夢競馬の人々(200)  葉山 悟

  • 2013.12.25 Wednesday
  • 23:59
「K部長は頭が良くてとても用心深い人だった。そんな人がS場長を脅迫するなんて考えられないが、二人の間に何かあったことは間違いないと思う」
僕は年金さんの問いかけにそう答えたものの、どこか釈然としない何かを感じていた。大沢殺しを若頭派の若い衆が実行した、という筋書きが納得できないのだ。S場長からK部長に大沢による恐喝問題が打ち明けられた。ネタ写真が週刊誌などで公になればS場長は即刻職を失ってしまう。すなわちK部長がS場長から受注している仕事が全て無くなってしまう。0組の企業舎弟が大きな収入源を失い、たちまちのうちに0組は干上がってしまうことになる。ここにも護らなければならないものが横溢していて、一枚の写真がとんでもない一大パニックを惹き起こすことになる。組員とその家族、競馬場の出店業者、取引先、下請け業者等々、S場長に護るべきものが溢れているとするならば、K場長にもそれ以上に護らねばならないものがある。そこに若頭派がどのように絡んでいるのだろう。
そういえば大崎会長亡き後の0組と、分裂して新しい組織を立ち上げた若頭派の間に抗争らしい対立は見られない。両派の間を取り持っていたのがK部長である。彼が率いる企業舎弟は0組若頭派の両組織を資金面で支えていた。つまり両者の抗争を抑えていたのはK部長の経済的手腕に他ならない。
「大沢殺しを0組がやったということなら分かるが、若頭派が何故関わっていたのか。ネタの写真から読み取れるのはS場長と0組の繋がりだが、若頭とS場長の関係が全く分からない」
年金さんがしきりに頭をかしげる。
「第一に0組の上部団体Yの本部が分派した若頭派に忠告すら与えず、何も制裁を加えなかったのが不思議でならない。仁義を重んじる任侠道はどうなったのだ」
年金さんはそう言ってから、まずいとばかりに手で口元を押さえた。周囲に誰がいるかわからない。いつの間にかパドックに人影がふえていた。
「S場長が大崎会長との写真で脅されていた。交渉の結果、その写真を買い取ることで話が付いた。金を支払い決着したと思っていたら、大沢の仲間Xが写真を持って現れた。頭にきたSさんは真っ先に誰に相談したのだろう。0組に相談することは出来なかったんだ」
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