いたずら1 Mr.イエロー

  • 2010.11.30 Tuesday
  • 16:01

「先生、どうしたんですか?」
男子たちはうろたえながら担任にこう聞いたそうだ。
「いやなあ、しゃべってるうちにああなってしまって・・・」
男子:「俺たち、演技で怒ってって言ったじゃないすか」
担任:「そのつもりだったんやけどなあ・・ごめんごめん」

あの日から10年以上経った同窓会で初めて真相を聞き、当時の女子達は(アラサー女性を「女子」とは言わないでしょう)びっくりした。
その年でいちばんびっくりした。
「なんやーめっちゃ怒られたと思ってたのに!」
「でも本当に怒ってたよなあ」
「あれは俺達もびびったよな」

中学3年だったある日、朝の会が終わった後、女子の一人がテレビ台の中に入って遊んでいた。
それを見た女子が次々に教室のあちこちに隠れ始めた。
清掃用具入れ。ベランダ。教壇の裏。8人の女子達はなんとか全員隠れ場所を見つけた。
「ねえ男子、先生来て『女子は?』って聞いたら『わかりません』て言ってよ!」
男子はもちろんノリノリで、普段はわりと優等生クラスな我々は、急に思いついたいたずらにみんなわくわくした。

一時間目は英語。40過ぎの男の先生。やさしく、ユーモアがある。
突然のいたずらが決行されたのは、この先生が最初だったからだ。
怒られることはないだろう、と踏んだのである。
先生は当然驚いた。
「あれ、女子はどこに行ってん?」
「さあ・・わかりません。」
演技派な男子が見事にしらばっくれている。それを聞きながら、笑いをこらえる女子たち。
先生:「今日、何かあったかなあ・・・?」
「先生、ごめんなさーい!」
一斉に女子が飛び出た。
優等生な我々にとっては、ここまでで充分達成感が得られた。
「なんや、隠れてたんか。びっくりしたわ。だれが考案したん?」
先生、笑顔。みんな笑顔。

調子に乗って、2時間目も同じことをした。
おおー!びっくりしたー!と、英語の先生と同じような反応で、我々はとても満足した。

3時間目。担任の授業だ。すっかり味をしめた我々は、もちろん決行することに。

いたずら2 Mr.イエロー

  • 2010.11.30 Tuesday
  • 16:00

来た!
「ん?女子は?」
「いや、いつのまにかいなくなってて・・・なあ」と男子。
「え?なんで? 授業が始まってるのに、どういうことや?」
あれ? もしかして、ちょっと怒ってる? 担任にやったのはまずかったかなあ・・・
女子たちがそれぞれの暗闇の中で焦り始めた。
「授業が始まって教室にいないって、これは大変なことやで。どこに行ってん?」
やばいやばい。もうかなり怒りのボルテージ上がってるよ!
テレビ台が開く音がした。他の女子達も気まずそうに出てきた。
「すみません。ちょっと、いたずらで。」
「・・・これ、他の先生にもやったんか?」
「・・・はい。」
「どんだけ失礼なことかわかっちゅーか?」

ちっノリの悪い先生だぜ。とは思わず、優等生たちはひたすら謝ったのだった。
それでも先生は怒りを納めてくれず、説教は続き、担任はそのまま退場、授業はなくなってしまった。職員室に戻っていく担任を男子達が追いかけた。
女子達は教室で、「怒られちゃったねー」と落ち込んだ。

この事件はそのまま、いたずらしたら担任に怒られた事件としてそのまま女子達には覚えられていたのだけど、
同窓会でだれかが思い出して話題に上げたら、冒頭の真実が出てきたのだった。

「先生、女子がこういういたずらするからわざと怒ってよ!」
「おう、わかった!」

やや腹が立つが、男子がこんな逆どっきりを思いついたことは、ちょっとすごいなと今でも思っている。
勉強はできない男子達だったけど、どこかかなわないと思っていた。
今、彼らは超有名企業で働いていたり、起業して成功したりしている。

それにしても説教を始めると収まらなくなるって、職業病かしら。

ホームルーム(前編) Mr.X

  • 2010.11.30 Tuesday
  • 15:59

僕がいた小学校では、各学期に一回、クラスマッチ(クラス対抗戦)があった。
3年の一学期のときは水泳で、40人弱のクラス全員で25mリレーを行う、という規模の大きなものだった。泳げる人は普通に泳ぎ、まだ泳げない人はビート板などの補助具つきだ。

その背の高さは前から数えた方が早く、50m走も遅く、運動神経も良くなかった僕は、水泳で競われるということに興奮していた。
物心がついたときから僕は水泳を習っていた。小児喘息を患っていたので親から強制されていたのである。嫌でしょうがなかったスイミングスクールだったけど、そのおかげで普段全く活躍できない僕が、3組のヒーローになる時が来たのだ。

ところが、その結果は最下位という残念なものだった。

全員が着替え終わってクラスに戻ったところでホームルームが行われ、担任のA先生がその敗因を分析した。黒板に縦軸(人数)・横軸(泳ぎのうまさ)のグラフを描き、真ん中がへこんで両脇が高い谷型のグラフと、真ん中が高い山型のグラフを描いた。

「うちのクラスは、こんな感じ(谷型)だな。早く泳げる人も多かったけど、苦手な人も多かった。一方、優勝した2組は、速い人は少なかったけど、遅い人も少なく、少しだけ泳げる人が多かった(山型)。だから、クラス全員で争ったときには、こっちの方(山型)が強かったんだな」

なるほど、と思った僕は、そのグラフを睨みながらあることを考えていた。

クラスにはKという生徒がいた。運動が全くできず、勉強はまるで分からず、机の中はいつも汚かった。「いじめられっ子」。暴力はなかったが、ことあるごとに彼のことは軽んじられていた。

ヒーローになり損ねた僕は声を上げた。とても悔しかったのだと思う。

「Kがめちゃくちゃ遅かったから負けたんだ! Kのせいだ!」

同級生たちは、そうだよな、という空気で迎えた。あいつ、バチャバチャやるだけで全然泳げなかったもんな。あいつが泳げたら、勝てたかもしれないよな。

一瞬の静寂。
一名を除くクラスのみんなの気持ちを代弁したのだ、と僕が確信した瞬間、大きな声が教室に響いた。

ホームルーム(後編) Mr.X

  • 2010.11.30 Tuesday
  • 15:58

「お前! 今、なんて言った!」

いつも温厚なA先生が怒声を上げた。
A先生は僕の腕をつかんで教室の床の上を引き摺り、ドアから廊下に放り出した。大人の腕力に、小さい僕は恐怖と動揺で、逆らうことも声を上げることもできなかった。

廊下に放り出された僕に、先生は顔を真っ赤にして言った。

「みんなの負けを、一人のせいにするやつなんか、このクラスにはいらん! 出て行け!」

その後のことはよく覚えていない。泣いてKに謝っただろうと思う。

しかしA先生もよくやったよなあ。このご時世にもしそんなことやったらオオゴトになるよな。三面記事に載って、厳しい処分を下されたりして。

今でも怒りに我を忘れて誰か罵倒しようとすることはある。実際に人を傷つけ、後悔したことも何度もあった。
でも、口の中にある怒気にまみれた激しい言葉を吐き出さずに飲み込めることもある。それは、引き摺られたときの教室の木の床と、放り出されたときの冷たくて硬い廊下の感触が、ぼくの中に残っているからだ。

今はもちろん、自分がどれほど人を傷つけることを、どれほど恐ろしいことをしたのかを教えてくれた、A先生に感謝している。
もし、そのとき叱ってくれなかったら、たぶん、今よりずっとたくさんの人の心を傷つけることになったはずだ。

だから、あのときのホームルームは、とてもとても大切なことを教わった忘れられない授業だ。

英語の授業

  • 2010.11.30 Tuesday
  • 15:56

中学校の時の英語の授業は冒頭に英語を使ったゲームをした。
歌を歌ったり、ジェスチャーゲームをしたりと変遷はあったのだが、もっとも我々が熱中したのはハングマンというゲームだ。

ルールはシンプルだ。
親が英単語を一つ選び、その字数分だけ横棒を黒板に書く。
それに対して子は質問をしていく。
Does it have A ?

答えがYesなら親は該当する個所にAを書く。
複数ある場合は複数書く。
答えがNoなら親は親は一本線を引く。
それが10本積み上がると「ハングマン」(縛り首の人)になるのだ。
ある程度文字が埋まってくると答えがわかる。
その時子は
Is it TAKE?
などと質問し、終わりになる。
みんなが知らない単語を出せばよいという身も蓋もない展開になることを避けるため、親は出題する前に先生に問題を見せて許可を得ていた。

俺はこのゲームが得意で、親でも子でも活躍した。
親では「QUIZ」を出題して、見事ハングマンを完成させたし、子としては難問「NASA」を見破ったりして、自分以外のクラス全員に土をつけるのに貢献した。
シャーロッキアンだった俺にとって、踊る人形の暗号を応用すれば簡単だったのである。

ところが。
クラスでかなり勉強ができない方だったねずみ男みたいな奴が親の時のことである。
先生に問題を見せたところ、先生は眉毛を見たことがないくらい上げて、
「Good!!」
と許可した。

もう学年も終わりの頃で、熟練してきたメンバーが質問を重ねたが答えがわからなかった。
我々はもう定跡的なものを編み出しており、ふつうのゲームには飽き気味で、親の性格や勉強のでき具合から、いかに示された文字が少ない段階で正解できるかを競っていたくらいだったのだが、その問題は解けなかった。

六文字。

二つ目の問いで二番目にA、五つ目の問いで五番目にOが入ることがわかった。
七つ目の問いで最後にN、十番目の問いでSが4番目にあることがわかった。

_A_SON

9個間違えて、最終回答者は俺だった。
期待が俺を押しつぶす。
手を合わせて祈っている奴までいる。

Is it WATSON?

ため息が教室を包んだ。
ネズミ男が満面の笑みを浮かべた。

It is LAWSON!!

ずりー!という声があちこちから出た。

それに光輝く笑顔で
「だって誰でも知ってるでしょ?オレだって知ってるんだから。」
と答えた彼のまぶしさ。
敗北の甘い味。

悪夢という名の授業、ハーレムの個人授業

  • 2010.11.30 Tuesday
  • 15:55

広辞苑によれば授業とは「学校などで、学問・技芸などを教え授けること」とある。
では「教え授ける事」とは?
「目上の者から目下の者に与える、取らす。師が弟子に学問・技芸などを教え伝える、伝授する」とある。

つまり授業とは授ける立場からの名詞なのである。
いわば上から目線の言葉で、何とも面白くないし魅力に欠ける。
そこで僕は「授業」を次のように定義したい。

「授業とは、人間が生きていく上で、より豊かに、より快適に、より面白く、よりおいしくする種々の技法、考え方の伝承である」

「授業」には本来目上も目下もなく、それを授かるのは法の下における平等と同じく、生きとし生けるものの当然の権利であろう。

類義の名詞に「学習」があるが、同じく広辞苑によれば「まなびならうこと。過去の経験の上に立って、新しい知識や技術を習得する事」とある。
こちらの方がまだ能動的で個人の意志を感じる。

しかし「個人授業」は存在するけれども、「個人学習」とは言わない。
「自習」のひと言で片づけられてしまう。

「個人授業」―今こうして文字にするだけで、そこに濃厚なエロスがまとわりつき、僕をたちまちハーレムの世界にいざなってくれる。

そう言えばおよそ三十年ほど前に封切られたアメリカの映画に「個人授業」があった。
男子高校生が年上の家庭教師によって、学習と恋愛の両面の手ほどきを受け成長していく、というストーリーだった。

もっと遡っていうと四十年ほど前に「個人授業」という仏映画もあった。
ナタリードロンの艶やかな美しさが脳裏に焼きついている。
かように「授業」「教授」というカチカチの名詞も、頭に「個人」をつけるだけで、たちまち様相を一変させてしまう。
“個人”の力ってまこともって偉大なり。

「授業」というテーマで頭を悩ませ、いろいろと逡巡したが、つまるところ僕は「授業」にあまりいい印象を持っていないという事だろうか。

手垢でスリ切れるほど使っているノートを広げ十年一日の如く同じ授業を行う教師。
私生活がモロに態度や表情に出る教師。
体罰の権化のような教師でビンタをしまくる教師などなど―。
ホント、碌でもない教師ばかりだった。
もっともそれは写し鏡で、授かる側の生徒も、授業中のおしゃべり、ムダ口、早弁、いなむり、僕を含めホント碌でもない生徒ばかりだった。

だから「授業」という名の悪夢はきれいさっぱりハーレムの世界に昇華させたいのかもね。

忘れられない授業

  • 2010.11.29 Monday
  • 15:54

小学校の時、立方体を作ったことがある。
手先が不器用で、特に糊が苦手だった俺はボール紙をふにゃふにゃにしてしまい、糊のついた手でこねくり回しているうちにぐちゃぐちゃにしてしまった。
それをクラスのガキ大将が見つけ大声で馬鹿にし、それをガキ大将を可愛がっていて憎まれ口を叩く俺を疎ましく思っていたに違いない担任が拾って
「勉強ばっかりできてもね、立方体も作れないなんて人間としてどうしょうもない。こんな風になってはいけない。」
などと言ったのでけったくそ悪かった。

絵を描いた時にもすごくけなされた。
隣の席の子と向かい合わせになってお互いを描くという時間だった。
絵も苦手で、絵具が乾かないうちに隣に色をつけてしまうので、にじんでにじんでしかたなかった。
はみ出さないように塗るのも下手だったし。
それでも他の人をモデルに絵を描くというのは初めての体験だったし、真剣に取り組んだ。
取り組んだ結果リアリスティックな絵が完成した。
当時は自分の描いた絵などみんな隠したものだ。
画板に裏返しに挟んで、誰かが覗こうものなら糾弾していた。
何回かの授業の後、先生は言った。
「一生懸命描いた絵を相手にプレゼントしましょう。」
血の気が引く音がした。
他のところでは笑い声やら
「なによこれー!」
のような怒りながら媚びている声が聞こえ始めていた。
俺の目の前の女の子は寡黙だけど絵が上手な子で、すっと差し出してきた。
うまかったけど、可もなく不可もない俺だった。
俺も差し出さなくてはならなかった。
おずおずと差し出し、彼女がそれを裏返した。
もちろん、彼女は泣きだした。
寡黙な彼女の涙は雄弁だった。
先生が思いを代弁した。
俺はやっぱりけったくそ悪かった。

中学校の時もずっと美術はけったくそ悪かった。

高校の時、芸術の時間は書道、美術、音楽、工芸の中から選択できた。
音楽以外はどれも苦手だった。
しかし克己心という名のストロングスタイルの権化だった俺は一番苦手な美術を選んだ。

初めの題材は自画像だった。
デッサンをして、それを元に油絵を描く。
上手い奴が周りに何人もいた。
けったくそ悪かった。
絵具を塗りたくっているうちに、何かが煮えたぎって顔を赤に塗った。
どす黒い赤に。
学ランを深い青に塗った。
禍々しい絵が出来た。

ずらりと皆の絵を並べた講評会で、一番最初にほめられたのは俺の絵だった。

どれも、忘れられない授業である。

最後の授業(聖)

  • 2010.11.29 Monday
  • 15:53

「今日のロングホームルームは特別授業です。とても大事なことを教えます。」
先生は言いました。
それはクラスのみんなにとってとてもすてきな響きでした。
みんなが耳をぴんと立てる音がしました。

「さて、サンタクロースを君たちは知っていますか?」

先生は元気な男の先生で、いつも赤いシャツに下はジャージを着ています。

「知ってまーす。」

みんな大きな声で答える。

「ではサンタクロースはいますか?」

先生はイタズラっぽく問いかけた。
一拍置いてから

「いまーす。」
「いませーん。」

クラスの声が割れました。

「あれ?割れたね。いると思う人手を挙げて。」

半分くらいの手が上がると同時に、
「あんなの作り話なんだぞー。」
「お父さんがサンタの振りしてるだけだぞ。」
「今どきサンタ信じてるなんて遅れてるよ。」
という声がばらばらばらと上がりました。

「半分くらいはいるね。一応聞くけれど、いないと思う人、手を挙げて。」

半分くらいの手が挙がると同時に
「かわいそうな子なんだね。」
「ああはなりたくないね。」
「自分の理解を超えたものは存在しないというその態度こそ存在してほしくないね。」
という声がぼそぼそと出ました。

「おやおや、どっちなんだろうね。サンタはいるのかな?いないのかな?今からいる派といない派で固まって話し合いをして、二十分経ったらお互いの代表者が話し合うことにしましょう。さあ、始め!」

みんなは普段の授業の時よりもキビキビ動き、話し合いました。

「はい、二十分経ちましたよー。いる派の代表は誰ですか?かえでさんですね。」

肩までの髪の品のいいダックスフンドみたいな女の子が立ちました。

「いない派の代表は誰ですか?光くんですね。」

ブルドッグの子犬のような男の子が立ちました。

「ではまず、いない派の意見から。」
「サンタなんかいません。だいたい一人で世界中の子供たちにプレゼントなんて配れません。うちのクラスの家には暖炉も煙突も一つもありません。仮に煙突から入ってくるのに少なくとも一分はかかると思いますが、これだと一時間に回れる件数は本当に限られると思います。もちろん出るのはもっと大変だと思います。それにもしいたら警察に捕まっていると思います。不法侵入だと思います。」

紙にまとめた意見を早口で読み上げました。

「いない派の意見はそれでいいですか?付け足しはありますか?」

最後の授業(誕)

  • 2010.11.29 Monday
  • 15:52

「付け足しです!」

「はいゆうかさん。」

「この間お父さんがサンタがいないと教えてくれました。だからいないと思います。」

大いに肯くいない派。

「他にありますか?」

「もういいでーす。」

「ではいる派の意見を教えてください。」

「私のもとには毎年クリスマスプレゼントが届いています。それはお父さんから渡されましたが、お父さんはサンタから預かったと言ってました。」

「付け足しです。サンタはいい子にしかプレゼントを渡さないということなので、いない派の人はいい子じゃないんだと思いまーす。」

「付け足しです。今までいない派はサンタの特徴について述べていましたが、それは取りも直さずあなた方の心にサンタがいるという証左ですよ。つまり、サンタは君たちの心の中にいます。」

おおー!とみんながどよめきました。

先生はみなを静めて言いました。
「ではいない派の光くん、質問はありますか?」

光くんは目をらんらんと輝かせながら、挑みかかるように口を開きました。

「僕はいい子だけれどクリスマスプレゼントをもらっていません。なぜならうちは仏教徒だからです。サンタが本当にいるなら仏教徒にもプレゼントをくれると思います。」

「同じでーす。」

いない派陣営から大きなコール。

「サンタのことを信じていない仏教徒にサンタさんがプレゼントをあげる必要はないと思います。」

とダックスかえでさん。

「仏教徒かどうかとか、サンタを信じてるかどうかとか、調べる方が面倒くさいし、大いる派の中にキリスト教徒が何人もいないと思います。その矛盾を説明してください。」

「いい子だからいいんですー。」

ヤジが飛んだ。

「いい子はルールを守れ!」

反対側からヤジが飛んだ。

ヤジとおしゃべりが三分間続き、先生は大きく手を二回打ちました。

「はい、はい。もういいですか?では続きをやりましょう。」

「はい先生!」
「どうしました、ゆうかさん。」
「サンタなんていてもいなくてもいいと思います。サンタのせいでクラスが仲悪くなるくらいなら、いない方がいいと思います。」
「おなじでーす。」
いる派からもいない派からも声が挙がった。

「付け足しです。天国にいるサンタさんもそんなことを望んでないと思います。」
「おなじでーす。」

なんとなくクラスがまとまりかけたその時、先生が教壇に隠れました。

最後の授業(祭)

  • 2010.11.29 Monday
  • 15:51

そしてじゃーんという言葉とともに登場した先生はグレーのスーツと黒のぴったりしたサングラスに身を固めていました。

「いいですか、みなさん。これから言うことは誰にも言ってはいけませんよ。」

いつもと違う先生の様子にみんなが固唾をのむ音が教室に響きわたるようでした。

「先生はサンタです。正式には明日からサンタになります。民間から初のサンタです。みんなとは今日でお別れです。みんなの担任として一年半過ごすことができて、先生は本当に楽しかった。ありがとう。」

誰もが言葉を忘れたかのように静まりかえる教室。
窓の外では三年生の体育の声がしています。

光くんが手を挙げています。
「はい、光くん。」
「先生は、どうしてサンタになるんですか?」
「それはね、子供の頃からの夢だからだよ。」
「先生は煙突の中に入ったりするサンタになるんですか?」
「それは秘密だけど、サンタも時代に合わせて進歩してるんだよ。いつまでもトナカイに乗ってられないんだ。」

みなが堰を切ったように一斉にはいはいはいと手をあげました。

先生はそれを制して言いました。

「これからみんなにプレゼントをあげます。先生にとってはサンタとして初めてのプレゼントになります。これは絶対みんなに受け取ってほしかったんだ。」

教壇の下から大きな白い袋が出てきました。

中から名札つきの小さくて綺麗な袋が出てきて、先生はみんなにそれを配って歩きました。

「まだあけないでくださいね。クリスマスまで我慢してください。なくさないでね。」

チャイムが鳴りました。

先生は涙を我慢しながら日直を促し、礼をしました。
帰りの会は淡々と進み、明日の連絡になりました。

「明日新しい先生がいらっしゃいます。みんな笑顔でお出迎えしてください。それから今日のLHRでの出来事はぜーったいに誰にも言わないこと。」

「先生?」
「何ですか?」
「来年は僕の家にきてくれますか?」
光くんが伏し目がちに聞きました。

「もちろんいくよ。だってサンタはいい子にプレゼントあげるのが仕事だからね。」

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