プリミエール編集部にて(前編)
- 2010.02.27 Saturday
- 20:42
締切から解放されたたりきとNIKEは、将棋を指していた。
折しも、テレビではバンクーバー五輪を中継していて、男子フィギュアスケートが始まっていた。
そこへミスターMが帰って来た。
「今ちょうど、男子フィギュアスケートが始まってるわ」
顔を上げたNIKEは言った。
「あまり五輪見る暇ないなぁ。ミスターMはどう?」
「いや、僕は五輪あまり興味ないんで」
「なんで?」
「スポーツの祭典をアピールしているのに、政治的経済的なものを全く隠せてなくって、下手な欺瞞が興ざめだなと思うんですよ」
「なるほど」
しかし、運営サイドはともかく、選手の健闘に欺瞞はないわけだから、そちらを楽しめばいいのではないかとも思ったが、話しているうちに織田信成のフリーの演技が始まったので、関心はそちらに移った。
織田信成は途中まで問題のない滑りを見せていたが、急に演技が中断された。
靴ひもが切れてしまったのである。
その後は無難に滑り終えたものの、中断が響いたのか、点数は伸びなかった。
「やっぱ、靴ひもが切れた影響かな」
「動揺するのはよく分かるよ。僕も対局時計が切れたら…」
「NIKEさんはいつものことじゃないですか」
ミスターMは間髪いれずにやりこめた。
たりきとNIKEはしばらく将棋に没頭し、ミスターMは持ってきたギバ=ゾルテの詩集に目を落とした。
やがて、DENCHが帰って来た。
手には黒いかばんを提げている。
「どうしたん?そのかばん」
「書道を習うことにしてん」
急な展開に、ミスターMは詩集を閉じて立ち上がり、たりきはその立派そうな書道道具のかばんをのぞこうとし、NIKEはこれ幸いと切れた対局時計をセットし直した。
「しかし、えらい高そうな道具を選んだなぁ」
「いや、これにはわけがあって…」
「ん?」
「プリミエールのサイン色紙を見たけど、あれを直さないとプリミエールの賞はもらえない、うちの講座をとってこの習字道具で練習すれば、賞の独占間違いなし、とかしつこく説得されたんで、つい…」
「うーん、消費者契約法上の威迫・困惑類型にあたれば、契約取消しが…」
と考え始めたNIKEは、早くも2回目の時間切れが迫っていた。
「金は考えて使わなアカンやろ」
そういうたりきは、先週末の競馬でプリミエールの原稿料を使い込んでいた。