スイカ がりは

  • 2019.07.10 Wednesday
  • 21:39

「誰だお前は!!」

 

「一つ人世の生き血をすすり、二つふざけた悪行三昧、三つ見かけたその姿、四つよく見りゃ違う人、五ついつになったら会えるのか、六つ難しい問題ですねそりゃ。」

 

「な、なんの話だ!怪しい奴!捕らえろ!!」

 

「うーん、ナゾのスイカぱぅわーー!!」

 

怪しい風体の緑の男からマシンガンの様に何かが放たれたのを見て、警備員たちは地を這って逃げた。

そんなにいい金もらってないし。

仕事より大事なものってあるし。

少し離れたと見るや風を食らって去った。

 

「さて。残るはあなた方だけですよ、全日本スイカ割り連盟会長」

 

「誰だ貴様は!」

 

「見たらわかるでしょう。スイカマンだ!!」

 

「全身緑のタイツに黒のシマシマ、顔と腹だけ赤く塗るってコントでも見ないぞ。」

 

「うるさい!父の仇!!」

 

腰から抜いた棒状のものが月夜に光り、大上段に構えたスイカマンが会長に襲い掛かる。

 

パカーン!!

 

会長がかぶっていたヘルメットがきれいに二つに割れ、飛んで行った。

 

「こしゃくな!父の仇!!」

 

パカーン!!

人体を殴ったとは思えない軽い音を立てて、会長がかぶっていたものが割れた。

 

「貴様、見てはいけないものを見てしまったようだな。」

 

メコメコメコメコと会長の体中の筋肉が醜く盛り上がり、大きさも倍以上になった。

「ぬぉりゃあ!!」

スイカよりも大きな会長の鉄拳がスイカマンを襲う。

スイカ割りの棒は一撃で折れてしまった。


「さっきまでの威勢はどうした。おい。」


「うるさい!ナゾのスイカぱぅわー!!」

スイカマンの口から種が連射される。

その全てを会長の重厚なボディが受け止める。


「何かしたか?」


追撃はやまず、右、左、と腕で受け止めるうちにスイカマンの足が床にめり込んでいく。


「ソラソラソラソラ」


会長の打撃が続き、とうとう脇の下までめり込んでしまった。

スイカマンの腕を一本一本つかみ、ズボッと地面に突き刺す。


「これでやっとスイカ割りっぽくなったな。手こずらせおって。最後に言いたいことはあるか?」


「目隠しを忘れている。」


「ほーお。これはこれは。目隠ししないとスイカ割り気分が台無しだよなあ。」


「目隠し目隠しと。」


ビリビリに破れた自分の服を無造作に頭に巻き、目隠しに。



「棒はどうした?」

「そういうことは目隠しの前に言ってくれよ。」

目隠しを外し、ワインセラーのようなものから、棒を取り出す。

「マイステッキだ。特別製だぞ。チタンでできている。」

右手で握ったスティックの叩き心地を左の手のひらでペシペシと確かめながら近付く。


「目隠し。」

「はいはい。」

「ぐるぐる回ってない。」

「それもそうだな。」

スティックを地面に突き、三回回る。


「もっと右!右右!」

二人の距離は5メーター。

「しゃべったらいくらなんでもわかっちゃうぞ。興ざめだなあ。」

会長は思い切り左足で踏み込み、バットを振るように横殴りにした。

スイカマンの頭上3センチをかすめて行く。


「そんなスイカ割りあるかよ。美学はないのか。」

「美学?あるように見えるか?はは。座興もこれで終わりだ。」

「目覚めよ!!」

「命乞いをしてみろよ。出来損ないのC級スイカめ。お前の親父もC級だったよな。」

「なに!!父さんは立派な特級スイカだ!」

「ほほほほほほ。かわいそうにな。特級のスイカがスイカ割りに使われるわけないだろうが!」

「目覚めよ。」

「悔い改めよ、てか?それよりは自分のために祈った方がいいんじゃないか?」

「目覚めよ。」

「なかなか楽しましてもらったよ。お前のことはしばらく忘れんよ。きれいに割れたら永久保存してやる。だからキレイに割れろよ!!」

頭上高々と振りかぶり、振り下ろそうとした瞬間、会長の動きが止まった。

全身が緑のヒモで覆われていく。

蔓だ。

やがて緑の雪だるまのようになり、しばらく脈打つように動いていたがそれも止まった。


スイカマンはようやく床から這い出し、全身を払った。

「あぶねー。間に合わないかと思ったよ。」

マントを始め全身ボロボロ。

それでも居ずまいを正し、緑の雪だるまに向かって深々と頭を下げた。

そして手刀で蔓を切り裂くと、中からは大きなスイカが。

「悪党の血ほど、いい養分になっちまうんだよな。」

蔓を切り、胸に抱く。

懐からスイカ縞のハンカチを取り出し、くまなくスイカを磨く。


(テーマ「すいか」)





 

6月のテーマ戦記 がりは

  • 2019.07.08 Monday
  • 18:14

ニーズがあるかどうか定かではないが、先月俺が書いた作品のうち、頂いたお題に応えたものについて、何を考えたのか、書いてみてどんなことを思ったのか記していきたいと思う。

PREMIERを読んでくれている皆様であれば、多少の関心は持ってくれるだろうと信じて。

 

テーマコンテストについて がりは

テーマ:テーマ

やりづらい、嫌らしいテーマというのは二種類あって、こっちのやりにくさは本当にやりにくい。

言葉としては知られているが、抽象的で書きづらいタイプのもの。

それに加えて、自己言及的な展開になりそうで、それを避けると無理がでる感じがする。

今回はマルーンに無理やり登場してもらって、ダイアローグに仕立てた。

マルーンのキャラもうまく生きて、本人としては満足しています。

あの煽り方とか。

G.W.D がりは

テーマ:GW

これはまあ、一つは来ると思っていたお題、てウソウソ。

なんで6月のテーマなのに、GWとか来ちゃうの。

季節ものですものね。

ゴールデンウィークについては4月に悩み相談室で過ごし方をレクチャーしており、書きづらかった。

俺のGWだ、と言って反省を述べるのも一案だったし、5月と比べて6月は・・・と祝日のバランスの悪さを嘆く展開もあり得た。

もう少し、と頭をひねっていると「ゲートウェー」も見えてきた。

ネットワーク機器のゲートウェー、高輪の方のゲートウェー、「ゲイとウェイ」なんてのも見えてきて繊細なゲイとパリピの友情を描いてやろうかとも思ったけど、テーマから外れちゃうよな、と。

そのうちに「 THEE MICHELLE GUN ELEPHANT」の名曲「G.W.D」が思い浮かび、大好きな「世界の終わり」とガチャガチャ組み合わせながら書いてしまった。

曲は聞いてみてください。

良いので。

 

入梅靴下 がりは

テーマ:靴下

お師匠さんに叱られた作品。

靴下についてのちょっと素敵なエピソードを用意していたのだが、テレビで入梅イワシの話題を見てどうしてもそれが使いたくなってしまった。

キャラクターとしては優しい神田川敏郎をイメージしました。

未熟ですみません。

そのうちこそこそっと直すかもしれません。

キルヒホッフ がりは

テーマ:キルヒホッフ

書きづらい系の2つ目。

世界が狭く、具体的なので正確な知識を要求されるもの。

Indigoが出してくる歴史ネタもそうだが、それを俺に書かしてなにが出てくると思っているんだ、wikiを引用して終わりにしちゃうぞ、と毎度思うのだが今のところそうはしていない。

これは第一法則と第二法則があったな、と思いだして、それに接頭語(?)として「恋の」をつければ形作りまではいくだろう、という見通しで書いた。

「ヒホッフ殺し」という筋もちらっとあったけど。

ヒホッフ誰よ?

三賞の発表 がりは

テーマ:たいしょう

大将日記を書いていた関係で「大将」と変換しがちだが、「対象」「対称」「対照」「大正」「対症(両方)」「青大将」など広がりのあるテーマ。

これがコンテストのテーマだったら面白いのがいろいろ出ただろうか。

でも前回のテーマ「珈琲」が充実していたみたいに、もっと具体的な方がいいのか。

いろいろ考えている時に、MVPをもらっている私は「大賞」だと、であるならば三賞があってもいいかな、と。

普段様々盛り上げてくれている皆さんの努力に報いたいな、という気持ちがあり、三賞選出しました。

技能賞のマルーンが受賞会見してくれたのは嬉しかった。

これからも私がMVPを獲ったら三賞発表を続けていきたい。

 

何度目かの引退と復帰 がりは

テーマ:何度目かの引退と復帰

テーマにしては長い上に限定的で何を書かせたいのかよくわからなくて苦労した。

プロレスファンとしては長州力の引退から逃げることはできないのだけど、この作品は不満。

もっともっと書かなければいけないことがあったように思う。

大仁田にフォーカスした方がテーマには忠実だった。

また、メジャーのど真ん中にいた長州が大仁田に引きずり出されて復帰し、その後インディーの立場からメジャーの新日本を侵略、今の新日本が世界で評価されているのは、ごつごつとした戦いをする長州の遺伝子がインディー、つまり新日本の外でコールドスリープされていて残っているからだ、という話から今年のG1がアメリカ合衆国テキサス州ダラスで開幕することに触れても良かった。

また、元ロッテのまさかり投法村田兆治が引退後も研鑽を続けていて66歳の時の始球式で130km/hのストレートを放ったことや、柔道の野村忠宏の話、ジョビジョバの話、会社で間欠泉のように働く先輩の話など書くべき内容は他にもあるテーマだった。

それらをぐるっと見渡しても、大仁田について書くべきだったかなあ。

でも俺、彼には詳しくないし思い入れもないんだよな。

うじうじ。

 

マッサージ  がりは

テーマ:どうくつ

小説を書けないのかよ、と言われている気がしていて、じゃあ書いてやろうじゃねえかと最近思っている。

そういうタイプの人間。

それがストロングスタイル。

でも、小説って書くの難しいですよ。

今回テーマがどうくつで、だらだら考えていても出てこなくて、どうくつをぴちゃぴちゃ歩いている情景だけ出来てきた。

人体の中にもりもり入っていく、中には広い空間がある、というのはなかなか面白い着想だったと思うけど、それだけっちゃそれだけ。

まあ、それでも書き続けていれば何かにぶつかるかもしれない。

 

隈部親永 がりは

テーマ:隈部親永

定番となってきた書きにくいテーマ二つ目系。

全然問題ない。

何を書かせたかったのかはわからなかったけど、これで良かったのかしら。

これが全体のテーマになった時に豊かな世界が広がるのかしら。

私としては知らなかった人のことを多少なりとも知ることができて良かった、刀狩や太閤検地との関連を知ることができて良かった、と。

まだまだこういうことを楽しく伝えるのは難しいなあ、伸びしろですねえ、と。


Ho-Ichi  がりは

テーマ:琵琶

琵琶がテーマで、いろいろと考えていて、考えあぐねて、YouTubeで琵琶聞いたりして、耳なし芳一が駅前で弾き語りをしていたら、ということを思いついた。

もう少し文化に明るいと良かったんだけど、壇ノ浦聞きながら書きました。

耳ついてるの?は、やりすぎかな。

 

【テーマ】たほいや がりは

テーマ:辞書

元々は将棋部の一部で流行った「たむなで」の話を書くつもりでいた。

俺が普段書かないものを修行として書こうと思ったので、どんどん形が変わって、お師匠さんのきつい指導もあってこの形に。

終わらせ方とか、選ぶ単語とか議論を重ねて大分良くなったように思う。

手癖も指摘され、多少スマートに。

自分の書いたものに本気でフィードバックしてくれることのありがたさを味わった。

 

以上が六月のテーマ戦記である。

とりあえず、テーマをさばくにあたりファーストチョイスが小説だったので非常に時間がかかった。

まあ、もう少ししたら大丈夫になるだろう。

俺は尻上がりだからな!

 

これからもがりはのテーマをめぐる冒険から目を離さないでほしい。

どんなテーマであってもこなしてみせるよ。

よろしく!

七夕 がりは

  • 2019.07.07 Sunday
  • 17:00

「幸せに暮らしてますか?」

夜中にLINEが入る。

なんだよー、こいつ。

いい年した男がいい年した女に聞くことか、これ。

友達は友達なんだけどね。

 

「なんでそんなこと聞いてくるの?」

と返そうとして、これだと幸せじゃないようだと思い、とどまる。

「幸せだよー。」

間違ってない。

でもストレートに返事するのが嫌だ。

聞かれていることは悪いことじゃないのに、心にさざなみが立つのはなぜなのか。

癪だからとどまる。

 

無視して寝るか。

 

「なんだよ、突然。」

返してしまった。

 

「「Aが幸せであるならばBが幸せ」の対偶は「Bが幸せでないならばAが幸せでない。」じゃないか。」

「たしかに!てなると思ってるのか。頭の中に何入れてんのか?カステラか?」

「確かに卵と砂糖とメルヘンでできてるよ」

「スタンプ連打するのやめてくれない?」

「笑ったろ」

「笑った。で、対偶がどうしたの?」

「俺最近あんまりいいことなくてさ。そっち大丈夫かな、て。」

「はあ?」

「昔さ、俺が幸せなのがお前の幸せだって言ってたじゃん。俺がA、お前がBだとして、Aが幸せじゃない感じなわけだから、Bが幸せじゃないのかもしれん、と心配するのは論理的かつ倫理的だろう。」

「よくわかんないけどさ。そんな昔の話されても。私は幸せだよ。」

「ふーん。そうか」

「やめろ!本当に幸せなのか、みたいなやつ」

「そんなこと言ってないだろ」

「不幸せなのはなにをもって不幸せだと言ってるの。独り身の淋しさに衣かたしき一人かもねむって感じ?」

「いやいや、モテてしょうがないんだけど、モテてもモテてもなんだか虚しいんだよね。」

「なんじゃそりゃ。能天気な。」

「仕事もなんか人の世話ばっかりでさー。」

「順調に出世してんじゃん。今まで好きに働いてたんだからちょっとは恩返ししろ」

「やっぱりわかってもらえないか。」

「わかるか!」

「まあ、幸せに暮らしてください」

「お前のそれとは独立に私は幸せに暮らす。」

 

夜中のLINEにロクなことはない。

(テーマ「対偶」)

G- Sports(7月号) がりは

  • 2019.07.03 Wednesday
  • 23:21

こんにちは、がりはです。

今月も少しでもお役に立つ情報を届けて参りたいと思います。

 

先月号のG-Sports、皆様のお役に立ちましたでしょうか。

雑兵日記PREMIERの月間投票に資するアウトラインをお届けいたします。

それでは2019年6月のトピックスです。

1.小説という戦場

2.たりき、的中

3.テーマ「辞書」コンテスト、多彩な作品を生む

4.鉄の海がクライマックス

5.Indigoモデルチェンジ?

 

1.小説という戦場

今月は39本のうち19本が小説(というかフィクション)でした。(「テーマコンテストについて」も入れれば20本)

Indigoが参入してきたことや、がりはがお師匠さんを迎えて書くようになったのが大きいです。

エッセイよりの二人が小説に参入してきたことは何を意味するのでしょうか。

 

2.たりき、的中

2019年上半期の総決算、宝塚記念でビシーッと的中させました。

キセキがあまりにかわいそうで(メイショウドトウより辛いですよ)、的中に気づかなかったのですが、よく見たら当たっているではありませんか!

買い目を絞っている中、お見事でございます。

 

3.テーマ「辞書」コンテスト、多彩な作品を生む

それぞれの作品の私なりの理解です。

 

ヤマブキの「辞書」言葉と世界の理解。国語辞典。

マルーンの「マイネーム・ユアネーム」百合の第二弾。辞書の新しい使い方。和英辞典。

Indigo「堅井さんと国語辞典」シャレにこだわったユーモア小説。国語辞典。

X「無人島に持っていかされた本」知の海の航海の暗喩として無人島生活を書いている。でかい辞書。

がりは「たほいや」青春小説。広辞苑。

アールグレイ「広辞苑と過ごす夜」クレームの形をしたラブレター。広辞苑。

 

いやー、多彩。

 

4.鉄の海がクライマックス

 

終わらないでほしいよ。

俺は終わらないでほしい。

もし終わったら次の週から「続・鉄の海」を始めてほしい。

「鉄の海2」でも「鉄の海2100」(医療SF)でも「鉄の海BEYOND」(生命科学小説)でも「鉄の海・改」((1)から大幅改定していく)でもいいよ。

終わるんじゃねえよ。

 

5.Indigoモデルチェンジ?

1でも触れましたが悩み相談室での相談がきっかけなのか、Indigoが小説を書き始めています。

書きたいものを書けるようになるといいですね。

その他にも相談室に参入したり、新潟の地震に寄せて都道府県の風景と私を書いたりと精力的でした。

MVPを獲りに来てますね。

  

6月の投票用紙はこちらです。

投票よろしくお願いいたします。

Ho-Ichi  がりは

  • 2019.06.29 Saturday
  • 18:07

ベッドタウンの玄関然とした私鉄の駅前。

いつもならばギターの弾き語りの若者が友達も含めて五人くらいの聴衆を前に誰かの作った曲を歌っている。

カラオケをする者もいる。

ラップをしている者もいる。

詩書く者、文字を書く者もいる。

政治を訴える者もいて、邪険にされている。

いつもならば。

 

今日はそこに漆黒があった。

漆黒から弦をはじく音が聞こえる。

「ときこそきたれええりいいいい。」

渋く太い声が地の底から湧いてくる。

何事か、と足を止める者も多い。

ほとんどが何事かわからないが何か恐ろしいものだ、関わり合いにならない方が吉、と判断して足早に立ち去る。

 

「きんりゃくにねんさんがつにじゅうよっかのうのこくに、げんぺいりょうぐんふなでして、だあんのうぅらにぃてえええ」

 

よく見ると異形の真っ黒い者がうずくまっているように見える。

いや、何かを抱えている。

大きな三角形だけが白く光って見える。

琵琶か。

音の響きや抱えているものから推測する。

その者は頭よりはるかに大きなバチを巧みに動かし、衝き動かすような低音と何かを紡ぐような高音を奏でていた。

バスロータリーに入ってきたバスのヘッドライトに照らされた。

それでも琵琶奏者は漆黒で、髪のない頭も顔も腕も黒かった。

拡声器を使っていないのに遠くまで響く声と琵琶の音が刺激的だったのか、人だかりが大きくなってきた。

壇ノ浦に浮かぶ源平の船のようにどんどん駅前に人が溜まってきた。

 

その中を無粋な光が割っていく。

警察官だ。

一かけらもごめんなさいねと思っていない「ごめんなさい」を水先案内人にして、駅前の壇ノ浦を進む警官二人。

懐中電灯で琵琶奏者を照らす。

彼はそのがりがりの体に一切の衣服をまとっていなかった。

悲鳴があがる。

体が真っ黒なのはびっしりと書かれた文字だった。

その間もハイピッチで琵琶を弾き、何かを祓う気迫で歌い続けている。

警官もひるんだのかしばらく立ち尽くしていたが、後ろに立っていた年かさに見える方が前の警官を小突き、前の警官がやっとのことで声を出した。

「あの、お兄さん。」

いまや琵琶の音はその辺一帯を覆っており、目に見えるのではないかという存在感だった。

「お兄さん、駅前でこんなことをやられると迷惑なんだけど!」

警官もかなり大きな声で呼びかけたが、琵琶奏者に聞こえたそぶりはない。

「耳ついてないの?ねえ!」

こんなにも歌が胸に迫るものだとは思わなかった。

言葉の意味は失われ、そこにはイメージだけがあった。

幼い天皇が入水する、その静かなシーン。

轟音は静寂に同じ。

 

クライマックスに到達する直前、男はそれまで固く瞑っていた目を開けた。

その眼には黒目がなく、バチとその鋭い眼光だけが白く光っていた。

 

最後まで弾ききり、歌い終え男は端座した。

拍手をするのも忘れて人々は立ち尽くしていた。

 

(テーマ「琵琶」)

隈部親永 がりは

  • 2019.06.26 Wednesday
  • 00:00

豊臣秀吉の政策と言えば太閤検地と刀狩りが知られている。

ノブが開発した兵農分離の路線を刀狩りで進め、太閤検地で墾田永年私財法から続く一部の人間による土地の支配をリセットし、改めて土地ごとに担当者と、土地の実力別の目標を定めて管理することで生産性を高めた。

その二大政策のうちの一つ「刀狩り」のきっかけの一つが肥後国人一揆と言われている。

 

肥後国人一揆とは佐々成政による検地に対し、国人隈部氏が抵抗し、鎮圧に来た佐々氏を籠城で受け切っているうちに、周囲の国人が佐々氏の居城である隈本城を攻め、秀吉の救援が来るまでの間は大いに盛り上がった。

しかし数は正義で秀吉に降伏、隈部氏は全滅。

その時に国人側の主力が脇差や刀を持った農民だった。

鎮圧に手間と犠牲を払った秀吉は、農民から刀や脇差を取り上げることにしたのだ。

 

地元にその善政が語り継がれていた隈部親永は、400年以上の時を越え、銅像が建つに至る。

同じ熊本の英雄加藤清正にも劣らないサイズの像が。

 

ところで、隈部親永を検索すると「顔芸武将」という単語が見つかる。

ゲーム「信長の野望」の中に登場する隈部親永が剽軽な表情をしていることから名づけられたようだが、マイナーもマイナーなこの武将が一部では有名になったようだ。

知らないと思いやがって、あんな面白い顔を。

と思わなくはない。

家康のしかみ像のようにエピソードがあるのかと思ったがなかった。

仕事が雑だ。

 

しかし、織田信長、源頼朝など、教科書に載っていたような人たちも、肖像画の信憑性が疑われるようになり、教科書に肖像が乗らなくなったようなので、隈部親永くらいの存在で多少ふざけても良いのかもしれない。

ゲーム「戦国無双」では石田光成や直江兼続をあんなハンサムに描いており、萌える女子もいるようだ。

肖像やエピソードを読むとあんな現代的なハンサムではありえなそうなのだが。

刀剣をハンサムにしたり、戦艦をミニスカの美少女に描いたりしていて、それでみんなが幸せになっているのだから、小さなことは気にしなくていいのかもしれない。

 

隈部親永もその場でしか見れない銅像よりも顔芸武将といわれても色んな人に知ってもらう方が嬉しいのかもしれないし。

 

(テーマ「隈部親永」)

マッサージ  がりは

  • 2019.06.24 Monday
  • 00:28

目の前にはクイックマッサージ用の椅子に身を預けた男の無防備な背中がある。

小さなハンドルのようになって、顔を当てても呼吸が妨げられない形の顔当て、押された体を支えるための胸当て、手持無沙汰な腕のためのレバー、前傾の角度は75度。

頭頂部が少し薄くなってるのが見える。

全体に広がっている皮脂が照明を受けてきらきらしており、ハゲが頭頂部だけでなく彼の頭を侵略していくのは止められないだろう。

これからこの男は二十分の間、口からだらだら涎をこぼしながら私のマッサージを受けることになる。

大きなタオルを肩から腕にかけて、すこし力を込めながら両手で首から前腕まで流していく。

首、肩甲骨、わきの下、腎臓と腎臓の間。

 

ポイントは見つかった。

私としてはどちらでも良い。

この男を涎だらだらの快楽地獄に突き落とし毎週通わないと気が狂うように仕立て上げるのも、それなりの施術でそれなりの満足を得て帰ってもらうのも大した差はない。

暇つぶしだ。

疲れにも差はない。

さて、と思案しながら五回目の流しが終わる。

それなりに張っている。

ひどく辛いんだろうな、と私は経験のしたことのないコリということに思いを馳せる。

「ずいぶん凝ってらっしゃいますね。特にお辛いところはどこでしょうか。」

声をかけると右腕を掴まれ、首に持っていかれる。

「お客様、ご指示いただければわかりますので。」

努めて冷静に伝える。

シンと心の奥が冷える。

久しぶりに洞窟をくぐるか。

 

少し乱暴だが、頭の下のアトラスをほぐし、首と頭の付け根のところに入り口を作っていく。

十分ほぐれたあたりで床には涎の池ができているだろう。

右手と左手の人差し指と中指を入り口にそっと当てる。

少し裂けていく。

裂け目が三センチくらいに達したところで、指を入れていく。

指の背を合わせるように。

ずぶずぶと入っていく。

 

いつもどういう仕組みなのか不思議なのだが私はそのままずるずるその穴に入っていく。

水泳の飛び込みのようなフォームで入っていく。

恐らく背骨に沿ってずるりと入って、腎臓の間から出てくることになるだろう。

 

足の先まで入りきると、急に高く広い場所に出る。

立ち上がり、ポケットに入れていた小さな懐中電灯で周囲を照らす。

高さは半径6mくらいのドーム状の場所の端っこに私はいる。

青黒い壁が心なしか動いているように見える。

私には向かうべき方向がわかる。

ぺちゃぺちゃと湿った床を踏みしめて前に進む。

ところどころ出っ張ったところを蹴ったり殴ったりする。

分厚いゴムのような感触が返ってくる。

毎回、なんでこんなところに入っちゃうんだろうな、と思う。

人体にこんな場所があるなんて誰も教えてくれなかった。

本当にここは人体なのだろうか。

段々壁が迫ってきて、天井も低くなってくる。

立っていられるうちに助走をつけて、ヘッドスライディングの要領で突っ込む。

ポイントは手と手の甲を合わせて滑ること。

奥まで行って、止まる寸前に押し開きながら前へ進むために。

今回もうまく出られると良いのだけど。

 

(テーマ「どうくつ」)

何度目かの引退と復帰 がりは

  • 2019.06.22 Saturday
  • 23:59

人は刹那の間に生死を繰り返しているのだそうだ。

刹那とは指を弾く時間の65分の1という説明もあれば、数の単位としては10のマイナス18乗として使われてもいる。

極めて短い時間の間に生と死を繰り返す連続、それが生きているということだ、という解釈で、武道の人の話に時々出てくる。

「死に体の時に行くんです。」

「この刹那、相手は死んでますからね。」

違う道の人から何度か聞いたことがあるので、共通言語なのかもしれない。

 

今通信回線は1Gbpsの帯域のサービスが普及している。

通信とはなんであるか、信号を電気のオンオフに変換し、それを光の明滅に変換したものである。

刹那の切り替えまでは至っていないが、現在は10ペタbpsの通信が実現しているので、その光の明滅と同じくらいのリズムで生きたり死んだりしているということか。

 

日常レベルで生き死にを繰り返している実感は凡人たる私にはないが、スポーツに目を向けてみると死=引退、生=復帰と考えた時に何例か頭に浮かんでくる。

サッカーではあまり成功した例がないのだが、鹿島アントラーズのジーコが浮かぶ。

引退してブラジルのスポーツ大臣をしていたジーコが日本のアマチュアの2部リーグで現役復帰したことの驚き。

まだJリーグが無かった頃であるからなおのことである。

バスケットボールではマイケル・ジョーダンが思い浮かぶ。

彼は三度引退している。

一度目はNBAを三連覇したあと、父を不慮の事故で亡くした後。

野球に挑戦して話題になった。

二年後に復帰したあと、再び三連覇を達成し、引退。

バスケをしてないやつらもこぞってエアジョーダンを履いていた時代。

引退後ウィザーズに経営参加したジョーダンは低迷するチームを再建するため二度目の復帰。

40歳で40得点という記録を残したが、チームは浮上せず。

 

長州力というレスラーがこの六月に引退をする。

上に挙げたサッカーの神様、バスケの神様とは知名度に差があると思う。

世代によっては長州小力の方が有名だったり、芸能人に笑いのネタにされている姿の方が有名だったりするのだろうが、偉大なレスラーであることは間違いがない。

アントニオ猪木のあとの世代として藤波辰爾とともにその重責を担ったレスラーで、長髪から汗を滴らせながら、見事にパンプされた肉体一つでストロングスタイルを体現した。

寵愛を一身に受け華麗なレスリングスタイルだった藤波の陰で、あらゆる鬱屈した想いをのせてリキラリアットやサソリ固めで相手を打ちのめしていく姿に、人生がつらい男たちの多くが留飲を下げた。

1998年1月の東京ドーム大会で引退をした長州だが、2000年7月に大仁田の挑発に乗る形で現役復帰。

1999年から2000年にかけてのメディアを巻き込んだ長州vs大仁田の構想は秀逸の一語。

絶対に引退後の復帰はしない、と言っていた男だけに賛否両論あったがその後も絶大な存在感を示し今に至っている。

 

長州をリングに戻した男、大仁田は1984年に最初の引退をしてから7度の引退を経て7度目のカムバックを2018年9月に果たしている。

 

長州が67歳、大仁田が61歳であることを考えると現役であることが不思議だ。

それがプロレスの素晴らしさであり、我々はリングの上の動きだけを楽しんでいるのではなく、そこに様々な想い、様々な記憶をオーバーレイして楽しんでいる。

 

プロレスラーの引退というと、少しかじったような人たちが「すぐにカムバックするんでしょ?」と言う。

元々力士が引退した後にプロレスに来たり(力道山、豊登、天龍源一郎、北尾、ジョン・テンタ、安田忠夫、曙太郎、星誕期等)、柔道を引退した後にプロレスに来たり(木村政彦、坂口征二、小川直也)していたことも影響していたと思うが、やはり大仁田の影響は大きい。

ただ、健康上の問題もそこにはあり、エアロビクス、ウェートリフティング、器械体操を同時に行う格闘技、という特性上、プロレスラーはスポーツ心臓になっている選手が多く、急激に運動を行わなくなると健康を害するため、体を動かしているうちに「あれ?まだ俺やれるじゃないか。」となることがままあるという。

 

生死の間を揺蕩いながら、自身にかかる期待の変化を感じ取り、その度に新しい役割を獲得することで生き延びている大仁田厚。

全日本プロレスの正統派レスラーだった第一期からデスマッチのカリスマ、インディのカリスマ、涙のカリスマ、政治家レスラーを経て、ボランティアレスラーである第八期まで生き延びてきた。

世のレスラーよりも激しい明滅を見ながら、プロレスにそれだけ豊かな役割が用意できる余地があることに感謝している。

 

(テーマ「何度目かの引退と復帰」)

三賞の発表 がりは

  • 2019.06.19 Wednesday
  • 23:57

先月、皆様の負託を頂き、また一ヶ月間、このMVPという職責を任せて頂いておりますがりはです。

こんにちは。

今日はPREMIER授賞式ということで、プレゼンターの大役を仰せつかっております。

え?

司会までやるの?了解了解。

本日の賞は三つです。

殊勲賞

敢闘賞

技能賞



早速発表に移ります。

殊勲賞!

この賞は金星を挙げたPREMIERERに与えられます。


先月の殊勲賞はこの方です!


Mr.Black!!


殊勲賞が失礼に当たるのでは…という声はもちろん聞こえております。

それでもゲストのBlackさんが並み居るレギュラーを破りニ冠に輝いた功績は殊勲賞を差し上げずにはおれません。

レギュラーへの推挙があるでしょうから今後はハードルが上がると思いますが、その期待を超える活躍が見えます。

私には見えます。


敢闘賞!

敢闘精神溢れる作品を展開したPREMIERER

に与えられます。


先月の敢闘賞はこの方です!


Mr.イエロー!!


このプリミエールにまさかの美容の話を突っ込んでくるとは。

その勇気に敬意を表しますし、それで最優秀まであと一歩だったのはすごいなあと。

続編を期待してます。


技能賞!

優れた技能を発揮したPREMIERERに贈られます。


先月の技能賞はこの方です!


Mr.マルーン!!


インスタント・キスで百合小説に挑戦したことから敢闘賞を予想されていたでしょうが、小説の中にある細かい仕掛けを高く評価して技能賞を差し上げます。

何よりマルーンさんの文章はリーダブルです。

いやー、技能が高い。

ヤマブキも受賞しそうだったのですが、彼にこの賞は軽すぎるという意見が委員から出まして、落ちた経緯があります。


各賞を受賞された皆様、おめでとうございます!


もうね、いいですよね、だいたい。

分かっていただけたんじゃないかなと。

結局がりは=MVP=大賞で、MVP=がりは=大将なんだと。

その上で今日は様々な賞を選考してきたわけで。

民意を受けた私が選考したこの賞もまた民意だということで、是非受け取って頂き今後の創作活動の励みにして頂ければと思います。

いいか!迷った時は俺の背中だけ見てればいいんだよぉ!


(テーマ「たいしょう」)



キルヒホッフ がりは

  • 2019.06.16 Sunday
  • 16:18

「とりあえず生大2つで。」

元気ないじゃん。

「彼女と別れそうなんだよ。」

まじで?結婚するとか言ってたじゃん。

「まじまじ。」

別れちゃいなよ。

「えー。」

別れたまえよ。

「なんかお前に言われて別れるのも癪だよ。」

彼女がかわいそうだから別れるべきだよ。

「そっち?そっちの立場?お前俺サイドじゃないの?」

わたしは善意の第三者です。あ、串の盛り合わせ塩と、特上おまかせ刺し盛3人前!よろしく!

「うーわ。生大4つ。持ってくるの待ってらんないから。」

4つ?わたし飲まないよそんなに。水だと入らないのにビールだと入るの不思議だよね。で、どうしたのよ。言うてみ。

「あっちの相性はいいんだけどさー、こっちの相性がね。でさ、あっちが良ければこっちはどうとでもなる、と思ってたんだけど、二年付き合ってみて案外どうとでもなってないのよ。」

あ?

「だからさ、好きだよ、好きなんだけどお互いのためにさ、別れた方がいいのかなー、てことを考えてたら向こうからそんなこと言われてね。」

ほん。

「でもそう言うってことは俺たち似た者同士なんだな、て思うとこっちの問題も実はどうとでもなる側に寄ってきてるんじゃないかって。」

そうなんだ。ほほん。

「なんだよ、にやにやして。」

恋のキルヒホッフ第二法則って知ってる?

「なにそれ。」

知らないんだ。じゃあ教えない。

「そこは教えてあげる!だろうが。」

うるさい。で、あっちの問題もこっちの問題もよくわかんないけど、いつ別れるの?今電話したら?これおいしいよ。めごちなんか出すのね。んー!ぷりぷり!!早く電話しなさい。

「いやいや、ここは悩みどころでしょ。」

レバーいまいちね。魚の店だよ、ここ。魚だけにしとけばいいのにね。悩むところないでしょう。二人とも意見合ってるし。結婚したいとか言ってたくらいなんだからさ、結婚する気ないんだったらさっさと別れないとどんどん不幸になるよ。

「いやー、やめて、正論やめてー。」

そうだよね。頭の中では正論でねちねちぐちゃぐちゃ考えてるんだもんねー。いやだよねー、改めて言われるの。ほら、イワシもあたり。

「わかってんなら言うなよ!」

お、元気出てきたじゃーん。どうせ、他に気になる女もいるんでしょ?

「なんでわかるんだよ。」

恋のキルヒホッフ第一法則だよ。もしかしてこれも知らないの?理系の大学出たとか言ってなかった?

「農学部だよ。」

一番恋のキルヒホッフ知ってなきゃいけないとこじゃん。

「そうなの?」

そうだよ。なんもわかってないのね。

「そうなんだよー。俺は何もわかってないんだよー。」

げ。悪酔い始まってんじゃん。悪いけど先帰るね。別れたら報告してね。ごちそうさまー。

「おい!まじでかえるんかい!」

 

(テーマ「キルヒホッフ」)

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