【テーマ】ずぶ濡れサンタクロース Mr.X

  • 2020.02.28 Friday
  • 21:36
雪が厚く降り積もった森の中、小さな小屋でたっぷりと白髭を蓄えた老人がスマホの天気予報を見ている。表示されている地域にはいずれも傘マークがついている。この辺りはそうでもないけれど、少し南に行くと雪が雨に変わるらしい。コンコンとノックの音がしたあと、『失礼します』と言いながら一頭のトナカイが入ってきた。
 
『明日の天気、やっぱり雨ですか?』
 
「そうじゃな、やっぱり雨じゃ。・・・わしも長いことこの仕事をしているが、こんなことは初めてじゃ・・・」とサンタクロースは小さな声で答えた。
 
『それで、どうするんですか?』
 
「どうするもこうするも無いじゃろ。気が進まんが、雨の中で配るしかない」
 
『それについてなんですが』トナカイは口をもごもごさせながら言う。『私たちトナカイが意見をするというのも、あまり無いことなんですが』
 
「なんじゃ、自由に言うといい」
 
『今年は、プレゼント配るの、やめませんか?』
 
「何じゃと!?」
 
『私たちも、この仕事について長いですよ。生涯を捧げていると言っていい。雪の中、橇に乗った老人が現れ、肩の雪を払いながら背中の袋からプレゼントを取り出し、そしてメリークリスマスと言いながら笑顔でプレゼントを渡す、いつも見るのはそんな光景です。
 しかし今年はそうもいきません。土砂降りの雨の中、レインコートを着てフードを被った老人が現れて、薄いビニール袋に包まれたプレゼントを渡す、そんな風になってしまいます。ただの不審者ですよ。怪しがられて、受け取りを拒否されることだってあるかもしれない』
 
「もちろんわしだって残念じゃ。しかし、そうもいかんじゃろ!」
 
『・・・残念ながら、私たちトナカイ、みんなの意見です。今年は、私たちは飛びません』
 
 
翌日の朝、とある町のとある家で、女の子が空のままの靴下を手に号泣していた。
 
「お母さん、どうしてサンタさんは来なかったの? ねえ、どうして?」
 
ほとほと困り果てたお母さんは娘に言った。
『そうねえ、トナカイさんたちの橇は、雨の中では飛べないからよ』
 
「じゃあどうして今年は雪じゃなくて雨が降ったの? 雪だったなら、トナカイさんたちも来れたでしょうに」
 
『そうねえ、地球温暖化のせいね、きっと。』
 
女の子は、突き刺すような眼差しで雨雲で満たされた空を睨みつけ、叫んだ。
「How dare you !!」
 
この日の出来事が、後に世界に大きな影響を与えることになろうとは、まだだれも気づいていなかった。

こんな夢を見た Mr.X

  • 2020.01.16 Thursday
  • 08:41
こんな夢を見た。

「私が道を歩いていると、突然警察官に追いかけられ始めた。不安になってつい逃げてしまう。なんとかその場は逃げ果せるが、どうして追われているのかわからない。それに、手元にあるこの知らない言語で書かれた本は何だ? そうしていると大学時代の友人から連絡を受け、私は東京行きの新幹線に乗った」

そこでまた、眼が覚める。

 

それ以降の記憶は失われているが、めちゃくちゃ面白い話だ!と起きた瞬間は確信していた。これを元にして一つの話を書き上げようと布団の中でストーリーを推敲していくうちに二度寝をしてしまう。そしてその後の展開の記憶は失われてしまった。

 

二度寝をして、こんな夢を見た。

「私はジュンク堂書店梅田店にいる。エスカレーターを駆け上がって6階に着く」

そこでまた、眼が覚める。

 

そのあとはやはり忘れてしまったが、これも面白い話だ!と起きて確信する。寝ぼけた頭のままだが、何としてでもこれを一つの話にしなくてはならないと強く思った。その時、一つ目の夢の記憶がほとんど失われていることに気がつく。なんてこった。あれも面白い話だった(気がする)のに。今度の夢の話は、忘れないうちにメモに残そう。私は布団から手を出してペンでメモ帳にアイディアを書き付ける。やれやれ、これで何とかなるだろう、と安心して三度寝をする。

 

そこでまた、眼が覚める。

布団から出て顔を洗うと、すっかり眼が覚めた。2つめの夢の内容は完全に失われてしまっているが、まあ、でも、メモを頼りに話を作ることができるだろう、と安心して寝室に戻ってそこで気がつく。ちょっと待てよ、自分は寝る時に枕元にメモ帳とペンなんか置いていないのに、どうやってメモなんか残したんだ? 枕元を探すがやっぱりメモ帳なんかない。起きたということ自体が夢だった。自分は「夢から覚めてメモを残す」という夢を見たのだ。自分で自分に呆れたり、先週忙しかったからなんか疲れてんのかなぁとか、プリミエールでも働き方改革を進めるべきちゃうかって自分が言っても説得力のかけらもないなぁとか考える。何はともあれ、この顛末で一つ書きますか、とPCの電源を入れて書き始める。サラサラと書くことができ、自分ルールの800字をすんなりを書くことができ、パタンとPCを閉じる。

 

そこでまた、眼が覚める。

Mr.X漫遊記(序) Mr.X

  • 2019.12.31 Tuesday
  • 18:04

「47都道府県のうち、何コ行ったことがありますか?」
「半分以上は行ったことがありますよ。...Mr.Xは?」
みたいな会話を何回かしている。ただ、自分の方から話を振っといたくせに「自分はどれくらい制覇しているのか?」にすぐに答えられなかった。そもそも「行ったことがあることがある」の定義とはなんぞや? (定義にこだわるところが理系っぽい、と言われたことがある)
 
例えば、小学生のときの修学旅行先は京都と奈良だったので(えーぺっくの会議があるので、と小学生的には理解不能な理由で大阪は行けなかった)、地元の香川から、岡山経由で兵庫、大阪の上で通ったわけだが、これをもって「私は小六の時に岡山、兵庫、大阪に行きました」と言って良いのか? なんか違う気がする。「宿泊したことがある」を定義にすることも考えたが、「移動の合間にoo県に泊まったけど、次の日の朝には別の県に行った」みたいなのも違う気がするし、逆に「かれこれ10回以上香川を訪れていて、栗林公園に行き、金比羅山を登り、善通寺で砂絵見たことがあり、讃岐うどんもあちこちの店で食べています。まあ、全部日帰りなんですが」という人がいたとして、この人は間違いなく「香川へ行ったことがある人」とするべきだろう。
 
以上、あれこれ考え、今は定義をこうしている。
「その都道府県に行ったときの、その都道府県に関するエピソードトークができること」
 
私は生まれは愛媛、育ちは香川という四国っ子(そんな言葉は無い)で、大学で上阪(という言葉はある?)して以来、近畿はあちこち行ってきた。その後、新幹線の東海道線沿線はあちこち訪れ、現在は静岡住まい。先ほどの定義に基づくと、北関東と東北には親戚もおらず行ったことがないが、西の方は家族旅行等であちこち攻めてきていて、2019年12月1日時点で私は36都道府県を制覇したことになる。残された数少ない西日本未踏地として、佐賀県と山口県が残っていた。
 
今月初め、仕事で福岡へ行く用事があり、これを好機と、佐賀・山口を制覇することに決めた。まさか、あんなハラハラドキドキの大冒険が自分を待っているとは夢にも思わずに...。(ごめんなさい、嘘つきました)

 

Mr.X漫遊記(佐賀編) Mr.X

  • 2019.12.31 Tuesday
  • 18:03

佐賀へ向かう前に調べたが、車がない自分には選択肢がない。吉野ヶ里遺跡歴史公園を散策して、佐賀駅へ向かい、呼子のイカか、佐賀牛を食べる。佐賀出身の知人から、最近、佐賀県は日本酒に力を入れているらしいのでこれも少し飲んでみる。とまあ、これぐらいしかやることが思いつかなかった。
 
12月の初め、博多で昼食を食べたのちに電車で吉野ヶ里公園駅まで行き、吉野ヶ里遺跡歴史公園へ向かう。吉野ヶ里遺跡歴史公園、とはどういう感じの施設と想像されるだろうか? 私は行く前に「復元した高床式倉庫とか竪穴式住居とかがあって、なかに弥生人です、っていう感じの格好した人形があって、別の建物には、ボタンを押したら『吉野ヶ里遺跡とは...』みたいなビデオが流れるテレビがあるんだろう」と漠然と考えていた。

 

 
実際に訪れてみて度肝を抜かれた。復元した高床式倉庫とか竪穴式住居とかがあって、なかに弥生人です、っていう感じの格好した人形があって、別の建物には、ボタンを押したら『吉野ヶ里遺跡とは...』みたいなビデオが流れるテレビがあったのだ。想像を遥かに超えて想像通りだった。強いて予想外なことを言うなら、広くて歩くと疲れることぐらい。やけに寒い週だった。博多のユニクロで買ったヒートテックを着たりしたが、それでも寒さを感じる。分厚く積もった雲の下、一人とぼとぼ歩き続け、「ああ、こういうのあるよね」と思いながら施設の見学を続け、実は自分は前に来たことがあるんちゃうか?と少し混乱しながら公園を出るころには日が傾きかけていた。
 
佐賀駅近くのビジネスホテルにチェックイン後、気を取り直して居酒屋を探す。が、これも難航した。「一見さんが、一人で入れて、郷土料理が食える居酒屋」探しが案外難しい。チェーン店もなんだかなあという感じなのだが、逆に人気のない路地にポツンと提灯を出している店にも入りにくい。結局、佐賀県内で何店舗か出している居酒屋へ。福岡もそうだったが、佐賀も鯖がうまい。残念ながら旬を外れて呼子のイカは食べられなかったが、佐賀牛の串焼きはうまいし、日本酒もあまり酒を飲まない自分が飲んでもうまいと思える。一人しんみり酒を飲んでいると、隣のテーブルに職場の集まりと思しき客が来て、熱い議論を大声で始めた。なんか居心地が悪くなり、店を出てホテルに戻る。一日を振り返り、色々な感情と思考で頭がごちゃごちゃになりがら、この日は眠りについた。

 

Mr.X漫遊記(山口編) Mr.X

  • 2019.12.31 Tuesday
  • 18:00

旅が始まる前、山口が生んだ文豪U氏に「山口のいいところ教えて」と尋ねたところ、「千畳敷か、萩ですね。宇部には何もありません」と返信があった。新幹線から離れるのは時間的に難しく、日本海側は諦めることに。結局、下関付近を散策することにした。朝、佐賀を立って鈍行に乗ってのんびり下関へ向かう。駅の観光案内所の人に「唐戸市場」を勧められ、バスに乗って唐戸市場についた頃には昼になっていた。
 

 
本来は業者向けの唐戸市場だが、観光客も入れるようになっており、寿司も買うことができることもあってか、すごい人だ。腰掛けるところはあまりなく、海側の道沿いの柵に腰掛けて寿司を食べる。まあ、うまい。満足しながら「海響館」へ向かった。
 
何故に下関を訪れたのかというと、この「海響館」という水族館があるからだ。海の生き物を仕事で扱ったこともあり、各地の水族館へ行くことがささやかな趣味になっている。休日ということもあってこちらも大勢客がいる。最初は、家族づれやカップルだらけで賑やかな中をおっさんが一人ウロウロすることに引け目を感じていたのだが、実際に展示を身始めると気にならなくなる。
 
各地の水族館はそれぞれ地域の特徴を生かした展示をしているが、この水族館は下関名産のフグの展示が実に充実している。おそらくフグに関しては世界一だろう。魚類だけでなくて無脊椎動物についても展示が充実してほしい、と自分は思うが、これはマニアック過ぎますかね。水族館は町外れにあるのが普通なのだが、この海響館の周辺は開発されていて、周りのビルが見えるのがちょっと違和感があって面白い。

 

 
この日は満足して下関駅周りのホテルに宿泊したのだが、やはり丁度良い居酒屋が見つからない。一人だと言うと断られることもある。
 
次の日の朝、巌流島へと向かう。宮本武蔵と佐々木小次郎の決闘で知られるが、私としては、歴史的な事実として判明していることが少なすぎてあんまり興味が持てない。目的は羽生広瀬の手形である。その前日に、広瀬は竜王位を失冠しており、なんだが興味深かった。その後、再び唐戸市場で寿司を食って下関を出る。

 

 
こうして西日本は全府県を制覇することができた。未踏破県の中で最も西に位置するのは岐阜なのだが、岐阜かぁ。。。岐阜なぁ。。。

2020年1月度投票結果からの抜粋  Mr.X

  • 2019.12.22 Sunday
  • 00:05

・ザ☆プリミエール「なぞかけ」 (がりは)

会話の軽妙さを出すのがうまかったが、「菅原道真」「セーラームーン」の単語を使っただけで利用しきれていなかったように思う。そもそもがりはがセーラームーンに詳しくないのを無理して書いたんだろうなぁというのが伝わってきた(私も全然知らないので)。

 

・延喜三年何食べた? (Mr.マルーン)

今回は百合ではなく、やおいもの?ということで面白かった。ただ、菅原道真の相手役がセーラームーンに登場するイケメンのキャラクターなんだろうなと想像はできたものの、自分が詳しくないせいでイマイチ分からなかった。道真が自分で作る梅ヶ枝餅のレシピが詳しかったので自分でも作ってみようと思った。

 

・バチェラーヘイアン (Mr.ヤマブキ)

右大臣になった菅原道真を巡ってセーラムーンたちが醜く争う、というのは正直、私の想像を超えていた。確かこれ、元ネタはAmazonのリアリティ番組だったと思うが(CMで見た以上のことは知りません...)、これを「ドラマ仕立て」とするのは皮肉だったのだろうか?

 

・菅原道真殺人事件 (Mr.Indigo)

セーラームーンと菅原道真の共通点を見つけ出すその調査力に脱帽。これを崖の上で刑事と犯人に語らせるのも、火サスを見ていた自分には面白かった。本作での菅原道真が左遷された本当の理由、というのが少し強引だった気も。

 

・淡路 (Mr.ダークブルー)

無雲という名の船乗りで「Sailor Moon」、というのは強引だった気もするが面白かった。特に道真が自分の鼻を触ってから驚くシーンはとても良かった。Mr.Indigoが勝つ気がしますが、自分はこれが良いように思います。

 

Mr.Xは奇を衒い過ぎ。セーラームーン、菅原道真、ドラマ仕立てをテーマにした、というよりも、テーマ作をテーマにしている気がしたので除外。もっとも、あまりにもテーマが無理すぎた。作品が面白いから投票するというより、難題を解いたのがすごいから投票する、という感じではなるように思う。次回はもう少しシンプルなものを期待。

【テーマ】完璧な防災  Mr.X

  • 2019.11.28 Thursday
  • 23:06

「地震保険のY社、知ってる? めちゃくちゃ保険料が安くて、Z県を中心に加入者増やしている新しい会社なんだけど、あれ怪しいよなぁ」

保険会社に勤める友人が酒の席で言った。ジャーナリストの私は興味を持ち、調べると本社ビルが廃業したホテルを居抜きしたものであることが分かった。確かに怪しい。


看板にまだ「鐘町山ホテル」とうっすら文字が残っている本社を私は訪れ、ベルを鳴らした。しばらくして出てきたのはX氏、社長本人だった。驚きつつも私は疑問をぶつけた。X氏は笑いながら答えた。

 

X「古い常識で考えられても困りますね。保険料を大きく下げられる理由、それは徹底的に経費を抑えたことにあるのです」

 

私「と言いますと?」

 

X「AIの全面活用です。顧客とのやり取りはネットで行ない、事務のほとんどをAIか外注で済ませて人件費を極力抑えています。もちろん社員もいますが、本社勤務は社長の私だけです。さらにこの建て物は古いですが電気系統がしっかりしていて大規模サーバーを設置するのに適しており、イニシャルコストも抑えることができました」

 

私「しかし、大地震が起きた時に本当に補償できますか?」

 

X「弊社はSNSを活用し、これはオフレコに願いますが、『経済的に豊かな若い人』をターゲットにしています。逆説的ですが、地震保険に入る慎重な人ほど地震に強い頑健な家を建てるのです。もちろん大地震がきた時に被害が全く出ないということはないでしょうが、家屋の全壊は少ないと見積もっています。弊社の"防災"は完璧ですよ」

 

理路整然と喋られ、私は何も言えなかった。

 

数年後、直下型大地震がZ県を襲い、新築の家でもかなりの被害が出た。Y社は対応できているだろうかと私は再び鐘町山へ向かった。Y社本社ビルは、瓦礫の山と化していた。消防署に問い合わせると、老朽化していたのに耐震補強工事がなされず、そのため倒壊し、さらに配電盤から出火して全焼したのだと言う。

 

私「社長のX氏は?」

 

署員「行方不明です。書類上、住所は本社ビル内、となっていましたが、死体は見つかっていません。このままならそのうち失踪宣告が出されるでしょうね」

 

責任者のX氏は姿を消し、全てを管理していたサーバーも復旧できそうにない。金の流れは不明なままで、保険加入者が充分に補償されることはおそらくない。私は、「"防災"は完璧ですよ」と言うX氏の笑顔を思い出し、怒りと驚きで震えた。

【テーマ】科学的に断定 Mr.X

  • 2019.10.28 Monday
  • 17:30

裁判長「では証人、供述を始めてください」

 

Mr.X「はい。殺人事件現場のぬかるんだ地面には、バールを置いたような痕が残っていました。死体の頭部から検出された鉄と塗料は、被告人が事件当日にホームセンターで購入したバールと一致しております。傷跡、被害者と被告人の身長に基づいて解析しシミュレーションした結果でも、凶器はバールの重さ、形状と一致していました。以上の結果から、この殺人事件の凶器はバールであると科学的に断定いたしました。

 

裁判長「では弁護人、反対尋問を始めてください」

 

弁護士「Mr.X、あなたは凶器はバールであると断定しましたが、実験されましたか?」

 

Mr.X「実験? シミュレーションは行いましたが...」

 

弁護士「いえ、ですから私が聞きたいのは、あなたの仮説には再現性はないのではないか、ということです」

 

Mr.X「ええと、人を模した人形等では実験しましたが、実際に人間をバールで殴るわけにはいきませんし...。もし仮に、被告人に何かをバールで殴らせたとしてもおんなじような傷がつくわけかどうかわかりませんし...。」

 

弁護士「裁判長、例えば薬の効能を確かめる時には夥しい数の実験を繰り返し、検証されることで、効果があるかどうか科学的な結論を得ます。しかし、証人は、被告人が被害者を殴って同じ傷ができるかどうか検証していません。すなわち、再現性はない、それゆえに科学的ではないのであります」

 

Mr.X「そもそも過去に起こったこと全てを完全に再現するの、無理じゃないですか? 例えば、ビッグバンとかの現象とかも実験でもう一回確かめてみるというわけにはいきませんし、そうなるとビッグバン自体も科学的ではないということに...」

 

弁護士「なりますね。実験で再現できないわけですから、科学的ではない」

 

Mr.X「そりゃあんまりじゃないですか? 過去に起こったこと全て科学的に議論できなくなる」

 

弁護士「仕方がありません。実験できない以上は実証されたとは言えないわけですから。科学的に断定する以上は」

 

Mr.X「...わかりましたよ、証言を修正します。『凶器はバールである可能性が限りなく高い』でお願いします」

 

弁護士「であれば問題ありません。裁判長、以上です」

 

裁判長「では判決を下す。被告人は、有罪」

JOKERを見ての感想 Mr.X

  • 2019.10.22 Tuesday
  • 10:30
先々週の金曜日の夜、公開初日の映画「JOKER」を見た。
アーサーと言う名の青年が、恵まれない境遇でも希望を持ち、坂の上には幸せがあるだろうとペダルを一生懸命踏み続けるものの、向かい風は強まるばかりで逆に坂を下り始め、力尽き、最後には底まで転げ落ちていく、そんな話だった。
強い印象を受けたが、爽快感みたいなものとは真逆な話だったので、「爆発的大ヒット!」というよりも「記録的ロングラン」みたいなじわじわと広まる感じになるかな、と見たときは考えた。しかし、実際には大ヒットしているようだ(ニュース)。
 
映画「JOKER」では、単に主人公が世間を恨んで悪に染まるのではなく、「恵まれた者」と「恵まれていない者」の対立という社会全体のフラストレーションがJOKERを生み出していく過程が描かれている。このような映画がヒットするということは、今の日本社会ではこのフラストレーションに共感する人が多いのだと思う。
 
JOKERヒットの報に接して自分が思い出したのは、池袋で元高級官僚の老人が運転する車が暴走して死傷者を出した事故を取り巻く世間の反応だった。「逮捕されないのは、事故を起こした老人が『上級国民』だからだ!」という言説が飛び交ったが、ことの真偽はともかく(というか、もしこの仮説が正しいのなら京都アニメーション放火事件の犯人も「上級国民」になるはずだが)、「世の中には(自分が受けていないような)特別待遇を受けている誰かが存在する」という怨念みたいなものが世間に渦巻いているのだろう。
 
強い怨念の中では、冷静な議論とか論理とか、そういったものが力を発揮することはない。というかそもそも出て来なくなる。例えば「『上級国民』みたいなことではなく、逮捕されないのは単に手続き上の問題だろう」という私のツイートしたとして「お前は死んだ母子がかわいそうとも思わないのか、人でなしめ」という返信がつく、みたいな状況では私は萎縮して何も言えない。
 
「JOKER」では、社会的フラストレーションが爆発し炎上することになる。これを避けるためにはどうすれば良いのか私には分からないけれど、危機は思ったよりもすぐそこにあるのかもしれない。

【テーマ】孤高の研究者(上) Mr.X

  • 2019.09.24 Tuesday
  • 00:21

鈴本只二(1930-2005)という在野の、すなわち大学等に属していないアマチュアのスズガタムシの研究者がいた。スズガタムシというのは泥中に棲む小さい(<10 mm)無脊椎動物の仲間で、一部は深海や川からの報告もあるが、多くは深さ10メートル以内の浅い海で暮らしており、世界各地で報告がある。

 

鈴本氏はもともと建築会社の技術者で、30歳を過ぎたころに当時小学生だった長男の理科の教科書の写真がきっかけでスズガタムシにのめり込んだそうだ。以降、休みを見つけては海に出かけて底を攫うという生活が続いたという

 

それまで日本にはスズガタムシを専門とする研究者は一人もおらず、ほとんど全て独学だった。生物種の分類を厳密に行うためには、英語(ものによってはドイツ語で)で書かれた論文の記載を参考にして細かい形態の違いを見る必要がある。インターネットもない時代だったから、在野の研究者である鈴本氏が最初に苦労したのは、論文を送ってもらい、それを読み解く作業だったそうだ。慣れない英語で海外の研究者に手紙を書き、しばらく待って論文を送ってもらえたとしても、辞書にも載っていない専門用語だらけの論文を理解するのはものすごく大変だ。私の想像だが、アマチュアの研究者で肩書きのない鈴本氏の手紙を「東洋から変な手紙が来た」と思って無視した研究者もいたのではないかと思う。

 

苦労に苦労を重ねて研究を続け、数十年経った頃には学会でも知られたスズガタムシの研究者となった鈴本氏だが、90年代以降、DNA等の分子を用いて行われた研究にかなり強い言葉で異を唱え続け、次第に「その道では権威だがちょっと関わりたくない人」的な扱いになり、晩年は学会にもほとんど参加しなくなっていた。

 

以前、とあるイベントで鈴本氏のご子息に色々とお話を伺う機会があった。氏は「頑固一徹」という言葉を体現したような人で、何かスズガタムシに関することで異見を述べようものなら烈火のごとく怒ったという。また、もともと田舎の名士的な家に生まれたにも関わらず、地域の仕事を放ったらかしてスズガタムシ研究にのめり込んだこともあり、鈴本氏は「何の役にも立たない生き物の研究なんかして」「金持ちの道楽」と陰口を叩かれるなど、親戚付き合いにも何かと苦労したそうだ。

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