続・喫茶店にて  がりは

  • 2018.04.14 Saturday
  • 22:43

「ハハ―!!どうした!!」
―びっくりした。後から脅かしてきてしかも一言目に「どうした!!」て言われても・・・。
「私だったから良かったが、アサシンだったらお前はもう死んでいた!」
―お前はもう死んでいる、て言いたかったんじゃないんですか?そういうのはディテールが大事なんですよ。
「何を言っているんだ。ハサン・イ・サッバーの名言を借りたが、日本語で言うところの過去形だぞ。」
―そうでしたか。私の勘違いでした。すみません。
「君はそうやって間違いばかり犯すな。人の迷惑にならないように生きろよ。道は端っこを歩け。エスカレーターは使うな。恩は遠くから返せ」
―段々湯呑に書いてある親父の言葉みたいになってますよ。
「ユノミ?ドゥーユ―ノーミ―?」
―アリさんでしょ。
「そうだよ!わかってないのかと思った。今日はどうした?」
―どうしたも何も私はいきつけのコーヒー屋さんで心静かに季節の移ろいを楽しんでいるだけです。アリさんこそどうしたんですか。
「私はお花見だ。」
―え?花咲いてないじゃないですか。
「貧しき人よ。君の心には花が咲かないのか。今は緑が茂り始めた桜の木を眺めて、二週間前には咲き誇っていたソメイヨシノの淡い花弁を想起できないのか。君が未練がましくテーブルに残しているだいぶ前に飲み干したコーヒーカップは、飲んだ後もその味を想起しやすいトリガーとして置いてあるのではなく、もしかしてできるだけ安価にこの場所に居座りたいというセコい作戦なのか。これ、下げちゃって!それから注文!」
―なにを!
「もう一杯頼んだらいいじゃないか。ここは君のおごりだ!」
―ドヤ顔でいうことですか!
「エスプレッソをトリプレで。ダブルだ。」
―何を言ってるかわかりにくいじゃないですか、エスプレッソのトリプルを二つください。え?トリプルはない?
「トリプレがなければ今作ればいいじゃないか。それがイノベーションだろう。第四次産業革命の真っただ中で人間が果たすべき役割は」
―適当に持ってきて。ここは僕がうまくやっとくから。びっくりしてたじゃないですか。すごい剣幕で言うから。あなた自分で思っているよりもすごく怖い人ですよ。
「うまくやったな!君がうまく私をバッドガイに仕立て上げてくれたおかげで、きっとトリプレが出てくるぞ。私は満足だし、この店も新しいメニューができて満足だし、この店発信で広まればドッピオで物足りないと思っていた世の大多数の人々も満足するだろう。大きなパレート改善だ。」
―恫喝して何かをやらせるってもうそれはパワハラじゃないですか!
「こんな異国の地でひとりぼっちのみじめで矮小なるパワーのない人間によるパワハラとはいかなるものか、わたしには想像もつきません。」
―ほぼプロレスラーみたいな体格してて何をいってるんですか。だいたいね、エスプレッソをそんなにたくさん飲めないですよ。とか言ってたら来るし。
「ありがとう。できるじゃないか、トリプレ。素晴らしいよ。」
―ありがとね。無理いっちゃってごめんね。あれ?アリさん、何してるんですか。
「ミルク入れてる。」
―いやいやいやいや。エスプレッソにミルク入れたらカフェオレでしょそれ。何してるんですか。
「ミルク入れてる。」
―わかってますよ。無理強いしてトリプレッソ作らせて、挙句にカフェオレにしてるじゃないですか。カフェオレ頼んだらよかったでしょ!
「カフェオレは世の中にあるでしょ!トリプレはこの店になかったでしょ!私が飲みたかったのはこの店にないメニューだよ!」
―うわー、面倒くさい。この人面倒くさい人だよー。
「ところで君が先ほどまで続けていた飲み終わったカップを下げさせないでこの居心地のいいカフェに居座り続ける作戦と私のトリプレ、どちらが店にダメージを与えると思う?考えるまでもない。君の方だ。先ほど君はキャプテンアメリカのような顔をして『ここは僕がうまくやっておくから!』なんて言っていたが、たちの悪いジョークだったようだな。トリプレが冷めるぞ。」

アリ・ホッグァーはミルクを大量に注入することで程よく冷めたトリプレをごくごくごくと飲み干し、私の肩をパンと叩いて出て行った。
 

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