夢競馬の人々(201)  葉山 悟

  • 2013.12.26 Thursday
  • 00:00
目の前を葦毛の馬が通り抜けて行く。馬体に浮かぶ銭形模様が実に鮮やかだ。
「どうして!?一方の当事者でしょう。それが0組に分かれば大沢もXもたちまちのうちに消されてしまうよ」
葦毛に纏わりつくのは馬体から放射される熱、湯気、エネルギーなのか。葦毛の馬体がゆらゆら陽炎のように揺らめく。しかしその歩みは力強く、下見所の外側を大きく回っていて、ともすると前の馬を追い抜かんとする。
「0組に相談するとそうなるだろうね。S場長がそうしなかったのは大崎会長の名誉を護るためだったんだ」
「名誉?故人の名誉を守るためってこと」
「S場長は大崎会長と関係のない人間によって、この件を結着したいと考えていた。こんなに卑劣でチンピラ以下の仕業に大崎会長がどんな形であれ関わることは避けたいと考えていたんだ。それがN競馬場の場長としての最大のお得意様に対する行動だった」
「そうするとS場長と若頭は繋がりがないのだから、残りは一人。K部長に相談するしか無かったということなんだよね」
「実際Sさんも何でも相談できる存在としてK部長を考えていたように思う。だから特命業者としてK部長の息のかかった企業を指名してきたのだ」 ――とまれーっ――の号令の後、騎乗命令がかかり下見所の馬に一斉に騎手が乗りかかる。
「年金さん、あなたの予想紙で13番の馬、どんな印になっています?」
「センセ、いきなり何ですか?」
「前に言いましたよね。シャガールの馬の出現は突然で、僕のそばを離れないで下さいと」
「ということは13番のリーフハンターがシャガールの馬ってことですか?この新聞では印が無いですね。二人のトラックマンが白三角を付けているだけで、単勝は万馬券ですよ」
「いやまだシャガールの馬かどうか確信が持てません。取り敢えず僕はこの馬の複勝とワイド馬券を買いますが、年金さんもまず運試しってことでリーフハンター絡みの馬券を買われたらどうですか?」
競馬に勝ちたい馬券を的中させたいと、ひたすら熱くなって馬をチェックしていてもシャガールの馬は出現しない。漠然と漫然とゆったりと広がる景色を眺めるように馬を見ていると、まるで蜃気楼のように現れるのだ。
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