バイバイ・キング(1) がりは
- 2012.04.30 Monday
- 17:51
「バイバイキーン」
この仕事を始めて三十年になる。
初めはいろいろとあった。
仕事のやり方についてぶつかったこともあるし、夜を徹して青臭い議論もした。
子供がいじめられた時は辛かった。
その時はさすがに少しシナリオを変更してもらって、俺様にも見せ場を作ってもらった。
丸顔のあの男とも長い付き合いだ。
三十年、冗談を言うでもなく、酒が飲めるわけでもなく、何が面白いのかわからないがこの仕事を続けている。
最近筋肉が落ちてきて、あの赤いスーツが合わなくなってきたと真顔でこぼしていた。
まずそのスーツの色から何とかしろよ、俺様みたいに黒でシックに決めてみろよ、と混ぜっ返しても情けなく眉尻を下げるだけだった。
俺様たちの殺陣は最近では緊張感のかけらもなく、俺様がえーい、で奴があんぱーんち、バイバイキーン、と言う具合の腑抜けぶりだ。
昔は本当に思想的にぶつかっていたので、シナリオが壊れないギリギリの所まで追い込んだもんだった。
筋トレを怠らず、メカの出力装置をいじったりして、こちらが心配になるくらいあいつを追い込んだことが何度もあった。
お互い家族を持って、付き合い方が少し変わった。
示し合わせたわけではないが、俺様も決められたコース(大抵は万力で緩めに締める)でいくし、あいつもマシーンを殴るだけで俺様を直接殴ることはない。
バイバイキーンがよく通るようにスピーカーには打撃を与えない細やかさだ。
俺様達もそろそろキャリアの終え方を考えなくてはならない。
それにふさわしいシナリオとはどんなものだろうか。
悪役は悪役で終わるべきなのだろうか。
それとも懲悪後に勧善された感じでみんな手を取り合って喜びあうようなハッピーエンドか。
シナリオを書く王とよく相談しなくてはならぬ。
一時は子供に継がそうかと考えたこともある。
奴にそれとなく相談したら、「こんな哀しい商売、僕らで終わりにしようよ。」と言われた。
「お前といたから楽しかったよ、はひふへほ。」と口に出そうになったが、「お前のその優等生ぶった口調は何とかならないのか?俺様みたいにもっと自由にしゃべってみろよ。」とごまかした。
子供もいいところに就職した。
孫もできた。
仕事が終わって孫を抱くのは何よりの幸せだ。
愛と勇気だけが友達だ、と尖っていた奴もやはり孫を抱くのだろうか。
抱いて笑うのだろうか。
この仕事を始めて三十年になる。
初めはいろいろとあった。
仕事のやり方についてぶつかったこともあるし、夜を徹して青臭い議論もした。
子供がいじめられた時は辛かった。
その時はさすがに少しシナリオを変更してもらって、俺様にも見せ場を作ってもらった。
丸顔のあの男とも長い付き合いだ。
三十年、冗談を言うでもなく、酒が飲めるわけでもなく、何が面白いのかわからないがこの仕事を続けている。
最近筋肉が落ちてきて、あの赤いスーツが合わなくなってきたと真顔でこぼしていた。
まずそのスーツの色から何とかしろよ、俺様みたいに黒でシックに決めてみろよ、と混ぜっ返しても情けなく眉尻を下げるだけだった。
俺様たちの殺陣は最近では緊張感のかけらもなく、俺様がえーい、で奴があんぱーんち、バイバイキーン、と言う具合の腑抜けぶりだ。
昔は本当に思想的にぶつかっていたので、シナリオが壊れないギリギリの所まで追い込んだもんだった。
筋トレを怠らず、メカの出力装置をいじったりして、こちらが心配になるくらいあいつを追い込んだことが何度もあった。
お互い家族を持って、付き合い方が少し変わった。
示し合わせたわけではないが、俺様も決められたコース(大抵は万力で緩めに締める)でいくし、あいつもマシーンを殴るだけで俺様を直接殴ることはない。
バイバイキーンがよく通るようにスピーカーには打撃を与えない細やかさだ。
俺様達もそろそろキャリアの終え方を考えなくてはならない。
それにふさわしいシナリオとはどんなものだろうか。
悪役は悪役で終わるべきなのだろうか。
それとも懲悪後に勧善された感じでみんな手を取り合って喜びあうようなハッピーエンドか。
シナリオを書く王とよく相談しなくてはならぬ。
一時は子供に継がそうかと考えたこともある。
奴にそれとなく相談したら、「こんな哀しい商売、僕らで終わりにしようよ。」と言われた。
「お前といたから楽しかったよ、はひふへほ。」と口に出そうになったが、「お前のその優等生ぶった口調は何とかならないのか?俺様みたいにもっと自由にしゃべってみろよ。」とごまかした。
子供もいいところに就職した。
孫もできた。
仕事が終わって孫を抱くのは何よりの幸せだ。
愛と勇気だけが友達だ、と尖っていた奴もやはり孫を抱くのだろうか。
抱いて笑うのだろうか。