夢競馬の人々(167) 葉山 悟
- 2013.07.31 Wednesday
- 23:45
――大崎会長が死去した0組は、おかみさん派と若頭派に分裂。その両派を経済・財政面で支えていた金庫番的存在がK部長でした。両派の企業舎弟を取りまとめ、0組の看板を裏で支えていたKさんでしたが、両派に対するバランスが崩れ、その権力争いに巻き込まれたものと思われます――
「おかしいよね。おかみさんも若頭もK部長の存在は十分過ぎるほど認めていた。それなのに始末しますか?」
年金さんがイの一番に電話をかけてきた。
「これだからヤクザもんの世界とは関わりたくない。義理と人情なんて、今の時代あり得ないよ」最後は捨て台詞のような言葉を吐いて、年金さんは電話を切った。
片山さんの奥さんは「私怖い・・とにかく今すぐ会いたい」とひどく怯えていた。奥さんからの電話のすぐ後、夫の元新聞記者の緊張した声が飛び込んできた。
「まだニュースになっていないが、若頭派から三人の若衆がK部長の殺人と死体遺棄で出頭したらしい。何でもおかみさん派ばかり肩入れするK部長の存在が気に入らなかった、というのがストーリーだ。当然、先生の読みではホンボシは別になりますよね。でもK部長とあの人は利害が一致していて、とてもいい関係の様に見えていましたが」
自分の愛人の事、妻と僕の関係について、返却しなければならない4000万円の段取りと資金繰りについて、今後のサークル運営について等々、僕と彼が話題にしなければならない問題は山積している。いまさら私立探偵の様なことをしてS場長を追い詰めて何になるのだろう。行方不明の大沢と同じ運命をたどるのが関の山だ。それに確たる証拠は皆無だ。あるのはいささか翼を広げ過ぎるきらいのある想像力と推理力のみ。しかしこれだけは明確だ。大崎会長とのツーショット写真を持っていた大沢の行方不明、0組との癒着、談合、キックバックなど全てを知る男の死去。この二人の死で最も被害を避けることが出来るのは、つまり最も利益を得るのはS場長だと。
「若頭派から三人もK部長殺しで出頭したって・・・」僕は元新聞記者からの情報を彼女に語っている。夫からの情報を妻に伝えているだけだが、その距離は途方もなく遠い。