家政夫のムタ(上) がりは
- 2013.01.31 Thursday
- 07:31
午前七時。
新しい家政夫さんが来る時間だ。
うちの手の付けられないガキどもが私の言うことを聞かなくなって二年。
妻がいなくなって一年。
この家を何とかしてもらうには女性では厳しいと思い、男性をお願いしたのだ。
玄関の方でエレキギターの大音量が鳴り響く。
何事かとドアを開けると半裸の男が跳ねながら、しかも回転しながら入ってきて、私を弾き飛ばした。
「いいいいいやああ!俺がこの家の新しい家政夫、ムタだあああ!」
足を開き、少し膝を曲げ、両こぶしを額の前から左右にゆっくりと開いていく。
よく見ると拳ではなく、狐の形になっている。
力感溢れるポーズと鳴り続ける大音量のヘビーメタル。
腰には金色のチャンピオンベルト。
ドアがゆっくりと閉まり、音が鳴りやんだ。
「全日本家政婦紹介所から来ました、武藤敬司です。ムタと呼んでください。よろしく。」
スキンヘッドに白い髭を蓄えた武藤敬司は握手を求めてきた。
いつの間にか起きだしてきた二人の息子が俺の脇から前に出てきて、先に握手をした。
すっかり虜になったようだ。
ムタは上半身に羽織っていた白のふわふわのガウンを大切そうにコート掛けに掛けると、朝食の準備に取り掛かった。
トトトトトトトトと聞いたことのない程の包丁のリズムが聞こえる。
「ご主人、今日環八混んでるからさ、車で行かない方がいいな。もう間に合わないよ。うん。電車で行って駅から走った方がいいよ。俺、膝悪いから走れないけど。うん。」
「あ、はい。て車通勤なの知ってたんですか?」
「広吉、聡、コスチュームに着替えないと遅れるぞ。」
「ムタさん、なんで僕たちの名前知ってるの?」
息子たちが「僕」を使っているのなんて何年ぶりだろうか。
「ちゃんこできたぞ。」
「わああ、すごい!」
10人前はあると思われるどでかい鍋に、山盛りの肉と野菜。
そして丼飯。
よそってもらったものに恐る恐る箸をつける。
美味い。
息子ともども次々にお替りをするが、鍋の中身は一向に減らない。
「モリモリ食って、どんどん強くなれよ。骨の髄までしゃぶりつくしてくれ。」
「ごちそうさま。うまかったわ。」
広吉が席を立ったその刹那だ。
ムタが素早く動き、広吉の右足を両手で抱えたかと思ったら、次の瞬間広吉はリビングの端まで回転しながら吹っ飛んでいた。
膝を抱えて痛がっている。
両手の人差し指と親指で長方形を作って広吉にフォーカスしているムタ。
広吉が起き上がってくるところにダッシュして大きな顔面に膝蹴りをかました。
パクッというようないい音がして、その後フロアスタンドが倒れてシェードが割れる派手な音がした。
新しい家政夫さんが来る時間だ。
うちの手の付けられないガキどもが私の言うことを聞かなくなって二年。
妻がいなくなって一年。
この家を何とかしてもらうには女性では厳しいと思い、男性をお願いしたのだ。
玄関の方でエレキギターの大音量が鳴り響く。
何事かとドアを開けると半裸の男が跳ねながら、しかも回転しながら入ってきて、私を弾き飛ばした。
「いいいいいやああ!俺がこの家の新しい家政夫、ムタだあああ!」
足を開き、少し膝を曲げ、両こぶしを額の前から左右にゆっくりと開いていく。
よく見ると拳ではなく、狐の形になっている。
力感溢れるポーズと鳴り続ける大音量のヘビーメタル。
腰には金色のチャンピオンベルト。
ドアがゆっくりと閉まり、音が鳴りやんだ。
「全日本家政婦紹介所から来ました、武藤敬司です。ムタと呼んでください。よろしく。」
スキンヘッドに白い髭を蓄えた武藤敬司は握手を求めてきた。
いつの間にか起きだしてきた二人の息子が俺の脇から前に出てきて、先に握手をした。
すっかり虜になったようだ。
ムタは上半身に羽織っていた白のふわふわのガウンを大切そうにコート掛けに掛けると、朝食の準備に取り掛かった。
トトトトトトトトと聞いたことのない程の包丁のリズムが聞こえる。
「ご主人、今日環八混んでるからさ、車で行かない方がいいな。もう間に合わないよ。うん。電車で行って駅から走った方がいいよ。俺、膝悪いから走れないけど。うん。」
「あ、はい。て車通勤なの知ってたんですか?」
「広吉、聡、コスチュームに着替えないと遅れるぞ。」
「ムタさん、なんで僕たちの名前知ってるの?」
息子たちが「僕」を使っているのなんて何年ぶりだろうか。
「ちゃんこできたぞ。」
「わああ、すごい!」
10人前はあると思われるどでかい鍋に、山盛りの肉と野菜。
そして丼飯。
よそってもらったものに恐る恐る箸をつける。
美味い。
息子ともども次々にお替りをするが、鍋の中身は一向に減らない。
「モリモリ食って、どんどん強くなれよ。骨の髄までしゃぶりつくしてくれ。」
「ごちそうさま。うまかったわ。」
広吉が席を立ったその刹那だ。
ムタが素早く動き、広吉の右足を両手で抱えたかと思ったら、次の瞬間広吉はリビングの端まで回転しながら吹っ飛んでいた。
膝を抱えて痛がっている。
両手の人差し指と親指で長方形を作って広吉にフォーカスしているムタ。
広吉が起き上がってくるところにダッシュして大きな顔面に膝蹴りをかました。
パクッというようないい音がして、その後フロアスタンドが倒れてシェードが割れる派手な音がした。