個人の見解です 〜兄と弟と性格(3)〜 Mr.X

  • 2019.06.17 Monday
  • 00:00

「兄と3歳ほど下の妹」または「兄と5歳ほどはなれた下の弟」という組み合わせをいくつか見ているが、この場合、兄は「一見ぼんやりしていてマイペースなようだが、案外責任感が強い」性格になりがちだ。基本的には長男として自由に育っているが、常に守らなくてはならない対象を抱えているので責任感が強くなる。年が大きく離れた弟や妹は、殴っていうことを聞かせるというよりも、ただ護るだけになるように思う。

 

あと、「兄と妹」における妹は、かなり自由だ。こういう妹は、(弟と同様に)兄を見て学び、叱られることが少なくなると同時に、(弟と異なり)兄から叩かれることも少ないので、主張が通り続けることになる。さらにこうした家庭では、特に兄妹間で年が離れている場合は妹は父親から溺愛されがちだ。私は、妹を持つ友人宅に遊びに行ったことがあるが、妹のための立派なグランドピアノが置いてあり、そしてそのことに(私の友人である)兄が不平を言わないことに対し、ものすごく羨ましく思ったことを覚えている。

(もし自分が同じ立場なら、兄は「xのためだけにでかいピアノを買うのは不公平だ、自分のためにも何か買ってくれ」と言い続けたはずだ)

 なお、こうした妹がある程度年齢を重ねてくると、しっかりしている分、マイペースな兄を叱る側に回ることが多い気がしている。(「だからお兄ちゃんはダメなのよ!」と怒る妹を何回か見ている)

 

「年の離れた弟」は、叩かれて理不尽に耐える、みたいな経験がないため、基本的には自由なようだが、周りが(本人から見れば)立派な大人に囲まれて育つためか、言葉遣いがしっかりしていたり、大人びているような気がしている。私が小学1年の時、このような家族構成だった同級生のiくんに「xくんって、シューチューリョクにかけていますね」と大人びたことを言われて驚いた、と私の母は今でも語っている。

 

とまあ、ここまで偉そうに私の見解を語ってきたが、あくまで自分の周辺を見ての印象論でしかないので、当然、「うちでは全然違う」みたいなこともあると思う。「自分には2歳上の兄がいるが、叩かれたこともない」という友人もいるので(自分には俄かには信じられないが)、当然、個人の生まれ持った性格の方が大きな影響を与えるのだろう。あくまでMr.Xの個人的見解として見ていただければ幸いです。

個人の見解です 〜兄と弟と性格(2)〜 Mr.X

  • 2019.06.10 Monday
  • 00:00

私から見ると、兄はかなり独善的な性格である。サッカーが好きだが「ox監督はアホだ」みたいなことを普通に言う。どう考えてもサッカーに関する知識も経験もプロであるox監督の方が兄より上じゃないかと言ってみたこともあるが、やはり兄は「いや、やっぱりox監督はアホだ」と断言する。私も人から独善的だと言われることもあるが「いやいや、兄に比べれば可愛いものですよ」と心の中でつぶやいている。

 

この性格は「兄」という立場が影響を与えただろうと私は考えている。何せ家族の中で兄が何を言おうと基本的には自由だ。兄の「チョコケーキが一番美味しい」という発言に対して親はいちいち否定したりはしないので、結果としてその発言はそのまま通る。一方で、私が「いや、イチゴのショートケーキの方が美味しいよ」と兄と違うことを言おうものなら、兄から「x、アホかお前は」と大体否定され、抗おうとしても最後は兄の鉄拳で黙らされる。そう、私の主張に対し、兄は鉄拳で応えた。そういうわけで、テーブルの上にクッキーが積まれたら、後から何個食べたいと主張しても無駄なので、まず一人何個と計算してその分を確保した。兄から抗議があれば「全部で8個やから自分も4個食べる権利がある!」と自分の権利を守るようになった。

 

以上の経験から、私は「兄は自由に身勝手に振る舞い、弟は自分の権利を守ることを考える」というのが私の見解である。

 

私の考える「弟型性格」は、良くいえば慎重、悪くいえば臆病、だ。下手に動けば叩かれることを骨身に沁みて知っており、かつ兄という成功かつ失敗例を見て育ったので、前例がどのようになっているのかを見極めてから動こうとする。一方で、他の人がやっていないようなことに飛び込むのは苦手で、逆風にも弱い。

 

これに対する「兄型性格」は、良くいえば勇敢、悪くいえば周りを見ない。「これはこうだ!」と言えば従わせることができる弟が居続けたので自分の意見を通すことに慣れており、かつ大人から叱られる経験も積んでいるので批判にめげない。一方で、慎重に人の意見を聞く、みたいなことが苦手だったりする。


こうした仮説を持っているが、当然、異なる兄弟姉妹構成なら、異なる性格になると考えている。


((3)は17日掲載予定です。お楽しみに。)

個人の見解です 〜兄と弟と性格(1)〜 Mr.X

  • 2019.06.03 Monday
  • 08:30
私には3歳上の兄がいる。私と兄の両方を知る人が言うには、私と兄はよく似ているらしい。しかし、身近だからかもしれないが兄と接してみると「こういうところが似ている」と思うよりも「本当に兄とは物の考え方や見方が違うなぁ」と感じることの方が圧倒的に多い。

 

よくある話かもしれないが、考え方によっては不思議でもある。というのも私と兄は遺伝的にも育った環境もとても近いからだ。「氏か育ちか」なんて表現もあるけれど、同じ両親を持ち、同じ家で育った兄と私はそのどちらも同じようなものだ。もちろん、他人より近いとはいえ遺伝的な差は当然あるし、学校の担任の先生やクラスメイト、育った年代などが違えば性格も多少は変わるかもしれない。とはいえ「それでもこんなに違うかなぁ」というのが弟である私の実感である。この、兄と自分で性格が異なる理由に対し、いろいろ考えた上での私の見解は以下の通りである。

 

「私の兄は、『兄』という環境で育ったのに対し、私は『弟』という環境で育ったために性格が異なる」

 

(科学的な根拠は一切無いが、そもそも性格が違うはずというのも私の主観だし、どうか温かい目で見てやってください)

 

3歳差という年齢は、子供にとっては体力・知力共に圧倒的な差を生む。そのために私にとって兄は暴君かつ独裁者であり続けた。先に将棋を覚えた兄は私に将棋を指そうと言ってきた。何故なら私をボコボコにして勝てるからだ。新しく買ってもらったゲームのソフトも袋から出して始めるのは必ず兄だった。もし私がやろうものなら殴られるのは必定だった。

 

一方で、家族(両親、兄、私)の中で最年少であった私は常に庇護されていた。叩かれて親に泣きつけば大体自分の味方をしてくれた。体格差を考えると仕方ない気もするが、兄から見れば理不尽なことだったろうと思う。また、「どうして弟のxはできているのに兄のお前はできないのか」と兄はよく叱られていた。実際、私が叱られることは比較的少なかったのだが、それは「そうか、タンスから服を出した後に引き出しを戻さないと怒られるのか」と兄の失敗から学んでいたからだ。

 

こうして兄は暴君でありつつも常に風当たりは強かったのに対し、私は兄に虐げられながらも比較的雨風をしのげる環境に居続けることになった。この絶対的強者の兄と絶対的弱者の私、という関係性は子供の間、変わることがなかった。


((2)は10日掲載予定です。お楽しみに!)

【テーマ】ギアチェンジコーヒー Mr.X

  • 2019.05.31 Friday
  • 12:00

学部4年で研究室に配属されて以降、研究の合間にコーヒーを淹れることが私の日課であり続けている。博士後期課程進学時に移った先の研究所の近くには、コーヒーの生豆を焙煎して売る専門店があった。焙煎して芳しい香りが漂う店内には見たことのない器具と聞いたことのない名前のコーヒー豆が売られている。すぐに私はその店に通い詰めるようになった。

 

その当時(というかずっとそうなんですが)、私が行っていた研究活動は基本的には全て一人で行うものだった。忙しいが自分の時間をコントロールすることはできたので、毎日ハンドドリップでコーヒーを淹れることができ、そしてそれは素晴らしい気分転換となった。

 

博士後期課程に進んでから年数が経つと、私の精神状態は悪化していった。時間をかければ出るはずだったデータが出てこない。さらに、自分から見れば仰ぎ見るようなすごい研究者だって簡単には職を得られない現実を突き付けられた。世間的に"無駄な研究"とされる基礎科学で職を得ることがいかに難しいことなのかを肌で感じた。

 

何とかデータが出たので論文執筆に進む。自分のテーマと関連する百近い論文に目を通し、自分の論理に誤りがないか推敲を重ね続けた。朝から晩まで英語を読んだり書いたりするその合間にも、変わらずコーヒーは淹れ続けた。店に通い、本を読むことで知識は増え、経験を重ねることでちょっとした温度の違いや粉の量などに敏感になっていった。全神経を集中し、お湯を注ぐ。粉が膨らまないのはなぜか、苦味が強く出たのはなぜか、将棋で言うところの感想戦を一人で行なう。

 

まるでもう一つの修行をしていたようなものだが、当時の私にとっては"論文"とか"将来"のせいで鈍い音を立てながら回り続ける脳のギアを変えるような、そういう時間だったのだろうと今は思う。気分転換というよりも、頭が壊れないようにするための処置、だったように思う。

 

その後、何とか博士号を得ることができ、研究者として職に就くこともでき、そして今もコーヒーを淹れて飲んでいる。研究者としてはまだ安定しておらず、今後も職を転々としそうなのだが、もし仮に転職時の面接で「うちではコーヒーを淹れることは許しません」と言われようものなら、椅子を蹴って立ち去る以外の選択肢を、私には選べない(実際には人目のつかないところでこっそり淹れるだろうなあ)。

【テーマ】ゲノム診断 Mr.X

  • 2019.04.30 Tuesday
  • 10:20

令和x年10月1日より、35歳を迎えた時点で全ての人のゲノムは解読され、かつそこから分かる病気のリスクを通知されることが義務付けられるようになった。

 

ゲノム解読にかかるコストの劇的な低下と、病気に関連する遺伝子に関する研究が進んだことにより、一人一人のゲノムを調べて病気のリスクをかなり詳しく知ることできるようになった。この「ゲノム診断」には早めに病気への対策が取れる等の利点がある一方で、使ったストローを盗まれるだけで「あなたのゲノムでは住宅ローンは組めません」「あなたとの子供はoo病になるリスクが高いので結婚しません」といった差別が生じ、社会問題化した。最終的に、ゲノム診断には大きな規制がかけられるようになり、35歳に公的機関で行われるもの以外は全て違法とされるようになった。

 

私は35歳になった翌日、指定病院を訪れてゲノム診断を受け、その場で診断結果を紙と保険証で受け取った(数枚の紙への印刷と、暗号化したデータを持った保険証以外の全てのデータは消去されることが法で定められている)。まっすぐ家に帰り、震える指で封を開け、内容を確認した。

「やっぱ、そっか」

私は両親より、あの遺伝子を受け継いだようだ。

【40代前半ごろにスタックスーミエ病を発症する可能性が95%

すでに熟知しているが、この病気に関する情報をネットで調べる。

【20xx年現在、この病気に対する治療法は確立していない。発症後の推定余命は3年ほど】

 

震える指でタバコに火をつける。数年間禁煙していたが、自分は、肺ガンで死ぬことを恐れる必要は無い。タバコを吸いながら昨日もらった「誕生日おめでとう」メールをスマホから一個ずつ全て消した。

「自分が発症し、死んでしまうまでには時間は10年くらいある。もしかしたら、それまでに医学が進歩して治る病気になるかもしれない」

診断前から自分に言い聞かせてきたが、現実を突きつけられるとそういったポジティブな言葉は何の力も持っていなかった。

 

天井に向けて煙を吐きつつ思う。

「どうして医学とか科学とか、進歩させちゃったかなあ。知らなければ、こんな思いせずに、済んだのに」

何はともあれ、明日からも生きていかなくてはならない。この気持ちを抱えたまま、10年生きられるか自信はないけれども

 

枕にしがみついた話 Mr.X

  • 2019.03.27 Wednesday
  • 12:56

 いつものように寝ようとすると、自分の枕から嗅いだことのない匂いがした。自分が使っていないシャンプーの匂いだ。慌てて起き上がり、意味もなくキョロキョロしてしまう。そういえば、最近、飲んでいないはずの牛乳パックが開封されていたり、何気なく本棚に置いた時計が机の上に戻っていたり、違和感のあることが続いていた。
 
自分のいない日中に、誰かがこの家に入っているのか? 使っていないスマートフォンを掛け時計の裏に設置し、自分の部屋全体を録画させることにした。翌日、監視映像を確認した。午前10時過ぎ、ドアの鍵を開ける音が聞こえる。やはり侵入者は存在したのだ。何者だろうと画面を注視していると現れたのは自分だった。
 
意味が分からなかった。今日、早引けして帰ったということは勿論ない。ぼんやりしていて間違えて帰った、というようなこともありえない。訳が分からない。混乱したまま映像を見続ける。見れば見るほど、自分の顔だ。ヘソの横にある大きな黒子まで同じだった。もう一人の自分は私の布団で寝始め、私が帰宅する前に起きてどこかに行ってしまった。
 
翌日、職場で同僚のTと話をした。
「オレ、昨日昼過ぎはずっと会社にいたよな?」
『は? 何言ってんの? 昼飯を食堂で食べた後、すぐに戻って午後の会議の資料作ってただろ?』
「だよな…」
私はその後も自室の監視を続けた。そのもう一人の「私」は昼前から夕方にかけてに私の家で寝て、起きてすぐに出かけている生活スタイルのようだ。業者に頼んで鍵を変えてもらったが、それでも変わらず午前中に私が帰って寝ていた。ある日ためしに会社を休んでみたが、その日は部屋には誰もこなかった。週末も家から一歩も出なかった。やはり誰も部屋には入ってこなかった。
 
私は訳が分からなくなり、病気だと言ってしばらく自宅に引きこもることにした。いつかはもう一人の「私」が諦めるとか、睡眠不足とかでいなくなるのではないか? 無茶苦茶な論理だと思うが、そう考えることにした。
 
目が覚めると夕方だった。スマホを見ると同僚のTからLINEが来ていた。心配させてしまったか、と画面を開く。
 
『今日の飲み会どうする? 病み上がりって聞いたけど』
「大丈夫。もう少ししたら仕事片付くから、それから行くわ」

私の知らない「私」からの返信だった。
 
もう何も考えることができない。頭から布団をかぶり、枕にしがみついて目を閉じ続けた。

【テーマ】人造アイデンティティ Mr.X

  • 2019.02.27 Wednesday
  • 23:18

日本に47都道府県あることを意識したのは、おそらく春と夏にある高校野球の全国大会、いわゆる甲子園を初めて見た時だったと思う。私の母はプロ野球にはそうでもないが高校野球が好きだったので、春休みと夏休みの午前中に私がのそのそと起き出すころ、居間のテレビはいつも甲子園での試合が映っていた。
 
私はもちろん自分が育った香川県の高校を応援し、その次に祖父母が住んでいて自分の出生地でもある愛媛県を応援していた。その頃は結構強く、1995年の春に香川の観音寺中央は初出場で初優勝を果たしていたし、1996年の夏には愛媛の松山商業が「奇跡のバックホーム」で優勝するのをテレビで見ていた。
 
2000年代に入った頃からだと思うけど、香川も愛媛もあまり勝てなくなっていった(あくまで印象ですが)。香川・愛媛が甲子園を去るころには同じ四国の徳島も大概いなくなっていたので、高知の明徳義塾を応援していた。
 
しかし、行ったことも数えるほどしかなく、それほど所縁があるわけでもない高知を応援するのも不思議な話だ。どうして北海道でも新潟でも沖縄でもなく高知なのか? 「同じ島だから」という以外に理由はない。そもそも考えてみると、観音寺中央や松山商業にだって全く縁はなく「香川(愛媛)だから」で応援していた。雑ですね。
 
では同じように、サッカーW杯で日本が負けた後も韓国が勝ち進んでいた場合に「同じアジアだから」で応援するか?と問われたら、「あんなとこ負ければええんや」と嫉み妬みで要らんことを言うだろう。おそらく自分の中では、日本国内での「親近感度」は香川県を中心にグラデーション状になっているのだけれど、日本と国外ではオンとオフに明確に切り替えられているのだと思う。雑に言うと。
 
この「親近感」は自分の心情に根ざしたもの、な気もするけど、県境も国境も言ってしまえば昔のエラい人たちが勝手に引いた人工的な線で天与のものではない。自分は学習した結果に基づき、心情を形成している。そう考えると、素朴な感情とか心情だとかいうものは人間の心の奥から自然発生してくるようなものではなく、後天的な学習で生じたり、捻じ曲げられたりして出来上がるものなのだ。ネットでは何かのニュースに対して激怒している人をよくみるが、その怒りもどこかの誰かに誘導された結果なんちゃうかな、と最近よく思う。雑感ですが。

スーツ雑記 〜基礎系研究者の雑感〜 Mr.X

  • 2019.01.15 Tuesday
  • 23:24
およそ16年前、大学に合格して初めての授業に向かう日の朝、あくびをしながらジーパンを履き、ああこれからは私服で授業を受けるんだな、と思ったことを覚えている。大学生活も今ではずいぶん遠くなったけれども、やはり朝にあくびをしながらジーパンを履いている。スーツはまず着ることがない。
 
職場では仕事中も完全に私服である。少なくとも私が見て来た「基礎生物学」業界で普段からスーツを着ている人は1%もいない。学会で見かけたアロハシャツにサンダルのおじさんは、実はその道での世界的権威、みたいなことだって十分有り得る話だ。
 
そういう業界に属しているので、ネクタイをして暑そうにしているサラリーマンを夏に見ると「ああ自分は普通に就職なんてしなくてよかったな」と心から思える(内実、色々辛いこともあるけれどそれはまた別の話)。そんなこんなで30代半ばのおっさんの私だが、どうして社会人はスーツを着なくてはいけないのか、未だによく分かっていない。「スーツは信頼感を感じさせ、社会的な信用を与えるからだ」みたいなことを言われたこともある。しかし役所等で応対してくれる女性が私服なこともあるが(男性はどこでも大体スーツ。この性差も不思議)、私服の奴の言うことなど信用できん!など思ったこともない。
 
一方で、「応用」的な農学系や医薬系の人が参加する学会ではスーツの人も見かけるようになる。基礎系研究者よりも医薬、農学系研究者はビジネスパーソンと接する機会が多いから影響を受けているのか?などと個人的に考えている。(ミスターピンク、Mr.ヤマブキの話も聞いてみたい)
 
だとすると現在の格好が自由な状況も変化するのかもしれない。「役に立たない研究などする必要はない」という発言が普通にされる世の中である。好きな格好で大学にこもって研究のことだけを考える、では足りず、「私たちの研究はこういう形で社会に貢献してます!」と社会に向けてアピールすることが求められているからだ。
 
そう遠くない将来、全ての研究者が日常的にビジネスパーソンと接するようになり、次第にみんながスーツを着るようになる、みたいなことになるのだろうか。良い面もあるだろうとは思う。しかし、研究者には格好のことなど気にしないで自由に研究のことだけ考えさせた方がより多様な研究成果が生まれ、そしてそれが回り回って社会のためになるよなぁ、とも一人の研究者としては思うのだけれど。

【テーマ】続・月夜の下で(上) Mr.X

  • 2018.12.31 Monday
  • 15:14

私はMr.X。数年前、奈良公園で鹿に拉致され、トナカイの奴隷にされてしまった男だ。以前、トナカイから逃げ出そうとしたこともあるが、結局、狼に捕まり連れ戻された。その時のことは思い出したくもない。

 

長い冬が終わり雪が溶け始めた頃、ようやく私の全身の傷も癒えた。そんなとき部屋で寝ていると表からドサっと大きな音がして、慌てて見に行くことそこには1人の少年が倒れていた。私はすぐに理解した。

 

「君も連れてこられたのか。まだ若いのに」

 

その少年は、某国の裕福な家庭に育ったらしい。小さい頃から動物が好きで動物園に通っていたのだが、どうしてか、とあるヘラジカが気になり、何となく話しかけてしまい、その大きなツノに抱えられてここまで拉致されたという。

 

私は少年に心から同情し、トナカイたちに怒りを覚えたが、同時に久しぶりに人間と会話できることが嬉しく、ここに来るまではどう暮らしていたのか、ここではどう暮らしていくことになるのか、喉が枯れるまで話し続けた。もちろん最初は少年は混乱するばかりだったが、しばらくすると仕事も覚え、その年の冬には私の後ろに乗って世界を飛び回ることになった。

 

それから数ヶ月後、トナカイたちの世界旅行が終わって小屋に戻り、トナカイたちが好む草を紐で束ねながら少年は言った。

『Mr.X。世界には色んな子供がいるんですね』

「何の話?」とその草束を抱えながら私は言った。

『いえ、橇からは本当に貧しい人たちの暮らしが見えて』

「あの高速移動中に? すごいなあ」

『ああいう子達、何とかできないもんですかね』

「人の心配できるなんですごいね。俺は自分ことだけで手一杯だよ」

 

などと話していると、奥の小屋で寝そべっていたトナカイたちが全頭こっちに向かってきた。驚いて後ずさる私たちに、いや少年に向かってこう言った。

 

<私たちは、あなたを待っていたのだ>

【テーマ】続・月夜の下で(下) Mr.X

  • 2018.12.31 Monday
  • 15:08

え!と私たち声を揃える。トナカイは続けた。

 

<私たちは無駄にお前たちを連れ回していたわけじゃない。厳しい生活の中でも苦しんでいる赤の他人を心配できる、それが人間の魂というやつだ、と私たちが「あの方」と呼ぶ先代に教わった。私たちは「あの方」に感銘を受け、志を受け継ぐことに決めた。しかし、人間の魂を持つ人間は実に少ない。二代目を見つけるまでに、随分と時間がかかってしまった。しかし今日からはお前が私たちの主人として、世界中の子供のためになる仕事をして欲しい>

 

少年も最初は驚いたものの、トナカイたちの長い説得ののち、自分の仕事が誰かのためになるなら、と泣きながら承諾した。

 

私は慌てて自分の意見を言おうとしたが、気がつくと元いた奈良公園にいた。数年間行方不明だった理由を人々に説明したが、気が狂ったとしか思われず、信じる人はいなかった。私はすぐに某国に飛びだち、少年の家族を見つけた。会話の中で知った少年の情報を色々話すと、その家族だけは私のことを信じてくれた。

 

『しかし、Mr.X。どうすればあの子を見つけられるのでしょう? 雪深い森、というだけで見つけるのは難しいのでは?』

「大丈夫です。あの時、私はトナカイの餌の草を担いでいたので服が草の葉まみれでした。偶然ですが、それを持ち帰ることができたので保存しています。この葉からDNAを抽出して塩基配列情報を調べれば、その植物の種や属がおそらく明らかにできます。さらに、次世代シークエンサーを用いてゲノム全体を解読すれば大量の情報を得ることができ、そこからその植物がどこからきたものなのか、捜索範囲を大幅に狭めることが期待できます。私は小屋付近であれば地理を覚えているので、同行すればきっと見つかります!」

『何と心強い! 分かりました。解析に必要な経費や、救助チームの組織にかかる経費も私たちが用意します。しかし、Mr.X、どうしてあなたはあの子のためにそこまでされるのですか? トナカイや狼から再び危害を加えられるかもしれないのに』

「人間の魂がどういうものかは知りませんが、1人の人間に自己犠牲の精神を押し付けたまま自分はのうのうと暮らすとか、そういうのは許さないんですよ、私の魂がね、そんなんちゃうやろ、と。」

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