レディーファースト   ハッタリスト

  • 2012.03.31 Saturday
  • 23:41
この国にはレディーファーストの精神が足りないとか聞いたことがあるような気もしますが、たぶん気のせいでしょう。
今日は、文化がどうこうという話をちょろっと書きます。

僕がアメリカ東海岸側の地方都市に行ったときに、こういうことがありました。
ABCDEの5人くらいでおおよそ縦に並んで廊下を歩いていたとき、先頭のAさんがドアを手で押さえ先にどうぞと言って、後の4人に先を譲りました。歩く順番はBCDEAになります。
次にまたドアがあって、今度はBさんがドアを押さえて、順番はCDEABになりました。
そうやってぐるぐる先頭が後ろへ回るのを見て、自転車のロードレースみたいだと僕は思いました。

「先を譲る」というのはひとつの文化であると思うのです。
どうしてドアを手で押さえるかと言うと、押さえないと勝手に閉まるドアだったからです。
日本の伝統的なドアはスライディングドア、つまりふすまであり障子であるわけで、それも開けっ放しであることも多かったはず。手で押さえておく必要はありません。
時代による違いもあるはずだとは思いますが、あちらに「先を譲る」文化が存在する一因としてドアのことを挙げるのは、こじつけだとしてもそれほどひどいものではないのではないかと。

その某地方都市は自動車の運転も行儀が良くて、車同士でも相手に先を譲る人が多かったです。(車の運転に関しては日本は圧倒的にアジアだと僕は思います。偏見ですけど)
本屋に行ったときには3歳くらいの小さい女の子がドアを開けて押さえてくれて、サンキューと言ったら「ゆあうぇるか〜む♪」と歌うように返してくれました。
これ全て文化です。

レディーファーストという美徳も、この文化が下敷きにあることが前提だと思います。
相手が女性であろうとなかろうと先を譲ることは美徳である、そういう認識が共有されていてこそ、「特に相手が女性である場合は」という注釈に意味があるのではないでしょうか。
例えば「目上の人には礼儀正しくする」という儒教的文化も、相手が誰であれ礼儀正しいに越したことはないからこそのものでしょう。

日本でレディーファーストが普及(?)していないという説が仮に本当だとしても、相手が男性だと譲らないけれど女性なら譲るといった歪な形で今後広まっていくということはないだろうと思います。
別に、先を譲るのが偉いとかいう話でもないと思いますけどね。文化は文化です。

【テーマ】本屋を彷徨う  Mr.ヤマブキ

  • 2012.03.31 Saturday
  • 23:01
 ネットでの本購入は大変便利です。どこにいても、ワンクリックで本が買えます。特に、書店ではなかなか置いていない本が簡単に買えるメリットは大きいです。僕は田舎の出身で、高校の頃、調子に乗ってウィトゲンシュタイン全集(のうちの1冊)を買ってみたりもしましたが、そうした若気の至りもAma○on抜きにはできなかったでしょう。将棋と同じで、都会ではなく、田舎に住んでいる人ほどネットの恩恵を受けているのだと思います。

 しかし、だからと言って本屋での本購入に利点がないなんてことはありません。まず、即時性。いくら配達が早くても、ネットで買った本が一分後に到着するなんてことはあり得ません。

 そして、周辺情報の多さ、です。これは電子辞書でも言われたりすることですが、ネットから与えられる情報は、自分でアクセスしない限りピンポイントになりがちです。本屋だとなんとなく興味のあるコーナーに行って、そこの本棚をざっと眺めてみると面白い発見があるものです。

 僕が本屋に入るのは、飲み会でビックマン集合のとき、少し早く着いたから紀伊国屋に行こう、という場合がほとんどです。周辺情報の多さ、という利点を生かして、少し興味がある、または全くこれまで見向きもしなかったようなジャンルのコーナーへ行きます。

 自分のよく知る分野の本棚では、おおよそどんな本が置かれているか、ある程度把握しているものですが、知らない分野では発見の連続です。

 じっと見ていると、こんなタイトルの本があるのか、こんな内容の本があるのか、と驚きます。本当は、この文章の中でありもしない本を想像して、あんな本やこんな本があったんです、と平気な顔で嘘をつくという構成にしようと思っていたのですが、いくつか思いついたありもしない本が、似たような形で存在してしまうので断念しました。無制限と思われる空想が本の豊饒さに敗れたとも言えます。

 そんな本の世界なので、是非一度、ふらふらっと大型書店で知らない分野へ足を運ばれることをお勧めします。知らない街を彷徨うような面白さがあると思います。

【テーマ】本屋は本のみを売るにあらず  ミスターピンク

  • 2012.03.30 Friday
  • 23:50
本屋に行ったら何をするか、ですって?

本を買うに決まっているじゃないですか。
他に何があるって言うんです?
なんて言うと思ったら大間違い、本屋は本のみを売るにあらず、大きい本屋では結構いろいろ売っていますからね。

そう、まずはカレンダー。

カレンダーはもらうものであって買うものではない、そう思っていませんか?
私はそう思っていますよ、だから見るだけです。
ふむ、これはなかなか良いモノですね。

次は文房具。

ボールペンを試し書き。
さらさらり。
ほう、これはジェル?が滑らかで?筆が進みそうですね。
買いませんけど。

手帳。

高級感あふれる手帳を使えばスケジュールの進行も捗ること間違いなし。
月曜日から始まっているところが働く男の一週間をさりげなく演出していますね。
値札を見たら八百円也。
高級であるが故の高級感。

絵ハガキ。

私は絵ハガキの使い道がいまいち分かりませんで、飾って眺めるくらいしか思いつかないんですけれども、それじゃあハガキである必要はなさそうです。
ですが飾って眺める分には裏に、いや表に?ともかく絵が描いてない側に何があってもいいわけで、それならハガキにしちまえ。
こうして絵ハガキが誕生したのでございます。

地球儀。

大きいものから小さいものまで、よく回ります。
中でも最近の流行りはこれ、月球儀。
それ地球儀じゃないでしょ、はいその通りです。
これさえあれば、不慣れな月の旅も快適ですね。

パズル。

クロスワードやナンプレじゃありませんよ。
ルービックキューブ、知恵の輪、そしてきのこの山パズル。
皆さんご存知ですよね、きのこの山パズル。
優秀な本屋はきのこの山パズルくらいは置いてくれないと困りますね。

最後は、スキー板?

さすが昨今の本屋は何でもそろっていますね。
え?違う?
すみません、これは隣の店の商品でした。
嫌ですよ、そんなもの本屋で売っているわけありませんよ。

そんなわけなので、本屋にさえ行けばスキー板以外はだいたい何でも買えるんですよ。
じゃあ何を買うのか、ですって?

そりゃあ本を買いますよ、本屋ですからね。

地図恐怖症  Mr.ヤマブキ

  • 2012.03.29 Thursday
  • 23:52
 高所恐怖症は珍しいことではないと思います。ですが、高所恐怖症が高じて、地図が高所に見えてしまう人はなかなかいないのではないでしょうか。お察しの通り、ぼくはその珍しい、地図恐怖症なのです。

 これだけでは分からないかもしれません。地図が高所に見えるというのは、体感しなければピンと来ないのかもしれません。しかし、航空地図を思い浮かべて下さい。あれはまさに上空からの視点そのものと言っていいでしょう。写真というフレームさえなければ高所なのです。ですから、地図恐怖症はフレームの認識に何らかの異常が起こったのではないかと思うのです。

 その日は友人と街で食事をする予定でした。店はぼくがインターネットで見つけ、予約しました。そこは僕も初めての店で、携帯電話で道を調べるしかありません。そのときでした。突如として地図は街へと変貌し、ぼくはさながら飛べない鳥のような感覚に襲われたのです。そして地図であったはずのものははっきりと重力を持っていて、ぼくを街の中へ引きずり落とそうとしました。これはいけないと思い、さっと顔を上げると、目の前には友人がいました。彼は、心配そうに僕を見つめていました。

「ねえ、先生。どう思われますか?僕は治るんでしょうか?こんな変わった恐怖症を持っていたら、恥ずかしくて街を歩けません」

 複雑な社会には、考えたことも無いような需要がある一方で、考えたことも無いような供給もあるものです。その開業医の看板はこうでした。「恐怖症専門(対人、閉所、先端、鏡、地図、木目、サバンナ、白菜…)」。

「これまで23例の患者を診ましたが、皆すっかり回復しました。心配は要りません」

 カーテンの閉め切られた診療室で、瓶底眼鏡の中年医師はピクリとも顔を動かさず、そう言いました。

「日本恐怖症学会をご存知ですか?恐怖症治療の成績に応じて補助金が出るのです。一人でも治せないとガクっと金額が下がりますから、その意味でもあなたを治療しなければならないのです。補助金が無ければこの病院は潰れてしまいますから」

 純粋な隣人愛からの治療というものを完全には信じられない僕にとって、そうした理由は逆に僕を納得させ、安心させるものでした。

 医師は、色白で枯れ木のように痩せた女の看護師に、大きな黒い箱を持って来させました。何かの機械のようでした。医師は診療室の奥からヘルメットのような機械を取り出し、黒い機械とコードを繋ぎ、ぼくの頭にかぶせました。

「はい、力を抜いて」

 スイッチが入ると、機械は工事現場のような大きな音をたてはじめました。5分ほど、ぼくはそのまま座っていました。静かになったかと思うと、医師はヘルメットを外しました。

「ではこれを見て下さい。どうです?」

 地図でした。そして徐々に地図は溶けて、描かれていたはずのT市上空が現れてくるのでした。

「ダメです。怖くて見ていられません」

 顔を上げると困惑した医師の顔がありました。失敗したのです。それも、初めてのです。医師は黙ったままでした。何か考えているようにも見えます。急に表情が明るくなったかと思うと、勢いよく地図を掴みました。

「もう一度これをよく見て下さい」

 新しい治療方法を思いついたのだと思い、いやいやながらも地図を見ることにしました。案の定、地図は溶け、体は地図内の地面へと引っ張られるのでした。

「怖いようでしたら彼女に支えてもらいましょう。そのまま地図を見ていて下さい」

 看護師がぼくの手を掴むと、いくらか不安が和らぎました。その間にも地図はどんどん溶けて行きます。もうほとんど地図の上空にいるのではないかと思われたときに、突然、彼女が手を離しました。すると体は真っ逆さまに地面へと向かい、慌てて視線を外そうとするのですが、周囲は全て空に代わっているのでした。地図に飲まれたのです。空からは声が聞こえて来ました。

「院長いいんですか」
「病院を守るためにはこれしかない」

 堅い地面はもうすぐそこです。

夢競馬の人々(61)  葉山悟

  • 2012.03.28 Wednesday
  • 23:33
高速道路が渋滞しているにも拘わらず、会長の運転する黒塗りのベンツは進行してゆく。
なぜか前の車が道を空け、空かない所は緊急車両が走る一番左側の車線に入って突き進んで行く。僕は運転免許を持たないし車にも乗らないから、道路事情や交通法規にも全く持って無知である。それでも会長の運転テクニックが秀でていることは判る。
「会長、運転がものすごくお上手ですね」と思わず口をついて出た言葉はお世辞でもべんちゃらでもなく本音だった。会長の運転はまさに車に乗っていることを感じさせない。しかしスピードは百キロ前後が維持されていて、そのことはスピードメーターを見て初めて認識されるのである。
会長から「昔、タクシーの運転手をやっていた」と聞かされて、僕は彼の運転テクニックを褒めたことを恥じた。なぜなら例えば騎手に「乗馬がお上手ですね」と声をかけたと同じ意味だと悟ったからである。その日の会長はとても寛いでいるように感じた。
いつもの黒い背広と真っ白なYシャツではなく、ラフなブルーのセーターで、コットン地の白いパンツ姿だった。お付の者もSPもいない。いや実際のところ会長の車を護衛している車はあったのかも知れない。僕には会長が、お付の者もSPもいない状態を楽しんでいるように思えた。
信号が赤で停まった時、新聞記者の妻がポツリとつぶやいた。
「会長さん亡くなると0組はどうなるのでしょう・・・・・」
「そんなことお前さんが心配しなくとも、うまくやって行くさ。お前が心配しているのは跡目争いで、昔のようにドンパチが始まらないかということかな」
記者はハンドルに両手をつき助手席の妻を見た。
「サークルの・・・・」と彼女は言いかけて言葉を呑み込んでしまった。僕が乗っている事に初めて気が付いたかのように。
「それにしてもあのオヤジさん、誰が見ても認知症なんて思わないよね。誰彼なしに六百万円の馬券や宝くじのコピーを見せ、その挙句、馬券の買い方の講釈までするんだから。専門紙なんかみるな、って競馬を知らないのに説教までする始末さ。競馬サークル、お蔭様で順調にスタート出来ました。予想の方も目下五連勝で、これから連単や、3連複などの馬券にも手を広げようと思っています。何せ今はそのための基礎作り、資金作りですからね」

夢競馬の人々(60)  葉山悟

  • 2012.03.28 Wednesday
  • 23:29
競馬サークルの設立と、伝説の3連単ジャンボ宝くじオヤジがどう結びつくのか。新聞記者の妻は「信用が第一ですから」と強調するとあらためて僕の顔を睨みつけた。
「そのコンビニ経営のお父様がある人の紹介で私達のサークルに入会された。出資金3百万円をお支払いになって。ところがその息子さんから連絡が入って、どうしても退会したいって。父親は認知症で間違って入会したのですって。もう5回あまり配当金をお支払いしているんですが・・・。会則では一年間は入会金の返却が出来ないことになっているんです。それで明日お宅へお伺いすることになっているのですが、センセにも同行願えませんでしょうか?」
僕にとって入会や退会に関する事の顛末はどうでもいいことだった。六百万円の馬券を獲得した男が実は認知症だった、ということの方が衝撃的だったのだ。その真贋を確かめたいという気持ちが僕の中に強くあった。元々そのオヤジさんは競馬を知らないで馬券を買っていた。競馬に限らず競輪、オートレースなど自分の誕生日の数字が入っているギャンブルであれば手を出してしまうというのだ。しかも六千万円のジャンボ宝くじに二度も当たっていると、その証拠のくじと当選番号のコピーをいつも財布に入れて持ち歩いている。
僕は彼女の申し出を受け入れることにした。末期ガンでまさに消え行かんとしている会長の姿と、金縁眼鏡でひょうひょうとギャンブル場をさ迷い、当たり馬券と宝くじのコピーをひけらかす認知症のオヤジのコントラストがあまりにも極端なので、とりあえず気の赴くまま行動を起こしてみようと思ったのだ。
車を運転していたのは夫の記者の方だった。大金を持ち歩く時いつも背負うリュックサックを運転席の横に置いて「いやサークルの弁護士が認知症が確認されれば返金しなければならないって言うからさ、お金を用意してきたんです。何だか今からセンセと大勝負に出かけるような気分ですね」と笑った。
考えてみればこの夫妻の笑い顔に接するのは初めてのような気がする。しかしその和やかな雰囲気も話題が会長の症状に及ぶと様変わりしてしまった。
「集中治療室に入っていて、予断を許さない状況だって。関東だけじゃなく関西や九州からも幹部が続々駆けつけているんだけど、誰も会長の顔を見ることが出来ないらしいね。」
「あなた、そんな事より今は運転に集中して。事故を起こしてはすべてがパーですからね」
タクシーの運転手だったという会長の運転するベンツに乗った日の記憶が鮮やかに甦る

そこに本屋があるから byたりき

  • 2012.03.26 Monday
  • 23:44
ふらっと本屋に立ち寄ることって結構あります。
特に探している本があるわけでも時間つぶしをしなくちゃならないってわけでもなくて、ただそこに本屋があったからちょっとのぞいてみようかなって感じです。
そうやって入った本屋で思いがけず長居してしまうこともこれまた少なくありません。どうやって過ごしているんでしょうね。

将棋などの趣味のコーナーはチェックします。
といっても最近では買うことはまずないんですが。大概はその近くにある競馬や麻雀の本をちらっと立ち読みするくらいでしょうか。
将棋世界は大概雑誌コーナーにあってそれを立ち読みすることもありましたが、最近はほぼ毎月買っているのでそれもなくなりました。まあほんとに時間があるときにNHK将棋講座を読むくらいですかね。
さすがに麻雀の本はそれを読んで勉強になることがあるのかどうかもわからないので手に取ることは非常に稀ですが、競馬の本は真新しいものがあったら読んでみたりしますね。

雑誌コーナーでは野球に関するものも気になったりします。週刊ベースボールを毎週買っていた時期もありましたね。
いまちょうど春の選抜高校野球をやっていますが、夏の大会のときには雑誌を買ったりしたこともあります。表紙の写真にその一年前に甲子園で撮影したのであろうチアガールが載せてあるものがあって、それを見てつい買ってしまったりするわけです。
だらだらと高校野球を観戦できるのは残念ながら土日くらいなんですけどね。

マンガのコーナーはほとんど立ち寄ることがなくなりました。
もう数年前のことになるかと思いますが、買っていたマンガがすべて完結してしまったんですよね。かといって新しく集めようという気もないし、立ち読みできるわけじゃないですからねえ。
ただ、機会があれば大人買いしたいと思っているマンガは何種類かあって、いつかやっちゃうことがあるかもしれません。

文庫のコーナーは本屋に寄ると必ずと言っていいほど立ち寄りますね。
よく読む作家の新しい作品が出てないかなあとチェックしてるんでしょうかね。その作家のこれまでの作品をすべて読んでるというわけでもないんですが、ただなんとなく。
いろんな作家の作品を読もうとしていた時期は気になった本を手に取ったりしていましたが、いまはそれすらもあまりしなくなりました。
それでも文庫のコーナーはふらふらと見て回りますね。

だらだらと書いてみましたが、こうやっていろんなコーナーをうろうろすることが多いです。
大型店だったりすれば専門書のコーナーに意味もなく踏み込んだりもします。
ただ、結局のところ実際に買うのはほぼ将棋や競馬の雑誌だけなんですけどね。

【テーマ】「精霊、本屋を憂う」 by アフリカの精霊

  • 2012.03.25 Sunday
  • 17:03
本屋がどんどん潰れていっている。
原因はネット販売が増えたとも言われているが、万引きが多いことも理由らしい。
今日は私の経験した出来事を話そう。

元来、本屋に行く時は買う本を決めていくため、私の滞在時間は非常に短い。大規模店舗には行かず、地元の個人店舗のため平均すると店に入ってから本のある場所に行くのに5秒、金を払うのに10秒、出るのに5秒。合計20秒っていう感じである。
よって私が本屋に行く時は「何を見、何をする?」といったレベルのことをしない。

なのに、この日は違っていた。
時間を潰すため、本を物色するために入ったのだ。
小さい店舗とは言え、本の数はやはり多く題名だけを見て本を選ぶにしてもかなり時間がかかっていた。
ようやく本が決まるかなと思ったその時、急に入口のブザーが鳴った。
万引き防止用ブザーである。
見ると入り口付近を腹を抱えた中年が小走りに出ていった。
見方を変えれば、お腹が痛くなった人が出ていったとも解釈できる。
しかし、どう考えても怪しい人が出ていった。
それに続いて、それに素早く反応した店員が2名追いかけていった。

ここまでは良くある(?)万引きの場面である。
しかし、ここからが違うのである。
ここは個人でやっている小規模店舗。
店員が2名とも出ていくと店員が誰もいないのである。
しかも、5分たっても10分たっても帰って来ない。
まだ追いかけているのか、捕まえて警察に引き渡している途中なのかわからないが、帰って来ないのである。
さあ、想像してほしい。ここで客たちに不穏な空気が流れだすのである。
この状態こそ「万引きし放題」であり、もっと悪いことを考えれば「レジの金も…」という状態なのである。
小規模店舗ながら当然、客は10人程度いる。
お互いがお互いを監視しているっぽい雰囲気が流れた。
本屋に行き、他の客を見て監視することをしたのは初めてであった。

ある客が気まずさに負けて帰る中、女子高校生が「誰もいないからしゃーないな。お金ここにおいて帰ろ」とわざと周りに聞こえるよう大きな声で言ってから本代をレジにおいて帰った。思えば、この高校生も私と同じ気持ちだったからこそ、こういうことをいったのだろう。
さあ、続いてはおばちゃんである。
「1000円しかないからさっきの子のお金からお釣りもらっとくな」
誰に向かって言っているのであろう。誰もいないレジに向かって言っている。
おばちゃんは続ける。
「この本、880円やから1000円置いてっと…お釣りはひぃ、ふぅ…」
自分の置く金ともらうお釣りを宣言せずにはいられなかったのであろう。
なぜなら私も含め、他の客の目が全員おばちゃんに向かっている。
こんな中悪いことはしないのはわかりきっている。しかし見ざるを得なかったのだ。
おばちゃんは気まずそうに出ていった。
今度はおばちゃんの置いた1000円札に注目が集まる。
はっきり言ってみんな本など見ていない。
そうこうしている内に1000円札が風で飛び、私の足元に来た。
「来るな!」と思っていたが仕方ない。
「もうしょーないなぁ。風で飛ばんようにせんと。」
誰に言っているんだろうと思いながらも私は拾った上でネコババしませんよアピールをしながらレジに1000円を持っていき、飛ばないようにした。
ふと見ると、客全員が私を見ていた。

本屋では基本的に本を見るのが当然である。
しかし客が客を見、客の置いたお金を見るという貴重な体験をした。

10分後、帰ってきた店員はレジに置かれた1000円札と硬貨数枚を見ていた。

明るい悩み相談室PREMIER(27)  がりは

  • 2012.03.25 Sunday
  • 15:47
明るい悩み相談室PREMIER、本日の担当医がりはです。
こんばんは。
今日はどうされましたか?

「先だって、同期の友人に「絶対、外れない落語」として枝雀の「まんじゅう怖い」を貸しました。「おもんなかったら、(貸したCDを)割るで」と言われて、「枝雀のおもろさをなめんなよ?」と切り返したのですが、もし、現代っ子の彼に枝雀パワーが効かなかったらどうしようかと気が気でなりません。やっぱり、志ん生の「明け烏」か圓生の「お神酒徳利」などを推した方がよかったでしょうか。ご意見お願いします。」

ほうほう、それはお困りですか?
大丈夫です、枝雀は無敵です。
聞く方に笑う気があればですが。

わたしも落語は聞く方ですが、枝雀は非常に好きです。
彼の宿屋仇、宿替えは最高だと思います。
もちろん、饅頭怖いもとっつきやすくていいですよね。
似たような気質の人として立川談志も良いですね。
友達が東の人だと談志がいいかもしれません。
現代だと柳家喬太郎、立川談笑、春風亭昇太なんかも面白いです。
柳家花禄は日によると思います。

「おもんなかったら、(貸したCDを)割るで」と言ったご友人がおもろい、をどうとらえているかは気になりますね。
落語がおもろいということはどういうことなのか考えてみましょう。
わたしは枝雀の宿屋仇を聞いた時、本当に腹を抱えて泣くほど笑いました。
これも一つの面白さでしょう。
これだけだとすると寄席に行った人達は腹筋がパッキパキになって帰ってきて、身も心もへとへとになるのではないでしょうか。
落語のハイスパートの部分だけを取り上げて面白い、というのはもったいない楽しみ方ですね。
好きな歌手のアルバムを聞くときにシングル曲ばかり聞いているようなものです。

私の先輩がM−1について一生懸命語っている我々に教えてくれたことですが、「漫才というのはうどんをすすりながら見れなければならない。」のだそうです。
うどんを吹き出すほどのものではなく、漫ろに見ることが出来ながら楽しい、それが漫才であると。
そういう楽しみ、オフビートの楽しみというのは確かにあります。

私は最近少し長い距離を走るようになったのですが、走っている時に落語というのは丁度いいです。
小三治の高砂なんかをぼうっと聞いているとすぐに40分くらい走れてしまいます。
枝雀を聞いていればこんなことはできません。
彼の落語は聴き手の集中力を彼に集めます。

もし、ご友人が「おもろい」を腹がよじれて戻ってこなくなるくらいまで笑うことだと思っているなら、枝雀で間違ってないと思います。
しかし「をかし」だったり「あはれ」だったりを求めているとすれば、他の選択肢がよさそうですね。
しかもコンディションも大いに関係します。
取引先に理不尽に怒鳴られ、やってられるかと入った居酒屋で隣の酔客に酒をかけられ、逆上したにもかかわらず相手の方が明らかに強そうで退散、悔しくて蹴った空カンが民家の窓にジャストミート、叱られた上に2万円とられ、帰ってきたらケータイどっかに落としていた、という状況で聞かれても、枝雀とて手も足も出ないでしょう。

あと、些細なことですが「割るで?」と言われた時の切り返しにユーモアが足りない気がします。
「いや、ストレートでぐぐっといって下さい。」、とか「大事にせなあかんで、一個しかない頭やねんから。」とかで緩く返してほしいところですね。
枝雀ならどう返すでしょうかね。

※明るい悩み相談室PREMIERではあなたのお悩みを受け付けております。
ブログにコメント、投票時にコメント、ハッガリーニにメール、電話、伝書鳩、のろし、などの手段でどうぞ。
ちなみに投票時のコメントでのお悩みには必ず回答いたします。

次のテーマは「本屋に行ったら何をする? 何を見る?」です。  がりは

  • 2012.03.25 Sunday
  • 02:30
どうも、テーマコンテスト覇者のがりはです。
ありがとうございます。
今回はMr.ヤマブキにやられたと思いました。
彼の作品は着想が斬新で、まとめも傷がないし非常にショートショートの才能がありますね。
うらやましい限りです。
近々、そっちの土俵にも復帰しようと思います。
最近エッセイばっかりですからね。
腰の入ったショートショートを二三発用意しようと思ってます。
使う筋肉が違う、というくらい別の働きにはなりそうですが。

僕が作品を精査する時の基準はそんなに多くないです。
まず、文章に致命的な傷がないか。
言葉づかい、リズム、単語同士の調和などから判断します。
ここで足切りになっている作品は全体の半分以上に上ります。

次に内容の斬新さ。
ここはかなり主観的で、「あ、俺でも書けそう。」と思うと評価が下がります。
文章がうまくて、「このテーマ俺も似たのを思いついてたのに!」という場合は評価が上がります。
好みというのはどうしようもないですが、僕は読んだものについて自分が下した評価の根拠をほとんど説明ができます。
一個一個書いて行くと大変ですが。

で、次のお題ですが親愛なる読者様からのご要望にあった「本屋に行ったら何をする? 何を見る?」をテーマにしたいと思います。
読者を大切にするPREMIERとしては当然のことですよね。

では、よろしくお願いいたします。

calendar

S M T W T F S
    123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031
<< March 2012 >>

カウンター

ブログパーツUL5

selected entries

categories

archives

recent comment

links

profile

search this site.

others

mobile

qrcode

powered

無料ブログ作成サービス JUGEM