【テーマ】【リバイバル】「赤鬼」 Mr.ヤマブキ

  • 2018.02.28 Wednesday
  • 22:56

 深夜二時。とっぷりと闇が街を包み、電灯の音が聞こえてきそうなほどの静けさ。
 ふと、道路に一つの影が落ちる。筋骨隆々の赤い肉体、犬と獅子を混ぜたような顔面、額に生えた二本の角。赤鬼。
 赤鬼はあるアパートを探していた。これがそうだと分かると、三階のある部屋の扉を一睨みし、途端に駆けだした。たちまちアパートまで辿り着き、階段を駆け上がる。三階分などあっと言う間で、廊下もあってないようなものだった。探し求めていた扉の前に立つと、赤鬼はゆっくりと扉に手を掛けた…。

 ふぅと大きく一息吐き、僕は覗き穴から体を離した。きっかり二時に行うこの日課も、もう半年ほどになる。だいぶ慣れて来た。徐々に鬼の映像が鮮明になって来ているのが分かる。退屈な日常を逃れる唯一の手段。赤鬼に思いを馳せてすっと目を閉じ、眠る。

 次の日も、研究室へ行き、飯を食い、赤鬼を見て寝た。その次の日も、研究室へ行き、飯を食い、赤鬼を見て寝た。その次の日も、その次の日も。

 ある日、研究室の同期が学会で発表することになった。僕が実験している横で、他のメンバーに、どこへ連れて行ってもらえ、教授の紹介でこんな人と会える、と嬉しそうに話していた。その間に出て来た実験の結果はまたしても失敗だった。初めからやり直しだった。

 いつも通り、帰りに大学で唐揚げ定食を食べた。日常的に殺され、揚げられる鳥たちのタンパク質の味がした。その日も風呂に入り、歯を磨き、赤鬼を見て寝た。

 研究は遅々として進まなかった。何も考えずに朝から晩まで手を動かすだけだった。赤鬼の鮮明さだけは日に日に増していた。

 家に帰り、扉の前に立った。覗き穴に顔を近づけようとすると、携帯が震えだした。弟からだった。二年前から付き合っている彼女と結婚することになったらしい。
「それに聞いてくれよ。係長に取り立ててもらえたんだ」

 おめでとう、と言って少し話した後、電話を切った。覗き穴に顔を近づけた。

 真っ赤な鋼の肉体に生える褐色の剛毛、歯垢に覆われた犬の様な歯、荒い息遣い。僕のアパートを見つけ恐るべき速さで疾走し始める。飛ぶように階段を駆け上がり、廊下を滑るように走って来る。その力強く踏みしめる一歩一歩の音が聞こえ、揺れを体に感じる。そして突然、覗き穴が暗闇に覆われたかと思うと、獣じみた唸るような呼吸音が聞こえてくる。赤鬼が扉に手を掛ける。と、確かにノブが下がり、扉が開かれ、顔の引きつりと微かな笑みを抑えきれなかったのだった…。

 

 

※作者コメント

かなり初期の作品です。玄関の扉の覗き穴から赤鬼を想像する男の話ですが、今読むと「覗き穴」しか書いていないのでいまいち伝わらないかもしれません。あと、出だしの「犬と獅子を混ぜたような」という部分、獅子と同格なのが犬というのはどう考えても弱すぎます。

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