「精霊、正月の犯罪を憂う」 by アフリカの精霊

  • 2011.12.31 Saturday
  • 22:46
これをみなさんが読まれる頃には年も明けているでしょう。
今日は、正月に犯しそうな犯罪について書きます。

1 暴行罪(刑法208条・2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金)
  傷害罪(204条・15年以下の懲役または50万円以下の懲役)
  過失傷害罪(209条・30万円以下の罰金)

 お賽銭を投げる時、気をつけてください。
 中々、前に進まないからといって、賽銭箱のかなり前からお賽銭を投げると、前の人に当たる場合があります。
 そうすると、暴行罪or傷害罪or過失傷害罪が成立する可能性があります。

 暴行罪と傷害罪の違いは、生理的機能を障害したかということなので、ここからは予想ですが、血が出るほどの
 キズができたかによるでしょう。
 そして、傷害罪の場合、投げる時には前の人に注意する義務がありますから過失傷害罪、もしくは当たっても
 しょうがないなと思いながら投げた場合には未必の故意が認められるときもあるので、過失ではなく普通の
 傷害罪が成立することもあるかもしれません。

2 遺失物横領罪(254条・1年以下の懲役または10万円以下の罰金)

 初詣から家に帰ってきたら、後ろの人が投げた賽銭がコートのフードの中に入っていたとしましょう。
 それに気づいたあなたがそのままネコババすると遺失物横領罪が成立します。警察に届けましょうね。

 手から投げられた瞬間のお賽銭は、所有者のいない落し物と同じ扱いになります。
 よって、他人の金を盗んだのではないので窃盗罪(235条・10年以下の懲役または50万円以下の罰金)
 は成立しません。
 しかし、神社のさい銭箱に入った瞬間、それは神社のものになるので、それを盗むことは窃盗罪になります。


3 詐欺罪(246条・10年以下の懲役)

 「お年玉はお母さんが預かっといてあげるから渡しなさい」
 このセリフを言う親は60%以上は預かるつもりはないと思っていました。
 このセリフを言われて預けたお年玉を返してもらえなかった被害者は全国に10万人はいるかもしれません。
 初めから返すつもりがないのに、こう言ってお金を渡させることは詐欺罪に当たります。
 
 でもこれをして捕まった親がいることは聞いたことがありません。なぜでしょう。

 1つは、預かるときの親の気持ちの立証が難しいことがあるでしょう。
 「預かってあげる」という時の親の本心は本当に、「子供のために積み立てとこう」と思っているかも
 しれませんし、むしろそう思いたいですね。

 2つ目としては親族相盗例(244条)というものがあって、配偶者・直系血族や同居親族の中での財産的な犯罪の
 多くは刑が免除されるのです。
 小学生が親の財布からもしお金を抜いたとしても、窃盗罪で補導されたりしないのは同じ理由です。

 これで、2011年の精霊日記を終わりにしたいと思います。
 2011年は私の登板日である土曜日始まり、土曜日終わりなので、1月1日と12月31日に書けたことを嬉しく
 思います。

 2012年もよろしくお願いします。


工事屋たちの12月31日(前編) Mr.エメラルド

  • 2011.12.31 Saturday
  • 18:46
「よくもまぁ、こんな時期に工期をねじこんでくれたもんだわ」
「工期を決めた当事者は何故現場に来ておらんのだ。現場をなめとんのか」
「そんでもって、今回納まる機械はいつ到着するんだ?」
ぶつぶつとぼやいているガデン系の中年男たちに囲まれながら、
辻井は真冬なのに吹きあがる汗をぬぐいつつ、
本日12月31日に実施する設備機械導入工事の段取りについて、
最終確認の説明を行っていた。

今回の工事は従来ある設備機械の更新工事である。
エンジニアリング会社に10年勤める辻井は、
今回は現場監督者として今回の工事の采配を振るうこととなった。
設備機械が工場の動力源となる機械のため、
客先の生産工場の稼働が止まる年末しか実施できない…とは表向きの理由で、
実は年明け以降の土日でも工場は止められる。
売上の欲しかった販売店とメーカーの営業担当が
無理やり工期を年末に押し込んだところが真相らしい。
それでいて、工期を決めた営業2人は、今日の工事の立ち合いにも来ていない

メーカーの代理として配管工事を実施する指定メンテナンス業者が、
実に居心地の悪そうに小さくなっている。
辻井はため息をついた。

工事はのっけからトラブルに見舞われた。
9時指定で到着しなければならない設備機械を積んだトラックが、
時間になっても工場に到着しない。
運送会社に電話してみると、年末年始の積み荷が多く、
トラックで運ばれるはずの機械が運送会社の倉庫に残されたままとなっていた。
「ただちに持って来い」と運送会社に辻井が怒鳴りつけ、
何とか昼過ぎに物が届く見込みが立てた。

直ちに工事のスケジュールの見直しに入り、
機械が入るまでにできる工事は全て済ますことにした。
作業前は文句の多かった工事屋たちであったが、
いざ作業に入ると実にきびきびと工事を進めていく。
やはり、熟練の職人たちの工事は速くて正確だ。
辻井が現場を見回りながら、配管と電気の工事が順調に進んでいるのに満足した。
昼食休憩後は、いよいよ本丸の設備機械の搬入に取り掛かれそうだ。

工事屋たちの12月31日(後編) Mr.エメラルド

  • 2011.12.31 Saturday
  • 18:44
工事の目途が立った頃に、ちょうど良いタイミングで機械が到着した。
何事も問題ありませんように、
と祈るような気持ちでパッケージを開けた。
機械を動かすためのオイルが入っていない。
なぜだ。オイルはメーカー支給とあれほど言ったのに。
携帯で聞けば販売店がきちんとメーカーに説明しておらず、
契約内容にオイルを含めていなかったらしい。
慌てて、メーカー指定のメンテナンス業者が
オイルを取りに、往復2時間の自分の事務所まで車を走らせていった。
人数が足らなくなった配管工事は遅れ気味となる。
何とか夕方までに終わるか微妙な線だ。

設備機械の搬入と設置工事は終わった。
電気の配線のつなぎ込みはもうすぐ終わる。
工場の配管工事は遅れながらも進行中。
ようやく、オイルを取りに行っていた作業員が
工場にオイル缶を持ってきてくれた。
遅れ気味だった配管工事も、
作業員が増えて作業のスピードが上がっていった。
いよいよ、終わりが見えてきたようだ。

全ての工事が終わり、クライマックス。
休日出勤してきている客先の担当者を呼び、
工事の関係者を設備機械の周りに集めた。
設備機械の試運転だ。
この仕事をやって長いが、この瞬間はいつだってドキドキする。
自分たちのやってきた作業が報われるか、そうでないかの瞬間だ。

電気工事屋がブレーカーを入れる。異常無し。
作業員が機械のスイッチを押す。
期待と不安の中、新しい動力機械はぎゅいーんと勢いよく回り始めた。
問題なし、と作業員がつぶやいた瞬間、辻井はほっと胸をなでおろした。

客先への全ての報告と、現場の後片付けが終わった頃には、
日はすっかり暮れていた。
工事屋の親方たちに晩飯を誘ってみたが、
「年末だろ、今日は早く帰って家族をほっとさせてやらんか」
と笑われてしまった。
そうですよ、と配管工事をやっていた作業員も笑った。
現場の空気がふっと柔らかくなった気がした。

帰りの高速道路のパーキングエリアの自販機で、
祝杯代わりにホットコーヒーを買った。
ぐい、とコーヒー飲み干しながら、今年も残り数時間となったことを思い返す。
いろいろあったけど、なんだかんだと今年もいい1年だったと思う。
来年もいい1年でありますように、
と辻井は車の中でぼそりとつぶやいた。

明るい悩み相談室PREMIER(16)  がりは

  • 2011.12.28 Wednesday
  • 01:18
こんにちは。明るい悩み相談室PREMIER、本日の担当医がりはです。
今日はどうされましたか?
「後輩の指導方法に困っています。 体験談等ありましたらお聞かせ願いたいです。」
ほうほう、それはお困りですね。
後輩の指導と言ってもいろいろありますね。
部活の後輩の指導であれば深く悩まずとも、普段の生活態度だけ注意しておけば後は何とかなるのでは、と思います。
あいさつができて、時間に遅れず、ストロングスタイルを身につけておればまったく問題ないので、その辺だけ注意してあげればよいのではないかと思います。
会社の後輩であれば、ストロングであるあること自体に対しての是非があるためそこを削り、生活態度を注意します。
仕事に関しての指導について私が気をつけているのは「予言」と「検証」です。
後輩なので仕事で失敗するのが仕事みたいなもんです。
そしてその失敗は自分がしてきた失敗と基本的には同じものです。
もちろん個性というのがあるので、失敗の出てき方にはバリエーションがありますが、その本質は変わりません。
仕事を任す時には「まあやってみな」、その後中間報告で指導、最後アウトプットが出てきた所で指導、と定跡的にはなると思いますが、私の場合中間報告の指導で気をつけているのが「このままだとこうなるよ。」と予言をしておくこと、それを記録に残しておくこと、最終報告の時にそれを検証すること、です。

指導するレベルの相手であれば予言はあたるし、そうでなければ外れるようになります。
あたった場合、相手はより深くあなたのアドバイスを受け入れるでしょうし、反省も深くなるでしょう。
ちなみに後輩のミスの出方は「スケジュールが甘い」「仕事の重さがわかってない」「仕事の影響範囲がわかってない」辺りが震源地で、それは私のミスの出方とあまり変わりません。
これ以外の原因でミスが出ているようであればそれはミスではなくて仕事を振る側の問題ではないか、と思うくらいです。
仕事の重さ、については難しい部分があります。
同じ仕事でも先輩にとっての重さと後輩にとっての重さではまったく違う訳で、先輩の振る舞いをきちんと見ている子ほど、仕事をなめる傾向が出てきます。
「お前は常に全力でやれー!返事をする時も全力、席に戻るのも全力、休む時も全力でやれー!」
という指導をするのか
「仕事をまず自分なりに見積もってみて、それが妥当かどうか俺に見せてみてよ。」
という指導にするのか
「スーパーサイヤ人にとってタオパイパイを倒すことは楽ちんだが、サイヤ人にとってはそうではない。」
という指導をするのか、は相手もあることだし社風もあることだしいろいろあるところだと思います。

基本的には自分が指導してもらったことしか、指導できないように思えます。
指導をどのように解釈しているかで、その幅は随分変わるでしょうが。


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明るい悩み相談室PREMIER(15)  がりは

  • 2011.12.27 Tuesday
  • 00:00
こんにちは。明るい悩み相談室PREMIER、本日の担当医がりはです。
今日はどうされましたか?
「体幹を使った竹刀さばきが上手くできません。どうしたら体全体を使った効率的な面が打てるようになりますか?」

ほうほう、剣道のお悩みですね。
いいですね、剣道。
剣道においては剣を振ることよりも振った剣を止めることの方が難しいと言われます。
真剣で行う居合では踏み込み足の親指を切ってしまう剣士が続出することからもそれはわかりますね。
相手を斬ることによって止める、というのが最も効率のよい止め方になるわけですが、凡人では二の太刀がないとかわされてチョンでおしまいになってしまいます。
天才は初太刀で決めるという西の大将原田の名言もその辺から来ていると思われます。
一撃を極めるのも手だと思いますが、成長過程でやられる人が大半。
ここは凡人なりの剣道についてお話しましょう。
相手を斬って止めるという方法でなく、剣をコントロールするためには剣と剣を持っている自分を含んだ構造物を想定して、その最適化を考える必要があります。
剣人一体と申しますか、剣と人が喧嘩しないことが肝要です。
剣を人が制御しようとすると大変な膂力が必要かと思います。
体幹を使って打つという言葉を狭く誤って運用すると、体幹の強く大きい筋肉を使って剣をコントロールするということになり、怪我をしたりしてあまり良い結果が出なそうですが、正しく運用すると人の重心がある体幹から剣を反らすことなく動かすことになり、良い結果が出そうです。
面を打つ際にも行かせるのではないでしょうか。
ちなみに子供の頃野球少年たちはグラブを手にはめたまま寝たり、バットと起居を共にしたりしたと思いますが、これもグラブやバットを合わせた形での身体を想定し動く訓練と考えればとてもよい修行と言えます。

また、考え方としてはもっとも効率の悪い面の打ち方を考えてみて、その要素を分解し、一つ一つつぶしてみることもお勧めです。
少なくとも最悪の打ち方でない、と思えば自信もついて普段よりいい面が打てるかもしれませんよ。

ちなみに私は剣道を本格的にやったことはありません。

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明るい悩み相談室PREMIER(14)  がりは

  • 2011.12.26 Monday
  • 00:00
こんにちは。明るい悩み相談室PREMIER、本日の担当医がりはです。
今日はどうされましたか?
「最近、感動する機会が少なくなってきました。どうすればいいでしょうか? ちなみに、最後に感動したのは原辰則の引退試合でした。」

ほうほう。
それはお困りですね。
まず、原辰則ではなく辰徳ですね。
どちらにしても私は好きな人物ではありませんが。
今季のドラフトの時に見せた子供じみた態度、いやーおかしいですね。
あのナベツネの態度といい、悪役としてはきっちり仕事をしています。
ドラフト制度というルールを無視したごり押し、ごり押しが通らないとみるや「子供の頃からの夢」だのなんだのと、恥ずかしい泣きごとばかり。
すみません、取り乱しました。
私、巨人が嫌いなんです。

ところで、最近感動する機会が少なくなった、にしては原の引退試合は遠すぎませんか?
1995年のことですよ?
監督も2回目だし。
16年の年月を最近、とまとめられるということはあなたベテランですね。
なるほど、なるほど。

確かに、齢を重ねると感動することは少なくなるでしょう。
私の息子は二歳ですが、毎日が発見と感動に溢れているようです。
この間は助詞を使って話したんですよ。
ほら、このように助詞を使うようなことで感動できていたヤング時代と違い、大抵のことは経験済みになってしまったあなたが感動する機会が少なくなるのは当然です。
不思議なことではありません。
しかし経験を重ねることで、こんなことはありませんか?
たとえば涙もろくなる、相槌が上手に打てるとか。

他の人の経験がわがことのように身にしみるようになるんですね。
似たような経験をしていて、その時の感情が呼び起こされるから。
今、あなたはそうではないかもしれません。
でも心を少し開いてみてください。
周囲で起きている出来事は共感できることだらけではありませんか?
犬を追いかけるちびっこにも、公園で野球をする少年にも、街角で愛を囁く青年にも、飲み屋でくだを巻く壮年にも。

また、感動は感情の一形式だという指摘(「音楽の聴き方」参照)もあるわけで、感動ばかり追い求めなくてもいいかもしれませんよ。

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【テーマ】1、2のひと  がりは

  • 2011.12.25 Sunday
  • 17:47
イワサワさんは変わったおじさんで、45くらいなのだが働いている素振りがない。
月会費千円で休みは月曜だけの将棋道場の席主なのだが、そんな金で運営できるとは思えない百席もある道場である。
公民館を間借りしているその道場は余りに安いので、近所のみならずかなり遠いところからも老人が通ってきていた。
俺はフリーターで近所に住んでいたから、暇さえあれば通っていた。
道場で俺より強いのは三人で、イワサワさん以外の二人は土日にしか来なかったから、平日はイワサワさん目当てで通っていた。
イワサワさんには二つのレベルがあった。
普段の道場では将棋が途中から適当になり、よく負けてくれた。
決め手を指す時には
「ビシィ!!」
負けっぷりも明るくて
「おお!そんな桂馬があったか!それを見つかっちゃあこのイワサワでも投げる一手だな。」
などとおどけていた。
日曜の夜、道場をしめてからイワサワさんの家で指す時は全く違った。
「今日は三番な。」
と言った感じで初めに番数を決める。
すると必ず三番なら二番、五番なら三番、俺が勝てる。
しかも必ず連敗の後連勝で。
時間がある日に九番勝負を申し込んだところ、四連敗五連勝だった。
考えてみたら初めの一番に勝ったことがなかった。
初めの一番を指す時のイワサワさんは普段より大きく固く見えた。
歯をぐっと噛みしめ、冗談を飛ばさず、人差指で突き出すように指す。
将棋も常に三手先に受けるような将棋で、どうしても勝てなかった。
それがイワサワさんの「勝ち番」が終わると柔らかくなり、軽口もポンポン飛び出すようになる。

「イワサワさん、今日の五番勝負、全部本気出して下さいよ。」
夏の終わりに俺が切り出した時、イワサワさんは普段からは信じられないほど険しい顔で俺をにらんだ。
「俺、本気じゃないイワサワさんに勝っても嬉しくないですよ。」
「おうお前。歌ったな。今日五番じゃなくていいよ。お前の気の済むまでやってやるよ。飴玉しゃぶって喜んでりゃいいものを。」
俺は震えた。

イワサワさんは角交換型の四間飛車が得意で、俺はそこに的を絞って研究していた。
道場ではイワサワさんより高段の二人もその日の昼に倒していたし、調子はいいはずだった。

しかし、負けた。
負けに負けた。
息ができないほど徹底的に負けた。
辛くて盤の前から退きたいと思ったのはまだ四局負けた時点だった。
普段なら形くらい作れるのだが、四局とも攻めさせられて切らされて、腕をもがれ、足を折られ、残った体をドリブルされるような負け方だった。
いつもなら
「おい、まだやるのか。」
などと声がかかるところだが、イワサワさんは人差指で5一をきれいにすると、そこに王将をすっと引っ張ってきた。
音もなく他の駒を並べ始める。
俺も何とか自分の駒を並べ、また指し始めたが、何を指したのか全く覚えていない。
ふわふわしたまま十一局が終わった、らしい。
十一番棒に負かされる経験をしたことがなかった。

「・・・・るか?」
イワサワさんが何か言っている。
「もうやめるか?」
何を言っているのかよく理解できない。
「おい、聞いてるのか。もうやめるか?」

突然意味がわかって凍っていた闘志が燃え上がり、俺は奥歯を噛みしめ黙って歩を突いた。
途中、イワサワさんが口を開き
「将棋ってのはこの一瞬だよな。」
と言った。
読んでいなかった自陣角に急所を射られた。
今までの十一局と同じくボロボロに負けた。
「負けました。」
涙が出てきた。
ぼとんぼとん落ちてきた。

「もう負けました。」

5一のマスを岩沢さんがきれいにして、王将を引っ張って行くのが見えた。

「負けました。もう指せません。」
「そうか。十二丁棒でいかれたら辛いよな。」
優しい声だった。
「飴玉しゃぶっときゃこういうことにはなんねえんだよ。」
「でも俺は飴玉はもういらねえんです。」
「じゃあ、強くなる他あるめえな。」

俺は頭を下げて、イワサワさんの家を飛び出した。


四ヵ月後、師走も終わろうとする頃、唐突にサンタならぬ他の道場の人が四人来て、イワサワさんに話をしていった。
イワサワさんの道場が「不当」に安いので「迷惑」しているということらしかった。
「おめえも来い。」
そう言われて、その日道場が終わった後、俺とイワサワさんと、道場の最高位のハルさんの三人は相手の道場に向かった。

三人の団体戦らしかった。
何がかかっているのか正確にはわからなかったけど、向こうについた時、六十人くらいの人が待ち構えていた。
俺の相手は黒の革のコートを来たすごく大きな中年男だった。
脂っぽい髪を七三にして、生のセロリを三本袋にいれて、ボリボリかじっていた。
ハルさんは島朗を齢取らせたような人で、銀縁眼鏡に四角い顔、粘り強い居飛車党だった。
その相手はふっくらと肥え、赤ら顔のおっさんだった。
県代表になったことが何回かあるはずだ。
圧倒的にハルさんの分が悪そうだった。
イワサワさんの相手は小柄な中年だった。
ぼっさぼさの黒髪で、鼻歌を歌っていた。
髭の剃り跡が青い。
俺の相手のアニキらしい。

振り駒の時、揉めた。
相手はイワサワさんに振れと言うし、イワサワさんは頑として振らなかった。
十分くらい押し問答し、結局立会人をする気弱そうなプロが余りの歩を振った。
イワサワさんと俺が先手、ハルさんが後手になった。

ハルさんは一瞬で飛んだ。
気合よく相横歩取りの激戦に臨み、読みになかった手を指された瞬間に取り返しがつかないほど形勢が傾いた。
十五分くらいだった。
ハルさんは青くなって帰ってしまった。

俺の相手は強かった。
しかしイワサワさんほどではなかった。
かなり押し込まれていたが
「将棋ってのはこの一瞬だよな。」
というイワサワさんの声が聞こえた気がした。
一点突破の自陣角が相手の楽観に乗じて決まり、そこからも紆余曲折あったが何とか勝ちを収めた。
三時間経っていた。
食い締めすぎて、顎がだるくなっていた。

イワサワさんと鼻歌の人は厳しい顔で闘っていた。
鼻歌の軽快な攻めを先回りして受けるイワサワさん。
しかし、ついにと金作りが受からなくなると、イワサワさんは猛然と攻め始めた。
烈火の如く攻めつけ、局面が落ち着いてくると徹底的に受けに回った。
そして逆にと金攻めを開始。
計六時間半に及んだ戦いは、イワサワさんが入玉して勝ちになった。

相手が投了した時、イワサワさんが俺に向かってピースした。

「じゃあ、後はおめえらの気持に任せるからよ。」

イワサワさんは言い残してその場を後にした。

電車がないのでどうやって帰るのかと思っていたら、黒いフルスモークの車が目の前にしゅっと止まった。
帰りの車の中で俺は聞いた。
「なんで振り駒しなかったんですか?」
「どうでもいいことだよそんなことは。」
「振ればいいじゃないっすか。」
「この手でか?」
俺に向けて広げた両手の薬指と小指は第二関節から先がなかった。
俺が息を呑むと
「なかなか大変なんだよ。」
とため息をついた。

イワサワさんの言う所によると、ある暴力団の特攻部隊の隊長みたいなことをしていて、手打ちにするために三回、切ったらしい。
残りの一回は足を洗った時。
「おらほうはよ、暴力沙汰が嫌いなんだわ。下の奴は血が熱い奴らばっかりで、たまったもんじゃねえよな。」
な!といいながら運転席の強面の人の頭を叩いた。

「でよ、やっぱり社会に貢献しようと思って将棋道場始めたらこんなんだろ?たまったもんじゃねえよな。」

「今日のおめえの筋違い角、ありゃなかなか良かったな。あれ俺の真似だろう。」
「ちがいますよ。将棋ってのはあの一瞬ですよ。」
「真似じゃねえか!」

ようやく二人とも笑うことができた。

「数なんてのは1、2、これだけでいいんだよ。」

イワサワさんはピースしながら明るく言った。
なんかコンピューターみたいですね、と俺が言うと
「そうか?今度それ言ってみよう。」
ニカニカ笑っていた。

サンタクロースに直撃いんたびゅー   ハッタリスト

  • 2011.12.24 Saturday
  • 23:56
「サンタクロースをひとり捕まえたので、さっそくインタビューしたいと思います!お名前は?」
「三田拓朗です」
「拓朗さん、サンタクロースになって何年くらいなんでしょうか?」
「三年目です」
「今年は何件くらいのお家をまわるんでしょうか?」
「三十件くらいですね」
「三十件も!一晩で大変ですね?」
「そうですね」
「拓朗さんは普段は何をなさっているんですか?」
「調査です」
「調査というと、どのような調査でしょうか?」
「渡すものとか、住所とか名簿とかです」
「ああなるほど!それでは何をプレゼントするかどうやって決めているのですか?」
「会議とかですね」
「会議とか何ですか?」
「ええと会議とか予算とかいろいろですね」
「いろいろですか!では必ずしもプレゼントを受け取る子の希望が叶うわけではないんですか?」
「いえ、可能な限りご希望に沿うように調整はしています」
「可能な限りですか?」
「はい、可能な限りです」
「ありがとうございます。ところで拓朗さん、サンタクロースは全部で何人いるのでしょうか?」
「誰と誰がサンタクロースか、というと定義の問題になりますが、私どもの関連では、のべ一万人程度が関わっていることになります」
「一万人も!そんなにたくさんいるんですか!」
「もちろん全てが今日プレゼントを配ることを担当しているわけではありませんが」
「でもよく考えたら、一万人では配りきれませんよね?」
「まあ、それは私どもだけが配っているわけではありませんから」
「すると、他にもサンタクロースはいるということですか?」
「ええまあ」
「じゃあその方たちも合わせるとサンタクロースは全部で何人いることになるのでしょうか?」
「正確な数字はお答えできませんが、業界全体では二十万人規模になります」
「なるほど、拓朗さんたちはその中のわずか5%を占めるに過ぎないわけですね?」
「そうですね」
「ありがとうございます。お時間を取らせていただいて申し訳ありませんでしたが、これが最後の質問となります。拓朗さん、あなたにとってサンタクロースとは何でしょうか?」
「資本主義の肯定ですかね」
「資本主義の肯定とは何でしょうか?」
「ええと、我々の社会には、子どもたちにプレゼントをあげられるくらいの余剰はあると、そういうふうに個人的には思いますね」
「余剰ですか?」
「いや、そういう言い方でいいのかどうか私にはちょっと自信がないんですけどね」
「なるほど、本日は誠にありがとうございました。それでは、がんばってください」
「はい、ありがとうございます、それでは失礼いたします」
「以上、サンタクロースに直撃インタビューでした!」

競馬論考(2)〜今年の夢2011〜 byたりき

  • 2011.12.24 Saturday
  • 01:27
飲み会の回数が増え、吹いてくる風が日に日に冷たくなってきました。
年末ですね。
そして、有馬記念の季節です。

すばらしいメンバーとなった今年の有馬記念、その出走馬を内枠から順番に紹介していこうかと思います。
書き出したらキリがないのですが、紙面の都合から簡単な説明となっていることをご了承下さい。

ブエナビスタ
このレースが引退レースとなる現役最強牝馬、もとい現役最強馬。天皇賞(秋)は国内で初めて馬券圏外に敗れてしまいましたが、前走ジャパンCの勝利で改めて現役最強馬であることを証明してみせました。
有馬記念では過去2年2着となっていますが、確実に差してくる末脚に衰えはないことからきっと勝ち負けを演じてくれることでしょう。

ヴィクトワールピサ
今年、日本調教馬として初めてドバイワールドカップを勝利するという歴史的快挙を成し遂げてくれましたが、前走のジャパンCではそれ以来の競馬だったことが響いたのか大敗を喫してしまいました。
しかしながら、昨年の有馬記念および皐月賞勝ちを含めて中山競馬場では4戦4勝と抜群の相性を見せています。
一叩きによって調子さえ戻っていれば間違いなく勝ち負けに加わってくるでしょう。

ヒルノダムール
重賞で好走するも2着が多かった馬でしたが、大阪杯で重賞初制覇して挑んだ天皇賞(春)において、他馬の動きに惑うことなく自分の競馬に徹して差しきり勝ちを収め見事GI勝利を手にしました。
その後は海外遠征を行い今回は大敗した凱旋門賞以来の競馬とはなりますが、皐月賞2着という中山実績もあってここでも侮れない存在であるといえます。

ペルーサ
4連勝で青葉賞を制して臨んだダービーで2番人気となり、またその後も昨年の天皇賞(秋)で2着するなど能力の高さは見せているもののなかなか勝ちきれない競馬が続いております。
父ゼンノロブロイには有馬記念勝ちがあるとはいえその血統背景から中山2500mの適性には疑問が残るところではありますが、GIを制する力があることはわかっているだけに展開の一押しさえあればといったところでしょうか。

エイシンフラッシュ
最強世代と言われた現4歳世代のダービー馬もその後は勝ちきれない競馬が続いています。この春こそGIで上位争いを演じましたが、ここ2走は精彩を欠いている印象があります。
ダービーを勝っているとはいえ中山競馬場でも京成杯勝ち、皐月賞3着の実績がありますから、あとは詰めの甘さを解消できる一押しがあればといったところでしょうか。

キングトップガン
今年重賞2賞した古豪が有馬記念挑戦、しかしさすがにこの豪華メンバーでは見劣りしてしまいます。前走ジャパンCよりも条件としてはいいでしょうが。。
ただ父マヤノトップガンから血統的に相性はいいかと思われますので、思い切った競馬からの上位入線を期待したいところではあります。

トゥザグローリー
天皇賞(春)で1番人気に推された素質馬もそのレースでかかって大敗を喫してからはそれまでの安定した戦績が嘘のようなレースが続いています。
しかしながら、今年の京都記念、日経賞で同世代の実績馬たちを子ども扱いしたレースぶりからその実力はわかっていますので、昨年3着のここでの復活を期待するのは悪くないことでしょう。

ローズキングダム
薔薇一族の御曹司も、近走では苦戦を強いられています。昨年のジャパンC勝ちもブエナビスタの降着があってのもので、古馬になってからのGIで1位入線はないということになります。
また、中山競馬場は朝日杯FSを勝った舞台とはいえ相性がいい印象はないので。。
ダービーで2着したときの鞍上、後藤Jの手綱さばきに注目したいところです。

オルフェーブル
ディープインパクト以来の3冠馬がジャパンCをスキップして万全の態勢での有馬記念出走です。
例年と違って今年は皐月賞が東京競馬場で行われたことに一抹の不安も覚えますが、菊花賞のレースぶりから中山競馬場が合わないとは到底思えません。
あとはこのすばらしいメンバーとの相手関係だけですが、きっと好勝負を演じてくれることでしょう。

トーセンジョーダン
遅咲き血統の馬が5歳秋に本格化、天皇賞(秋)のレコード勝ちもすごかったですがジャパンCでも2着となってそれがフロックではないことを証明してくれました。
夏に札幌記念を挟んでの秋3戦目で疲れがないかということが心配ではありますが、それさえなければまたすばらしい競馬を見せてくれることでしょう。

ジャガーメイル
天皇賞(秋)から距離の伸びたジャパンCで3着に食い込みましたが、昨年の天皇賞(春)優勝馬であることからさらに距離の伸びるここがより良い条件であることは疑う余地もありません。ひとつ心配があるとすれば、中山競馬場での出走が条件戦しかないということですが。。
ただ、気楽な立場で競馬ができるでしょうから一発の可能性は十分にあるでしょう。

アーネストリー
天皇賞(秋)は大外枠やハイペースに巻き込まれての大敗を喫しましたが、ジャパンCをスキップして有馬記念一本に絞ったローテには好感が持てます。父もグランプリに強かったグラスワンダーですからね。
あとは今回も外寄りの枠に入ってしまったことから、佐藤哲三Jがどのような騎乗を見せてくれるのか注目です。

レッドデイヴィス
骨折休養明けの鳴尾記念を勝利した3歳セン馬がJRA・GIの連続制覇記録がかかる武豊J鞍上で有馬記念挑戦。
クラシック出走権利がないにもかかわらず3歳最強馬などと言われていたこともある馬ですから、前走の反動さえなければ好勝負を演じてくれるはずです。

ルーラーシップ
こちらも最強4歳世代であのエアグルーヴの仔。今年のGI出走は宝塚記念しかありませんが、金鯱賞でのレースぶりには度肝を抜かれたものです。
今回、休み明けとなることで厳しいレースを強いられるかもしれませんが、それをカバーできるだけの能力は持っていると考えられるだけに侮れない存在です。
 
 
有馬記念は25日15:25発走予定です。

ピンク・ピンク・クリスマス!  ミスターピンク

  • 2011.12.23 Friday
  • 23:51
ガンガンガンガン!

夜更けに突然窓を叩く音。
驚いた太郎くん(仮名)が窓の外に目を向けると、まっピンクの服に身を包んだ怪しい男がひとり。

「サンタさん、、、かな?」

太郎くんが恐る恐る窓の鍵を開けると、ピンクの男はズカズカ入り込んで来て、

「メリークリスマス、寒いんだからさっさと開けてくれないと困るザンス」

「サンタさんなの?」

「この格好見りゃわかるでしょ、サンタもサンタ、大サンタクロース様でございますよ」

「でも赤くないよ、ピンクだよ?」

「スポンサーが違うんザンス!大手と一緒にしてもらっちゃかないませんよ、田中太郎くん?で合ってます?」

「うん、田中太郎であってるけど、今日はまだ23日だよ、クリスマスイブは明日でしょ?」

「ぼうや、サンタクロースは魔法でプレゼントを配るんじゃないんですよ、人海戦術が使えない中小は一晩で全部届けるなんてムリムリ、質の悪いバイトなんて雇った日にゃ道端に未配達のプレゼントがどっさりなんて、シャレにならないんですからね」

「じゃあ、今日もらえるの?」

「はいどうぞ、でも25日の朝まで開けちゃダメですよ」

「ええ〜それならボクに渡さないで、お母さんに預けておけばいいじゃん」

「せっかくサンタに会ったんだから直接渡してもらうほうが嬉しいでしょうが!」

「う、うん」

「それじゃあアタシは行きますからね、子どもはさっさと寝るザンス」

「ねえ、なんで煙突から来なかったの?」

「今どき煙突が付いてる酔狂な家なんてこのウチくらいのもんですけどね、あんなところから出入りするなんて絶対にお断りですよ、忍者じゃあるまいし」

「あの、サンタさん」

「まだ何か?」

「プレゼントありがとう」

「はいはい、どういたしまして」

「サンタさんも大変なんだね」

「子どもがつまらないことを気にするもんじゃないザンス、仕事じゃなけりゃこんな面倒なこと絶対やりませんけどね」

「プレゼント配るのイヤなの?」

「ぼうや、仕事だからやるっていうのはね、イヤイヤやるっていうこととは違うんザンス、オトナになれば分かります」

「来年も来てね」

「それはアタシの決めることじゃあないザンス」

そして窓から出ていくピンクの男、さようならサンタクロース、ありがとうサンタクロース!

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