孫の手 Mr.ホワイト
- 2008.08.31 Sunday
- 22:09
背中が痒くって、右腕と左腕を千手観音のごとく駆使しても、痒いところに手が届かない。
痒いところは常に手が届かないところにある。やれやれ。
仕様が無いので手元にあったプラッチック製の30センチ定規でガシガシ掻いてみたものの、
角があたってなんか痛いし、掻いてるうちにどこが痒いのかよくわからなくなってきた。
そもそもおれは本当に痒いのか、痒いと思っているおれは本当におれか、
という哲学的命題が0.5秒だけ頭にちらついたが、やっぱ痒い。
これはやはり孫の手のやさしいタッチが必須である、と思い直し、孫の手を探したが、ない。
孫の手など、一家に一本は必ず必要であろうに、なぜうちにはないのか、
と憤怒の念がたぎりはじめ、探しているうちに痒みなどなくなったが、
どうしても買いに行かねばならぬという衝動を抑えきれず、
下妻市民がジャスコで何でも揃えるように、
とりあえず市内の大型ショッピングセンターに原付を走らせる。
最近のスーパーは何でも揃うぜ!商店街をつぶして発展しただけはある。
雑貨売り場を探して見たものの見つからず、レジの店員に聞いても首をひねるばかりだったため、
やむをえずインフォーメーション・センターなるところへ行くと、
能面のような顔をした女ふたりがちょこんと座っていた。
「孫の手って、どこに売ってますかね?」
と聞くと、能面ふたりはひどくうろたえ、責任者を呼びますので、と言った。
背広姿の恰幅のいい饅頭のような男が汗をハンカチでふきつつ現れ、
能面ふたりとゴニョゴニョ相談をしたあと、おれのほうに向きなおし、
「それで、どなたのお孫さんの腕が欲しいんでしょうか?」
と言った。
グニャリと視界が歪んで、おれは立っていられなくなった。
「何歳くらいの子の腕が欲しいんです? え?」
爆砕されもがれた赤子の右腕を想像したおれは吐きそうになり、背広饅頭の不気味な笑顔をぶん殴った。
能面ふたりがそろって警報機のような悲鳴をあげ、店員と客がいっせいに赤い目をおれに向けた。
グラグラと揺れる頭と吐き気をかかえ、フラフラになって店の外に出る。
背後から店中の人間が狂ったようにおれを追ってくる。
見上げると空は、赤と緑のだんだら模様の凄まじい色になっていて、
それを見ておれは、ああ、これは現実なんだな、と思った。
ガラスが割れる音がして、おれはピストルの銃口をこめかみにあてた。
痒いところは常に手が届かないところにある。やれやれ。
仕様が無いので手元にあったプラッチック製の30センチ定規でガシガシ掻いてみたものの、
角があたってなんか痛いし、掻いてるうちにどこが痒いのかよくわからなくなってきた。
そもそもおれは本当に痒いのか、痒いと思っているおれは本当におれか、
という哲学的命題が0.5秒だけ頭にちらついたが、やっぱ痒い。
これはやはり孫の手のやさしいタッチが必須である、と思い直し、孫の手を探したが、ない。
孫の手など、一家に一本は必ず必要であろうに、なぜうちにはないのか、
と憤怒の念がたぎりはじめ、探しているうちに痒みなどなくなったが、
どうしても買いに行かねばならぬという衝動を抑えきれず、
下妻市民がジャスコで何でも揃えるように、
とりあえず市内の大型ショッピングセンターに原付を走らせる。
最近のスーパーは何でも揃うぜ!商店街をつぶして発展しただけはある。
雑貨売り場を探して見たものの見つからず、レジの店員に聞いても首をひねるばかりだったため、
やむをえずインフォーメーション・センターなるところへ行くと、
能面のような顔をした女ふたりがちょこんと座っていた。
「孫の手って、どこに売ってますかね?」
と聞くと、能面ふたりはひどくうろたえ、責任者を呼びますので、と言った。
背広姿の恰幅のいい饅頭のような男が汗をハンカチでふきつつ現れ、
能面ふたりとゴニョゴニョ相談をしたあと、おれのほうに向きなおし、
「それで、どなたのお孫さんの腕が欲しいんでしょうか?」
と言った。
グニャリと視界が歪んで、おれは立っていられなくなった。
「何歳くらいの子の腕が欲しいんです? え?」
爆砕されもがれた赤子の右腕を想像したおれは吐きそうになり、背広饅頭の不気味な笑顔をぶん殴った。
能面ふたりがそろって警報機のような悲鳴をあげ、店員と客がいっせいに赤い目をおれに向けた。
グラグラと揺れる頭と吐き気をかかえ、フラフラになって店の外に出る。
背後から店中の人間が狂ったようにおれを追ってくる。
見上げると空は、赤と緑のだんだら模様の凄まじい色になっていて、
それを見ておれは、ああ、これは現実なんだな、と思った。
ガラスが割れる音がして、おれはピストルの銃口をこめかみにあてた。