11月度 MVP&最優秀受賞のコメント byアフリカの精霊

  • 2014.01.31 Friday
  • 23:00
MVPの連覇は今まであったと思いますが、最優秀作品の連覇は初めてかもしれません。
ただ一言素直にうれしいです。

まず最優秀の「改正されそうですね」に関してですが、構想30分執筆30分過去稀にみる短時間の作品でした。
愛人の遺産は絶対正妻の子にはいかないのに、正妻の遺産は間接的に愛人の子にいく可能性があることは、これが問題になる前から疑問として思っており、この法律改正によってもっとこの不条理が広がるように思うのに時間がかからなかったからです。
12月の執筆でも述べたように私の意見は法律友達の間では非常に評判が悪いです。
消費税アップや電気料金アップのように、制度がかわることによって不利益を被ることになりそうな人への対策を述べただけなんですけどねぇ…。

この雑兵日記のいいところはそういう意見の相違に関わらず評価して戴けるところです。
先月にがりは氏が「指がうまい」という意見に賛同できないながらも投票してくれたように、今回はMMM氏がこの法律的意見と違う意見を持ちながら投票してくれました。
今回はこの理由に感動したので、ベストコメント賞はMMM氏にあげたいと思います。

さて、私自身この日記の魅力的な部分は一人の人が書いたブログではなく、多人数が書いた文章が読める点にあると思っています。
文章の形態から作風、テーマ選びに至るまで人それぞれだと思います。
色々な人の色々な文章が読みたいなぁと日ごろから思っているので、単発でもいいので是非ともゲストの執筆者の文章が読みたいです。
最優秀には願いことの権利があるようなので、誰かゲストが書いてほしいということをこの読者の方々にお願いしたいと思います。

最後に葉山氏に関しては残念という気持ちで仕方ありません。
良い作品をよく書くと言ったことがこの雑兵日記のためのよいと思いながらも、それを知った以降最後に書かれた葉山氏の夢日記を自分の投稿により下げてしまうことを躊躇し、テーマコンテスト以外の作品をアップすることを良しとしない気持ちがありました。
1月はそのような気持ちから個人としても作品数が激減しましたが、2月以降元に戻そうと思います。
みなさんよろしくお願いします。

【テーマ】 現実と幻想の物語

  • 2014.01.31 Friday
  • 22:58
オーロラと言えば忘れられない本がある。

「北極のムーシカミーシカ」は昭和39年に書かれた児童文学書である。
小学生3年生くらいから高学年を対象に書かれたものであるから、読んだことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

主人公は文字通り、北極熊のムーシカとミーシカの双子。
この双子の冒険と成長の物語ですが、児童文学らしからぬ北極圏の厳しい自然の状況を描いている点に特徴があります。
それを示す一つのエピソードとしてアザラシとの話があります。
双子の一人がアザラシの子オーラとふとしたことをきっかけとして友達となりますが、アザラシの母親はオーラに対し、北極熊の子と仲良くしてはいけないと自分の子に言い聞かせ2人を引き離します。
当初なぜ自分たちが引き裂かれるのか意味がわからなかった北極熊の子も自分たちの母親がアザラシを食べているのを見て意味を悟ります。
自分たちはアザラシを捕食する立場のものであるということを。
しかし小熊は自分の友人の仲間であるアザラシを食べる母親の考えを拒絶してしまいます。
頑なにその考えを拒絶する小熊ですが、物語後半で巣から離れ死にかけているときに父熊に与えられたアザラシの血によって息を吹き返すことによりその自然のおきてを理解することになるのです。
人間も動物を殺して生きている、現代ではこのようなテーマを扱った作品も多くなってきましたが、これより前にしかも児童文学としてこのテーマを扱った点にこの作品の特徴があると思います。
子供心にもわかりやすい形でこのようなテーマを扱えている本であると思えました。

しかしこのような現実的とも言えるこの作品でも寓話的な場面があるのです。
それは「オーロラ」です。
年に一度、オーロラの出る夏祭りの日だけ全ての種族の生物が一か所に集まるのですが、そこでは殺生が禁じられているのです。
日頃は喰う喰われるの関係である動物もその日だけはオーロラを見ながら仲良く過ごすわけです。
「オーロラは年に一度、きまった日にしかでないのか」「なぜその日には殺生が禁止されるのか」そんな細かい設定は気になりません。
オーロラが出る仕組みなんていうものも勿論書かれていません。
「オーロラが綺麗だから。」
子供心にこう考えた記憶があります。
ある意味、オーロラが作り出した幻想的空間であるからという説明で全てが許されるものがそこにはありました。
オーロラには自然の摂理をも捻じ曲げてしまう不思議な力があるのです。
それを示すかのように、オーロラが見えなくなると動物たちは別れの言葉を言い、それぞれの生活圏に帰っていきます。
そして次の日からはまた厳しい自然のおきての中での生活に戻るのです。

オーロラには幻想的な不思議な力がある。
大人になりオーロラの仕組みがわかった今となってもそう思えるような印象を持つことのできる物語であった。

【テーマ】永遠の羽衣 たりき

  • 2014.01.27 Monday
  • 16:48
彼女が海外旅行に行きたいと言い出している。
これまでもそんな話をすることはあったが、どうやら今回は本気らしい。今ではどこに行くのにも世界各所のツアー旅行のパンフレットをまるでコレクションをしているかのように持ち歩いている。

私自身、行ってみたいところがないわけではない。しかし、準備だったりいろいろなことを考えると是非とも行きたいと思うほどではない。
何より遠出することがどちらかというと嫌いな方で、国内旅行だって滅多にしないのだから。

「前にオーストラリアの何とかってところに行ってみたいって言ってたよね?何て街だっけ?」
「え?その話君にしたことあったっけ?」
「話したことあるどころか、もう二、三回は聞いてるよ。街の名前はなかなか覚えられないけど。」
ときどき女の子ってほんとすごいなって思う。こちらが忘れているようなことでも覚えていることがある。
「そうだったかあ。西海岸のパースって街にはいつか行ってみたいと思ってる。」
机に広がったパンフレットをあさってみたが、彼女のコレクションの中にはパースのツアー旅行は見つからなかった。
「ないなあ。」
「まあ、オーストラリアだと東海岸が多いだろうからね。ところで、君はどこに行きたいか決まってるの?」
そう聞いてみると、待ってましたとばかりに一枚のパンフレットを取り出した。
「オーロラ?」
「そう、オーロラ。」
「オーロラって、行ったところでいつでも見れるわけじゃないんでしょ?」
「そう。ただ、いろいろ考えたんだけどもし見れなかったとしてもいい思い出になるかなって。」
どこかの世界遺産に行くことはある程度観念していたが、まさかオーロラを見に行きたいと言い出すとは想定外だった。
とりあえず話をそらそうとしてオーロラの写真を見ていて思いついたことを話してみることにした。
「ねえ、突然だけど永遠ってどれくらいの長さがわかる?」
「何でまた永遠の話なの?」
「まあ、いいじゃない。知ってる?」
「知らないよ、そんなこと。」
「これはたしか中国の伝承なんだけど。」
「中国?」
「そう、中国。千年に一度天女が舞い下りてきて、三千畳敷きの岩を桃色の絹の羽衣で人掃きする。」
「何だか中国っぽいね。」
「そうだね。それで、その巨大な岩が擦り切れてなくなるまでの時間を永遠というんだって。」
「へー。じゃあ永遠って無限じゃないのかな?」
「どうだろう?でもほとんど無限に近いような時間のような気もする。」
「あ!」
「どうしたの?」
「このオーロラの写真を見て、天女の羽衣のことを想像したんだね!」

僕の話をそらすための作戦は失敗に終わった。
ただ、オーロラについて熱心に話す彼女を見ていると、天女の永遠の羽衣を見に行くのも悪くはないかと思えてきた。

オーロラを奏でて by Mr.ヤマブキ

  • 2014.01.25 Saturday
  • 01:31
 出し抜けにオーロラが見たいな、と妻に言われて、いつもの悪い癖だと思った。子供のような無邪気さで、あるいは純粋さで僕をからかう。妻は目が見えないのだ。そういうことを言う彼女は気にしないだろうけど、慣れるまでは落ち着かなかったものだ。

「あなた見えないでしょうよ」
「それはそうなんだけどさ。でも見たいんだもん」

 きっと何気なく言ったのだ。その屈託の無さが彼女の素敵な所なのだ。でも、と思う。目が見えないこと、それは彼女の中で通奏低音として流れている。時に何かを見てみたいと思う気持ちの芽生える事が無いわけはないだろう。僕だってどうにかしたい。自分の妻なのだ。一人の人間として、一人の妻を愛する男として。村上春樹は巨大なカエルに託してこう言った。それは「きんたま」の問題なのだ、と。
 でも心意気は良いが、本当に見せようと思ったら、それこそスティービーワンダーが最新医療で目にマイクロチップを埋め込むだのなんだのといった話になってしまう。本当にオーロラを見せてくれると、僕に期待しているわけじゃあるまい。それは分かっていても、心の隅に重く、鈍いだるさがある。一日の空っぽの隙間にひょっこり顔を出す。

「何だか元気ないんじゃない」
「どうして」
「音で分かるのよ。息遣いとか、少し変」

 いつでも彼女の聴覚にはドキリとさせられる。音というものの繊細さに気付かされる。それは例えば、辻井伸行のピアノを聞いてみると分かるだろう。彼の「亡き王女のためのパヴァーヌ」を聞いてみるといい。盲目であるが故の研ぎ澄まされた音がどんなものか分かるだろう。
 僕は彼女の鋭敏な聴覚に、時に見透かされているような気分になる。画家じゃなくて音楽家だったから彼女と結婚することができたのだと言いたいところだが、彼女に下手な音を鳴らすのが怖いほどだ。だからこそ僕の音楽が引き上げられ、生計を立てる事が出来ている。
 思いついたのはその時だ。僕は音楽家なのだ!早速目にとまったオーロラの画像をいくつか印刷してみる。つまり、原理はこうだ。オーロラの光の波長と音の周波数を対応させて、オーロラを曲にしてしまおうということだ。白は赤、黄、緑の和音だ。拍は画面上をその色の光が占めている程度に比例させる。すると、一枚のオーロラの写真から一つの音が取り出せる。そうやって繋ぎ合わせて行けば揺らめくオーロラを一つの曲にすることができるのだ。
 試しに少し弾いてみると、曲などではなく単なる音の塊になってしまうのではないかという予想に反して、曲の様相を呈していた。そこからは洗練させるだけだ。地区ごとに弾き分けてみるとアイスランドが最も適していることが分かった。オーロラは11年ごとに大爆発の周期がやってくる。直近は2012年だ。新月の夜、2012年11月4日のオーロラは、それは見事なものだった。その映像から逐一音を取り出し、繋ぎ合わせ、そして一つの曲にした。
 その日、新しい曲ができたから聞いて欲しい、といつものように頼んだ。防音室で、この曲はオーロラを音にしたものだと説明した。無言の彼女を置いて指は滑り始める。滋味溢れる音色が響く。

「不思議な感じだけど……優しいような……」

 そう言って彼女は泣きだしてしまった。寄り掛かる彼女を抱きしめると、彼女の抱えてきたものの重みを感じた。

 かつてオーロラは死者の魂を冥府へと誘う入口として恐れられた。でもこのオーロラの曲が含むものは、きっと向こうの世界は悪くないと思わせてくれる。そんな気がした。

オーロラになれなかった人のために  Mr.ホワイト

  • 2014.01.20 Monday
  • 00:08
 いま思い返せば、私が小さい頃、我が家は相応に貧しかったのだと思います。昭和が終わろうとするその頃にはすでに古くガタがきていたくすんだアパートの、その狭い一室で家具に埋もれるようにして私たち家族5人は、普段は貧しさを実感することもなくのんびりと暮らしていました。私の父は公務員で、今でこそ給料が安定した良い職業と思われていますが、バブルの当時の公務員は銀行員の半分程度の給料しかなく、物価が高騰する中そのわずかな給料で子ども3人を養っていたのですから、生活に苦労したのも当然のことでした。

 しかし、その頃の私はまだ小さな子どもでした。自分の生活が貧しいかどうかなど判断できませんし、そもそも子どもにそのような発想はありません。畳がカサカサになるような古い部屋に住んでいようと、よその家庭からもらったお下がりの服を着ていようと、少なくとも私にとってはそれらはどうでもいいことでした。

 ある日、家族で買い物に出かけたことがあります。記憶が定かではありませんが、歳は、姉が8つ、私が5つくらいの頃だったように記憶しています。父が文庫本を買い母が食料品を買うだけの、いつもと同じ買い物のはずでしたが、いつもと違ったのは、姉が服の売り場から離れなくなったことです。姉の目の前にはカラフルなスカートがあって、姉はぼうっとそれを見ています。「行くよ」と母が言っても、「うん」と返事はするものの目はスカートから離れません。見かねた母が「欲しいの?」と聞くと、「ううん」と首を横に振ります。そんなわがままを言えるはずはありません。それでも、目はスカートにはりついたままです。どうしよう、と母がため息をついて父のほうを見ると、父はスタスタと歩いて行ってスカートを手に取り、「これ、買ってくるよ」と姉に言いました。姉は「いいよ、いらないから、本当にいらないの!」と父の腕をひっぱりましたが、父は「まあ、まあ」とニッコリ笑って、そのスカートを買ってしまいました。姉は喜んでいいのかどうかわからず、渋々とそれを受け取りました。母が父に「ありがとう」と言っていたのが、子どもながら心に残っています。

 家に帰ると早速、鏡の前でスカートの試着です。姉は恥ずかしがってスカートをはこうとしませんでしたが、そこは母がきっちりとはかせました。そのカラフルなスカートは古ぼけたアパートには似合いませんでしたが、姉には不思議とよく似合っていました。姉は喜びを隠しきれず、我慢しようとしても笑みがこぼれてしまいます。そして、鏡の前でくるっとターン。スカートがオーロラのように、ふんわりと波打ちました。こんなことを私が今でも覚えているのは一体なぜなのか、自分にもよくわかりません。美しさとうれしさがないまぜになって、とても印象的だったのかもしれません。一つ言えることは、あのとき、私も涙が出そうなほどにうれしかったということです。

 昨年、姉は若くして亡くなりました。後年、姉と会う機会は減ってしまいましたが、今はただ、姉の人生があのときに見たオーロラのように、貧しくとも美しいものであったことを祈るのみです。



訃報

  • 2014.01.16 Thursday
  • 13:29
A.ハッガリーニです。
こんにちは。

本日は悲しいお知らせがあります。
雑兵日記PREMIERでレギュラーとして活躍してきた葉山悟氏が1月11日午前10時28分逝去しました。
死因は心破裂でした。
惜しまれてなりません。
ご冥福をお祈りいたします。
予兆を感じさせるものはなく、亡くなった前日も普段通りジョギング、テニスなどの運動をし、食事もしっかりとり、原稿を書いていたそうです。
氏の書斎の机には資料と原稿が山積みになっていました。

葉山悟氏は長編「夢競馬の人々」を完成させることなく、旅立ってしまいました。
編集長としてこれ以上の後悔はありません。
2009年12月、葉山悟氏の還暦祝いに原稿用紙、万年筆とともに執筆を依頼した時から四年余りに渡る関わりが始まりました。
結果的に最後になってしまった打ち合わせでは
「2月中頃には完成する、これからがクライマックスだ。」
と語っていました。
完成した物が読めないというのはなんと残酷なことでしょうか。

最近は長編に気持ちが入っており、テーマコンテストへの参加は見送ることが多かったですが、参加した際の短編でも一味違った作品を提供してくれていました。

また、書き手としてだけでなく読み手としても優れた手腕を発揮し、毎月の投票時のコメントを励みにしていた著者陣も多かったのではないかと思います。
葉山氏も少しパフォーマンスが落ちている著者がいるとよく気にして、私に電話をかけてきていました。
もっといいものが書ける、彼らは素質がある、俺には書けないものが書ける、とよく言っていました。
レギュラーのみなさん、もっといいものが書けますよ。 
おねがいします。

葉山氏の抜けた穴は大きいです。
しかしそれを補って余りあるくらい活動をすることが、我々にできる恩返しだと考えます。
よく書き、よく読む。
葉山氏の活動はとてもシンプルで、かつ本質的でした。
私も基本に立ち返り、よく書いてもらい、よく読んでもらうためにできることを考えます。

提案があります。
手向けとして緊急のテーマコンテストを開催します。
テーマは葉山悟氏の机の一番上に残されていた資料、「オーロラ」です。
少しでも良いものを。

葉山悟氏のご冥福を心よりお祈りいたします。

夢競馬の人々(203)  葉山 悟

  • 2014.01.12 Sunday
  • 11:30
「つまり主宰者側の狙いは金利にあるってことだ」
僕は驚いて声が大きくなっていた。
「預かった会費は全て返金することを大前提にしているの。一人から百万円、十人で一千万円、百人で一億、千人で十億円。こうしたお金を定額預金すれば7%近くの利子が付く。二年後には源泉分離課税を差し引いても、百万円につき11万5千円ほどの利益が出るってわけ。この財テク会社が何億もの利益を出した秘密がそこにあったの。考えてみれば会員も元金は保証されているし、競馬の財テクでお金を増やすことは出来るし、主宰者側は金利で儲けを出す。誰も傷つかずハッピーな状態。これこそまさにウィンウィンの関係と言えるでしょう」
「バブル期ならではの発想だな。現在の金利ではとても無理だよね」
「そんな風に言わないで。競馬のビジネスを何とか成功させたいと頑張っているのだから」
彼女が夫と始めた競馬予想サークルは、その財テク会社を下敷きにしたものだ。一つだけ異なる点は、会員に勧めた予想を会社側でも購入していることだろう。定額預金以外の流動資金を設け、それを競馬投資に運用している。ただ法律的には法人の馬券購入は認められていないので、馬券の殆どは夫への貸付金で購入されている。その馬券を公開し大いに好評を得ているというのだ。
おそらく、いや間違いなく予想屋が自らの予想を身銭を切って買うことを、会社のシステムに取り入れたのは、彼女が僕の信条を察してくれたからに他ならない。僕の大好きだった身銭予想屋のことを彼女に何度となく語って聞かせたからだ。身銭予想屋は既にこの世に存在しない。自らの命を絶ってしまったのだ。はたして身銭予想会社はこの先どうなるのやら、僕には全く見当もつかない。ただシャガールの馬の力を借りて、0組の投資金を捻出できれば、彼女をその予想会社から切り離すことができる。僕は会社で予想した馬券を購入するようにしたのは、僕の話した身銭予想屋の事があったからではないか、と彼女に訊きたかったのだが、何故だか怖くて口に出せない。
僕と年金さんが下見所を出た時、彼女から携帯が入った。――セブンフィーバーあなたに預けておけばよかったね――
いきなり何のことか分からなかったが、競馬投資金の777万円の事を指していた。

夢競馬の人々(202)  葉山 悟

  • 2014.01.12 Sunday
  • 11:28
確か777という数字は、片山さんの競馬の投資資金だった。競馬はギャンブルそのもので投資などととんでもないと一笑されたそうだが、彼女はハイリスク、ハイリターンの魅力に満ち満ちた投資だと確信していた。
実際に彼女は自らが経験した競馬ビジネスについて話してくれたことがある。
「会費の完全保証を謳った財テク予想会社で競馬の事を知ったの。そこは絶対勝負のレースを一年に数回不定期に実践するんだけど、一度でも予想が外れた場合は会費全額を返してくれる制度がウリになっていた。会費は百万円。予想は一点勝負で、年に十回ほど。ホントに良く当たったわ。単勝、複勝、枠複と配当は二倍から五倍までのガチガチの本命馬券ばかりだったけど、他の投資に比べるとその配当はものすごく魅力的だった。たかだか数分で、投資したお金が二倍三倍になるんですもの。予想はパーフェクトとはいかなかったけれど、年間十回の予想のうち七割から八割は的中した。それだけで会員は儲けていたと思う」
僕は間を置かずあからさまな質問をぶつけていた。
「本当に会費は全額戻ってきたの?」
「当然よ。だけど二年契約だから、返金は二年後ってわけ。その間、絶対勝負のレースが不定期にあって二年なんてあっという間に過ぎちゃう」
いわゆるバブル絶頂期のお話だ。この財テク競馬予想会社の説明会は都心の有名ホテルで催され、毎回会場いっぱいの人で溢れていたという。説明会は毎週一回開催され、会費の完全保証付情報は、ニュービジネスとして話題を呼んでマスコミにも取り上げられた。都心のホテルを借り、集まった客達にコーヒーなどの飲み物もサービス。その他DMや広告でのプロモーション。ハイグレードなパンフレット類にスタッフの高級感漂う制服。それよりも人件費をどこから捻出していたのか。この財テク予想会社はどこで利益を生み出していたのか。彼女はそこでウフフと目尻にしわを寄せて悪戯っ子のような笑いを浮かべた。
「答えはあなたの嫌いなもので信じ難いもの。このシステムは会員も、主宰者側も誰も傷つかず、あなたの信じないウィンウィンの関係が成立しているってこと。会員は銀行や郵便局に眠らせている百万円を有効活用し、財テク会社の予想した買い目で利益が出せるというわけ。その目覚めた百万円は財テク側に集約され、利ザヤという新しい任務に就くの」

「僕はもうダメだ」 byアフリカの精霊

  • 2014.01.11 Saturday
  • 01:36
「ハッタリさーーーっっっっん!!!!」
コッピの叫び声がこだました。
そう、ソーラーの手当も間に合わず、ハッタリは力尽きてしまったのだ…。

ここは命のやり取りをする戦場。
やるかやられるかの世界である。
「もし俺がヤバくなるようなことがあっても、手当はしなくていい。」
思えばこのハッタリの言葉はこうなること予想していたに違いない。
ハッタリのセリフは言わば死亡フラグを立てるようなものであるが、その時はまさか本当にこんなことになるとは誰も思っていなかったのだ。
敵はハッタリを倒した後も次から次へと自分たちに襲い掛かってくる。
精霊・コッピ・ソーラーの三人はその攻撃をかわしつつ、時には反撃も加えながら進むしかなかった。
精霊の粘り強さ、コッピの熟練した読み、ソーラーの献身的な回復もあって戦いは徐々に優勢になっていく。

しかし、そんな中でも置いてきたハッタリのことが気になってくる。
そういえば以前こんなことを言っていたのを思い出した。
「ちびマリオでクリアすることに喜びを感じるんですよ」
困難な状況を敢えて楽もうという性格をゲームに例える。
そしてそんなことをいいながら軽い装備で戦いに挑むハッタリ。
ここでもっと気遣ってあげていればと思うと悔やんでも悔やみきれない。
ハッタリ個人の考えを尊重するよりも彼の命への気遣いをしてやるべきだったのだ。

当初優勢だった3人での戦いも時間が経つにつれキツくなってくる。
当然だ。
4人でやっと戦えていたものが3人になったのだ。
長い時間懸命に闘うことに集中力の限界もある。
「みんな疲れてきたので、一度罠を張ります。それに敵がかかっている間に体制を立て直しましょう。」
リーダーであるコッピの提案にみんな賛同した。
頼もしいリーダーである。
「では、その間に僕はベースキャンプに戻って手当をしてきます」
とソーラーは言って離脱する。
精霊も武器の手入れをする必要があった。
そんな中でもコッピは罠にかかった敵を攻撃するなどリーダーらしく振る舞ってくれた。
そのおかげもあり体勢を立て直せたものの一向に状況はよくならない。
三人は攻撃と撤退を繰り返しながらギリギリのところで戦っているものの物資はついにつきかけている。
敵の攻撃は激しさを増してくる。
三人とも必死であるが、いよいよ物資が尽きてくる。
もうだめだ。
そう思った時だった。
目の前が急に明るくなった。
閃光弾だ!!
急激な明るい光により目がくらむ。
しかし目の前で光を受けた敵の方が明らかにダメージが重いようだ。
しばらくは目が開けられないだろう。
ともあれ、我々は敵の攻撃から離脱できる余裕ができたのだ。

誰だ。
我々3人に閃光弾を持っている人はいないはずだ。
閃光弾の光に敵より先に慣れてきた我々の目に飛び込んできたのは見たことのある姿だ。



ハッタリだ。
先ほど倒れて先頭不能だったはずだが…。
明るい光の中、崖の上に立つハッタリはまるで後光の指す神様のように見えた。
いや、彼は実際我々の危機を助けた救世主だったのだ。

そこで我々はハッと気づく。
あ、そうだ。
このゲームは2回まで復活可能だった、と。


夢売り

  • 2014.01.11 Saturday
  • 01:34

 木造家屋の水車がきしむ音を立てゆっくりと回る。ライン川を臨む穏やかな町。斜面にブドウ畑が広がり、その先には城が見える。
 農夫は一人の見知らぬ男を目にする。よれたとんがり帽を目深に被っている。旅人だろうか。
「こんな町に、どうしました」
 男は答えない。農夫が気味悪くなり始めた頃、ようやく口を開いた。
「夢を売っているのです」
「夢、ですか」
「ええ」
 男は噛むように話す。
「夢を売って旅をしています。一つ如何ですか」

 小さな町のことだ、夢を売る旅人の話は瞬く間に広まった。
 なんでも、夢を売る男がいるそうだ。男は町の入口に置かれた樽の上に座っているらしい。朝から晩まで樽にいて、夜は女将のとこの宿屋に泊っているそうだ。帽子の奥の目付きが怖いらしい。夢って本当に買えるのかな。何だよ、興味あるのか、どうせ嘘に決まってるだろ。じゃあ興味ないの?……いや、まあそりゃ買えたらなあ……。

 初めは町人に怪しまれていて、木の棒でつつくなど子供たちの冷やかしも多かったが、一人が買うと、あまりの商品の素晴らしさに買う人が後を絶たなかった。夢は、飛ぶように売れた。国の剣技大会で優勝する夢、多くの異性に好かれる夢、大金持ちになる夢、王になる夢……どんな荒唐無稽でも良かった。誰しも口に出すのが憚られるような狂った欲望を抱えているものだ。それをこっそり彼に耳打ちすればいい。その人にぴったりの夢を売ってくれるから。

 人々はその夢見心地に惚れた。買った当時は、一日の休憩時間に少し見るだけだった。夕食後、まるで煙草でも吹かすかのようにゆったりと夢を見た。しかし夢は少しずつ、彼らの現実を侵していく。本当は夢の方が現実じゃないのか?という考えが一瞬浮かび、馬鹿げた話だと否定する、しかしその一瞬が始まりなのだ。夢から覚めた後の虚脱感、無気力、何の変哲もない現実への絶望。心の弱い者から食われてしまうのだ。

 都会へ出稼ぎに行った床屋の息子が町へと帰ってきた。町には何故だか人の活気が無い。不気味に思って自宅の扉を開けると、両親は椅子にもたれたまま全身が弛緩している。慌てて駆け寄ると、どうやら死んではいないらしい。

「父さん、母さん、一体どうしたというんです。町は荒れ果てて、あんなに美しかったあのブドウ畑は雑草だらけではないですか!」
「ブドウ畑?ブドウ畑は今も美しいよ」
「何をおっしゃっているんですか。ご自分で確かめて下さい!」
「分かった分かった、わしは国王なのだ、こんな夢を見ている場合では無い」
「起きて下さい、起きて下さい!」

 ふと振り向くと目深にとんがり帽を被った男が扉を開けて立っている。

「だ、誰だ?」
「……夢は要りませんか?」

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