バイバイ・キング(1)  がりは

  • 2012.04.30 Monday
  • 17:51
「バイバイキーン」
この仕事を始めて三十年になる。
初めはいろいろとあった。
仕事のやり方についてぶつかったこともあるし、夜を徹して青臭い議論もした。
子供がいじめられた時は辛かった。
その時はさすがに少しシナリオを変更してもらって、俺様にも見せ場を作ってもらった。
丸顔のあの男とも長い付き合いだ。
三十年、冗談を言うでもなく、酒が飲めるわけでもなく、何が面白いのかわからないがこの仕事を続けている。
最近筋肉が落ちてきて、あの赤いスーツが合わなくなってきたと真顔でこぼしていた。
まずそのスーツの色から何とかしろよ、俺様みたいに黒でシックに決めてみろよ、と混ぜっ返しても情けなく眉尻を下げるだけだった。
俺様たちの殺陣は最近では緊張感のかけらもなく、俺様がえーい、で奴があんぱーんち、バイバイキーン、と言う具合の腑抜けぶりだ。
昔は本当に思想的にぶつかっていたので、シナリオが壊れないギリギリの所まで追い込んだもんだった。
筋トレを怠らず、メカの出力装置をいじったりして、こちらが心配になるくらいあいつを追い込んだことが何度もあった。
お互い家族を持って、付き合い方が少し変わった。
示し合わせたわけではないが、俺様も決められたコース(大抵は万力で緩めに締める)でいくし、あいつもマシーンを殴るだけで俺様を直接殴ることはない。
バイバイキーンがよく通るようにスピーカーには打撃を与えない細やかさだ。

俺様達もそろそろキャリアの終え方を考えなくてはならない。
それにふさわしいシナリオとはどんなものだろうか。
悪役は悪役で終わるべきなのだろうか。
それとも懲悪後に勧善された感じでみんな手を取り合って喜びあうようなハッピーエンドか。
シナリオを書く王とよく相談しなくてはならぬ。
一時は子供に継がそうかと考えたこともある。
奴にそれとなく相談したら、「こんな哀しい商売、僕らで終わりにしようよ。」と言われた。
「お前といたから楽しかったよ、はひふへほ。」と口に出そうになったが、「お前のその優等生ぶった口調は何とかならないのか?俺様みたいにもっと自由にしゃべってみろよ。」とごまかした。
子供もいいところに就職した。
孫もできた。
仕事が終わって孫を抱くのは何よりの幸せだ。
愛と勇気だけが友達だ、と尖っていた奴もやはり孫を抱くのだろうか。
抱いて笑うのだろうか。

バイバイ・キング(2)  がりは

  • 2012.04.30 Monday
  • 17:50
定年の一日前に王からシナリオが届いた。
俺様は激怒した。
必ずやあの邪知暴虐の王を取り除かねばならぬと。
俺様には政治はわからぬ。
ただ、あいつだけは許せん。


王から届いたシナリオには、俺様が出てこなかった。
そして今まで三十年間の俺様の悪事は全てアンパンマンのせいにされ、この三十年間のストーリーはアンパンマンが悪事を隠ぺいするために仕組んだ出来レースであったことを、王が暴き、アンパンマンが断罪されカビルンルンだらけにされて街に平和が戻るというストーリーだった。
こんなバカなことがあるか。
俺様と奴のライバルストーリーが一気に奴の猿芝居にぺろっと騙された間抜けな俺様、というチープな話になっている。
見続けてくれたファンはどうなる。
子供たちはどうする。
俺様のことはいい、誰よりも真面目に働いてきた丸顔のあいつを馬鹿にすることは俺様が絶対に許さん!
大体三十年間アンパンマンに顔を放り続けてきたお前の責任はどうなるのだ。
どの面を下げて悪事を暴くというのか。
最終決戦用に開発していたマシーンで王のパン工場に乗り込もうとしたが、「あなた、ご飯よ」と呼ぶドキンの声で少し冷静になった。

あいつの元を訪ねたのはその日の夜中だった。
外から奴の書斎の窓を見るとまだ灯りがついていた。
あいつも怒りで眠れないのだろう。
外から軽くノックした。
「どうしたんだい、バイキンマン。こんな遅くに。何か困ったのかい?」
「どーしたんだいじゃないだろう。シナリオを読んだだろ。」
「読んだよ。まあ仕方ないね。シナリオだし。」
「おいおいおーい。お前頭ついてるのか?アンコ腐ってるんじゃないのか?」
「今日も取り変えてもらったばかりだよ。元気!百倍!アンパンマン!」
「なあ頼むよー。しっかりしてくれよ−。いいのかよ、お前裏切り者にされて殺されちゃうんだぞ。」
「どこにも死ぬとは書いてないじゃないか。」
「かびるんるんの恐ろしさを知らないわけじゃないだろ?俺様と違ってあいつらは加減がきかないのだ。死ぬぞ。」
「いいんだー。僕、今まで幸せだったから。子供ももう大きくなったし、大丈夫!」

結局話は平行線をたどり、朝を迎えてしまった。

バイバイ・キング(3)  がりは

  • 2012.04.30 Monday
  • 17:47
主役になれると言い含められて大喜びのかびるんるんの付き添いのような形で、俺様は出勤した。
いつも通りに進むが、いつもと違うのは俺様に出番がないことだ。
隅から見守っていると王がしゃしゃり出てきて大きな声で決めつけた。
「おのれアンパンマン!よくも今まで騙したな!許さないぞ!」
「な、なぜばれたー。」
奴の棒読みのセリフに思わず笑ってしまった。
「行け!かびるんるん!正義の力を見せてやれ!」
「うわー。力が出ないよ・・・。」

シナリオではここでアンパンマンが謝り、王が新しい顔を授けて改めて反省の弁を述べさせ、アンパンマンは街を追われ、平和が戻ってくることになっていた。

「ジャムおじさん、街のみなさん、ごめんなさーい。」
「なんじゃと、聞こえないなあ。心まで悪に染まっておったか。ほれ、かびるんるん、もっとやらないか。」
「じゃ・・・む・・」

俺の感情よりも体が先に動いた。
「いい加減にしろ!戻れ!かびるんるん!!」
「な、なんじゃ。」
「黙って聞いてればいい気になりやがって。」
「お前なんぞに何ができる。ただのバイ菌のくせに。」
「くらえ、バイ菌ハンマー!」
出力を普段の十倍にしたバイ菌ハンマーを左手だけでやすやすと受け止めた王の平板な目がギラリと光った。
「いかんなあ。大人しくしておればよかったものを。」
左手をグイッとひねるとハンマーが折れた。
「なめてもらっちゃ困るね、バイキンマンくん。」
右、左、右、左、と素早く重い平手打ちが飛んでくる。
突然ボディーに重たい一発をもらい、膝が折れた。
胃液があふれ出てきた。
かびるんるんが心配して集まってくる。
「どっか行ってろ。やられちまうぞ。」
「ふんー!」
倍くらいの大きさに膨らんだジャムおじさんは鼻息だけでかびるんるんを吹き飛ばしてしまった。
立とうとしたが力が入らない。
四つん這いで見ていることしかできない。

カレーパンマン、釜めしどん、天丼マンが出てきて合体攻撃を仕掛けた。
ジャムおじさんの目をカレーパンマンのカレーでふさぐことには成功したが、闇雲に振るったその毛むくじゃらの腕で全員強く地面に叩きつけられてしまった。
ぴくりとも動かない。

バイバイ・キング(4)  がりは

  • 2012.04.30 Monday
  • 17:45
隅で震え頭を抱えている食パンマン。
「どうしてだ・・・。どうしてみんなシナリオ通りにやらないんだ。大人しくしておけば王の怒りに触れることもなかったのに・・・。」
食パンマンを押しのけてメロンパンナとロールパンナがかかっていった。
姉妹のコンビネーションを見せるべく、メロンパンナの左掌底(めろめろパンチ)を見せ球に、ジャムのガードが上がってがら空きになるはずのボディーをロールパンナが狙った。
「笑止。」
ジャムおじさんはめろめろパンチを顔面で受け、ロールパンナのリボンを手繰り寄せて両手でがっしりと掴み、切り込みを入れ、ソーセージを挟んだ。
そして食べてしまった。
掌底を入れたまま動けないでいるメロンパンナをつまみ、
「わしはもうお前にめろめろじゃよ。ほーっほっほ。」
と言うや否や頭から食べてしまった。
「目が見えなくてもこうすれば捕まえられる。ふぉーっふぉっふぉっふぉ。」
あまりのことに声を失うまちのみんな。
一分ほど静寂が続いた後、誰かが高い声で叫びながら逃げだすと一斉にみんな逃げだした。
「カレーが目にしみるわい。」
顔をぬぐいながらのヤクザキックがカレーパンマンを襲う。
「役立たずが。」
釜めしドンの両足を抱え、ジャイアントスイング。
釜の中身が全て出てしまっただろう。
「身の程知らずが。」
天丼マンを立たせて脇の下に頭を抱え込み、逆さまに持ち上げて頭から垂直に落とした。
割れる丼。

突然、銃声がした。
食パンマンがまだ煙の立った銃を構えて立っていた。
「こんなことしたくなかったんだ。」
震える声で言う。
「みんながシナリオ通りやらないから。」
「そうじゃよな。シナリオは守らないとなあ。」
びくっと震える食パンマン。
「なに!もう一発だ!」
と言いながらパンパンパンと三発。
「ふぉっふぉっふぉ。」
「確かに当ったはずなのに!」
「これのことか。」
ジャムおじさんは右手をまっすぐに伸ばし、握った拳を開いた。
ぱらぱらと何かが落ちる。
おそらく銃弾だろう。

「どうしたんじゃ?みんな真実がみたいんじゃろ?」
ゆっくりと歩を進めるジャム。
みんな消えてしまった。
「くずどもの三文芝居の舞台裏じゃよ。まあ、シナリオを書いていたのはわしじゃがな。ふぉっふぉっふぉっふぉ。」
俺は急に自分の体が動くことを認識した。
ジャムは俺に背を向けて、食パンマンに真っすぐ向かっている。
俺はこの日のために開発したバイキンマン号に向かった。
8本のアームに8種の武器を装着した最高傑作だ。
武器が重すぎて自由に飛べるようにするのに苦労した。

バイバイ・キング(5)  がりは

  • 2012.04.30 Monday
  • 17:44
「だからー。お見通しなんだよ。」
匍匐前進していた俺の目の前に茶色いブーツが見えた。
あいつか。
顔を上げる暇もなく顎を蹴りあげられた。
名犬チーズだ。
「なめんなよ、バイキンマン。屑のくせに。」
喉元を踏みつけてくる。
「お前は大人しくしてればいいんだよ。今までみたいにな。はひふへほ、て言ってろよ。」
調子に乗って片足から両足に移行しようとしたところを足首を取ってアンクルホールドに切ってとる。
そこからSTFに移行。
タップしても離すことなく、フェースロックからスリーパーに移行。
落ちたのを確認して立った。
思えばこいつもかわいそうな奴だった。
台詞を与えられたこともなく、アンアン吠え続けるだけ。
なあ、何が楽しかったんだ?
なんでまだお前はジャムにつくんだ?

食パンマンはジャムの前に這いつくばっている。
「私はジャムおじさまに生涯忠誠を誓います。」
「そうだよな。それでこそパンだよな。」

「食パンマン様!そんなことでいいの?」
泣きながら二人の間に駆け込んできたのはドキンだ。
あいつはまだ三文芝居が続いていると思っているのか。
「ドキンさん!下がって!」
「そんな食パンマン様みたくないわ!」
「おーおーどきんちゃん。今までありがとう。もう終わったんだよ。」
軽々とドキンをはねのけるジャム。
「そこまでしなくてもいいじゃありませんか!あんまりです!」
「うるさい!お前はこうだ!」
ドボドボと牛乳を掛けられ、ふにゃふにゃになった食パンマン。
ジャムがドキンに近付いていき、彼女のマスクを剥いだ。
ウェービーな金髪がこぼれる。
顔を覆ったドキンにジャムが近付いて行く。
「誰も見てないぞ。隠しても意味がないぞ。さあ次はどこを剥いでやろうか。」

ドキン、もう少しの辛抱だ、待っていてくれ。
俺は走った。
素早く愛機に乗り込み離陸。
ジャムの上を素早く通り過ぎ、パン工場に火を放った。
そしてUターンをし、ジャムの前に降りた。

「随分勇気があるじゃないか。バイキンマンのくせに。大人しく逃げておけば許してやったものを。」
「もううんざりだ!」
「今回お前の台詞はないんだよ。大人しく死ね!」
ジャムに向かって鋸とハンマーとドリルで襲いかかるが、さばかれてこんがらがってしまった。
長年の殺陣の癖は取れない。
俺が脱出すると同時に爆発してしまった。
熱風が俺の頬をなでる。

バイバイ・キング(6)  がりは

  • 2012.04.30 Monday
  • 17:41
その時目の端にあの女の姿が目に入る。
時間を稼がなければ。
「はああああ」
両手を合わせ、ゆっくりと右脇に持って行きながら右足を引き腰を落としていく。
「無駄じゃよ、バイキンマン。」
「ひいいいい」
右下に落としていた視線をゆっくりとジャムの方に向ける。
「まあ、最後だし見てやるか。」
「ふうううう」
合わせた両手を手首だけ付けたまま開いていく。
「話にならんな。そんなことだから茶番でしか生きていけないんだ。」
「へええええ」
手首に仕込んだ強烈なライトを点火する。
「どうした。仕上げは。」
「へええええええええ。」
「はひふへ、ときたら『ほ』だろうが。」
ずんずんと近付いてくる。
あいつの打撃は重い。
次に食らったら立ち直れない。
早くしろ。
「へええええええええええええ。」
「どうしたどうした。」
なぶるように右、左とビンタをされる。
「どうしたどうしたどうした」

「ほ、を言っていいのか。お前、本当に死んじゃうぞ。」
「構わんよ、屑が。やってみろ。」
「本当の本当にいいのか。」
「できないんだろうが。」
苛立ったようにビンタが早く強くなる。
立っているのが難しくなってきた。
腰が浮く。
「教えてやろう!ほ、ほ、ほ、ほ、ほ」
ビンタがどんどん早くなった。

突然、ビンタが止まる。
「おせえよ!」
「待たせたな!バイキンマン!!」

やっと間にあったアンパンマンがジャムの口にカビだらけになった古い自分の顔を突っ込んだ。
後頭部を左手で押さえ、右手のアンパンチで口の中に顔を押し込む。
「バイキンマン、とどめを頼む。」
「わかった。」
アンパンマンがジャムの頭を押さえ、俺が右の拳でアンパンを押し込む。
「バイバイ、キング!!


「まったく遅かったぜ。」
「はひふへ、へ、へ、てやってるから笑いをかみ殺すのに大変だったんだよ。」
「はひい。俺様のほっぺた、どうなってる?」
「だいぶ顔色が良くなったんじゃないの?」
「バタ子!」
アンパンマンの右肩に左手を掛けながらバタ子が顔を出した。
「すまなかった。悪人とはいえ肉親を目の前で・・・。謝りようもない。」
「あいつとは肉親でもなんでもないの。私も役割を演じてただけよ。」
「それは僕も知らなかったぞ。」
アンパンマンが驚いたように言った。
「夫にまで隠し続けてたのかよ。はーひい。」

「ちょっとぉ!私のことは忘れたわけ?許さないんだから!」
新しいマスクをつけたドキンがハンマーを持って走ってきた。

定年かと思っていたが、新しい物語を作るという仕事が俺たちの目の前に広がっている。

時計式  Mr.ヤマブキ

  • 2012.04.30 Monday
  • 05:51
 時計屋はどこにあるのでしょう?何としても時計屋を見つけ出さなければなりません。見て下さい、恐るべきスピードで進むこの腕時計の針を。何が原因かぼくには分かりません。ただ、時計屋を見つけなければならないのです。針の進みを遅らせなければなりません。
 しかし、街中を歩いても一向に時計屋は見つかりません。あるのは花屋ばかりです。どの花屋にも手のひらに蜘蛛を乗せた中年女性の店長がいて、にたにたこちらに笑いかけてくるばかりです。だれもいらっしゃいませとも言いません。耳が痛くなるほど静かなのです。ぼくは恐ろしくなって、もっと早足で歩きました。
 すると、ようやく花屋以外の店が見えてきました。そこは金づち屋でした。このままではらちが開かないので時計屋の場所を聞いてみることにしました。幸いなことに、店主は無害そうな老人です。

「時計屋はどこです?」
「時計?そんなことよりこの金槌を見てくれ。どうだこの重み、この光沢、この形」
「金槌などどうでもよいでしょう。見て下さい、この時計。こんなに針が早く進んでいるのです。時計屋が必要なのです」
「金槌がどうでもいい?分からんのか。人は壊すためにものを作る。お前さんのその下らん時計だってそのために作られたのだ。壊してしまえばいい」
「何をするのです」

 老人の怪力はぼくの腕を掴んで離しません。恐るべき力です。磁場の歪んだ方位磁針のようにくるくる回り続ける腕時計めがけて、金槌が振り下ろされました。見事、腕時計のガラスは粉々に砕け、針は動きを止めてしまいました。満足して力の緩んだ老人の腕を振り払い、ぼくは店を飛び出しました。
 一体、時計屋はどこにあるのでしょう。ぼくはひたすら進むしかありません。事実、ぼくはやたらめったら進んだのです。どこまでも突き進もうと思ったのです。ですが、道は進んだ倍は伸びて行くようで、見えるのは気持ちの悪い花屋ばかりなのです。きっと時計を壊されたせいで、時間の流れがおかしくなっているのでしょう。だとしたら、時を刻むことのできないぼくは、永遠にここから出られないということになるのでしょうか。
 こうなってはもう仕方がありませんでした。花屋に聞くのです。あの気味の悪い女性から、ここを抜け出す方法を聞くしかないのです。腹を括りました。
 目についた花屋を一つ選び、恐る恐る近づいて行きました。店長はにたにたこちらを向き、笑ったまま微動だにしません。

「あの」

 女は何も言いません。

「一体どうやったらここを出られるのですか」

 過剰な笑顔は一瞬真顔になったかと思うと、再びにたにた笑いへと戻りました。手のひらの上の蜘蛛はせわしなく左手を這い回っています。

「ねえ、教えて下さい。一体ぼくはどうすればいいのですか。時計屋はどこにあるのですか」

 女は右手を高く上げました。何の合図なのか分かりませんでしたから、とにかく、向かい合う左手を同じように上げてみました。すると女はその右手でぼくの左手を掴みました。これもまた恐ろしい怪力です。左手にいた蜘蛛は手のひらから首へと滑るように移動し、空いた左手で腕時計を掴まれました。女は鬼の様な形相を浮かべたかと思うと、あっという間に腕時計は粉々に潰れ、そして、何事も無かったかのように再び女は笑いを浮かべました。

「どうしてくれるのです」

 女は何も言いません。慌てて花屋を飛び出てみましたが、そこにあるのは一本の道と、その両脇に隙間なく並べられた無限の花屋でした。

 さて、時計屋はどこにあるのでしょう?

明るい悩み相談室PREMIER(36)〜字数制限〜  がりは

  • 2012.04.29 Sunday
  • 08:10
明るい悩み相談室PREMIER、本日の担当医がりはです。
こんばんは。
今日はどうされましたか?

「昨年の半ばまで、自分のブログを書いていましたが、
Twitterの「140字以下」というルールで書く方が楽しくなってしまい、
ブログが途絶えてしまいました。
さるさる日記は1000字以下、という制限がありましたし、
「字数制限」とブログ、というテーマで書いてもらえませんか?」

ほうほう、いいでしょう書きましょう。
悩み相談じゃないので答えません、というのは当相談室の理念に反します。

字数制限とブログということですが、ブログに限らず文字による創作活動ということで書きたいと思います。
ハードルがあるから高く飛べる、というのは誰しも経験があることではないでしょうか。
文学作品は長らく制限の中で育まれてきました。
漢詩をみてください。
五言絶句、七言絶句、対句などルールが厳しいです。
日本でも文化が進むに連れて五七五七七が定型かされ、さらに厳しいルールとして五七五のみ、季語が必要というわびさびの極北としての俳句が生まれます。
ルールがあるからこそそこに乗せられる情報も極大化していくわけですが。

ツイッターなぞ甘い、17文字で人を泣かせて見ろ、と日本人としては思うわけです。
縛りがあればこそ工夫が生まれるのです。
そういう意味で、あなたがブログよりも字数制限が厳しいツイッターに行くというのは、向上心の現れだと思います。
どうですか、いい作品は書けていますか。
逆に140字を書くことは楽しいでしょうが、その一つ一つを作品として成立させるのはかなり難しいと思います。
茂木健一郎の「連続ツイート」も十個で一個。
高橋源一郎の「小説ラジオ」も大体25〜40程度。
140字というのは字数としては中途半端、
縛りを入れるにしては長い、自由にいくとすると短い。
もちろん長い文章にもルールを導入する人はいます。
対句表現を多用する、5・7で音を揃えていく、韻を踏む、本歌取りを意識して書くなど俳句や短歌のルールを応用するとぐっと深みが増すと思います。
しかしその効用は俳句や短歌の時のそれほど、強く利きはしません。
あくまでスパイスとして、より効果的にストーリーを展開させるものです。
ツイッターであなたが何かを成したいのであれば、うまいルールを見つけるといいかもしれません。


別のサイドからも少し。
雑兵日記PREMIERは一回千字を基本としています。
八百字を切る物は基本的に認めていません。
超巨編「夢競馬の人々」を除けば大抵一話千字読み切りです。
標準のスピードで音読すると二分半。
さらっと楽しんでいただけるサイズでしょう。
これはたまたま今のブログの前に使っていた「さるさる日記」の仕様上の問題で千字までしか入力できなかったせいなのですが、提供者がよく考えていたのか、怪我の功名か、いいサイズであったようです。

我々が決めている千字程度という縛りは安眠剤としても作用します。
何かを作品として出すというのは覚悟がいります。
どこで筆を置くのか、もう手を入れなくていいのか、いつも悩みます。
でも、八百字を越えて千字近くでまとまったなら、ある程度安心して眠りにつくことができます。
この縛りがなければ、いつまでたっても一段落しないに違いありません。

ツイッターの刺激に飽きたら、たまには千字書いて私に送ってください。
わたしからハッガリーニに推薦しておきますから。

※明るい悩み相談室PREMIERではあなたのお悩みを受け付けております。
ブログにコメント、投票時にコメント、ハッガリーニにメール、電話、伝書鳩、のろし、などの手段でどうぞ。
ちなみに投票時のコメントでのお悩みには必ず回答いたします。

幻想サファリパーク  Mr.ヤマブキ

  • 2012.04.29 Sunday
  • 07:22
 本日はこの幻想サファリツアーにお集まりいただき誠にありがとうございます。バスガイドを務めさせていただきます、高階と申します。最後までお付き合いどうぞよろしくお願い致します。
 えー早速ですが、右手にユニコーンが見えて参りました。ご覧下さい。お父さん、お母さん、そして子供の3匹、家族連れでございます。どうやらこの池の水を飲みに来たようです。ユニコーンの角は古来より、どんな病も治す万能薬として長い間追い求められてきました。また、ユニコーンは処女を好むとされ貞潔の代名詞ともなっております。しかしご覧のようにメスのユニコーンもおり、その説は角をフロイト流に解釈した一つの寓話がそのまま伝わったものではないかと考えられております。
 次に左手に見えてきましたのはケンタウロスの一群でございます。食料となる木の実を探して群れで移動している所です。ケンタウロスと言いますと賢者としてのイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。例えば、ギリシャ神話ではケンタウロス族の賢者ケイローンが英雄アキレスを教育したとされています。ですが神話の中でもケイローンの知は例外的なものであるとされ、実際、ケンタウロスの知能は猿ほどであることが分かっています。さて皆さん、ケンタウロスの心臓はどこにあるかご存知でしょうか。私たちの常識では左胸と答えてしまいますが、そうではありません。馬の胴体にあるのです。もし内臓が人間と同じような構造であれば、あの巨大な下半身を支えることができないからです。半人半馬の体を支えるには大きな心臓が必要であり、大きな心臓を仕舞うには馬の胴体しかないという理由です。
 色々お話するうちに幻想サファリパークの目玉に辿りついたようです。ただの湖ではありません。少しお待ちください。湖の表面に波が立っているのが分かりますでしょうか。ああっ、飛び出してきました。そうです、龍です。こちらの龍はまだ若く、体長95m程になりますが、大きいものは1kmにもなると言われております。広く知られている通り龍は獰猛な性格で、本来ならば近づくことはできませんが、今回は特別にバスを降りることができます。座席前の方から順番にお立ちになって下車ください。はい、押さないでください。これで全員降りられたようですね。失礼ながらもバスの中よりお話させて頂きます。お分かりかとは思いますが、こちらの龍は大変お腹を空かせております。そこで餌には何を与えるのかと疑問に思われるかもしれません。実は龍の主食は人と言われております。あ、申し訳ありませんが扉の方も閉めさせて頂きます。驚かれた方も多いと思いますがご心配は要りません。龍に喰われた人間は必ず天国に辿り着くという言い伝えが残されております。
 さて、これで今回の幻想サファリツアーは以上となります。お付き合いどうもありがとうございました。バスガイドは高階、高階でございました。

How to play SHOGI   ハッタリスト

  • 2012.04.28 Saturday
  • 19:08
将棋を人に教えるのはどういう方法が良いだろうか、みたいなことをPREMIERで以前読んだ気がするのですが、ちょっと調べても見つかりませんでした。無念。
それはともかく、僕もほぼ初心者の人に将棋を教えたことがあるので、その時の話を書きます。

当時の僕は、「将棋の初心者は詰将棋から入るのが一番いい」という自分で作った仮説を信じていました。
それが正しいかどうか確かめるためにも、ほぼ初心者のその人に簡単な詰将棋を解いてもらうことから始めました。

初心者に将棋を教える最悪の方法は、教える側が玉一枚である19枚落ちのハンデで普通に対局することだと思います。
将棋を指す人なら想像できると思いますが、このルールならハンデを負っている経験者側が楽勝です(たぶん…)。初心者側の人がチェスなど他の似たようなボードゲームを知っているのでない限り、何枚駒を落とそうが何のハンデにもなりません。
それはほとんど当たり前のことですが、しかしそんなやり方で負けた初心者の方はたまったものではありません。イヤになってすぐに将棋をやめてしまうのもまた当たり前です。

一方、詰将棋なら全ての駒の動きを一度に覚える必要はないので、ひとつひとつの駒の特徴を覚えながら、将棋の目的である敵の玉を捕まえることを経験し、解いたときの達成感を楽しむこともできます。すばらしい。
というような理屈で、簡単な詰将棋を一緒に解いていきました。詰将棋は楽しんでくれていたようなので、それはそれで成功だったと思います。
数週間後、ある程度解けるようになったところで、それでは実戦をやってみましょうということになり、8枚落ちくらいで対局しました。

はっきり言って、僕は驚愕しました。
たったの数週間で驚くほど強くなったのか? いいえ、違います。

決して強くはない、当然です、初心者が時々詰将棋を解いていたレベルなのですから。
強烈に印象的だったのは、将棋の内容がおよそ初心者離れしていたことです。

ほとんど詰将棋でしか将棋を知らない初心者を想像してみてください。
その人は、最初の一手から最終盤の感覚で、相手の玉を寄せることしか考えていません。
「ヘボ将棋、王より飛車をかわいがり」という川柳などとは対極にある指し方で、まだまだ寄らない僕の玉を一段後ろへ落とすためだけに、平気で飛車を捨ててきました。
駒の損得の概念を全く持たず、遠巻きに攻めるという感覚もなく、今この一手で必ず敵玉を捕えるという気迫に満ち溢れた恐怖の初心者です。
我が身を顧みず猪突猛進に任務を遂行するサイボーグを見るような思いでした。

結局のところ、「将棋」と「詰将棋」はやはり別物であり、バランスというものを考えなければならない、これが当たり前の結論です。
その人とはその後しばらく対局による練習をして、通常の将棋の感覚を身につけてもらいました。
ただ、不必要に駒損を嫌がるといった初心者にありがちな感覚は全くなくて、詰将棋から始めたことによる癖のようなものは、良い意味でもある程度残ったように思います。
人にものを教えることは、なかなかに責任重大なことですね。

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