ホームタウン・ユニコーン Mr.ホワイト
- 2012.05.31 Thursday
- 22:44
5月になると必ず思い出すのは、故郷三田の風景です。
兵庫県三田市は、大阪から北西に向かうJR福知山線に乗って約40分、
山を越え谷を超えてやっとたどり着く、近畿のシベリアとも呼ばれる町です。
とりわけ宝塚からさらに奥へ行く道のりは険しく、山の中にぶち抜いた長いトンネルを、
騒音など気にする必要がない電車は、すさまじいスピードで駆け抜けていくのです。
あれは確か、5年前の5月だったように思います。
その頃、私は大学を卒業していましたが、職にはつかず資格の勉強をしていました。
何度か書いたように思いますが、金も時間も友もなく、
とても受かるとは思えない合格率の試験に挑む孤独な戦いは、
狂気の一歩手前でギリギリの綱渡りをするような危うさがありました。
音楽だけを唯一の救いとして、何とか狂気を押さえ込んでいたのです。
そのときも私は陰鬱にビートルズの「ホワイト・アルバム」を聴きながら、
JR福知山線の長いトンネルを駆け抜ける電車の轟音の中で勉強していました。
長いトンネルを抜けると、そこに現れた風景に私は息をのみました。
5月になり水入れを終えたばかりの水田に、空が鮮やかに反射しているのです。
夕闇に少し藍色に染まった空が、空に浮かぶ白い雲が、すべて地面に映っています。
電車は水鏡の水田の中を、カタンコトンと小気味よく走っていきます。
海の上を走っているような、空の間を走っているような、不思議な感覚です。
空と空の間のあぜ道に、部活帰りの女子高生が自転車をゆっくりとこいでいるのが見えました。
私の母校の制服を着た彼女は、校則違反の長い髪を風になびかせていて、
風に流れる髪の向こうに田んぼがキラキラと輝いているのが見えます。
藍色の空。うっすらと白く光る月。薄むらさきに染まる雲。
黒い髪。白いセーラー服。それらをすべて反射する鏡のような水田。
私は教科書を閉じてその風景にうっとりと見とれていました。
故郷が有しているのは、一種の処女性かもしれないと、
涙が出そうになるのをこらえながら、なぜかそんな考えが頭に浮かんでいました。
兵庫県三田市は、大阪から北西に向かうJR福知山線に乗って約40分、
山を越え谷を超えてやっとたどり着く、近畿のシベリアとも呼ばれる町です。
とりわけ宝塚からさらに奥へ行く道のりは険しく、山の中にぶち抜いた長いトンネルを、
騒音など気にする必要がない電車は、すさまじいスピードで駆け抜けていくのです。
あれは確か、5年前の5月だったように思います。
その頃、私は大学を卒業していましたが、職にはつかず資格の勉強をしていました。
何度か書いたように思いますが、金も時間も友もなく、
とても受かるとは思えない合格率の試験に挑む孤独な戦いは、
狂気の一歩手前でギリギリの綱渡りをするような危うさがありました。
音楽だけを唯一の救いとして、何とか狂気を押さえ込んでいたのです。
そのときも私は陰鬱にビートルズの「ホワイト・アルバム」を聴きながら、
JR福知山線の長いトンネルを駆け抜ける電車の轟音の中で勉強していました。
長いトンネルを抜けると、そこに現れた風景に私は息をのみました。
5月になり水入れを終えたばかりの水田に、空が鮮やかに反射しているのです。
夕闇に少し藍色に染まった空が、空に浮かぶ白い雲が、すべて地面に映っています。
電車は水鏡の水田の中を、カタンコトンと小気味よく走っていきます。
海の上を走っているような、空の間を走っているような、不思議な感覚です。
空と空の間のあぜ道に、部活帰りの女子高生が自転車をゆっくりとこいでいるのが見えました。
私の母校の制服を着た彼女は、校則違反の長い髪を風になびかせていて、
風に流れる髪の向こうに田んぼがキラキラと輝いているのが見えます。
藍色の空。うっすらと白く光る月。薄むらさきに染まる雲。
黒い髪。白いセーラー服。それらをすべて反射する鏡のような水田。
私は教科書を閉じてその風景にうっとりと見とれていました。
故郷が有しているのは、一種の処女性かもしれないと、
涙が出そうになるのをこらえながら、なぜかそんな考えが頭に浮かんでいました。