【テーマ】世界名作劇場 がりは
- 2016.01.31 Sunday
- 23:53
プロデューサーは頭を抱えていた。
敏腕と言われた彼が、千のアイディアを持つ男という異名を取る彼が、バラエティの王様と言われた彼が、役員会議の結果を受けて社長が発表した「日曜のプライムタイムのテコ入れ策=世界名作劇場のリバイバル」という奇策に悩まされている。
頭を抱えているのはたった今終わったスタッフとのブレストの結果を受けてだ。
世界名作劇場のネタになりそうな作品はほとんど残っておらず、新しい作家の有望な作品は大体アニメ化、漫画化とタイアップされている。
おまけによく調べてみたら家族の在り方が変わり、家族で無難なアニメを見るよりは、クイズやトリビアをまき散らす番組を見るでもなく見るのがメジャーなライフスタイルになっており、今更世界名作劇場をやったところで、というのが今日の結論だった。
番組の方向性を決めなければならない。
バラエティと違いアニメでは生放送というわけにもいかない。
期日は迫ってくる。
何も決まらない会議を幾つも重ねて、明日が締め切り。
「世界名作劇場」というお題がなんとも邪魔だ。
彼がいたバラエティでは枠を壊すごとにブレイクがあったものだが、さすがにこの枠だけは壊せないだろう。
椅子の上で膝を抱え、その上に顎を乗せ、一点を見つめる彼をスタッフは遠巻きに見ていた。
見ることしかできなかった。
「・・・・やって、着たんだ」
かすれた声が彼の口から洩れた。
息をのむ周囲。
十秒後、椅子から跳びあがるように立ち上がった彼は「しゅーごーしゅーごー!」と大声を出しながら手を叩き、会議室に入っていった。
二時間後、久しぶりに手ごたえのある会議ができ、意気揚々と会議室から彼が出てきた。
ようやく方向性が出たのだ。
翌日の記者会見。
「先日社長からのリリースもございましたが、今年の日曜夜七時半は世界名作劇場を復活させます。12本ずつの4クールを予定してまして『赤ずきん』『白雪姫』『人魚姫』『シンデレラ』の4作品の予定です。」
「大丈夫ですか。大体赤ずきんを12回に分けるって無理がありませんか!」
「御心配には及びません。ネタばれになるので多くは語れませんが、今までにない斬新な角度からおとぎ話という現代まで語り継がれている名作をとらえなおしたいと考えております。」
「ヒントを少しだけ、少しだけでいいんで。」
「狼はなぜ赤ずきんと会った時に、その場で丸のみしなかったんでしょうかね。」
「え?」
「狼は赤ずきんに花を摘むように勧めるんですよ。食べちゃえばいいのにね。それに、狼はおばあさんを丸のみしたはずなのに、おばあさんの服を着れたのはなぜでしょうかね。」
「え?」
「我々の作る世界名作劇場は今までとは違います。ターゲットはもう子供ではありません。元・子供です。あー、白雪姫って風呂はどこで入ってたんですかね。人魚姫って、水から出てきたのにほんとにきれいだったんですかね。シンデ」
「大変申し訳ないですがお時間になりましたので会見はここで終了いたします。ありがとうございました。」
不敵に笑うプロデューサー。
世界名作劇場は三回目まで圧倒的な視聴率を稼いだが、過激な性描写が問題となり四回目から打ち切り、過去の名作が流れることになった。
めでたしめでたし。