宗教と歴史(下) Mr.Indigo

  • 2019.01.22 Tuesday
  • 08:29
第3章 十字軍とローマ教皇
 
キリスト教側がイスラム世界に攻め込んだこともあった。11世紀末から13世紀にかけて何度か実施された十字軍である。
十字軍は東ローマ帝国の皇帝がローマ教皇に救援を求めたことに端を発する。これに対し、ローマ教皇は聖地エルサレムの奪還を大義名分として掲げ、領主たちに十字軍への参加を促した。かくしてイスラム勢力を敵とする遠征軍が結成された。
この頃は両陣営とも強力な国家は存在しなかった。そのため初めの十字軍は一応の成功を収めエルサレムを奪取したものの、キリスト教側も一枚岩ではなく、エルサレム支配は長続きしなかった。
ちなみに、エルサレムは7世紀からずっとイスラム教国家の支配下にあった。ゆえに、イスラム教側からすれば、キリスト教国家による侵略と捉えられるだろう。こうした歴史も、互いを敵視する見方を醸成したに違いない。
もう1つ重要なポイントとしてローマ教皇の地位が挙げられる。先述のように当時の西ヨーロッパはドングリの背比べのような状況だったため、勢力拡大のためにしばしば教皇の権威が利用された。カトリックの守護者として教皇に従わぬ者を討伐するという図式を作るわけだ。
その結果、教皇が領主たちに対して優位に立つことになり、教皇の意向に逆らうことのリスクが高まった。教皇には破門という切り札がある。これを使われてしまうと、それに乗じた周辺勢力によって袋叩きにされてしまいかねない。
西ヨーロッパ社会の頂点にあった教皇は、イスラム教徒との戦いで命を落としても死後の贖罪は免除されると主張し、十字軍への参加を呼びかけた。ここだけ見れば、言っていることは現代のイスラム過激派の指導者と変わらない。中世ヨーロッパというのは、そういう社会だったのである。
 
第4章 歴史に基づく考察
 
先にも述べたが、十字軍の遠征以前もエルサレム周辺を支配していたのはイスラム教徒であった。イスラム教が興る前はゾロアスター教を国教とするササン朝ペルシア帝国が支配していた。実は、キリスト教国家がこの地を支配した時代はほとんどない。
ではなぜエルサレムがキリスト教の聖地なのか。それはイエス・キリストが十字架にかけられたのがエルサレムの郊外だったからである。彼の教えは当時この地を支配していたローマ帝国の各地に広まり、いつしかローマが最大の拠点となったのだ。
それを踏まえて考えると、キリスト教世界の主張に無理がある感は否めない。ただ、19〜20世紀の力関係でキリスト教側が優勢だったから、それが通ってしまったということだ。
その背景には、第2章で述べたキリスト教社会の変革がある。宗教改革の過程で大きな犠牲を出したものの、その結果として宗教の束縛から解放され、政教分離の方向へ突き進んだ。
一方、オスマン帝国などイスラム世界の大国は、多数の民族・宗教を内包しているエリアを統治するため、穏健な宗教政策で領土を拡大してきた。ローマ教皇のような強力な宗教指導者がおらず、君主は自分の都合に合わせて教義を解釈できた。
ところが、こうした現実主義的な国家が凋落すると、教義に関して厳格さを求める理想主義勢力が台頭し、両者の対立が生じる。今のイスラム世界はこの状態にあるのではないだろうか。
逆に、西ヨーロッパはローマ教皇が強大な権力を有していた。中世では教皇の意思がすなわち神の意思であり、異教徒や異端者は殲滅しても何ら問題はなかった。アメリカ大陸やアフリカでの先住民の扱いも考慮すると、この思想は宗教改革後も19世紀半ばまで残っていたのではないか。野蛮で攻撃的なのは、むしろキリスト教側だったのである。
結局のところ、宗教というのは野蛮で攻撃的な要素を内包していると言えよう。それは一神教も多神教も同じで、イスラム教が特別なのではない。世界的に情報化が進んだ現代でテロが起こったから、それが一部の過激派による行為であるにもかかわらず、全体に対して不適切なイメージ付けがなされてしまうのである。
このように、世界各国の歴史を幅広く知ることで見えてくることは少なくない。世界史を学ぶ意義は、こんなところにあると思うのである。
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