夢競馬の人々(203)  葉山 悟

  • 2014.01.12 Sunday
  • 11:30
「つまり主宰者側の狙いは金利にあるってことだ」
僕は驚いて声が大きくなっていた。
「預かった会費は全て返金することを大前提にしているの。一人から百万円、十人で一千万円、百人で一億、千人で十億円。こうしたお金を定額預金すれば7%近くの利子が付く。二年後には源泉分離課税を差し引いても、百万円につき11万5千円ほどの利益が出るってわけ。この財テク会社が何億もの利益を出した秘密がそこにあったの。考えてみれば会員も元金は保証されているし、競馬の財テクでお金を増やすことは出来るし、主宰者側は金利で儲けを出す。誰も傷つかずハッピーな状態。これこそまさにウィンウィンの関係と言えるでしょう」
「バブル期ならではの発想だな。現在の金利ではとても無理だよね」
「そんな風に言わないで。競馬のビジネスを何とか成功させたいと頑張っているのだから」
彼女が夫と始めた競馬予想サークルは、その財テク会社を下敷きにしたものだ。一つだけ異なる点は、会員に勧めた予想を会社側でも購入していることだろう。定額預金以外の流動資金を設け、それを競馬投資に運用している。ただ法律的には法人の馬券購入は認められていないので、馬券の殆どは夫への貸付金で購入されている。その馬券を公開し大いに好評を得ているというのだ。
おそらく、いや間違いなく予想屋が自らの予想を身銭を切って買うことを、会社のシステムに取り入れたのは、彼女が僕の信条を察してくれたからに他ならない。僕の大好きだった身銭予想屋のことを彼女に何度となく語って聞かせたからだ。身銭予想屋は既にこの世に存在しない。自らの命を絶ってしまったのだ。はたして身銭予想会社はこの先どうなるのやら、僕には全く見当もつかない。ただシャガールの馬の力を借りて、0組の投資金を捻出できれば、彼女をその予想会社から切り離すことができる。僕は会社で予想した馬券を購入するようにしたのは、僕の話した身銭予想屋の事があったからではないか、と彼女に訊きたかったのだが、何故だか怖くて口に出せない。
僕と年金さんが下見所を出た時、彼女から携帯が入った。――セブンフィーバーあなたに預けておけばよかったね――
いきなり何のことか分からなかったが、競馬投資金の777万円の事を指していた。
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