はいしゃ Mr.Indigo
- 2018.12.04 Tuesday
- 14:33
11月某日、2歳11ヶ月の次女を連れて歯医者を訪れた。理由は妻に頼まれたからである。
「虫歯があるみたいだから連れて行ってくれる?日曜の11時からで○○○歯科医院の予約取ったから」
妻は長女と買い物に行きたいのだとか。学校で使う物を買うと言われると、何も言い返せない。夫婦間の駆け引きとしては完敗である。
しかし憂鬱だ。私は歯医者が苦手なのだ。治療されるのも好きではないが、何より一方的に説教されるのが精神的にきついのである。
そもそも、私は歯磨きが極めて下手なようで、1〜2ヶ月で歯ブラシの毛先が曲がってしまう。おそらく磨き方が悪いのだろう。ゆえに、歯医者に行く直前に歯を磨き、磨き残しのないようにしたつもりでも、たいてい磨き残しを指摘されて説教を受けることになる。
プロフェッショナルとしてアドバイスしたいという思いは理解できなくもない。エディター兼ライターとして働く私も、他者から送られてきた原稿が誤字脱字だらけだと改善を促したくなるのだ。それと同じようなものだろう。ただ、歯磨きのセンスが皆無なのは20年以上前からわかっているから放っておいてくれというのが正直な気持ちである。
しかし、今回は自分ではなく次女のことだ。虫歯があった場合に説教されるのは私だが、後々のことを考えると行かないわけにはいくまい。何も知らない能天気な次女を連れて、重い足取りで歯医者に向かった。
「担当のYです。よろしくお願いします」
先生は私と同年配の男性だった。物腰柔らかな印象だが、こういう人は時間をかけて丁寧に説教することが多いような気がする。とにかく虫歯がなければ良いのだが…。
泣き叫ぶ次女をなんとか押さえつけて、1分ほどで診察が終わった。
「お父さん、これ大変ですよ」
虫歯が4本あるらしい。さすがに驚いたが、全くの予想外というわけでもなかった。次女はかなりの大食いで菓子パンが大好物だ。どう考えても歯を大切にする生活はしていない。
問題は、この年齢では処置の際に暴れるなどの恐れがあり、的確な治療が難しいということだった。3つの案を提示されたが、それぞれ説明が長い。子供が泣いてるんだから早くしてくださいな。ちゃんと説明する必要があるのはわかりますけど。
「最後に、ちょっとお小言です」
やはり。おっしゃることはわかってます。もうここに来た時点で十分に反省してますよ。菓子パンは良くないという意識はあったんです。言われなくても改善しますよ。だから死人に鞭打つようなことはやめてくださいな。
「ありがとうございました」
数分後、私は敗北感に支配されつつもなんとか微笑を作り、シールをもらっても泣き止まない次女とともに歯医者を出ていったのであった。
Y先生が悪いわけではない。むしろ悪いのは私と妻である。とはいえ、Y先生の手法が今一つマッチしなかったのも事実だ。懇切丁寧な説明がよいという人もいるだろうが。
歯医者に通うのであれば、相性は重要なポイントなのだろう。近所に住む親父B氏は某歯科で説教された際に「お言葉ですが…」と反論し、そのまま帰ってきたこともあるらしい。そんな状態だとお互いにストレスが溜まる。相性の良い先生にかかることで精神的な負担が減り、スムーズに治療を進められるのではないだろうか。
翌週、妻も歯の具合が悪いと言い出し、予約が取れた別の歯科医院に行った。帰ってきた妻に聞いたところ、神経まで到達していた虫歯もあったらしい。
「でもほとんど怒られなかったよ。ずっと放ってたのバレバレなのに」
実は私も歯に何ヵ所か気になるところがあるので、妻の通院が終わったらそこへ行ってみようと思う。