方法を考える必要があります。胃瘻(いろう)という方法をご存知ですか?」
「はい、テレビなんかで見たことはあります」
「お腹の皮膚と胃の中をつなぐトンネルを作って、栄養剤をそのトンネルから直接胃に送り込む方法です。胃瘻を作るかどうかといった話をこれまでにされたことはありますか?」
「いえ、無かったです」
「食べられないことに対して、何かこうしたいといった希望や考えはどうでしょう」
「うーん、いえ、まだ分からないです」
「例えば病院や医師の方針によっては、食べられなくなったら胃瘻を作るもの、とすることもありますが、必ずしもそれだけではないので、僕はこの辺りについてよく相談しておきたいと思っています。
 まず、今後の選択肢ですが、先ほどお話しした胃瘻が一つ。もう一つは中心静脈栄養と言って首や胸など心臓に近い血管から普段よりも濃い点滴をする方法です。他には鼻からチューブを入れてそこから直接胃に栄養を送り込む方法もありますが、長持ちする方法ではないのでこれは選択肢に入ってきません。後は、普通の点滴をする方法と」
 文意を強調するため、あえて強く言う。
「何もしないという選択肢があります」

来月のテーマは「変な先生」(上) がりは

  • 2016.04.27 Wednesday
  • 00:02
テーマコンテスト、王者に返り咲いたがりはだ。
どうもどうも。
君もガリ派か?
 
PREMIERには三本のベルトがある。
最も権威が高いのはMVP
その月、一番貢献したプレイヤーが腰にすることができるベルトだ。
一見さんでは獲れないベルト、みなこれを目指す。
将棋で例えるなら名人位、プロレスでたとえるならIWGPヘビー級のベルト。
 
次に権威が高いのは最優秀作品賞。
人によってはこれこそが最高峰という人もいるかもしれない。
その月で一番の作品を書いたプレイヤーが腰に巻くベルト。
将棋で例えるなら竜王位、プロレスで例えるならIWGPインターコンチネンタルのベルト。
 
三本目がテーマコンテスト。
一番後でできたベルト。
全員が同じ決められたテーマで書き、一番良い作品を書いたプレイヤーが腰に巻くベルト。
一番若いベルトで、試合内容によってベルトの特徴が決まってくる。
将棋で例えにくいのだが叡王位、プロレスで例えるならNEVER無差別級。
 
俺はこれが実は価値が高いベルトなのではないかと思っている。
今、俺の腰にあるから言ってるわけじゃないよ。
PREMIERはプロの仕事をする集団だ。
このベルトのお客さんの指定したお題で書くという形式が、プロとしての仕事の質を炙り出しちゃうわけですよ。
料理で例えるなら、上二本のベルトは自分の得意な料理を作って出す、それがお客さんのお口に合うかどうか。
素材も今一番おいしいものを自分で選んでくることができる。
テーマコンテストは違う。
お客さんが持ち込んできた素材を自分の腕だけでおいしい料理に昇華させることが求められる。
言わば料理の鉄人ですよ。
中華の鉄人陳健一にフレンチの料理人が挑戦した時のテーマが「牛乳」だったことがあった。
どう考えても中華に不利だと思ったのだが、陳健一は落ち着いてさばいて勝ったのをよく覚えている。
プロってのはああいうもんなんだろう。
 
お客さんが望むものを、テーマという短い言葉から読み取り、作品として成立させて出す、
玄人好みの力比べ。
難しい。
だからこそテーマへの参加自体のハードルが高く、挑戦者が少ないんだろう。
 

来月のテーマは「変な先生」(下) がりは

  • 2016.04.27 Wednesday
  • 00:00
さて、今回の投票について頂いたコメントにコメントしておこう。
ヤマブキさん。
この千字程度の文章を書くのに何年もの積み重ねが必要です。
投票ありがとう。たかだか四年の話です。書けない話の方が面白いんだけどね。
 
Indigoさん。
誰かが「不通」を利用してくることは予想されたが、通信屋ならではの世界が作者らしい熱く鋭い文章でまとめられていたから。精霊氏の作品も良かったが、後半の盛り上げどころでの誤変換が惜しまれる。」
投票ありがとう。
俺はもっと不通が出てくると思ったんですがね。
ちょっと拍子抜け。
不義密通からのゲス批判とかね。
 
ホワイトさん。
「世の中色々あるんだということを生々しい言葉で知ることができるのがブログとかツイッターとかの面白み。」
投票ありがとう。
生々しいというのが錬度が低いの同義語でないことを祈ってます。
 
 
ミシェルさん。
普通に面白かったので。
投票ありがとう。
ミシェルさんは最優秀作品に私の「ふつう」を推しておきながら、テーマではIndigoを推すという、ちょっと変わった投票をしていますね。
理由を詳しく聞いてみたいところです。
 
ダックスフンドさん。
僕はこういう話、好きです。
投票ありがとう。
どの辺が好きか、もっと教えてほしい。
褒められて伸びるタイプって、昔から言われてるんだ。
 
ムカイダーさん。
私も2年前ウォシュレットの購入に迷った経験があり、その時の思い出が重なったため。
投票ありがとう。
思い出には勝てませんね。
ウォシュレットって買うものなんですね。
ついてるもんだと思ってました。
 
うべべ
便座は大切だから
投票ありがとう。
まさかの便座つながり!
 
ハッタリストさん。
営業の何たるかと言うか。僕は開発なので。
それと、ひらがなで「ふつう」と書かれると「普通」とは別の字をあてたいという気持ち。」
投票ありがとう。
ハッタリこそ不通で人と人は分かり合えないのだ的なディスコミュニケーションを題材にした身も蓋もないやつを書いてくると思っていたのだが。
営業論はまた別の機会で。
あるのかなあ。
 
精霊さん。
「周りと無理して合わせる必要のないことと、周りに気を使いながら「普通」に徹すること。「個性」なんてものが尊重されがちですが「普通」であることも必要ということに気づかされた作品。」
投票ありがとう。
精霊さんがIndigoワールドに見ているのは小津映画で描かれる世界のようですな。
俺が本文を読むとそうは読めなくて、精霊さんの読みが豊かなんだなあと感心します。
 
三井住友さん。
「技あり&人とのつながりの大切さを思わせる良作。」
投票ありがとう。
技はあんまりなくて、思い出して書いただけ、という感じなんですけどね。
まあ、乱雑に置いてあるようでいて、行き届いている、と感じてもらえたならラッキー!と思うことにします。
褒められるのは嫌いじゃないんで。
 
テーマは「変な先生」にしようと思う。
書きにくくていいなあ。
 
いいか!
このテーマコンテストのベルトは簡単に挑戦できるベルトじゃないんだ!
俺は今月の「魂」、すごいの用意して必ず防衛してやる。
そして来月の「変な先生」ももちろん力でねじ伏せてやる。
ベルトの価値を高める気持ちがある奴、待ってるよ。
 

歳月は竜巻の如し Mr.Indigo

  • 2016.04.26 Tuesday
  • 00:00
「ウチの商品、買われたことあります?」
大宮マルイのメンズフロアをぶらぶらしていて、TORNADO MARTという店に立ち寄った際に、私はこう聞かれた。
買ったことがあるどころではない。地元の奈良ビブレ(閉店したらしいが…)にあって、25歳くらいの頃に最も愛用していたブランドの1つだ。
「いやー、十何年か前はTORNADO MARTさんの服をよく買ってたんですけどね。あの頃はド派手なのが好きで。花柄とか」
「ありがとうございます。確かに昔は花柄とか派手なの扱ってましたよね〜。でも、今はこんな感じなんですよ」
店内を改めて見渡してみる。言われた通り、昔に比べておとなしい色やデザインの商品が増えているようだ。
「なるほど。まあ、この歳になるとあんなんは着れませんわ。今はもう2児の父だし」
「そうですよね〜。それでウチのラインナップも変わってきてるんですよ」
私と同年代くらいの店員さんはそう言った。この手の店のスタッフは基本的に自社商品を着ている。彼も十数年前はド派手な服を着ていたのだろう。
「つまり、ターゲットはずっと俺らくらいの世代っちゅうことですね」
「そういうことでしょうね」
「なるほど」
私はしばらく店内をうろうろしたが、必要性と予算と好みの全てに合致する商品は見当たらなかった。
「まあ、ちょっと考えますわ」
店員から逃げる際の常套句を放って、私は店を出た。

メンズフロアの他の店を覗きつつ、私は昔を思い出していた。
派手なシャツを着るようになったのは、高校生の頃からだ。当時は金があまりなかったから、2000円くらいの赤系のシャツ、チェックとかストライプ柄をよく買っていた気がする。この頃買った服は長持ちしたものが多く、31歳で結婚するまで所有していた物もある。
大学時代も傾向はあまり変わらず、予算が多少アップした程度だ。ただ、毎日私服なので、数はやたらと増えた。そして、洗濯はめったにしないしそれ以外のケアも全くなかったから、派手なだけで非常にだらしなく見えただろう。
20代半ばくらいが、最も派手なファッションを好んだ時期だ。前述したような花柄、それもピンクの薔薇とか、蛍光グリーン1色とか、強烈なのも着た。そして、TORNADO MARTはこの頃の御用達だった。

派手な色や柄のシャツを好んで着たのは、要するに目立ちたかったからだ。自我が強まるとともに、自分が一風変わった感性の持ち主であることにこだわりを持つようになった。そして、派手なファッションはそれを世の人にアピールするための、最も容易かつ明快な方法の1つだったのだ。
しかし、30歳を前にして婚活を始めてから、派手なシャツを買うのをやめた。私が見てほしいのは中身であり、外見でそれをシャットアウトしたくなかったからだ。それは2児の父となった今も変わらない。父親が変人に見えると子供も損をしかねないと思うのだ。
私に限らず、十数年前にTORNADO MARTの服を買っていた若者達はそれぞれに年を取り、いろいろ思うところがあって、ド派手なファッションをやめたのだろう。
歳月は人を変える。
マルイをぶらつきながら、私は少し淋しさを覚えた。

明るい悩み相談室PREMIER(188)〜黒猫〜 がりは

  • 2016.04.24 Sunday
  • 18:08
明るい悩み相談室PREMIER、本日の担当医がりはです。
こんばんは。
今日はどうされましたか?
 
最近、可愛がっていた黒猫が行方不明になってしまい悲しくて仕方ありません。このままでは、執筆にも支障をきたす可能性があります。
 
ほうほう、わっかりますわっかります。
私も猫好き、私の妻も猫好き、私の両親も猫好き、私の義母も猫好き、大阪時代私の部屋の真下に住んでいた後輩も猫好き、私が一時は週三日くらい泊めていた後輩も猫好き、というくらい猫好きです。
私の一族は猫好きで、亡父は行きつけの公園の野良猫のために毎日マグロを買ってきて醤油などで炊き、柔らかくして毎朝振る舞いに行くことを日課にしていました。
雨が降っても行く程でした。
私の母は絵や紙粘土で制作をよくしますが、モチーフには猫が多いです。
私の息子が今はまっているのは妖怪ですが(妖怪ウォッチではなく、シゲル・ミズキ的な方の妖怪です。)その前はトム&ジェリーでした。
全てのエピソードの細部まで頭に入っています。
そんな私の一族の中でも一回り上の従姉はハイレベルの猫好きです。
何しろ小学校高学年くらいから、道で困っている猫を拾ってはせっせと世話をしてきた人で、今も家には五匹の元野良猫が住み、自費で野良猫の避妊をせっせとしています。
 
私は小学校三年生くらいまで、従姉の家に月に一度くらい泊りに行っていたのですが、ある時、前回まではいたクラークという黒猫がいませんでした。
クラークは賢くて大人しいカルメラとは対照的にやんちゃで粗暴だったので(前々回は顔中傷だらけになっていました。)、今回もどこかをほっつき歩いているのかしら、と思って従姉に聞いた所こんな話をしてくれました。
「猫はさよならが苦手やからね、さよならせなあかん時期が近づいたと思ったら家に寄りつかへんねん。」
実際にクラークは帰ってきませんでした。
 
クラークが死んでしまったかどうかはわかりません。
どこかで楽しく歌って踊って暮らしているかもしれません。
少なくとも私はクラークが死んだという認識をしませんでしたので、永遠のお別れというような大きなショックは受けませんでした。
 
あなたもあなたの大切な黒猫さんもクラークも私も生きていればいつかは死によってお別れをすることになります。
死ぬまで一緒に、というのも愛であれば、ショックを与えないようにそっと消えるというのも愛であろう、と私は思うのです。
悲しい気持ちはわかります。
無理にとは言いませんが、黒猫氏が新天地で楽しく暮らしている様子を渾身の筆致で描いて頂けないでしょうか。
 
 
※明るい悩み相談室PREMIERではあなたのお悩みを受け付けております。
ブログにコメント、投票時にコメント、ハッガリーニにメール、電話、伝書鳩、のろし、などの手段でどうぞ。
ちなみに投票時のコメントでのお悩みには必ず回答いたします。
 

鉄の海(13) by Mr.ヤマブキ

  • 2016.04.21 Thursday
  • 00:00
 翌日も、翌々日も同様の結果だった。飲み込みが不安定であるだとか、肺炎による倦怠感から食欲が減退しているのであれば日に日に改善してくるのだが、認知症の進行が原因であれば事態の改善は見込めない。院内に一人しかいないSTAさんも「先生、あの人飲み込むとこは行けそうですけど、そもそも食べてくれないから厳しいと思います」とのことだった。肺炎の方は落ち着いていて、7日目の採血ではWBC、つまり異物と戦う細胞である白血球は正常範囲内で、体内の炎症反応を示すCRPもほぼ正常値に近く、抗菌薬治療は終了することとした。
 医者になる前は病気が治っているのに退院できないだなんて考えたこともなかった。肺炎の治療は抗菌薬投与だけなので、肺炎は治っていると言っていい。それなのに彼はまだ退院できない。退院できない高齢者は多いが、その理由の多くは介護サービスが不十分な場合か、誤嚥性肺炎で食べられない場合のどちらかだ。介護サービスは市役所に申請して認定してもらった要介護度に合わせて、ケアマネージャーと呼ばれる担当がケアプランを立てて、介護保険で使える範囲内でサービスを受けることができる。どんどん活動度、いわゆるADLが落ちていけば介護保険の区分変更というシステムを使って要介護度を変更し、それに応じて再びケアプランを立て直すという流れになる。だから、当然といえば当然だが、突然病気になって動けなくなったとき、それに見合う介護サービスを受けていることはあり得ない。動けなくなって初めて介護区分変更を行うという順番になる。
 例えば、老老介護をしている二人暮らしの高齢夫婦がいたとして、何とかぎりぎりでやっていけているところで、どちらかが風邪を引いたとする。すると途端に介護は破綻し、介護を受けている方はまともに生きてはいけなくなる。それが高率に予見されるような状況でも予防的に要介護度を上げてより多くの介護サービスを受けることにできないのが味噌なのだ。単なる風邪でも普段より動けないのは我々健常者も同じだが、彼らは行くべきところがなくなり、そうして救急車を呼んで病院に入院することになる。風邪であれば医学的には入院の適応はないが、帰れないのだからやむを得ない。これを俗に社会的入院という。
 誤嚥性肺炎の彼は別のパターンだ。介護は十分だが、食べることができない。ここからはもはや生き方の問題だ。施設は医療機関ではないので、例えば点滴を必要とするのであれば介護施設ではなく療養型病院へと移る必要がある。食べられないことに対してどのような治療を望むかで退院先が変わってくる。そこをクリアしないとそもそも帰る場所が無いのだ。僕は、もう一度あの長女と話をする機会を設けた。

逆サンドイッチ byアフリカの精霊

  • 2016.04.20 Wednesday
  • 23:16
 エロ本という言葉を聞いてどうでも良い話を一つ思い出したので、今日はそれを書く。
 
 買い物をする際にどうしても買うのを躊躇してしまう物がそれぞれあると思う。中高生にとってのエロ本しかり(ちなみに条例違反にもなるだろう)であるが、大人になってもためらってしまうものはあるものだ。
 私は安売りの際のカップラーメンやインスタンスラーメンの大量買いをする際にレジでどうしても恥ずかしくなってしまう。もちろんエロ本を買う恥ずかしさに比べるべくもない些細なものであるが、食生活が貧弱だと思われないかハラハラしながらのレジというのをたまに経験する。レジのおばちゃんはそんなことを気にせずに無機質にレジを通すのであろうが。そんなわけで、最近はセルフレジという自分でレジを通すシステムのあるスーパーに行くことも多い。
 
 今日書きたいのは、そんな他人にはわかりにくい恥ずかしさを語ってくれたある高校時代の友人の話である。
 彼はある高校で美術の先生をやっている芸術肌の人間である。そして彼の芸術的な性格からか若い頃から本当にツルツルのスキンヘッドにすることにこだわっており、スーツを着るともうそれは迫力満点な容貌をしている。
 そんな彼がどうしても買うのが恥ずかしいもの………それはシャンプーらしい。
 「髪の毛が無くたってシャンプーをするんだよ」
 彼は当然のようにいうし、実際事実でもあるだろう。
 ただし、彼がシャンプーを買おうものなら好奇の目でみられるのも事実らしい。
 彼がシャンプーをレジに出そうものなら、店員がバーコードを読み取らせようと商品を機械に近づけた際に彼の顔を見て一度、ピッと読み取らせてからハッと気づいたようにもう一度顔を(正確には頭を)見られるのがたまらなく恥ずかしいらしい。
 「あれっ??この人って必要ないんじゃ……」
 これが店員の素直な気持ちであろうと推測するだけでたまらなく恥ずかしいらしい。自分でこだわりをもって自信満々でスキンヘッドにしているのにここは恥ずかしいと思う気持ちが残っていることに矛盾も感じているらしいが、それはそれこれはこれである。そんなわけで地元の知っている人の多い店でシャンプーを買わず遠出をした際にコンビニなどで買うといった面倒なことをやっているらしい。まさに他人にはわからない個人的な恥ずかしい買い物である。
 
 そんな彼はたまに遊ぶ際もちょっとコンビニへ…という感じでシャンプーを買ってくる。地元を離れているので買いやすいのであろう。
 ある日「いやぁ、昔エロ本を買う際に真面目な本と真面目な本の間にエロ本をサンドイッチにしてレジに出したこと思い出したよ」と言って店から出てきた。
 彼のコンビニの袋の中にはエロ本2冊とシャンプーが入っていた。これが最近の彼がシャンプーを買う恥ずかしさを軽減させる逆サンドイッチという秘密の方法らしい。
 

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