「レトロに酔って」を読んで

  • 2009.11.30 Monday
  • 23:23
 
■2009/02/06 (金) レトロに酔って Mr.Pink


久しぶりにDL03のところへ行ってみた。
行くといってもこの超高度情報化時代だから、単に彼のイニシャルがついたデータ群に焦点を定位させるだけだ。

何でも、彼は最近音楽に凝っているらしい。それもわざわざmp3をダウンロードして鑑賞しているらしいのだ。
なぜそんな回り道をするのかと尋ねると、彼は少しムッとした様子を見せて、まくし立て始めた。

もともと音楽というのは手間隙かけてデータベースにアップロードされたものを、一曲一曲手作業でダウンロードするものだった。
1曲3メガバイトというコストが掛かることも珍しくなかった。高級な趣味だったのだ。
最近では焦点を合わせて同期するだけというのが当たり前になっているが、そんなのは本来音楽とは言えない。
そんな味気ない一回限りの使い捨ての処理を、昔は音楽鑑賞と呼ばなかったのだ。
手間の掛かった形あるものとして音楽を手元に置く、これこそが本来の音楽の楽しみ方であって、品性ある趣味なのだ。

形と言ったって、と僕はくすぐりを入れてみる。この辺りに大規模クラッシュが来れば巻き添えを食って消失しちゃうじゃないか。

それは仕方のないことだ、とDL03は興奮気味のまま再びまくし立てる。
クラッシュの巻き添えになるなら諦めもつく。むしろそうだからこそ自分の所有する音楽に愛着が沸くというもんだ。

そんなもんかね、と力なく相槌を打って僕はこの話題を切り上げることにした。
彼の言うことが間違っているとは思わないが、特に真似をしたいとも思わない。昔からDL03はちょっと変わった奴だった。

じゃあ、と挨拶して彼への定位を解除する。
しかし言われてみれば僕も最近音楽はご無沙汰だったのではないだろうか。彼に刺激されたと思うのは悔しいけれど、戻り際に音楽系の情報群に寄ってみることにした。
もちろんmp3をダウンロードしたりはせず、普通に同期しただけだが。

そのとき、ふと気がついた。DL03は自分の名前からmp3のダウンロードを思いついたのかも知れない。
確かめるのも気まずいので彼のところに戻ったりはしないが、想像するとちょっと滑稽で、思わず笑ってしまった。

音楽を鑑賞して帰ると、もうすっかり休む時間だ。
僕はあくびをしながらデータ群の集積を解除し、他と一体化した。

サウナキング(第16幕)

  • 2009.11.30 Monday
  • 23:22
 

「ルールはどうするんだ、DENCH・・・さん。」
と色黒が言った。
「この中年どうしてくれるんだ、色黒・・・・さん。」
「色黒さんかぁ。覚えとけよ、それ言ったの。」
「お前もこいつにしたこと覚えとけよ。」
「ルールは私が提案してよろしいでしょうか。」
中年の化け物が言った。
「私は中肉中背の中年の中間管理職ですから、バランスがいいんですよ。だからこの平均台の上に最後まで立っていた方が勝ちというゲームなら自信があります。」
二人の暗い顔の男が平均台を音もなく運んできた。
「ただ立っているだけか?」
「それだとさすがに時間がかかると思いますので、趣向を。」
化け物は手を軽く叩いた。
鼓膜が痛むほどの音が鳴った。

「今、三回死んでいましたよ。」
目の前に渇いたタオルを握った化け物の腕が差し出されていた。
「殺してから言え。」
「このタオルで交互にお互いを痛めつけるというのはいかがでしょうか。タオル以外の接触は反則負けということで。」
「やらいでか。」
古代ローマのサウナで行われていた決闘法の一つである、ということを俺は西の銭湯で教わった。
実際にやったことはないが、まあ断る術はないだろう。

互いに距離をとり、間に平均台を迎え入れる。
タオルを確認する。
両手を水平に伸ばしたくらいの長さ、五十センチくらいの幅、タオル地だから相当扱いずらい。
「手拭いにしてくれ。こんなバスタオルの化け物、持ってるだけで疲れちまう。」
駄目元で言ってみた。
意外とすんなり「鎌」と「○」と「ぬ」が染め抜かれた手拭いが来た。

「面白いね、これ。やったことあんのかい?」
色黒が聞いてくる。
「ねえよ。問題ねえよ。」
手拭いを首にかけ、さっさっと首をしごく。
昔のプロレスラーがこんなことをやってたな。
ひゅうと口笛を吹いておどけた顔をした色黒のせいで、また化け物が一回りパンプアップした。
なんなんだこいつ。

「では先攻、DENCH!」
手拭いで痛めつけると言ってもなあ。
乾いた手拭いでの攻撃はかなり限られる。
首を絞める、というのは良さそうだが化け物は既に2mを超えていて届かない。
漫画みたいだ。
「終了!!」
「え??」
「この資本主義社会では時間はコストだ。お前、とろ過ぎるよ。後攻、中年!」

すっぱい葡萄

  • 2009.11.29 Sunday
  • 23:21
 

Wikipediaより

すっぱい葡萄

たわわに実ったおいしそうなぶどうをキツネが見つけた。食べようとして跳び上がるが、ぶどうの房はみな高い所にあり、届かない。何度跳躍してもついに届かず、キツネは怒りと悔しさで、「どうせこんなぶどうは、すっぱくてまずいだろう。誰が食べてやるものか」と捨て台詞を残して去ってゆく。

手に入れたくてたまらないのに、いくら努力しても手が届かない対象(人、物、地位、階級など)がある場合、その対象を価値の無いもの、低級で自分にふさわしくないものとみなす事であきらめ、心の平安を得る。フロイトの心理学において防衛機制、合理化の例として有名。

☆  ☆  ☆

みなさん、こんばんは。
「百舌谷さん逆上する」というマンガをご存知でしょうか。
作者は篠房六郎という方で、月刊アフタヌーンで連載中だそうです。
僕は、1巻だけ部分的に立ち読みしました。
その中で、登場人物の百舌谷さんに次のようなセリフがあります。

「死にそうにお腹が減ってブドウにも手が届かない哀れで無力なキツネを見下して笑う底意地の悪いイヤな話よ」
「キツネは自分が死にかけていて無力でどうしようもないのが分かっていて『どうせあのブドウはすっぱいに決まってる』って負け惜しみを自分の心の最後の支えにしてるのに その哀れなキツネの精一杯の無様な矜持を満ち足りた者がよってたかって笑うのよ」

僕はこれを読んで泣きそうになりました。
数ヶ月前に人と話していて気がついたのですが、僕は「くやしい」という感情がとてもツボに入りやすいようです。誰でもそうなのかもしれませんが。
僕も人並みに負けず嫌いですから、他の人と比べて自分が劣っている、と感じることはキツいです。
これはもうはっきりコンプレックスだと自分では思っていて、だから僕にとっては重要なテーマなのですが、そういうことを雑兵日記で書いてもあんまり票が入らないなあ、という気がしています。
みんなはどうやってそういう気持ちに折り合いをつけているのでしょうか。
折り合いなんてついていないのでしょうか。
他にもっと大事なことがあるからどうでもいいのでしょうか。

こんなことを書いていると気が滅入ってきますけど、客観的にはかなりだいじょうぶです。
若いですから。
健康ですし。

一葉の葉書

  • 2009.11.28 Saturday
  • 23:20
 

たったひと言でもいいのです
それでも
受けとって・・・・・・
嬉しくて涙を流す
人だって
いるのですから・・・

浅田弘幸著 『テガミバチ1』 講談社 2007年1月9日第1刷発行 p.71

やっぱり手書きの葉書もいいもんですよね。

さあて、当てみせるぞ100万円!!


おや、お久しぶり。
Mr.Pinkでございます。

みな様ご機嫌麗しゅう
3度連続して書くとさすがに読む方も飽きるのじゃなかろうかと、もう、心配で心配でたまらない訳でございますが、プリミエールの原稿を落とすか落とさないかの危機が鬼気として迫っている以上、四の五の言わず無理難題をこなす。これが、プロ。
原稿を書くこと。
それが、プロですから!!

さて。
今日はピンクにしては珍しく講義形式の知識披露。
もう、疲労して披露どころじゃないんですが仕方ない。
ピンクの秘術の一端をお見せしましょう。

題して、「懸賞で儲けるテクニック」
まさに、実生活に非常に役立つ講義内容でございます。
何しろ、この私。ここ一年間で懸賞応募をしまくりまして数々の賞品を手に入れて参りました。図書カードはじめ商品券、マットに時計に、ポスター試写会券。何でもかんでも手に入れる始末。

しかし、何でもかんでも手当たり次第応募すれば言いと云う物ではありません。

実は、懸賞応募にはちょっとしたコツというものがあるんですね。
ちょっとした、コツ。
これをするだけで、当選確率がどんと10倍ぐらい跳ね上がります。

〇住所は都道府県から書く

いきなりね。市町村から住所を書く人が居ますが、ね。ダメね。それ。
というのは、応募側の人間は県別で応募枠を振り分けて抽選をしている場合があります。パッと見てパッと分かるように配慮する。これ、大人のマナー、エチケットです。

〇これが奥儀じゃ!心せよ!!

奥儀伝授?早っ!
ええ。これが奥儀です。
どれが?
これが。

・・・葉書の最後に、一言コメントを入れてやること。
コメントを求められていなくても、です。
まさに、これです。
けなし3分に誉め7分。と、よく言われますが私の場合けなし7分に誉め3分が多いですね。何にしろ応募側としては一般ユーザー利用者が「どう思っているのか」と云うことを知りたがっています。知りたいことを伝えること。相手に立場に立って振舞うこと。

別に、応募に限った事ではないのですが案外に実践で出来ないものなのです。
さあ、さっそくキミも葉書を持って今すぐ懸賞に応募しようZe!!
(了)

秋雨も美しく晴れ空も麗しいこの日に

  • 2009.11.27 Friday
  • 23:18
 

何か、こう言うことを仮面者風情が、一番先に書いてしまうとなんだか抜け駆けのような気がするので。
適任者は他にいらっしゃると思うので、是非プリミエール執筆陣の皆様、ご一同様ご相談の上で、口上をお願いいたします。
私ピンクは、今日も、日常をさりげなく。
ひっそりと。
何事も無かったような感じで・・・

・・・ゲヘヘ。振り向きざま後ろから、いきなり鎖鎌で通行人を襲ってやる!!
と、言うような、文章を書き続けていきます。

レディース、エンド、ジェントルメン・・・エーーーンド、おとっつぁん、おかっつぁん、おこんにちは。グド、エブニング、おコンバンワ。

さあ、久々のMr.Pinkのご登場ざまス。
みなさまお元気?

ん?
この間からなんか、夜中に演説会やってたのは誰かって?
さあ?

誰でしょう?
誰でしょうね?

あーれは、一体、だれだったのかなぁーーー?
だれ、だろなぁー?
だーーれの、仕業なのかしらぁ〜?

よく世間にいますよね。あんな、押し付けがましい「正論」を振りかざして正義面するようなヤツ。
ああ言う手あいの人間を見ると、思わず後ろから金属バットで、ごおんと、いてまいたくなります。
TPOと云う言葉の「テ」の字も知らないような破廉恥野郎だな。全く。
私が、DENCH先生ならこう、怒鳴り付けますね。
「TPOが、なっとらん!」
ちなみに、Tとは「time」Pとは「place」そしてOとは「opportunity」(或いは「occasion」)の頭文字を取ったものです。

ゲヘヘ。
ひいぃ!

いやあ。
自分の一番大嫌いなことを率先してやってしまいました。
まさか自分が仕出かすとは。己の欲せざるところ他人にほどこすこと無かれ。

お詫び申し上げます。

もうしません。
申しません。
もうしません。

・・・たぶん。

しかし、揚げ足取りと言われようとも気違いとも言われようとも、自分の信仰に反することでしたので、つい、かっとなって、開戦。振り上げたこぶしをどこに落としたらよいのやら迷っているうちに、討論の中で自分の中に迷いが生じ、結局のところが「何がベストなのか私には判らないわ」ということに、再度、行きついた次第。
お騒がせしまして、ご迷惑をお掛けしました。

しかし、ピンクという人物が、どういう人間(?)であるかという素顔が夜の星影から薄らぼんやりと見えた瞬間ではなかったかなと、思います。
もう・・・もう・・・もう・・・

もう、二度とは素顔を見せるなんて破廉恥なこと。
致しませんわよ!

・・・たぶん。

立憲桃友會民主主義大演説會其ノ参

  • 2009.11.25 Wednesday
  • 23:17
 みなさま、おこんばんは。でんちさんの舞台を土足で踏み荒らして選挙論争に勝手に終止符を打とうと企むピンクでございます。
ご機嫌いかが?

さあて。
こんがらがった問題も、原点に戻って見つめてみれば実に簡単。
つまり、主権者として選ばれた以上主権者としてふさわしい行動を取るのが常道じゃなあい。みなさま?・・・ということを、言いました。

けれども。
しかし。

かれこれ20世紀以上生き続けて来て、平凡な頭脳で考え、少しばかりの人生経験を基にした仮説。それも、自分自身を納得させる為の仮説。「私の答え」に過ぎません。
敢えて言うなら、これは私の「信仰」と云うべきもの。

この理論を以って、仮に議論で勝ったとしても納得をしないと思います。

しかし・・・
しかし・・・到底、彼らの意見を尊重することが私には出来ないのです。

この問題をずっと考えて見るうちにこの手の議論をする時に感じる不満、違和感、もどかしさ。これが、自殺を容認する人に対して命の尊さを説き続ける人に対して反論する時と同じものを感じるな、ということに気がつきました。

同じもの。
それは何でしょうか。

私にも、まだハッキリと言い切ることが出来ないのですが、それはたぶん、こうだろうと考えられます。
つまり、「本当の価値を知らない癖に」と云うこと。

たぶん。こうだろうと思うのです。
今持つ、「投票権」というものがどれだけ深く尊いものか。
今ある、「生命」というものがどれだけ、重いものなのか。

この60億人の人口を誇る地球の上では一人間の叫びも、一人間の死も、誕生も、苦しみも楽しみもごく些細な出来事で・・・いや。宇宙誕生からの歴史の中から見ればどうでもいいことに過ぎません。

でも自分にとってはどうですか?
本当に、放棄してもいいのですか?どれだけ尊いか知らない癖に。
現在と云う時間軸の中で出来ないことはとても多い。しかし、自由に出来ること。これは、考えれば考えるほど多様にあり行動は一つの波紋となって広がり他の輪と重なりそして、大きなうねりを作り出します。
生命も、権利も。

捨てるには勿体無いのではないでしょうか。
答えを私に求めないで下さい。今は私は私の答えを見つけることで精一杯なのです。
だから、私に言えることは只一つ。
「捨てるのは勿体無いのではないですか?本当の価値を知らないのに」

この一言を以ってピンクの選挙論の総括としたいと思うのです。

夜の散歩2

  • 2009.11.23 Monday
  • 23:15

ぼくは、夜型の人間だ。
中学高校時代の定期テストの勉強などは一夜漬けという形でしかできなかったし、夜中に布団にくるまってゲームをして朝を迎えるなんてことはしょっちゅうだった。
大学に入ってからもそれは変わらず、部室では麻雀や将棋で夜を明かし、家に帰ったらゲームをしながら阪急の始発列車の音を聞いた。
研究室に入ってからも実験で夜中になったとしてもむしろ嬉々としていたものだった。

夜中に出歩くのも好きだ。
賑やかな昼間よりもむしろ夜の方が確かな生を実感できる心地がするし、月や星の光があれば孤独を感じることだってない。
大学時代、考え事をしたかったり研究で行き詰まりを感じたときにふらりと外に出るなんてことは何度あったことか。

先日、夜中にドライブに出掛けた。
特に何かをしに行ったわけではない。あえて言えば車を運転したかったということだろうか。
夜に車を運転するのは爽快だった。昼間に比べると交通量も少ないのは大きい。
それに、昼に比べて目に入ってくる情報量が少ないのがいい。適当な音楽を流しながらひたすら道を進むのだ。

海の側も走った。
暗かったしばっちり脇見するわけにもいかないのでよくは見えなかったが、少し窓を開けると波が防波堤を打つ音と潮の匂いが入り込んできた。

風呂は心の洗濯とは言うけれど、何も考えずに湯船につかるなんてことはまずできない。次から次へと想いを巡らしてしまい、洗濯どころか余計に心がぐちゃぐちゃになってしまう。
もちろん、だからといって他の方法で解決できるわけでない。
夜中に気分転換ということで出歩いてみたところで、目の前にある問題が解決するわけではなく、結局はそのことばかり考えてしまう。
それでもぼくは、閉鎖された空間で考えるよりも少しでも世界と繋がっていたいという気持ちからか、外に出て考えるという手法をとってきた。

それを考えると、夜にドライブするというのはひとつの友好な手段ではないだろうかとぼくは思う。
運転するわけであるから、少しはそちらに集中しなければならないし、かといってまったく考え事ができないほどではない。
世界と繋がるためには窓を少し開けるだけでよい。風を感じることができる。

無駄だと言われるかもしれないけれど、ぼくはまた夜中にドライブに出掛けることだろう。
それこそが、今のぼくの夜の散歩である。

ケーキのおばあさん

  • 2009.11.22 Sunday
  • 23:14
 僕が小学校低学年だったころの話です。
今はアパートが建っていますが、当時は僕の家の前は空き地でした。
雰囲気は、まさにドラえもんに出てくるあの空き地のような感じです。
僕達は学校が終わるとそこに集合し、暗くなるまで遊びました。

空き地の隣には、小さな家がありました。
その家にはおばあさんとおばさんが住んでいました。
ある日、僕達がいつものように空き地で遊んでいると、
その家からおばあさんがヨロヨロと出てきて、こっちを見て手招きしていました。
何だろうと思って近づいていくと、おばあさんは一旦家の中に戻ってから、
人数分のショートケーキを持ってきました。
僕達はお礼を言ってから、ハグハグとケーキを食べました。
すると、おばさんが買い物から帰ってきました。
おばさんは僕達の方をみると、驚くほどの大声で
「そんなもの食べちゃ駄目!!」
と言って僕達のケーキを取り上げました。
そしておばあさんの手を引っ張って、家の中に入っていきました。
家の中から、おばさんがおばあさんを叱っている声が聞こえてきました。

しばらくすると、おばさんが出てきました。
おばさんが言うには、あのおばあさんはとうにボケてしまっていて、
ケーキも賞味期限が切れたり腐ったりしているかもしれないとのことでした。
僕は「別に腐ってなかったし美味しかったよ」と反論しましたが、
次からは絶対におばあさんからもらったものを食べてはいけないと言われました。

数日経ったある日。
おばさんが居ないことを見計らって、またおばあさんが手招きしてきました。
今度はクッキーの入った袋を持っていました。
おばあさんは腰は90度曲がっていたし、動きも遅かったですが、
とてもボケているようには思えませんでした。
クッキーはとても魅力的でしたが、僕達はそれを我慢しました。
おばあさんがおばさんに叱られるのが嫌だったのです。

僕が中学に上がって間もなく、その家でお葬式がありました。
驚いたのは、亡くなったのがおばあさんではなくおばさんだったことです。
病気なのはおばさんの方だったのです。
おばあさんの腰はもはや90度以上曲がってしまっていましたが、
それでも弔問客に対して気丈に振舞っていました。

僕は、おばあさんにもらったショートケーキの味を思い出していました。

ゴルフカップ  Mr.Black

  • 2009.11.21 Saturday
  • 23:12
 

コンプレックスとは誰しもが持っているという。人は、そのコンプレックスをどうやって克服していくのだろう。克服するのではなく、コンプレックスそのものを除去する手段があるとして、それに頼ることはずるいことだろうか。
私には、物心ついたころから、顔の目立つところに黒子があり、それがコンプレックスの1つだった。自分の不安の根源がすべてそこにあるような思いがすることがあるし、同じところに黒子のある人に出会うと、それだけで、その人のことをあまり好きになれない気になる。
1カ月前、ある決意を持って大学病院の形成外科を訪ねた。
心地良い低音の声で話される穏やかな雰囲気の先生に迎えられ、幾分得られた安心で自分を鼓舞して決意を話した。今までの人生において出来るだけ触れないよう避けてきた部分をさらけ出し、話を終えると背中を嫌な汗がつうと流れるのを感じた。その後、先生から除去手術についての説明を受け、帰宅した。
 手術の日までは時間があった。その間、気づくと、今回した選択が果たして許されるべきかという思いが何度も頭をもたげた。単なる自分のエゴでこんなことするなんて、除去しちゃうなんてずるいじゃないかと。いつかテレビで観た、『ビューティーコロシアム』では、美容整形手術をうけた出演者が、スタジオで輝かんばかりの笑顔を振りまいていたが、あの人たちはこの何ともいえない後ろめたさを乗り越えていたのだろうか。
 手術は日帰りで行われた。診察室のベッドに寝かされ、除去箇所のマーキング、部分麻酔の注射の後、メスを入れられる。麻酔のあと痛みはまったく感じず、ただ、くり抜く際に、ぶちぶちと細胞が切り離されるような感触があった。
手術後、黒子があったその場所には、まるでゴルフカップのような穴が開いていた。(ゴルフカップとは先生の言葉。私はゴルフをやったことはない。先生はゴルフをされるのだなと思った。)この穴は、これから、上皮細胞が増殖して移動することで埋まっていくという。
私は、ボールではない何でこの穴を埋めたかったのだろう。今回の代償は果たして何だろうか。やがて現れるであろう、次のコンプレックスに、私はどう立ち向かえるだろう。
「廃棄しても良いですか」といって見せられたそれは、まるで小さな黒いボールのようで、1つの物体としてそこに存在していた。こんな小さな存在で、私のたくさんの不安を抱え込んでくれていたのだと思った。

おしえて

  • 2009.11.20 Friday
  • 23:11
 

注意:以下の物語は全くのパロディなので、ハイジのアニメや原作をこよなく愛し、シャレを汲み取ることのできない方は、ご注意ください。

わたしハイジ。
アルムの山に帰ってきて、今は学校にも通ってるの。
山も学校も、面白いことや不思議なことがいっぱいあって、楽しいわ。

でも、学校であまり色んなことを先生にたずねると、叱られるの。
最近はペーターも「ググれカス(注:グーグルで自分で調べろ、の意)」とか、いじわるばかり。
もう、おじいさんのチーズ分けてあげないんだ。

ネットは便利ね。
色んなことがすぐに調べられちゃう。
でも、「口笛はなぜ遠くまで聞こえるの」って調べても、周波数がどうとか私にはさっぱり分からないわ。「あの雲はなぜ私を待ってるの」って調べても、載ってないし。

つまんないから、家の裏のモミの木に回し蹴りして八つ当たりしてたら、おじいさんが、
「そんな乱暴なことはやめなさい。モミの木が泣いているだろう」
って言うの。
「おじいさん、木が泣いているって分かるの?」
って聞いたら、
「ああ、分かるとも。木の声を聞いてごらん」
って言ったわ。
「でも、どこにも涙を流してないよ?」
って尋ねたら、
「お前もじきに分かる時がくるよ」
だって。
そういえば、確かに木のざわめきは泣き声のようにも聞こえたけど、その時はまだ納得できなかったの。

でも、しばらくして、学校で分かっちゃったんだ。
その日は理科の授業で、植物のことを勉強したんだけど、教科書には草の茎が切り取られている写真が載ってたの。
必要もないのに草花を摘んだりしちゃだめだっておじいさんに教わってたから、この草も前のモミの木のように泣いてるんだろうなって考えてたの。
そしたら、ちょうどその茎の切り口から水が染み出していて。
「じゃあアーデルハイド(注:ハイジの本名)、茎から水が出てくるのはなんでだと思う?」
って先生に聞かれたから、私はすかさず、
「草が切られて痛いから、泣いているんだと思います」
って言ったわ。
「すごいわね、アーデルハイド。あなた詩人になれるわよ」
先生は笑顔でほめてくれたの。

やっぱり、おじいさんの言った通りだったわ。
おじいさんは何でも知ってるのね。
でも、周りのみんなが妙に大笑いしてたのと、先生の笑顔が少し歪んでいたように見えたのは気のせいかしら。

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