アネモネ byたりき

  • 2008.03.31 Monday
  • 23:04
窓を叩く雨の音で目が覚めた。
外はまだ暗い。頭はまだ痛い。
目の前に広がるのはいつもと変わらない天井。僕は、外を降る雨のように頭の中を打ちつける痛みの中、昨日のことを思い出した。

7年ぶりの高校の同窓会、たった20人のクラスだったこともあってか欠席者はいなかった。
それぞれの今のことについて語り合い、高校時代のことを思い出すがままに話し合った。
あの頃は幼く、無垢で、無知だった。世の中を構成している感情は、すべて喜怒哀楽で表現できると信じて疑わなかった。
二次会の場所に移動してから、ある言葉があちこちで聞かれるようになってきた。
結婚。
高校時代には「好きだから付き合う」といった簡単な方程式が成り立ったものだったが、それから10年が経ち、今ではその延長線上に結婚の二文字を意識するようになってきた。
誰が予想しただろうか。
ビールや焼酎を片手にお互いの恋愛について語り合う日が来るなんてことを。
当時好きだった女の子と、それぞれの恋人のことやその先にあるものについて話すことを。
君への愛、友情、慈しみ、憧憬、狂気、不安、感謝、君の幸せを希う気持ち。欲望。
当時、僕が恋の苦しみだと思っていたものは取るに足りないちっぽけなものだった。そのすべてが絶妙の配合で交わった感情の存在自体、僕は知らなかった。

窓の外から聞こえる雨の音が弱くなっていることに、僕は気がついた。頭の中を打ちつける雨音が弱くなっていることにも。
天井に向かって手を伸ばしてみたが、手のひらは宙を舞うばかりで天井まではまだまだ距離があるように思えた。
昨日の出来事もこれに似ている。
僕たちが高校時代に戻れないのと同様に、あの頃のような関係には戻れない。
付き合うことの延長線上には結婚の二文字の姿が見え隠れし、駅までの15分を一緒に歩くことに喜びを見つけることはないだろう。

視線を天井から横に移すと、すやすやと眠る彼女の姿が目に入った。天井に伸ばしていた手で彼女の優しい髪の毛をなでてみた。
あの天井のように届かないところに過去はあるけれど、こんな近くに愛すべき彼女がいる。
過去には期待をすることも希望を持つこともできないけれど、これから歩む未来には無限大の可能性が秘められている。

外から雨の音が消えた。気分もすっきりしてきた。
眠っている彼女に一言告げてから、布団を出て身支度を始めた。

ハッタリスト・パレード A.ハッガリーニ

  • 2008.03.31 Monday
  • 01:03
雑兵日記PREMIER2008年2月度の準MVPはハッタリストでした。
MVP争いの常連、過去には「MVPはもういらぬ、作品賞をくれ。」とうめいたと言われる強豪です。
今月は高いレベルで目先を変えた3作品を発表。
特に締め切り間際に叩き込んだ「Alcoholic Parade」は最優秀作品に輝きました。

早速各作品を振り返ってみましょう。
まずは「ブックショップはワンダーラン(未)」です。
科学者然とした態度で淡々と書き綴ったこの作品は、パクりの天才DENCHをして「マルクス経済学(R−18)」というパロディ作品を生ませしめました。
ライトエッセイと小説のはざまをめぐる冒険が始まってます。

次に「バス・ストップ」。これには最優秀作品として2票投じられています。
「千字文として完成された作品だと思います。月と闇の表現が良かったです。」
月にまつわる表現をバスに置いて行かれ、後続のバスにまで追い抜かれる侘しさとともに美しい文章で紡いだ作品。
小説とエッセイのハザマの小説寄りにダイブしています。
これを読んだ者は「書く材料がない。」なんてことは金輪際言えなくなるでしょう。

お待ちかね「Alcoholic Parade」です。
「電車通学していたものとして共感できる部分が多かった。 ハッタリスト流の趣向を凝らした表現もナイス。」
「エッセイと小説の中間どころをよく捉え、文章として非常にまとまっているものと感じました。」
「読んだ瞬間これしかないというインパクトを食らいました。しかもあのハッタリさんが書いたというならなおさら。」
「今回は非常にハイレベルな文章が多く悩みました。この作品はある意味誰もが経験したことがあるであろう事象を文学的筆致で秀逸に表現されていると思いました。」
最後にこんなコメントも。
「この作品のせいで僕の自信はコッパミジンに打ち砕かれてしまいました。告訴したいです。」
倒錯してます。
すごい。
告訴の際はNIKEを紹介しますので、マネージャーの私を通してください。
投票して頂いた5名の方全員がこんなに熱いコメントを寄せてくださっています。
ハッタリと言えば自らの中に天使と悪魔を飼っていたり、ハッタリが二人いたり、自己との対話が頻繁に出てきます。
今回は小人でした。
次はどんなキャラクターが登場するのか、という観点からも楽しみにしたいと思います。
ハッタリストに拍手を!

うべべに栄光あれ A.ハッガリーニ

  • 2008.03.31 Monday
  • 00:25
雑兵日記PREMIER2008年2月度のMVPはうべべでした。
「書いた量が一番少なかったのですが、その分印象に残りました。」というコメントが寄せられています。
彼は先月どんな作品を残したでしょうか。
まずは「バレンタイン」。
読んだ瞬間最優秀作品候補に挙がった方も多いでしょう。バレンタイン当日に甘く切ない男の子と女の子のすれ違いをほのぼのと描いた佳作です。
「男女の恋心を面白く書いていたような気がします。そんな中、『うべべ君の頭がパーだからだよ!どうして素直になれないの?欲しければ欲しいってハッキリ言えばいいのに!バカ!』は、まるで自分のことを言われたようで、泣けました。負けました・・・。希望として、この男女はぜひ結婚してほしいと思います(笑)」という熱いコメントが。
本人も「タイムリーに書けた」と自画自賛です。
次に「木をみて森をみず」です。 
DHMOの恐怖という有名なジョークを、食の安全問題と彼自身の世界、つまりうべ市ネクスト市長うべべ様とダメ役人の掛け合いとコラボさせた作品。
「DHMOが何であるかを調べさせられたので、印象に残っている。面白くて、うまくできている文章だと思う。」というコメントが寄せられています。

うべべは長文化の進んだ中で千字にこだわって作品を紡いできました。
喜劇風ショートストーリーというスタイルも支持理由の一つにあがっていますが、その作品の密度は濃く、千字に収めるのがやっと。
うべべをMVPに選んだ理由で、強烈なコメントが寄せられています。
「『木をみて森をみず』で『毒物』という表記が気になりました。 広義では体に悪いものを毒物と呼ぶこともあるでしょうが、この用語はどうしても毒物及び劇物取締法を思い出させます。当然これによる定義において『みず』は毒物にはあたりません。 『バレンタイン』では『女心の方程式』なるセリフが強烈に不快でした。 僕にこれだけ書かせたという点において、両作品を書いたうべべを推します。」
なんという倒錯した感情でしょう!
ここまで心の琴線を乱れ弾いた、掻き毟ったうべべはまさにMVPにふさわしいといえます。
うべべに拍手を!

パッションと音楽と銃と僕と byミッチー

  • 2008.03.30 Sunday
  • 19:18
今にして思い返すと、20歳前後の頃、僕は情緒不安定なところがあったと思います。

今この瞬間にパッションを解き放て的な衝動任せの行動を美徳とし、世間への迎合と中庸主義を何よりも嫌っていました。予備校にはろくに登校せず、寮の門限破りだけが生きがいで、毎日酒を飲んで悪友と語り合っていました。

このように書いてみると、いかにもサンデーかマガジンで連載されている不良漫画のようですね。実際、当時の僕を突き動かしていたものは、不良中学生のそれとよく似たものだったかも知れません。人によってはこうした感受性豊かな時期を思春期と呼んだり青春という言葉で表現したりするのでしょう。

この時期から、僕は音楽を良く聴くようになりました。
音楽が感情に訴えかける力というのは侮れないものがあります。ルターに始まりニーチェやアドルノなど、音楽を特別視する思想家は少なくありません。
あるいはむしろ、音楽から何かを感じ取れる感情の力なのかも知れませんが、それはものの見方の違いに過ぎないと言えます。

音楽の力について、印象深い個人的な体験をお話ししましょう。

盛岡で過ごす最初の冬を迎え、僕は孤独と寒さでいつもぶるぶる震えていました。浪人時代の不良少年的パッションがいつもどこかで燻っており、大学生として生きてゆかねばならぬ、生活というものをしなくてはならぬということを今ひとつ納得できずにいた、そんな時期です。

ここまで読んで「どんだけ幼いんだよ」と鼻で笑ったあなたは、僕とは不倶戴天の間柄ということになりそうです。悪しからずご了承下さい。
もっとも「分かるよ、その気持ち」と頭をナデナデされたいわけでもありません。28歳大学院生、未だ多感な年頃です。

さて、雪の降り止まぬ零下10度の朝に、僕はひとりでABBAを聴いていました。ところが、透き通った女声コーラスによるポップでノリノリの旋律に身を委ねるうちにいきなり涙が溢れてきたのです。嗚咽しても独り。
髪もヒゲも伸び放題のむさ苦しい男子大学生が、1限の授業をサボり自宅アパートで訳も分からずオイオイ泣いている。傍目にはさぞ見苦しい光景だったことでしょうが、本人にとっては半ば宗教的な瞬間でした。

音楽が伝えるメッセージに感動したのではありません。音楽は僕の感情発露のトリガーを引いたのです。
当時の僕は、発射機構にトラブルを抱えた銃だったのです。きっとそうです。

おれとおまえらのせかい ハッタリスト

  • 2008.03.30 Sunday
  • 18:43
昨日の朝から何も食ってないし寝てないしろくなことなくて、水びたしになってるのそのままにしてあいつら帰りやがった。それも見て分からんはずないのに訳分からん男の相手して、金ないから走って全部終わってからのこのこ戻ってきやがって疲れたるんだよあんな野郎生きようが死のうが俺のしったこっちゃねえ。
家に帰るのめんどくさいし帰っても何もおもしろいことなんかないから、目が回って電車に乗ってもすぐに降りたくなる。
俺の前を歩くな、俺の後ろを歩くな、俺に近づくな。
壁がじゃまでよじのぼったら腰から落ちてもうどうでもいいよ。

メールうちながら歩いてるやつもでかい声でばか話してるやつも道をふさいでるやつも全部ぶん殴りたい。
太陽が無茶苦茶にまぶしくて俺はきれた。
ジャンプ読みながら歩いてるバカをつかまえてぶん殴った。
ぶっ倒れたのは殴った俺のほうで、バカはジャンプ拾ってまた読み始めた。
道路が近くてすげえ汚くてすげえ臭い。
どいつもこいつもよけて歩くくらいなら踏んづけていけよ。
おまえらがよけてるのは人間じゃねえ、犬のウンコだ。
俺もおまえらもウンコだ。

あお向けにひっくり返って太陽見てたら天使が飛んできた。
テレビで見た弾道ミサイルみたいなかっこして煙吹きながらすぐそばに降りた。
でかくて上のほうは見えないしくそみたいに熱くて死にそうだった。
おい天国のこと教えろよ、神様ってどんなやつなんだって聞いてもぶすぶす黒い煙吐くだけで何も言わねえ。
地べたに転がったまま蹴飛ばしたら足がつった。
何とか言えよって叫んで、声になってなくて見てたらまたあほほど煙出してどっかに飛んでった。
俺は息ができなくて死にかけた。

寝たり起きたりしてて目が覚めてもし天使になってたら神様に体当たりして爆発しようと思った。
天使になってなかったけど人間でもなくなってたから、四つんばいで家まで帰って日記を書いた。

迷い道くねくね(前編) うべべ

  • 2008.03.29 Saturday
  • 12:01
わが師がりはさんが大阪にやってきた。
プリミエール会合が朝10時から梅田で行われるという。
僕は前もってプリミエールの名作を印刷しておくことにした。
しかし印刷した結果、僕の作品ばかりになってしまった。
とにかくこれで準備は万全。明日に備えて早く寝よう。

もちろん寝坊してしまった。
起きたら10時を過ぎていたので、投了メールをがりはさんに送ったところ
「遅刻上等!欠席下等!」という心温まるメールを頂いた。
しかしこの返信に異様な時間がかかったことから、僕はがりはさんが遅刻していることを鋭く察知した。

場所を聞くと「梅田第三ビル」と返って来たので、きっと大阪駅前第三ビルの
ことだろうと思い、駅の案内板で場所を確認することにした。
その時である。
地図の左上のほうに小さく『梅田第一ビル』が描かれていたのである。
危ないところだった。危うくビルを間違えるところだった。
第一ビルがあるということは、第三ビルもきっとあるのだろう。
とにかく梅田第一ビルへと向かうことにした。

そねざき警察署を経て、梅田第一ビルに到着した。
この隣が第二ビル、その隣が第三ビル。
そう思い隣の隣に行くと、『エスバイエル梅田ビル』だった。
じゃあ隣は、と考えて見てみると『梅田OSビル』。
他にも色々調べてみたが、第一ビル以外に見つからない。
僕はあきらめてがりはさんに電話した。

「もしもし、梅田第一ビルがあるのに第三ビルが無いんですよ」
「いやいや。第一があったら第三もあるやろがい」
「それが無いんですって。梅田第三ビルで合ってますよね?」
「そうそう。梅田第三ビル」
「大阪駅前第三ビルならあるんですけどね〜」
「あ、それやそれ。大阪駅前」
「え!!だって梅田第三ってメールに・・・」
「第三ビルって言ったら大阪駅前やろがい!ボケ!」
「・・・(ここで殺意が芽生える)」

僕はこの後無事にプリミエール会合に出席することができた。
しかし読者の皆様は忘れないでほしい。
梅田第一ビルは第一しか無いということを!
そしてこの日記も前編しか無いということを!

薄情も情のうち by NIKE

  • 2008.03.28 Friday
  • 01:02
訳あって、2月から3月末まで近所の大学図書館へ勉強しに行くことにした。せっかくなので昼食はそこの学食でとることにする。

春休み中だからか、学生はまばらで暖房もあまり効いていなかった。
音楽だけは元気よく『勝手にシンドバッド』が流れており、8月末の海の家のような侘しさが漂っていた。
奥にはお婆さんがレジに向き合って座っている。
僕はカウンター越しにカレーを注文した。
しかし、金を受け取り食券を渡すまで、お婆さんは一言も喋らない。
レジからこちらに向き直ろうとすらしない。
あまりの無言の迫力に、「あ、どうも」と頭を下げつつ食券を受け取った。
後で食券を厨房に渡しながら、「一体自分は何に頭を下げているのか」と我ながら腹が立った。
「味噌汁付いてるので取ってね」
カレーに味噌汁というのがナウなヤングの流行なのだろうか。
色々驚かされる食堂なのだ。

「しかし」
カレーと味噌汁を食べつつ考える。
「あのお婆さんはなぜあそこまで無愛想なのか」
北朝鮮の国営放送のお姐さんでももう少し愛想がありそうなものだ。
お婆さんにも機嫌の悪い日はあるだろう。
もしかしたらその日の朝、お婆さんの給料を浪費家の夫が競馬でスッたのがバレて、修羅場のひとつやふたつあったかも知れない。
しかし、あそこまで見事に貝になった店員はかつていない。
首を傾げつつ『真夏の果実』が流れる食堂を後にした。

翌週もそこの学食に行った。
サザン特集のBGMもレジのお婆さんも健在だった。
僕はラーメンを注文したが、黙ったままなのが癪なので、すぐにお金を出さなかった。
するとさすがに商売上反応せざるを得ないのか、
「250円」
とだけ言った。
しかし、後は相変わらずむっつり黙ったままであった。
アホらしいので、頭も下げずに立ち去った。

しかし、3回目にある転機が訪れた。
例の如く事務的に注文を済ませて金を払ったその後である。
「ありがとう」
お婆さんは小声ながら確かにそう言った。
僕は思わず聞き返しそうになった。
些細なことだが、今までのわだかまりが消えた気がした。
カレーにお汁粉がついていても今なら許せる。
次はもっと元気になっていたら、と期待さえした。

翌週その食堂は閉まっていた。
中は真っ暗で誰もいない。
張り紙を見ると、3月中は別の食堂が営業しているとのことだった。
その食堂のレジには別のおばさんがいた。
おばさんは快活な声で「はいありがとう」と言って食券を僕に手渡した。

ダイアローグ17 がりは

  • 2008.03.26 Wednesday
  • 22:39
「あっ、セブンティーンアイスや。」とMr.X。
彼はアイスが大好きだ。
「これ見たら絶対に買わんと気が済まん。」と独り言なのかなんなのか。
「どれにしようかな。」と120円を自動販売機に入れてから迷っている。
そこに通りかかったクラッシャーたりき。
「何長考しとんねん。こんなもんはこうじゃ。」とダブルチョコを迷わず選択。
「ちょっと何するんですか!僕の120円ですよ!僕ダブルチョコ選んでないのに。」
「固いこというなや。ダブルチョコうまいやんか。」とたりきはもうダブルチョコを手に取り、紙をはがし始めた。
「あ!あ!何しよん!僕のですよ!」
たりきはそのまま食べながらどこかへ歩いて行ってしまった。

「ほんまわけわからんわ。頭を冷やすためにも是非ともアイスを食べなあかん。食べずにはおれん。」
Mr.Xは気を取り直して120円を投入した。
「チョコミントもええし、ショコラマスカルポーネも捨てがたいな。大体こんなに種類があって一個しか食べられへんなんてなんか間違っとる。」と憤っていると
「な、なにやってるんですか。」といちびりうべべが通りかかった。
「こんなのはこうでしょう。」とダブルチョコを選択。
「いいことを教えてあげたんで、これは授業料としていただきます。」
「え!なに言うとん!こら!どこ行くねん!」
うべべはスタスタとアイスを食べながら行ってしまった。
「あほ!セメントでも食べとけ!」

「120円くらいどうでもいいけど、なんか腹立つな!うべべのくせに。どうでもええけどみんななんであんなにダブルチョコ好きなんやろ。そんなん言われたらだんだん気になってきたな。ダブルチョコ食べよかな。」とまたまた120円を投入し、ゴトンと落ちたダブルチョコを手に取った。
「やあMr.X。そんなことでいいのかい?君の自由意志はそんなに弱いのか?僕は君には期待しとったんやけどなあ。人に流されてダブルチョコ食べるんか。」と通りがかりの説教魔人ミッチー。
「え?す、すみません。」
「僕はそんな君を見たくなかったなあ。残念だなあ。」
「僕が悪かったです。本当にすみません。ミッチーさん、これを預かってください。」
「僕はこんなもの食べたくないけれど、君の決意の表れとしてこれを受け取っておくよ。これからは頼むよ!」
ミッチーはダブルチョコをべろべろ舐めながら、微笑みをかみ殺し、立ち去った。

「アイス買うってこんな難しいことやったっけ。」とうなだれるMr.Xを夕陽が赤く染める。

ヘテロ、飢えている者 byミッチー

  • 2008.03.24 Monday
  • 22:44
ヘテロは最近いつも何かに飢えている。

3日前には2人目の妻を持った。これは彼の年齢を考えればちっとも不思議ではないが、しかし彼は貧民街の住人だ。口さがない近所の人々は皆、呆れたような、もしくは諦めたような口調で「お前には過ぎた贅沢だ」と繰り返している。

昨晩は「昼間には見えないものを見るんだ」と言い残して出て行ったきり朝まで帰って来なかった。げっそりと疲れた彼には、何を見たのかと尋ね掛ける者すらいない。

ヘテロはじっと唇を噛み、じろりと辺りを見回している。遥かな高みまでそびえ立つ貧民街の絶壁と絶壁。口をぽかんと開けて見上げると、向かい合う絶壁の間を、水色の空が流れている。まるで峡谷の川を見下ろしているようだ。ヘテロは軽く首を振り、視線を現実の高さへと戻す。彼は自分が何を求めているのか分かっているのかも知れない。

貧民街を上へ上へと昇っていくためには、それはそれはとても長い年月がかかる。なぜなら、貧民の1家族が壁に構えることを許される住居は1穴だけだからだ。よくよく目を凝らしてみると、上にいけばいくほど穴の数が減っていくのが分かる。幾世代もの闘争の証がここにあるのだ。

ヘテロは眉間にしわを寄せて、何かを考え込んでいる。隣人が言うには、彼は近いうちに新しい妻を持ちたいと言い出したのだそうだ。まったくどうかしてる!だいいち、彼の近所では1人の妻を持つ者すらまれなのだ。あまりに現実離れしているので、その話を信じた者は少なかった。

彼はとうとう、与えられた食料をその場で食い切ることなく、保存したいと言い出した。細長い空を横切る太陽は、その短い時間の内にも、保存された食料をどんどん腐らせてしまうことだろう。それでも彼は諦めが付かない様子だ。

おいヘテロ、一体何を考えているんだい?一体何が望みなんだい?お前自分の身の上というものをよくよく考えた方が良いよ、と近所の人々は言う。だが彼は黙して答えない。時折壁のこちら側の付け根から向こうの付け根への歩数を数えては、向かいの住民に追い払われて帰ってくる。

頭上から大きな影が降ってくる。慌てて身をよけた彼のすぐ側の地面に、今日と明日の食料が大きな音を立てて落下した。住民たちが待ってましたとばかりに群がってくる。彼はよろけるように離れ、苛立ちの眼差しを頭上へ投げ上げる。

彼は飢えていた。そして、飢えているのは彼だけだった。

ホワイトデー ハッタリスト

  • 2008.03.22 Saturday
  • 02:43
「ち・よ・う・せ・ん・み・ん・し・ゆ・し・ゆ・ぎ・じ・ん・み・ん・き・よ・う・わ・こ・く」

ハッタリ君、さっきからチョキしか出してないじゃん!
女の子が叫ぶが、男の子は振り向くことなく22歩進む。

『じゃんけんぽん!』

「ち・よ・う・せ・ん・み・ん・し・ゆ・し・ゆ・ぎ・じ・ん・み・ん・き・よ・う・わ・こ・く」

ひょっとしてピースってこと?ハッタリ君って平和主義者なんだ!
女の子が叫ぶが、男の子は振り向くことなく22歩進む。

『じゃんけんぽん!』

「ち・よ・う・せ・ん・み・ん・し・ゆ・し・ゆ・ぎ・じ・ん・み・ん・き・よ・う・わ・こ・く」

あ、分かった!今日って3月22日だよね!!
女の子が叫ぶと、男の子は振り向いた。
ピースじゃなくて、22日の2ってことなのかな!
男の子はまた前を向いて22歩進む。

なんでチョキばっかりなのか教えなさいよ!
女の子が叫ぶと、男の子は気だるそうに振り向いた。

「ゲーム理論だよ、ゲーム理論。いいかい、このゲームではグーで勝てばグリコで3歩、チョキで勝てばちようせんみんしゆしゆぎじんみんきようわこくで22歩、パーで勝てばパーソナルコンピユーターで12歩進める。つまりグーで勝ったときの利得が他に比べて4分の1、あるいは7分の1以下だ。必然的にプレイヤーはチョキまたはパーを出そうとする。ここでじゃんけんのルールからチョキとパーではチョキが勝つ。だから僕はチョキを出しているのさ」

『じゃんけんぽん!』

「ち・よ・う・せ・ん・み・ん・し・ゆ・し・ゆ・ぎ・じ・ん・み・ん・き・よ・う・わ・こ・く」

「そういう君こそずっとパーばかり出してるじゃないか。どうしてパーなのか、何か根拠でもあるのかい」

貴様の頭がパーだからだ。
誰が考えたか知らないが、ルールの著しい不均衡にも関わらずこのゲームはゲームとして破綻しているわけではない。
貴様が振りかざす程度の理論では、女心の方程式を解くどころか私に勝つことすらできん。

男の子はうつむいた。
女の子は優しく声をかける。

ねぇ、手を出してみて?
男の子は少しびっくりしている。
ほら手を出してってば!いい物あげるから。
男の子はおずおずと手を出した。

・・・ぽん!!!

男の子はパーを出し、パ・ア・ソ・ナ・ル・コ・ン・ピ・ユ・ウ・タ・アと言いながら12歩進んでいった。

僕はいま、こんなことを研究していません。

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