【テーマ】めがね たりき

  • 2013.05.31 Friday
  • 21:32
初めて眼鏡をかけたのは中二のときだったと思う。
母親がそうであるため、目が悪くなる可能性高いから注意するようにと言われてきて、それでも結局悪くなってしまった。
当時、左目は普通に見えていて右目だけが悪かったため、眼鏡をかけるのは授業のときだけだった。
ただし、そのときから言われていたように、眼鏡をかけないとほとんど左目だけで見ているわけだから、どうしても左目に負担がかかる。
そうやって左目も徐々に悪くなり、いつの頃からか日常生活でも眼鏡がかかせなくなった。

私自身は眼鏡があまり好きではない。
じゃあコンタクトレンズにすればいいのだが、これまでずっと眼鏡でいたのだから今さらというところもある。
大学時代、運動をするときは眼鏡なしでやっていたと思う。
しかしながら研究室対抗のソフトボール大会のとき、はじめ眼鏡をかけずにやっていたのを見えないために途中から眼鏡をかけてするようになったことを記憶している。
あのときは、運動のとき専用にコンタクトレンズを買おうかと本気で思ったものだ。

この春の会社の健診で、視力が落ちているとの指摘を受けた。
たしかに検査のとき、これまでになくあまり見えなかった。
その事実を知ってから、少し前から気づいていたことが原因じゃないか、何とかしなくちゃいけないのではないかと思うようになった。
というのも、眼鏡の左のレンズが明らかに黄ばんでいるのだ。

そういうわけで、先日ようやく眼鏡を新調しにいったのだが、おそらく黄ばみのせいで左目に乱視が入っていると言われた。
また、レンズの黄ばみはこれまで見たことがないという。
私自身、たしかに薬品を使う仕事をしているものの左のレンズだけ黄ばむ理由については検討もつかない。
ただ一つ可能性として言われたのは、左右で別のレンズを使ってるのではなかろうかということ。そして左のレンズが質の悪いものでこうなったのでないかということ。
その眼鏡は何もオプションをつけずにコストを抑えて買ったもの。きっとそのせいなんだろうなあ。

ということで、今回は少しだけレンズにお金をかけた。少しだけだけど。
眼鏡をかけていると今までのものとどう変わったかなんて自分ではわからないけど、きっとこれまでよりクリアに見えているんだろうと思う。
そう思いたい。

CPU換装   ハッタリスト

  • 2013.05.30 Thursday
  • 23:52
2011.02.19 ハッタリがPCを自作するの巻
で書きましたが、僕が使っているPCは自作したものです。3年くらい前に。

今回、ブルーレイディスクを扱えるようにしたかったので、ディスクドライブを取り換えました。
それと同時に、どうせPCの蓋を開けるならということで、CPUも取り換えました(Pentium Dual-Core G6950 → Core i5-760)。
ディスクドライブは中古で5600円くらい、CPUは中古で9000円くらいです。

「このPCで10年戦います」と以前書きましたが、わずか3年でマザーボードが完全に時代遅れになっているということに初めて気付きました。ソケットがLGA1156なのです。
対応するCPUの中で最新のものでも2010年発売らしいので、購入時には既に末期のマザーボードだったということかもしれません。よくわかりません。
購入時の予算は、1にグラフィックボード、2にCPU、3、4がなくて5に電源、みたいな方針だったので、仮に予算がもっと多くてもマザーボードへの配分が増えることはなかったでしょう。
先見の明か運があれば別のマザーボードを選んだのかもしれませんが、どうだったのでしょうか。

シリコングリス(CPUと冷却用ファンの間に塗る)は「扱いやすい注射器型」を勧められたのでそれを買いましたが、微調整ができなくてアホみたいに大量に出して拭きとることを2回繰り返しました。だまされた。
換装の作業自体は特にどうということもなく。
それよりも久しぶりに蓋を開けたせいで中がほこりまみれで、その掃除がちょっと大変でした。
無水アルコールじゃないとだめなんだろうかとか思いながら、水分たっぷりの普通のウェットティッシュで拭きました。

で、CPUを取り換えた結果、体感速度は特に変わっていないです。
変わったと言えば、ついでにキーボードも新しいものに変えたのですが、これが僕が選んだだけあって安物なのになかなかいい感じです。
キーの配置とか押し心地とか手触りとか見た目とか。
マウスもカチカチいう音がイヤなので、音が静かっていうのを使ってます。これはマウスの割には高かったです。
そういうわけなので、CPUなんか買う金があったらキーボードとマウスを買えってことですね。なるほど。

夢競馬の人々(153)  葉山 悟

  • 2013.05.29 Wednesday
  • 23:59
僕達を監視していたのは一体誰なのか。当初僕はK部長とにらんでいた。僕と片山夫妻に組まれては不味いと考える相手は0組とその傘下の企業ではないかと考えていた。片山サークル、もしくは片山夫妻に融資あるいは出資する――それが何らかのアクシデントや都合により、元金返済不能、配当不能に陥ったその時、何があるのだろう。
彼女が知らないところで、元新聞記者の夫が、0組さらにはその企業舎弟を束ねるK部長ととんでもない密約を交わしているのではないか。
「4000万円出来れば全て解決するのです。片山との離婚も成立し、綱渡りをやっているような会社とも縁が切れるのです」
彼女がその日語ったのはそれだけではない。片山氏とは再婚で、子供は彼女の連れ子だという。またサークルの連帯保証人に彼女の父親が名を連ねていること。実家を担保にとられているのだ。僕は聴かなくともいいことを耳にしたのかもしれない。純粋にシャガールの馬を見つけ出し、目標金額に近づいて行けば達成できるかもしれないのに、今となっては4000枚という一万円札の連なりに、彼女と子供、そして両親までもがくっ付いている。それは間違いなく新たなプレッシャーとなって僕を苦しめるに違いない。
歴史は夜つくられる、というが、おそらく男と女の寝物語で幾度となく歴史は繰り返されてきたのだろう。
僕はその時、彼女のことを心の底から守らなければならないと思った。世界の歴史や日本の歴史に関わることなど逆立ちしても無理なことだが、彼女との歴史ならば何とかつくることが出来るのではないか。
「片山さん、一つだけどうしても気に入らないことがあるんだけど・・」
僕がそう言い終わらないうちに彼女が続けた。
「私もよ」と。
「じゃあ同時に言い合おう」
彼女は僕にくるりと背を向けると「センセも向こうを向いて」と言った。
――5・4・3・2・1、スタート。僕は先生じゃないし、センセと呼ぶのは止めて欲しい――
――あなたは私の下の名前を知っているのに一度も呼んでくれたことがない――
「センセ」と「なまえ」の部分がクロスして響いた。そしてそれは、静かだが確実な喜びや可笑しさとなって二人を包み込んで行くのであった。

夢競馬の人々(152)  葉山 悟

  • 2013.05.29 Wednesday
  • 23:58
「K部長と寝たのですか?」
僕はその眼差しに負けまいときっぱりと言い切った。片山さんは今にも吹き出すかのように目を大きく見開いて笑顔を見せた。
「ナニ、そんな事にこだわっていたの」
といったふうで、目尻に寄ったシワまでが大人の余裕を感じさせた。しかしすぐに真剣な眼差しに変わり、彼女は立ってテレビの電源を切った。
「どうしてセンセからそういう言葉が出てくるのか理解できません。センセは最初にこの事は生き方に関わることだと、つまり私が身体を張って仕事を獲ってきたのではないかと言いたいのですか。センセにはシャガールの馬の秘密を聞き出すために、K部長にはサークルへの出資を促すために私が枕営業をしているのではないかと。だったら、そっくりその言葉をお返しします。そういう疑いを持ちながら、センセは私のことを抱いたのですか。
それがセンセの生き方なんですか?」
僕は彼女とK部長の接点を知った時から、胸の奥に燻り続ける思いを単刀直入にぶつけたまでだ。
「寝た、寝てない、答えは二つに一つ。それがどうして答えられないの」
「目的のためなら誰とでも寝る女と思っているのなら、どうしてセンセは私のことを抱いたの?セックスできるなら、そういう状況にあればどんな女性とでも寝るってことでしょう。それがセンセの生き方と関わっているということでしょう」
僕は彼女からどういう答えを導き出したいと考えていたのだろう。他人に「誰とでも寝ること」を咎めるほど、僕は愛することに純粋なのだろうか。
彼女は嗚咽していた。シーツを身体に巻きつけベッドに突っ伏し、顔を両手で覆い隠していた。ほつれた襟足の髪が照明に反射して金色に光っている。僕がそれに吸い込まれるように手で触れると、彼女は絶叫するように声を上げた。
「触らないで!私のことをそんな風に考えているのなら金輪際ふれないで」
金輪際という言葉に、僕は彼女との世代間のギャップがあるように感じた。しかしそれは僕より若い世代から受ける異星人のような言葉遣いとは明らかに異なるものだった。ある種の矜持や教養、そして宗教観までをも感じさせるものだった。
僕は再度彼女の胸に顔を埋め、彼女を抱いた。

【テーマ】 戦国時代における濁点 byアフリカの精霊

  • 2013.05.27 Monday
  • 22:19
「浅井長政」をどう読むか?
現在では「あざい」と濁るのが正しいらしい。
NHK大河ドラマ「江」でもそう呼んでいた。
しかし私の記憶が正しければ10年〜20年前までは「あさい」と呼んでいた。


戦国の名字には濁るかどうかが微妙な読み方が多い。
浅井長政(あざいながまさ)…信長の義兄弟・豊臣秀頼&徳川家光の祖父
尼子氏(あまご)…島根県の戦国大名
土田御前(どた・ごぜん)…信長の母
それぞれ「あさい」「あまこ」「とだ」と読めないこともなく、むしろそう読んだ方が自然な読み方もある。
にもかかわらず、読みにくい読み方が正しい読み方とされているのは、一つには同じ読み方をする地名が存在しているかららしい。
そうであるならば、なぜ今までは「あさい」だったんだ!?っていうツッコミも可能であるが、今の定説になっているから仕方がない。
昔の文献にはもちろん振り仮名なんていうものはないわけであるから正解はないのかもしれないが、歴史上の事実ではなくこういった漢字の読み方の定説が覆るのは珍しい。

実は戦国時代まで日本において濁点は適当だった。
百人一首では「ちはやぶる・ちはやふる」「あしびきの・あしひきの」など、濁点を敢えてつけていない表記も見られる。
戦国時代においても、伊達政宗は濁点を2つではなく3つ使っていたらしいことがわかっている。
つまり「濁点なんかつけなくても(つけすぎても)意味がわかるでしょ!?」という意味だったのだろう。

江戸時代以降現代に至るまで外来語が入ってくるに従って濁点の重要度は増し、付けるか付けないかは意味を持つものになった。
現代語においては百人一首のように濁点を省略するようなことはあり得ない。
「ヤマザキ」と読むと猛烈に怒る「ヤマサキ」さんが存在するのも事実である。

現代においては戸籍などの関係もあって濁るか濁らないかは重要であり、固有名詞は個性を表すものとして間違えられることを非常に嫌う。
私は紛らわしい名字ではないので間違えられる気持ちがあまりわからないのであるが、おそらく「ヤマサキさん」は個性を否定された気持ちになるのかもしれない。
そして名前を間違えることは失礼にあたるがその間違いのレベルは濁点をつけて読むか読まないかのレベルまで至っている。

でも戦国時代においては「あさいながまさ」と読んだところで本人である「浅井長政」は怒らなかったのではないかと思う。
昔の日本は濁点に寛容だったのだ。

そんなことを考えていたら「あさい・あざい」論争なんてどうでもいい気がしてきた。
けど戦国仲間で話す際に「あのさぁ〜、『あさいながまさ』ってさぁ〜」と話を切り出した途端、「ああ、『あざいながまさ』ね」なんて切り返されたりすると負けた気持ちになりムキになってしまう。
戦国好きの悲しい性である。

結果発表!!

  • 2013.05.27 Monday
  • 01:12
皆様、大変お待たせいたしました。
雑兵日記PREMIER2013年4月度の投票結果発表をいたします。
今回も14名の方から投票をいただき、大変ありがとうございました。
久しぶりのあの人の名前も見ることができ、大変うれしいです。
ありがとうございます。
おかげ様で作家陣も一段と励むこと間違いございません。



まず最優秀作品賞です。
今月も個性派が並びましたが・・・・。

今月の最優秀作品は

難病の世界〜ALS〜 by Mr.ヤマブキ

ヤマブキのフィールド医療+倫理が票を集めました。
おめでとうMr.ヤマブキ!!
願い事を一つしていいよ。


そして、MVPを発表します。


葉山悟

6票を獲得しての圧勝でした。
おめでとう、葉山悟!
ベストコメント賞を決めていいよ、葉山悟。





投票結果


これからも雑兵日記PREMIERは続いていきます。
みなさま今後ともどうぞ永いお付き合いをお願いいたします。

【テーマ】にごるわ  ミスターピンク

  • 2013.05.25 Saturday
  • 12:58
みなさま、おはようございます。
ミスターピンクでございます。

にごってますか?

にごってますねえ。

アレですよ。

徹夜明けでして。
意識が混濁というかね、そのような雰囲気で。

何をしていたかって、そりゃもう徹夜で睡眠してたんですよ、ハッハッハ。
まあ冗談はともかく、意外と冴えわたっている感じもしますね。

むしろ1.2倍くらいはいい感じと言えましょう。
主観的にはね。

で、客観的にはどうかというのもちょっと確かめてみたいと。
それで鏡を見たら!

目が!
にごって!

にごってない!
おお、なんという澄み切った曇りなき眼をしていることか…!

まあそれも冗談で、実際やはり血走っている感じですね。
1.2倍くらいね。

それじゃあということで、コーヒーを。
サタデーのモーニングに珈琲を、いいじゃないですか。

そう、そのコーヒーが!
うわっにごってる、マスターこれにごってるよ、いかんよこれ。

ってね、冗談ですよ、もちろん澄み切った清く透明なコーヒーですから。
爽やかな朝はこうじゃないと。

ハッハッハ、コーヒーが透明って、そこまでアメリカンじゃないでしょう。
冗談冗談、普通のコーヒーですから、にごってますよ、そりゃあね。

ということは?

後は、ミスターピンクの心は澄み切ってるとかにごってるとか、そういうこと書いて終わりにしたいですね。

あーあー、人間つーものは誰しも清濁合わせ持っているのが世の常でありますが、私ほどの人間ともなりますと一見して清い一面しか持っていないのではないかと、そういう印象をお持ちの方も多いんではないかと、こう思うわけですが、それならばにごった、よどんだ、そういった薄汚い面が本当に現れないのかといいますと、これはもう日常でその条件が満たされることは極めて稀ということになるかもしれませんが、それでも、いついかなる時にも清濁の濁の部分は存在しないと、それが正しいとは限らないわけでありますから、えー。飽きた。

第80回東京優駿(日本ダービー) たりき

  • 2013.05.24 Friday
  • 23:42
2013年も東京優駿(日本ダービー)の発走が近づいてまいりました。
今年はダービーのテレビCMを見る機会が例年以上に多い気がします。
ギャンブル云々はさておき、競走馬にとって一生に一度きりの晴れ舞台の注目度が上がるのは嬉しいことです。
さて、それではダービーの出走馬を簡単にですが紹介していきたいと思います。

キズナ
ディープインパクト産駒。
毎日杯、京都新聞杯と重賞を2連勝。ユタカJを背に、ここでもその末脚が炸裂するか。

コディーノ
キングカメハメハ産駒。
朝日杯FSまで世代最強と呼ばれていた同馬もその後はパッとせず。最高の舞台で巻き返しを。

アポロソニック
ビッグブラウン産駒。
前走の青葉賞で逃げ粘って出走権利を取得。ここでも自分の競馬を。

クラウンレガーロ
グラスワンダー産駒。
昨夏から距離を延ばしながら走り続けて若葉S2着、皐月賞でも0.9秒差。さらに距離が延びてどのような競馬をするか。

メイケイペガスター
フジキセキ産駒。
共同通信杯勝ち馬。その後の2走は冴えないが、巻き返しを期待。

ラブリーデイ
キングカメハメハ産駒。
ここ2走は2桁着順。1400mの重賞で2着の実績もあるが、血統的にスタミナの裏付けはある。どのような競馬を見せるか。

ヒラボクディープ
ディープインパクト産駒。
本番に直結するステップレースの青葉賞を勝利。昨年涙を呑んだ鞍上とともにダービー制覇を目指す。

ロゴタイプ
ローエングリン産駒。
1番人気で皐月賞を快勝。府中よりは中山向きと言われるが、実力が世代トップクラスであることは疑いようがない。力の差を見せつけるか。

エピファネイア
シンボリクリスエス産駒。
日米オークス馬シーザリオの仔、鞍上はもちろんユーイチJ。皐月賞2着からの逆転を誓う。

タマモベストプレイ
フジキセキ産駒。
きさらぎ賞勝ち馬。全兄たちは短めの距離に実績があるが、この距離をこなせるか。

テイエムイナズマ
ブラックタイド産駒。
デイリー杯2歳S勝ち馬。その後は不調が続いていたもののここのところは復調の兆候あり。父に勲章を。

サムソンズプライド
メイショウサムソン産駒。
ダービー馬はダービー馬から。春二冠を制した父のプライドを胸にこの舞台を走る。

マイネルホウオウ
スズカフェニックス産駒。
スプリングS出走から目標を変更してNHKマイルCを勝利。頂点へ向かってここも舞いあがる。

アクションスター
アグネスタキオン産駒。
京成杯2着馬も、その後はパッとしなくて。地方出身の戸崎Jの手腕に託す。

フラムドグロワール
ダイワメジャー産駒。
久々の競馬だったNHKマイルCで3着。距離延長がどうかも、叩いた上積みで。

ペプチドアマゾン
アグネスタキオン産駒。
前走京都新聞杯で2着を確保。勝ち馬には完敗も、ここでも自分の競馬で上位を目指す。

レッドレイヴン
スマートストライク産駒。
久々の競馬だった前走の青葉賞は大敗も、あれが実力ではないはず。巻き返しを。

ミヤジタイガ
ネオユニヴァース産駒。
弥生賞2着馬も皐月賞では大敗。大外枠は厳しいが、少しでも上位を目指す。
 
 
東京優駿(日本ダービー)は26日15:40発走予定です。

夢競馬の人々(151)  葉山 悟

  • 2013.05.23 Thursday
  • 02:58
得体の知れない苛立ち、自己嫌悪、焦燥感の正体がおぼろ気ながら見えてきた。
片山さんの身体はたわわに実り熟成した果物のようにとても魅力的で、僕は何度も貪りついた。刹那ではあるがそうすることによって闇の中に蠢く正体不明の何かから遠のくことが出来る。
「痛い、もう少し優しく。今日のセンセ、どうしたのかしら」
僕は無意識のうちに彼女の乳房を、掌と顔で強く圧迫していた。
「怖い?怖いのでしょ?」
「何が?」
彼女の問いかけに僕は少しとぼけてみせた。
「もしかして怖くて言葉に出来ない?でも今日のセンセ、とても素敵だった。シャガールの馬をあんなに分かり易く説明してくれるんだもの・・。それがズバリ大的中。それにアナウンサーの卵達へのご祝儀、すごくカッコよくてスマートだった」
僕達はどうなるのか。どこへ向かっているのか。大恐慌時代にアメリカに実在した男女二人組みの強盗を描いたアーサーベン監督の「俺たちに明日はない」のボニーとクライドのように、ひたすら破滅に向かっているような気がする。二人の最後はマシンガンから雨あられの様に発射された弾丸によって蜂の巣状態にされるのだが、期限までに4000万円を作らなければ同じような運命が待っているのではないか。僕は闇の中に恐る恐る手を差し入れ、得体の知れない何かをまさぐるような思いで訊いてみた。
「期限までの4000万円はK部長と関係があるのですか。いやそもそも片山サークルに0組は出資しているのですか」
彼女は慌てたように僕を押しのけ、胸元を押さえて起き出した。
「センセ、その質問についてこの間もお答えしましたよね。会社としての最高機密であり、個人情報の最たるものでお話しするわけにはいかないと・・・」
気まずい沈黙が僕達を包み込んだ。音を消したテレビから影絵のようにシグナルだけが送られてくる。
「イヤなことを訊きます。それは同時に僕にとっても言葉にしたくないほどイヤなことです。でもそこを通らなければ僕達は前に進めない気がする。会社絡み、仕事の話ではありません。あなた自身のこと、あなたの生き方に関わること。そしてそれは僕にも密接に繋がっていることなのです」
彼女はゆっくりと顔を上げ、意志の強い眼差しで僕を見つめた。

夢競馬の人々(150)  葉山 悟

  • 2013.05.23 Thursday
  • 02:54
片山さんの個人的な3万円の投資が56万円、そして500万円の1割の試し買いが――
333万円。目標の4000万円まで残り3700万円となった。まさにシャガールの馬サマサマである。
「一般ピープルよ、よく聞け。こういう人こそ、現代日本が必要としている人間である。喜びは一人でも多くの人に。悲しみや苦しみは自分の胸の内に。競馬がイギリスから世界各国に伝わったのは、まさにこうした紳士淑女の思いやりと慈悲の精神があったからである。我々はその精神を実況中継という形で伝えられることを喜びとしなければならない。今日はこの人の喜びのお裾分けで大いに飲んで楽しもうではないか」
肥満君アナが僕の耳元で「大変失礼ですが、お名前を教えていただけますか?私はT放送学院の川越と申します」と改まった口調で質問してきた。僕が苦笑いしながら呪文のように「シャガールの馬、シャガールの馬」と繰り返すと驚いたように「もしかして馬主さんですか?」と小さな眼をいっぱいに見開いた。
そして僕が差し出した5枚の福沢諭吉を頭上高く揚げて「シャガールの馬様からのご祝儀であります」と大きく声を張り上げた。再びアナウンサーの卵達の周りが喧騒に包まれた。
「センセ、何がそんなにおかしいの?」
彼女がベッドに腰掛けている僕の顔に思いっきり自分の顔を近づけて、僕の瞳の中を覗き込もうとする。僕は肥満君の「一般ピープル」という呼称が笑いのツボに入ったようで、しばらく笑いが止まらなかった。
競馬が当たると人は獣になる。いささか誇張して言うと、天下を取ったように気持ちが高揚し、余の辞書に不可能はないというナポレオンになってしまう。
僕はシャガールの馬の代償を求めるように彼女を求めた。
再び彼女が「センセ、いま何を考えているのか、この心臓の音で当ててみましょうか」
とつぶやいた時、少し自己嫌悪にも似た腹立たしい気分に陥っていた。抱いて後悔するのか、抱かずに後悔するのか。僕の場合はいつも前者である。思春期の自慰行為の後の空しさにもどこか似ている。人はこれを繰り返して成長するのか、老いさらばえて行くのか。

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