夢競馬の人々(196)  葉山 悟

  • 2013.12.05 Thursday
  • 22:47
それから間もなくしてS場長が収賄容疑で任意同行されたという新聞記事が出た。それはベタ記事扱いで、N競馬場一大スキャンダルの序章に過ぎなかった。
数日後、N日報一面トップに大崎会長とSがN競馬場貴賓室で談笑している写真が掲載された。ただし大崎会長の顔だけはモザイク処理が施されていて、故0組最高幹部とだけキャプションが付けられていた。
『殺人教唆』という大見出しの文字が、まるで雪道についた下駄の歯跡のようでおどろおどろしきものだった。
大沢の共犯者であったXの死体が見つかり、その殺人を依頼、教唆したのがSであるというのが直接の逮捕容疑であった。地方紙だけでなく一般紙もS場長逮捕の報道は比較的大きなスペースを割いていたのだが、大崎会長とのツーショット写真はN日報だけが掲載したものだった。
ただし、その写真の流出元は僕ではない。N日報の独占掲載という点から片山夫妻が絡んでいることは明白だが、詳しいことは分からない。ただ片山さんの奥さんが僕の腕の中で「これで離婚成立よ」と何度となく呟いていたのが印象的だった。
X殺しがどういう経緯で明らかになったのか、それは全く分からないが、僕と片山さんが導き出した結論はK部長がキーパーソンだということであった。これら一連の事件で何人もの人間が参考人や事情聴取でF署に出向いたのだが、K部長の内縁の妻という女性が彼の遺品を提出したことから事件は大きく動いたように思う。
僕が「万一自分の身に何かあれば、これをF署に届けて欲しい」と保管を依頼していた雑誌編集者が驚いたように電話をかけてきた。
「そういう事だったのか」
連日の新聞報道で事件の概要を知って、それが連続殺人や一大汚職事件にまで発展する可能性が高くなっていた、まさに切歯扼腕している編集者に僕はN日報が掲載しなかった他の写真の使用を勧めた。そしてS場長の収賄容疑を中心に取材することを提案。結果的にそのことはS場長と0組企業舎弟のグローバル企画K部長の癒着ぶりを炙り出すことにな
り、僕の考えもしなかった方向に広がりを見せた。
僕が雑誌編集者に万一の事があればと預けていた写真や書き置きがあったように、K部長もそれを一人の女性に託していたのだろう。それは決して自分の死の危険に対する保険では無い。どこかに真実を遺しておきたいという思いからなのだ。
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