夢競馬の人々(97)  葉山 悟

  • 2012.10.31 Wednesday
  • 23:55
神の啓示だからといって、僕が神から選ばれた人間だと考えているわけでは勿論ない。そもそも宗教も神の存在も信じていないのだ。この大いなる矛盾について本当のところ僕は語るべき言葉を持たない。いや語る資格が無いというべきかもしれない。
「センセ、さっきの電話、もしかしてはなぶさのママ?私にも電話があって結果を教えてくださいって。私は馬券を買う時のお金の確認をしただけで、馬券の中身まで知りません、とお答えしたの。それでセンセは何とママに話したのですか」
「まだ留守電を見ただけで話してません。」
「よかった。ウチの主人がその事を気にしていて、ママに馬券のこと話したのかなって、そればかり繰り返していました。」
グニュグニュの馬が見えるようになったのは確か、人間不信で出版社を辞めて、たまらない欠落感を抱え込んでいた頃だ。当時交際して長かった彼女とも別れ、僕はどん底を味わい絶望に囚われていた。唯一の慰みが競馬場でサラブレッドを眺めることだった。削ぎ落とされたような無駄の無い馬体、陽光に眩く黄金色に輝くたてがみ、そして何もかもを透徹したような、あるいは全てを射貫くような大きな瞳。そんな馬たちを見ている時に、グニュグニュの競走馬に出会ったのである。僕は何も考えないでその馬の単勝馬券を買った。それが始まりである。その馬の具体的なイメージを表現する言葉を僕は知らない。例えて言うなら絵の具の上に絵の具を塗り重ねていくとますます対象物から乖離していくようなもどかしさを感じてしまう。ただ限りなくイメージに近い馬の絵を見た時は驚いた。それはシャガールが描いた「蒼い馬」だった。あの天才的な色彩感覚で描かれた馬は今にもカンバスから飛び出しそうだった。だから僕は密かにグニュグニュの馬のことを「シャガールの馬」と呼んでいる。
「明日お出しする香典袋、どこにしまっているんでしょう」彼女が突然、香典馬券の存在を切り出した。僕が肩から提げているショルダーを示すと、彼女は安心したように「ああ良かった」と溜息をついた。
払戻金は発走前に算出した金額より下がっていた。穴馬券なのにこの現象は珍しい。僕は何故だか彼女に「やられた!!」と感じていた。その時、彼女に対して釈然としない理由が初めてわかったのである。

夢競馬の人々(96)  葉山 悟

  • 2012.10.31 Wednesday
  • 22:13
――センセよ、今月のシノギどうしてくれんだよ。今月どころか今日、明日のカネがねえよ・・・。
――先生の予想ありがたく拝ませていただいて、ありったけのゼニ集めました。その中には組の看板料も入ってますから。くれぐれもお忘れなきように・・・。
僕は連日こうした三度目の悪夢に苛まれ精神的に追い詰められて、心も頭の中も壊れかけているのだろうか。
その瞬間、ピンク色のヘルメットの騎手がキリンの首のように長く伸びた馬のタテガミにぴたっと張り付くようにしてゴールになだれ込んだ。場内に唸りとも怒声とも判別つかないどよめきが響く。
「アスナロだよ、アスナロスターが一着なんだよ!!」
しばらくの間、僕が馬券の軸にした馬が一位入線したことに気が付かないでいた。片山さんの奥さんが駆け足で席に戻ってきた。
「センセ、センセ、やりましたわね。大変、大変」。何が大変なのか、彼女がやたらと興奮している。手に持っている携帯が鳴っていることにも気が付いていない。
「電話、電話が鳴ってますよ」僕が指摘すると初めて気が付いたように携帯を耳にあてた。
「センセ、今からすぐに主人が来るって申しております。タクシーに乗り込んだそうです」
会長への香典馬券が的中した事を知るのは僕と彼女以外いない。彼女から夫の片山氏へそれが伝わり三人となった。そこで夫がタクシーを飛ばして会いに来るのだ。僕はしばらく自分の携帯が鳴っている事に気が付かないでいた。もっともマナーモードに切り替えているためにそれも当然かもしれない。携帯画面を開けて見ると「はなぶさ」のママやその甥から何度か留守電が入っている。彼ら彼女達は、僕の馬券購入方法を熟知している。パドックでの馬の状態を、つまりグニュグニュの軟体動物のような馬を見つけないと馬券が買えない事を知っているのだ。その意味であまた存在する予想屋、競馬評論家とは根本的に異なる。僕は血統に詳しいわけでもないし、元騎手のように騎乗テクニックに長けているわけでもない。もし、仮に、例えば、この世でもあの世でも神が存在するとしよう。このグニュグニュの馬の存在はまさしく神の啓示としか考えられないのである。

【テーマ】 燃えつきるほどヒート!! by Mr.ヤマブキ

  • 2012.10.31 Wednesday
  • 02:14
「はぁー、気が重いなあー。朝のまぶしい陽射しも、さわやかな風も、小鳥のさえずりも、ぜんっぜん心をときめかせてくれない。そりゃーそうだよ。だってかおりちゃんに実はカツラです、なんて言えっこないもの。ああ、でもこれ以上隠し通すのはいやだ!ぼくのひとかけばかりの良心がとがめて仕方ないんだ!今日は、今日こそは本当のことを告白するんだ!!」

 説明しよう!
 かおりちゃん、とは付き合って半年になるとっても素敵なぼくの自慢の彼女だ。かわいくて、優しくて、器量も良くて、笑顔が素敵で、ほんとに欠点がなくて、天使みたいな女の子だ。ああ、ぼくとかおりちゃんを結び付けて下さった神様……本当にありがとう!

 そんなわけでぼくはかおりちゃんをデートに誘った。もちろん、ぼくがカツラだってことを伝えるためだ。天使に嘘をつき続けるなんて、ぼくには耐えられないことだ。かおりちゃんの信頼に全く応えていないんだから。そうさ、ぼくはヒドイ男なんだ。じぶんがカッコつけるために嘘でごまかしたりして。カッコつけるのが一番カッコ悪いことって誰かも言ってたっけ。勇気を出して、公園で告白するんだ!

「ごめん、待った?」

 十時に公園のベンチに、って言ったら紳士はその1時間前にベンチに座っているべきだ。でもかおりちゃんも50分前にはこのベンチにやって来たのだ!普通の子じゃそうはいかない!やっぱりこの子は天使だ!こんな素敵な子をどうしてだませおおせるだろう?

「ううん、今来たところ」
「よかったー。それで今日はなんで公園なの?珍しいよね」
「うーん、ちょっと話したいことがあってさ」
「……もし……大事なことだったら、夜の雰囲気の良いときがいいな」

 も、もしかして!もしかして、プロポーズだなんて思っているのか!?むべなるかな!円満な交際の上にある告白はたった一つしかないじゃないか!まさか今からカツラだと告白されようだなんてこれっぽっちも思ってやしないだろう。ああ、ぼくは、ぼくは。なんという男だ!

「あ、あのさ……」
「あっ、見て!ハトがパン食べてるよ。わたしもあげていいかな」

 かおりちゃんはカバンから食パン(6 slices)を取りだした。どうしてそんなものを持っているんだ、かおりちゃん!さすが器量が良い!!

「へへー、前からエサあげてみたかったんだー。持ってきちゃった☆」
「う、うん。じゃあ一緒にパンあげよう」

 突然ハトが出てきて出鼻をくじかれた気がしたけど、楽しい雰囲気になれて良かったのかもしれない。一息ついた空気だし、今が話を切り出すチャンスに違いない。

「ね、ねえ…」
「なーに?」

 かおりちゃんに見つめられると、目の前のかおりちゃんを失うことばかり考えてしまう。今だってぼくがかおりちゃんに相応しい自信が充分にあるわけでもないのに、その上ぼくがハゲているだなんて知ってしまったら、かおりちゃんはそれでもぼくのことを好きでいてくれるんだろうか。……ああ、怖い!好きだからこそカツラであることを告白できない!でもぼくは、好きだからこそこの裏切りを終わらせなければならないんだ!こんな言葉を聞いたことがあるぞ……人間讃歌は勇気の讃歌!人間のすばらしさは勇気のすばらしさ!そうさ、勇気をださなきゃ何も始まらない!!

「ぼくね、実はカツラなんだ」

 かおりちゃんの目の前で留め金を外し、荒涼とした頭頂部をさらけだす。

「うん、知ってるよ」
「え?」
「知らないと思ったの?だっていつもカツラずれてるんだもん(笑)」

 かおりちゃんはケタケタ笑っている。結局、悩みなんてものは自分の中で勝手に大きくなっているだけで、他人にとってはどうでもいいことばかりなのだ。
 しかし、かおりちゃん、カツラがずれているのを分かっていて言わないなんて、ほんとに……ほんとに君は、素敵な心の持ち主だ!ずれたカツラを許せるこんな慈愛に溢れた人と知り合えて本当に幸福だ!

「話ってそんなことかー。なーんだ、ちょっと期待したのに」

 それはつまり……本当の告白をしてほしいってことに違いない!ようし、次こそはやってやる。円満な交際の上に存在するただひとつの告白!かおりちゃんがそれを望むなら、しないわけがない!ふるえるぞハート!燃えつきるほどヒート!!

明るい悩み相談室PREMIER(55)〜生爪〜 がりは

  • 2012.10.31 Wednesday
  • 01:08
明るい悩み相談室PREMIER、本日の担当医がりはです。
こんばんは。
今日はどうされましたか?

「生爪を剥がしてしまいました。痛いというより苦痛です。だれか、慰めてください。」

おお、かわいそうに。
ここですか?
ここが痛いんですか?
ここをこう押すとどうですか?
こう叩くとどうですか?
おお、痛いですね痛いですね。
こう握ったらどうですか?
あはは、痛いでしょう痛いでしょう。
次は足で踏みますよ。

あ、違いますか。
だってなぐさみものにしてくれって。
あああああ!
なぐさめてくださいって、そっちでしたか。
これは失礼しました。
ついつい行き過ぎたサービスをしてしまいました。
普段はやらないんですけどね。
おかしいですね。

ミスターピンクです。
今更嘘をついてもダメですか、そうですか。

人間はあまり多くの痛みを同時に感じることができません。
より強い痛み、より新しい痛みを知覚します。
その順番には詳しくないんですが、確かに首の凝りが治ったと思ったら今まで知覚してなかった肩こりが・・・なんてことはよくあります。
プロレスラーは相手のいろんなところを責めません。
一点に集中します。
これもいろんなところを攻めてもその時痛いのは一カ所だからだと思います。
試合終わってからどうなるかは知りませんが。

ここまでの話を聞いてあなたは選ぶことができます。
1. 生爪の痛みを優しい言葉でなぐさめてもらう
2. 新しい痛みを受け入れる

どうしますか。
1を選んだ場合、痛みはどこにもいきません。
慰められるのは「なんで私が今生爪をはがさなければならないのだ。」という不条理感だけでしょう。
痛いというより苦痛、というのはこっちの理不尽な感じによるダメージを指しているのでしょうか。
であれば良いかもしれません。
2の場合、生爪の痛みはどこかにいきます。
新しい痛みを、フィジカルでソリッドな痛みを与えてあげますよ。
さあ、どちらを選びますか。

この洗練された後期高度資本主義社会では選択する時間すら売られてしまいます。
あなたの決断が一秒遅れるごとにその決断の価値は目減りしていきます。
そのことを忘れないように一秒に一回あなたの生爪がはがれた部分をタップします。
同じ強さで。
さあ、選んで。

ミスターピンクでした。
え?ダメ?

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明るい悩み相談室PREMIER(54)〜うまいもの〜 がりは

  • 2012.10.30 Tuesday
  • 23:48
明るい悩み相談室PREMIER、本日の担当医がりはです。
こんばんは。
今日はどうされましたか?

「「美味いと思うものだけ食べてれば健康」という状態が生命に備わってる味覚として自然なのでは?という直感があるのですが、必ずしもそうはなっていないようで、困ります。」

ほうほう、ほう?
はて。
「美味いと思うものだけ食べてれば健康」=Aとおきます。
Aという状態が生命に備わってる味覚であるべきだ=Bとおきます。
Bという直感があること=Cとおきます。
Cであるのに、必ずしもBでない、ということを嘆いておられるのですね。
この困りますというのはどういうことなのでしょうか。

Cは疑っても仕方ないところですね。
CはC。
感じちゃったものは仕方ない。
必ずしもBでない、のところを見てみましょう。
生命に備わっている味覚、というのは生き物は自分がうまいと思ったものを食べて生きている、というくらいの感じでしょうか。
猫が魚を食べるのはカルシウム摂取を気にしてのことではない、きゃつらがうまいと思っているものを食べている結果、楽しそうに生きている。
それに比べて人間はどうだ。
健康を気にして青汁を飲む、まずい、もう一杯、これぞ人間の為せる業。
この辺のことをおっしゃってるんでしょうか。
もしそうだとすれば、それは誤解に基づく嘆きではないでしょうか。
猫は知らないだけなのですよ、青汁を飲まないと健康を保てないのを。
あいつらが青汁飲んでたら30歳40歳と生きている、納豆も食べてたら60歳は堅い。
そういう学説も実験も聞いたことはありませんが、かといってそうでないとは限りません。
やってみなくちゃわからない、そう大科学実験で。
健康である、という状態自体が難しい問題をはらんでいる気もします。
長生きすればいいのかと。

最後にAを見ていきましょう。
冷静に見るとここにすでに問題があります。
うまいと思うものだけ食べていれば健康だなんて。
痛風の人が強がっていうセリフですよ。
ミッチーに聞いてごらんなさい。
若いうちはいいのよ。
寝て起きたら体ピンピンしてるもの。
と桃井かおりばりに気怠い感じで言ってくれることでしょう。
美味いものを食べてるだけで健康になる、というのは朝ごはんをバナナにすると痩せる、というのと構造が同じです。
単一の要因で単一の結果を導こうとしています。
これは危険な考え方だと思いますよ。
少なくとも健康でいたいなら適度な食事に適度な運動、そして適度な睡眠が良いでしょう。
美味いものだけ食べてごろ寝で屁を垂れながら夜通しテレビゲームをし、明け方眠るような生活をして健康な生活ができるでしょうか。
食事は健康な生活を支える大事な要素ではありますが唯一の要素ではありません。
美食をすることで劇的に健康になることはまずありえないでしょう。

と書いてしまうと身もふたもないのですが・・・。

ただ美味いかどうかはシチュエーションにかなり左右されます。
好きな人と食べる食事はおいしいです。
好きな人と結婚して毎日一緒にご飯を食べていたら、健康になりそうな気もします。


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【テーマ】告白の<じじょう> (上) 葉山 悟

  • 2012.10.30 Tuesday
  • 23:22
なぜ死んだのかって?!そんなこと俺にわかる訳ないじゃん。はっきりしていることは、ハルキが身体中にコイルを巻きつけてタイマーセットして寝ている間に感電死したってこと。遺書書いてたから自殺なんだろうってポリが言っていたよ。その中に俺宛の遺書もあったさ。アンタらそれで俺んとこに取材とやらで来たんだろう?遺書の内容?奴の母親もポリ公もアンタ達もみんな同じ事を訊いてくんだね。奴の一番のダチだったから本当のことを知っているでしょうって訳さ。母親への遺書は、今まで育ててくれてありがとう、一言で言えばそんな内容だったらしい。母子家庭でヤツの母さん仕事を三つぐらい掛け持ちしていた。遺書は全部で3通。母親と俺と、もう一通はクラブの顧問のA先生宛だった。
何が書いてあったかって?ホラあれ何ていったっけ。個人何とやらが保護しなきゃいけない、あっそうそう、芸能人がよくほざいているプライバシーとやらを護ってやらなければならないって。実際A先生、そう突っぱねてポリ公にも遺書を見せなかったんだって。ただ先生の顔、蒼ざめて血の気が無かったね。
警察は3通の遺書をジグソーパズルのピースみたいに考えて、それで自殺の動機を解明するつもりだったらしい。そのせいなのか、ポリがしつこく俺に付きまとうんだ。俺宛の遺書にあった「やっぱりダメだった」の意味を何度も何度も訊いて来る。アンタ達が俺んとこに来るのも同じ理由だろう?ハルキはイジメにあって自殺したんだろうって。そうじゃないって事は俺が断言するよ。ハルキを苛めるやつがいたら俺がブッ飛ばしていたさ。
一人変わったデカがいてさ、しきりにハルキとA先生のことを訊いて来るんだ。セックスじゃなかった、セクハラとやらを強要されていなかったかって。A先生もいい年齢して独身だからいろいろ言われちゃうんだよね。
そのデカ、何を考えていたのか、俺にこんな事を囁きはじめた。断わっておくけど訊問じゃないよ。独り言みたいな、つぶやき、これには俺もまいったね。
「ハルキ君もさぞかし寂しかったんだろうなあ。兄弟もいない、母親ひとりぼっち。本当はお父さんが欲しかったのだろうなあ。必死になって働く母親の姿を見ているとそんな気持ちも話せないし・・・。しかし、この世の中でたった一人彼の気持ちをわかってやれる人間がいた。そう、それがキミなんだよね」

【テーマ】告白の<じじょう>(下) 葉山 悟

  • 2012.10.30 Tuesday
  • 23:21
このデカの囁き、呟きをを聞いている内に、何だか胸の奥にくすぶっているモヤモヤとしたものを全て吐き出したくなってさ、思わず出た言葉が「ああ俺がハルキを殺したも同然、俺が奴を死なせたんだ」だった。
正直なところ俺が奴を自殺に追いやったんだ。あんな告白をさせなきゃよかったんだ。
ハルキは合唱クラブの顧問A先生にぞっこんだった。まさに寝ても覚めてもA先生という状態で、A先生の写真、添削した文字、それに録音した授業中の音声をまるで宝物ようにしていた。「いま先生は何しているのかな。大好きなシューベルトを聴いているのかな。それともワインを愉しんでいるのかな・・」俺は毎日のように、奴のA先生に対する熱い想いに付き合わなきゃならなかった。それが少しずつ面倒に感じたり、また俺の理解を超えていたこともあって、ある日俺は奴に宣告してやった。
「今お前の胸にある気持ち、そのままにしているだけでは何も変わらないぞ。A先生に恋人はいるのか、お前の気持ちをどれだけわかってくれているのか、すべての胸のうちをさらけ出してコクレよ。それでダメだったら諦めがつくじゃん。少なくとも何もやらないで悶々とした日々を送るよりもはるかにいい」と。
それがこんな結果を招くなんて、まったく夢にも思わなかった。14歳という年齢の差も、男が男を好きになるという事実も当人同士が良ければ障害にならないと思っていた。実際A先生には女性の噂はまったく無かったし、先生のハルキを見る眼差しが違っていたと思う。ああ何があっても驚かないさ。男が男を本気で愛するってこともあるし、実際、同性の結婚を認めている国や自治体もある時代だよ。それなのにハルキが自殺するなんて、これだけはどう考えても信じられないよ。何があった、何で死んだって俺が問い詰めたいくらいだ。
そこでアンタ達に俺からのお願いだ。俺の告白を聞いた以上、ここまで取材できたのだからこの事実を記事にして欲しい。ただの失恋による自殺だから記事にしないなんて馬鹿なことは言わないで欲しい。そうでないとハルキの死はまるで犬死になってしまう。えっ教育的見地から判断して記事に出来ないって!!アンタ、どこの新聞社?名前は?
〔事情〕 物事がある状態になった、細やかな様子・次第。
〔自乗〕 同一の数(文字・式)二つを掛け合わせること。
〔自浄〕 河川や湖・海、大気などが人手を加えずとも、みずからの働きで汚れを取り除くこと。

「精霊、善きサマリア人の法を憂う 前編」  byアフリカの精霊

  • 2012.10.29 Monday
  • 01:10
先月の投票において、提案のありました題材です。
精霊としても依頼に対して誠実にお答えしたいと思いますので、MVP、最優秀に選んでいただかなくてもどこかに書いて戴ければ、近いうちに書きたいと思います。
先月は「10円玉貯金の続編」と「善きサマリア人の法」を依頼していただきありがとうございます。

「善きサマリア人の法」という言葉がある。
「窮地の人を救うために無償で善意の行動をとった場合、良識的かつ誠実にその人ができることをしたのなら、たとえ失敗してもその結果につき責任を問われない」と言った意味のものである。
なぜ、サマリア人なのか?とかいう疑問は置いておき、つまり困っている人をちゃんと助けようとしたんだから悪い結果になっても許してあげようよ、ということである。

この話、法律を専門としていてもあまり聞くことはない。
日本においてこの「善きサマリア人の法」的な考え方は立法化されているともいえるがそれが不完全とも言えるからである。
ここでは法律的な話をしていても面白くないので、具体的な話を交えながら今の日本の法律と「善きサマリア人の法」について述べよう。

今の日本の法律には事務管理(697条以下)というものがある。
義務がないにも拘わらず管理を始めた者に関する色々な規定がある。
「こんにちは〜、あの〜宅配便ですけど、お隣留守みたいなんで預かってもらえますか?」
今の宅配便において隣に依頼することがあるのかわからないが、昔なら良く聞いた話である。
こういう時にはどうするべきか?
残念ながら今の日本の法律においては預かるべきではないとのアドバイスをするしかない。
義務がないにも拘わらずもし預かってしまえば、民法に従い事務管理者として責任を負うことになる。
預かっていたものが、要冷蔵と書かれていたメロンだった時に冷蔵していなければ腐ったことに対して損害賠償が発生する。
もちろん、管理に過失がなければ腐ったとしても損害賠償は発生しないが、冷蔵していても腐る可能性はあり、「冷蔵状態が悪い」なんていうことが過失であると言われることを避けるためには預かるべきではないであろう。
加えて、事務管理には報酬請求権はない。
つまりメロンを預かっていたからといって隣に報酬を請求することはできないのだ。

預かるマイナス面
1損害賠償を請求される可能性あり
2報酬もらえない
3例え管理した上でメロンを引き渡しても、隣に対して「預かってもらったんだから少しおすそ分けをした方がいいかな」と余計な気を使わせ有難がられない可能性もある。

預かるプラス面
ご近所と少しお近づきに成れる(?)

こういったマイナス面の多さから引き受けるべきではないと考えるのである。

「精霊、善きサマリア人の法を憂う 後編」  byアフリカの精霊

  • 2012.10.28 Sunday
  • 23:55
「お客様の中にお医者様はいらっしゃいませんか?」
実際の現場に出くわしたことはないが、機内アナウンスなどで流れる場面をドラマなどで見たことはあるだろう。
実はこの申請に対して、今の医者の世界では、名乗りでない医者の方が多いのが事実であるらしい。
先ほど述べた報酬がないことが原因となっているのではない。
法律的には緊急事務管理(民法698条)といって命などに関わる場合には損害が生じても賠償する可能性が少なくなる。
つまりよほどのミスをしない限り、賠償する責任はないのである。
にも拘わらず名乗り出ないのは、やはり損害賠償を請求される可能性がゼロではないからである。
病状にもよるだろう。
耳鼻科や眼科の医者が何とか助けてあげたいという気持ちから専門外でありながら自分の持っている知識を総動員して助けようとしても結果が悪ければ損害賠償を請求される可能性がある。
その際に自分がした処置がその「よほどのミス」と認定されることもないとは言えないからであるだろう。

「善きサマリア人の法」に戻る。
「善きサマリア人の法」はこの緊急事務管理に似ているともいえるが、「善きサマリア人の法」の方は助けようとする人の主観面を大切にするニュアンスを受けるのに対して、今の日本の緊急事務管理という法律はその過程の客観面をも判断しているように思える。

精霊の個人的な考え方であるが、もし「善きサマリア人の法」が適用されるならば、実例として出した、メロンを冷蔵庫にいれておきながら腐らせた場合、何とかして助けようとした眼科医の対処が間違っていた場合においても賠償責任はおわないように感じる。
メロンの事例だとちゃんと冷蔵していたんだから腐っていたとしても責任はないという意見がある一方、通販や贈り物として届けられたメロンがお隣に預かってもらった結果、腐っていれば責任を追及したい気持ちになるのも当然であろう。
眼科医の事例であるならば、必死に処置してくれた眼科医に対して感謝すべきだとの意見もあるだろうし、被害者の身としては間違った処置をした医者に対して批判したい気持ちもあるだろう。
個人的には主観面を強調しすぎる法律は両当事者に妥当な結果を産みにくいように思っている。
どこかの国では「国を愛する為ならどんなことをしても無罪」みたいな考え方があるらしいが、この主観面を調教しすぎた考えが妥当ではないことはよくわかるだろう。

「その人のためを思ってしたことならよほどのことがない限り責任はない」という考えよりも現状の日本の事務管理に関する法律の方が妥当だとは思いつつ、そのような法律が宅配便を預からない近所の希薄さを産んだり、飛行機内での医者の申告を躊躇させる原因となっているのでは寂しいと思うのが私の考えである。

【テーマ】小説「告白」についてなど   ハッタリスト

  • 2012.10.28 Sunday
  • 12:08
「告白」という小説をご存じでしょうか。
湊かなえではないです。残念ながらそちらは知りません。
町田康のほうです。
かの有名なブログ「朝早く起きるための100の方法」でも「すごい」と評されている、すごい小説です。
http://strongstyle.dreamlog.jp/archives/51401985.html

小説というものは「ウソをもっともらしくつづったもの」であり(藤子・F・不二雄の表現です)、基本的にウソしか書いてありません。
僕が小説をあまり読まないのは、どうせ読むなら本当のことが書いてある本のほうがいいから、という理由も少しあります。
でも、小説でしか書けない本当のこともあると思うのです。気持ちとか想いとか、そういったものです。

言葉にできない気持ちを無理やり言葉にすると「太陽のせいだ」とかそんな感じになったりしてしまうのかもしれませんが、「告白」ではかなりまともに文章にしています。
主人公の経験を最初から語るという方法によるため、結構長いです。そもそも最初ってなんだ、という大変さもありますので。
しかしその甲斐あって、物語の終わり近くでの告白では主人公の気持ちというか想いというか、そういったものが非常に強く伝わります。
物語そのものは虚構ですが、その気持ちは本当だと思うのです。

「告白」に限らず、荒唐無稽な物語であっても、この気持ちは本当なんだろうと思うことは時々あります。
そういうふうに感じた人が現実のどこかにいて、それを表したものが作品の中にあるならば、その気持ち以外の部分がウソで塗り固められていてもかまいません。
むしろウソである方がよりはっきりと表せることもあって、だから小説という形をとるのでしょう。
ノンフィクションというジャンルがあるのもそれで、実話をもとにした小説はやはり実話ではないのです。

世の中とかそのような何かに向かってわめきたいような気持ち、しかし何をわめけばよいかもよくわからないような気持ちがはっきり伝わるという点において、「告白」はすばらしい小説であると思います。

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