時間節約のススメ ハッタリスト
- 2008.12.31 Wednesday
- 04:21
エレベーターの5階のボタンを押そうとした手を止めて、「閉」のボタンを押してから改めて「5」を押した。
その様子を見ていたトモダチが不思議そうな顔をしていたので、解説を試みることにした。
『先に閉まるボタンを押したほうが時間の節約になるような気がする』
メガネの向こう側でこちらを見る目から、笑いが消えた。
「そんなことを考えているヒマに他のことを考えたほうが時間の節約になるとワタシは思うけど」
『考えずにできるようになればいいんじゃないだろうか』
「今はそのための訓練をしてるってこと?それこそ時間のムダじゃないの?」
かき上げるほど長くもない髪をかき上げながらそう言った。それがトモダチのクセなのではないかと、そのとき初めて気がついた。
『訓練が終わればいずれ得になるはずだと思う』
「そっかな、どうせほとんど変わんないんだし、おはなしでもしながら待ってたらいいんじゃないの?エレベーターの中では」
ドアが開いて、最後に一言だけ残してさっさと出て行った。
「べつにいいんだけど」
別の日。
駅のほうへ向かう帰り道で、偶然トモダチを見つけた。
トモダチとは違ってふだんは電車を使わないのだが、道は同じなので駅の近くまで一緒に帰ることになった。
トモダチが歩くペースはやや遅く感じられたが、それに合わせた。
他愛ない世間話をしゃべり続けるのがトモダチの役だったので、こちらは聞き役に徹した。
やがて駅につくと、小さく手を振ってみせた。
「それじゃあ」
『あー、いや、今日は電車で帰ることにする』
「なんで?いっつも健康のためとか言って、電車使わないでけっこう遠くまで歩いてたんじゃなかったっけ?」
トモダチが不思議そうな顔をしていたので、言い訳を試みることにした。
『電車に乗るほうが時間の節約になるような気がする』
少しの間メガネの向こう側からじっと見ていたが、すぐに笑いだした。
「もしかして、このまえのエレベーターのときのこと気にしてる?ごめんね」
『そういうわけじゃあない』
そして笑顔のまま、髪をかき上げながらこう言った。
「でも、これでもうすこしおはなしできるね」
夕日に照らされて光るトモダチの黒い髪は美しいと、そのとき初めて気がついた。
その様子を見ていたトモダチが不思議そうな顔をしていたので、解説を試みることにした。
『先に閉まるボタンを押したほうが時間の節約になるような気がする』
メガネの向こう側でこちらを見る目から、笑いが消えた。
「そんなことを考えているヒマに他のことを考えたほうが時間の節約になるとワタシは思うけど」
『考えずにできるようになればいいんじゃないだろうか』
「今はそのための訓練をしてるってこと?それこそ時間のムダじゃないの?」
かき上げるほど長くもない髪をかき上げながらそう言った。それがトモダチのクセなのではないかと、そのとき初めて気がついた。
『訓練が終わればいずれ得になるはずだと思う』
「そっかな、どうせほとんど変わんないんだし、おはなしでもしながら待ってたらいいんじゃないの?エレベーターの中では」
ドアが開いて、最後に一言だけ残してさっさと出て行った。
「べつにいいんだけど」
別の日。
駅のほうへ向かう帰り道で、偶然トモダチを見つけた。
トモダチとは違ってふだんは電車を使わないのだが、道は同じなので駅の近くまで一緒に帰ることになった。
トモダチが歩くペースはやや遅く感じられたが、それに合わせた。
他愛ない世間話をしゃべり続けるのがトモダチの役だったので、こちらは聞き役に徹した。
やがて駅につくと、小さく手を振ってみせた。
「それじゃあ」
『あー、いや、今日は電車で帰ることにする』
「なんで?いっつも健康のためとか言って、電車使わないでけっこう遠くまで歩いてたんじゃなかったっけ?」
トモダチが不思議そうな顔をしていたので、言い訳を試みることにした。
『電車に乗るほうが時間の節約になるような気がする』
少しの間メガネの向こう側からじっと見ていたが、すぐに笑いだした。
「もしかして、このまえのエレベーターのときのこと気にしてる?ごめんね」
『そういうわけじゃあない』
そして笑顔のまま、髪をかき上げながらこう言った。
「でも、これでもうすこしおはなしできるね」
夕日に照らされて光るトモダチの黒い髪は美しいと、そのとき初めて気がついた。