やまがある日記〜武奈ヶ岳(1214m)登り

  • 2017.11.11 Saturday
  • 12:01

2017年11月初旬 晴

 

10月は仕事と台風で鈴鹿以降は山に登れなかった。たまたま休みが取れたので、やっと得られた快晴の休日、どこに登ろうかな、と考えたときに、思い出したのは武奈ヶ岳だった。
去年のほぼ同じ時期に登ったときは京都側の登山口までバスで行ったが、平日はバスが出ていないため、今回はJR湖西線比良駅から登山口までタクシーで連れて行ってもらう。1人で1200円はちょっと痛いがしかたない。
イン谷口から大山口を経て、右に行くとダケ道、左に行くと青ガレだ。左のコースは落石の危険があるため推奨されていない。迂回推奨の看板も出ている。でも今日は左に行く。
沢沿いにいくつもの堰提を越えていく。台風の影響か倒木が多い。
30分ほど歩くと大きな岩がごろごろしたガレ場に出る。これが青ガレか。上が見えない。
落石の危険があるためガレ場の縁のあたりに登山道の目印がある。足場はしっかりしているので両手も使いつつどんどん登る。軽いが久しぶりの岩場だ。楽しい。開けたポイントで振り返ると紅葉した木々の間から琵琶湖が見えた。

「青ガレ」と呼ばれるガレ場


青ガレを抜けてもしばらくはえぐれた崩落地を横断したり気が抜けない。危険な場所に長居は無用ということで、金糞峠まで1時間半はほぼ休憩なしで一気に登り切った。
暖かい日だったが峠はひんやりとした風が吹いて、さっきまでかいていた汗があっという間に引いていく。体を冷やさないように上着を羽織った。
少し休憩して出発する。ここから先は金糞峠からいったん下って中峠、更にもう一度小さな登り返しがあってワサビ峠、そして西南稜を経て山頂へ至る。
中峠までは沢を何度も渡りながら登っていく。雨乞と御在所の間の谷に近いが、飛び石のように岩があるのでずっと渡りやすい。

足元ばかり気にしていたら倒木にしたたか頭をぶつけた。登りの最中は斜面に身体が向いているせいでどうしても視界が狭いので、ちょくちょくやってしまう。私がどんくさいのだが。
中峠からは少し下って登り返す。明るい谷間の道は落ち葉がふかふかに積もってクッションみたいだ。気持ちいいが、踏み跡が隠れているから気を付けないといけない。こまめに現在地とルートを確認しながら進む。台風でずいぶんと散ってしまっていたが、紅葉はまだ十分きれいだった。今年は去年よりも黄色が強いようだ。
足元にはどんぐりや木の実がたくさん落ちていて、山の生きものたちはこれらを食べて冬支度をするのだなあと想像する。積もった落ち葉は小さな生き物たちによって分解されて豊かな土壌となり、森に水を貯え、新しい命を育てる。植物は偉大だ。無駄がない。
青ガレで老夫婦を追い抜いて以降は誰とも会わなかったが、不安はなかった。身体も3週間ぶりの割にはよく動いているし、山の空気がそのまま自分の活力になっている気がした。

黄色
鮮やか


ワサビ峠について、ツツジの葉が真っ赤に染まった稜線をゆく。低木の中をくぐるように歩いていくと視界が開けて西南稜から続く武奈ヶ岳の山頂が見えた。ちょうど一年ぶりだ。「お久しぶり!」と声が出た。
去年登って以来武奈ヶ岳のことはずっと頭の片隅にあって、また会いたいと思っていた山だった。相変わらず美しい山容だった。
道中誰とも会わなかった割に、山頂にはそれなりに人がいた。平日とはいえ、これだけ気持ちの良い日なのだから誰も来ないということもあるまい。
今まで登った関西の山であれば武奈ヶ岳が最も素晴らしい展望を持っていると思う。ここまでの山はそうない。
琵琶湖の反対側に伊吹山、鈴鹿の山々、南には蓬莱山とその先に大峰山や金剛山が雲の上に顔を出している。北には雪をまとった白山まで見えた。もう、ここから見える山で名前がわかるものは登った山の方が多いぐらいかもしれないぐらいだ。
昼食をとりながらも飽きずに景色を眺めていた。1時間ほどゆっくりと山頂でくつろいだ。
立ち去りがたかったが、暗くなる前に下山しなければならない。明日も仕事だし。

西南稜を振り返る
琵琶湖の向こう側に左から伊吹山、鈴鹿の山々

やまがある日記〜武奈ヶ岳(1214m)下り

  • 2017.11.11 Saturday
  • 12:00

下山も琵琶湖側に下る。来た道とは違う道で、イン谷口まで3時間弱の下山コースだ。とかく武奈ヶ岳はどのコースを通っても山頂が遠い。

途中広い尾根の道で、分岐点から進んですぐに道を見失った。おや、と思ったが前回の鈴鹿でルートファインディングにはだいぶ慣れていたので、焦ることはなかった。一旦分岐の標識まで引き返し方角があっていることを確認する。よく探せばきちんと道があった。ついでに地図でルートを確認しておく。

このあたりのブナの森はもうほとんど葉が散ってしまっていたが、明るく日が差し込む尾根は青空がよく見えてそれはそれで気持ちがいい。機嫌よく歩いていく。

 

 

尾根を抜けるとスキー場の跡地に出る。2004年まではロープウェイやリフトも運行していたというが、今となっては寂しいものだ。スキー場の地面にはプラスチックの養生がたくさん残されている。プラスチックを分解できる微生物はいないから、これらは風化するまでずっとここにあって地面にふたをし続ける。これでは木々が新しく生えてくることも難しかろう。立ち去るのであれば全てきれいにして出ていけばいいのに。全く人ってやつは、と苦々しい気持ちになる。
スキー場を下りきると八雲ヶ原に出る。以前蓬莱山の小女郎が池も紹介したが、比良にはこの標高の山としては珍しく高層湿原が点在する。池の中にはイモリが何匹も泳いでいた。初夏には水芭蕉が多く咲くのだという。ぜひ来年は撮影に訪れたい。
八雲ヶ原を抜けると琵琶湖の展望が素晴らしい北比良峠に着く。かつてのリゾートの名残か、朽ちかけたハイキングコースの看板がある。遠くに武奈ヶ岳の山頂が見えた。武奈ヶ岳の山頂は奥まっているため、下からは見ることができない。直接の対面はこれが最後で、ここからはひたすら下るだけだ。


下山は行きに使わなかった方のダケ道を下っていく。
登山道には台風で落ちた木の枝が散乱し歩くたびにパキパキと鳴る。杉の巨木が何本も倒れているのを慎重にかわしていくと、登山道が一部大きくえぐれていた。真新しい露出した地面が生々しい。これも、2度の台風の影響だろうか。落ちないように、登山道の上の斜面を慎重に巻いていった。足を滑らせたら痛いではすまないかもしれない。何とか渡りきって胸をなでおろした。

大自然のエネルギーは恐ろしい。

倒木
えぐれた登山道


淡々と下ってイン谷口にたどりついても、今日の山旅はまだ終わりではない。行きは贅沢してタクシーに乗ったが帰りは比良駅まで歩く。
この最後のひとがんばりがきつかった。足が痛い。

比良駅の近くまできて振り返ると比良の山々が青空に映えていた。堂満岳のピラミダルな形がよく目立っている。

ああ、今日もよく歩いた。
くたくたに疲れていたが、何とも満ち足りた幸せな気持ちで、私は電車に揺られて帰った。

 

やまがある日記〜鈴鹿2座周回 ̄乞岳(1237m)

  • 2017.10.21 Saturday
  • 00:02

2017年10月上旬 晴れ

 

滋賀と三重の県境に1000m級の山々が連なっている。おおよそ名神高速と新名神高速に挟まれたエリアにあり、関西を隔てるそれらを総称して鈴鹿山脈という。
登山をしない人からするとあまり知名度の高い山地ではないかもしれない。標高こそさほど高くないが奥深い山地である。
今回はその鈴鹿山脈の2座、雨乞岳と御在所岳を周回する。計画時点でコースタイム8時間超のタフなコースだ。

 

夜明け前に大阪を出発し、2時間ほど車を走らせる。鈴鹿スカイラインの武平峠駐車場に車を停めて、準備をして出発だ。

鈴鹿は関東の丹沢山地と並んでヤマビルの生息地として知られるエリアでもあるため、ズボンのすそを靴下に入れ込んでからゲイターを装着し、さらにヒル除けスプレーを足元にかけておく。リュックには塩水を入れたスプレーボトルを入れてある。

ここまでやっても、できるなら出会いたくないのがヒルである。
まずは雨乞岳を目指す。
雨乞岳はその美しい山名にふさわしく水の豊かな山だった。序盤はほとんど高度を稼がず幾筋もの小さな沢をわたって長いトラバースの道を行く。道は細く斜面は急なので慎重に進まなければならず、ペースは遅い。
途中開けた谷に出る。落葉広葉樹の明るい森はあと2週間もすれば紅葉がピークだろう。今はただ静かなばかりだった。
武平峠から1時間半ほど歩くとようやく東雨乞岳への急登にさしかかる。今まで標高を稼げていない分一気に登る。
豪雪のために低木しか生えない稜線から笹原に出るともう東雨乞岳山頂はすぐそこだ。東雨乞岳と雨乞岳は笹原が広がる短い尾根でつながっており、雨乞岳の方が標高が少し高いが、展望は東雨乞岳の方がよい。時折雲がかかるが景色はよかった。
東側には御在所岳のずんぐりとした巨体が迫っている。これからあれに登るのだ。
いったん400mほど下ってほとんど標高をリセットしなければいけないので、結構うんざりした気分になる。
西側には雲の下に琵琶湖と東岸の街、その向こうには比良山地も遠く見えている。あまりこのアングルから琵琶湖を眺めることはないため面白い。
羽虫が多いしまだ時間的に少し昼食には早いため、小休憩だけで出発した。
笹藪の稜線を歩いてあっという間に雨乞岳山頂へ着いた。この日の一つ目の目的地だったが、聞いていた通り背の高い笹藪に囲まれて展望はない。休めるようなスペースもないので、山頂の標示だけ写真に収めて先に進むことにする。
 

色づきかけ
東雨乞岳から雨乞岳への稜線

やまがある日記〜鈴鹿2座周回道中

  • 2017.10.21 Saturday
  • 00:01

雨乞岳からは杉峠を経ていったん登山口とほぼ同じ標高まで2時間ほどかけて谷を下り、そこから国見峠へと登り返すがこのコースが厄介であった。
杉峠までは黒土の滑りやすい急斜面の尾根を下り、そこから右に折れて谷に降りる。

まっすぐ尾根を縦走しても御在所にはたどり着けるが、コースタイムはそちらの方が長いのだ。

足を滑らせてトレッキングパンツが真っ黒になってしまった。
薄暗い谷筋を、何度も沢を渡りながら歩いていく。トリカブトがそこかしこで咲いている。猛毒で知られるが、秋の山ではよく見かける花だ。マムシグサの毒々しい赤い実も見かけた。これも食べると中毒を起こす。正体のわからないキノコもたくさん生えているし、毒なんてものは世界にありふれているのだと、山を歩いていると実感する。

トリカブトの一種

途中、人気のない山奥にいきなりいかにも人工物の石垣が現れておやと思っていたら、看板が立っていた。御池鉱山の遺構であった。明治大正期には300人もの人々がこの山深い場所に住み銀や銅を掘っていたのだという。ここまでの険しい道のりからもわかる通り搬出は困難を極めたことだろう。銀銅の価格下落に伴い廃坑になったそうだ。今はただ静かに朽ちている。
人が住んでいただけあって開けた箇所もあり、キャンプには適しているようだ。薪の後もある。前の登山者にぼんやりと着いて行っていたら道を見失った。テント泊らしい青年が正しいコースを教えてくれた。
さらに下っていく。登山者が少ないため、踏み跡が不明瞭でわかりづらい。GPSで常に現在地は確認しているし、沢筋を外れなければコースからはそれないこともわかっているが、V字に切れ込んだ谷はどこでも歩けるというものでもない。少し歩いては立ち止まって顔をあげ、木に巻かれたビニールテープの道しるべを探す。

川の反対側にテープを見つければ渡渉し、またすぐに渡りなおす。雨乞に登る途中の細かい沢とは違って川幅も水流もそれなりにあるため、毎回ポイントをよく見極めて渡らなければならない。登山靴は防水なので多少水につかってしまうのは気にせず、ストックでバランスを取りながら慎重に足を置いていく。

この沢を何度もわたって進む
秋だ


こういう集中力を要するコースではパーティの先頭の負担が大きいため、交代しながら進んでいく。道を探すのも複数人の目で探す方が効率がいいし、単独行でなくてよかった。
とはいえペースを上げるのは難しく、じりじりとコースタイムから遅れていった。1時半も過ぎると日が傾いて北側の谷筋は徐々に暗くなってくる。うっかり山の中で日没を迎えてしまったらどうしよう。不安が募ってきた。
中々ゆっくり休憩できそうなポイントがなかったので昼食の時間が遅くなってしまったが、河原の開けたポイントがあったのでここで休憩することにした。今日のメニューはツナマヨチーズのホットサンドとコーヒーだ。バターを塗った食パンにたっぷりと具材を挟み、アウトドアバーナーで焼いていく。
川のせせらぎも涼し気で心地よい。ゆっくり楽しみたいところだったが、時間がおしていた。食事をしながらこの後の行動プランを相談する。
今いる谷から武平峠まではコクイ谷を抜けて直接アクセスすることもできるが、そちらの道は危険箇所あり道迷い遭難多発、とリスキーだった。ただでさえ現状難しいのにその更に難易度の高いやつ、と言われるとかなり腰が引ける。逆算して、普通に行けばぎりぎり間に合いそうだったのでプラン通りのコースを続けることにした。御在所まで登ってしまえば最悪ロープウェイで降りてタクシーで駐車場まで運んでもらうという手もある。

 

 

やまがある日記〜鈴鹿2座周回8羣濬螻戞1212m)

  • 2017.10.21 Saturday
  • 00:00

食事を終えて出発する。

上水晶谷を抜けて分岐を右に曲がり、国見峠に向かって沢筋を登り始めるが相変わらず道は不明瞭だった。

以前最もスタンダードなコースから登ったときは人も多く開けていてこのようなことはなかったが、同じ山でも道を変えれば表情もがらりと変わる。
整備され尽くした登山道とは違った面白さがあるが、やはり遭難リスクは高い。同コースで道迷いをしたというブログ記事も多かったし、雨が降れば増水や鉄砲水の恐ろしさもある。

小さな滝があった

 

黙々と歩いていくと周囲の岩石がごろごろした花崗岩に変わり、ようやく御在所岳にとりついたのだとわかる。4時までに山頂につければ下山が間に合う計算だ。どうやらなんとかなりそうだ。
焦る気持ちはあるが、疲労もたまっていて適切な休憩も必要なので、適宜立ち止まる。
長い登山は自分の身体と向き合う時間だと思う。普段何気なく行っている「歩く」という単純な動作の難しさ、摂取した糖質がすぐさま燃料として消費される感覚、消耗した体力で持ち上げる自分の足の重さ。暑ければ汗をかき寒ければ震える。そういう身体の訴えに常に耳を傾けてコントロールしていかなければならない。
下山して一番に食べたいものは酷使した筋肉を回復させるために絶対に動物性たんぱく質だ。どうしようもなく私という存在は肉体なのだと実感する。
最後の登りはガレ場の急登で、あとひと踏ん張りの一歩がつらい。それでも登るしかない。振り返って見上げる国見岳の色づきかけた山体が、あとちょっとだと励ましてくれた。

最後の急登だ
山頂は観光地化されている


登りつめた山頂はいきなり観光地で、知ってはいたがギャップに驚く。スキー場のリフトに乗ってくる観光客がにぎやかだ。
残念ながらガスがかかって展望はなかったが、やっと一息つけた。達成感よりほっとしたという感じだ。
下山は1時間半ほど、御在所らしい花崗岩質の岩場ザレ場を下っていくと、夕日に照らされる四日市の街が美しかった。

鎌ヶ岳も目の前に凛々しく立っている。3月に登った霊仙もそうだったが鈴鹿の山はそれぞれなんとも個性的だ。
武平峠の駐車場にたどり着いた時には日没まで1時間を切っていた。休憩込の総行動時間は9時間半を超えており、移動距離は13km、累積標高差は上り下りそれぞれ1400mだった。1000m程度の低山だからと言って、なめてかかってはいけないとしみじみ実感した。
きつい山旅だったが、ここまで長い登山はこの先日がもっと短くなるので中々計画できない。挑戦できてよかったと思う。

 

夕日に照らされる鈴鹿の山々

最優秀作品賞受賞を受けて Mr.マルーン

  • 2017.10.14 Saturday
  • 14:55

こんにちは。マルーンです。
秋が深まってまいりました。秋の味覚は皆さまお召し上がりになりましたか?
秋鮭、きのこ、お芋、秋刀魚、かぼちゃ、梨、ぶどう、新米…等々。うーんおいしそう。よだれが出てきますね。
私はこの間NHKの今日のりょうりで土井先生が作ってらした栗ジャムからみ餅が食べたくて食べたくて、とりあえず栗を調達してみたところです。今週末は生憎のお天気で山にも行けませんし、おうちで楽しめる秋を楽しもうと思います。

さて、このたびは最優秀作品にお選びいただきありがとうございます。投票してくださった皆さまに心より御礼申し上げます。
私の拙い文章と写真で「山に行きたくなった」というコメントをいくつも頂いて、山に興味を持ってもらえてうれしいなあと思いつつも「山に行きました」というコメントはなかなか頂けませんね。
行きたいと思ったら行ったらいいのに!行きましょう?ね?
今、一番いいシーズンですよ。
山の秋は緯度と標高の高いところから順番にやってきます。今、標高2000mあたりを過ぎたぐらいかな?
低山でも涼しいですし空気が澄んでいるから晴れれば遠くまで見えますし、紅葉にススキの原はもちろん、ドングリを拾ってみたり、道端のきのこを眺めてみたり、虫の声に耳を傾けてみたり、いろんな楽しみ方があります。
味覚に視覚に聴覚に触覚に、秋は楽しいことだらけ。
皆様もぜひあたたかくしてお出かけくださいね。
魔法瓶にあたたかいコーヒーやミルクティを入れて山の上で飲んだりするととても満ち足りた気持ちになりますよ。
ああっ私も山に行きたくなってきました。オールドファッションシナモンとコーヒーをまったりとやりたいところです。
まあ、つい先週死ぬ思いをしたところなのですけど。
むー秋雨前線が憎い。早く晴れないかなー。

やまがある日記〜山の朝 乗鞍岳にて

  • 2017.10.07 Saturday
  • 00:00

縁があってつい先日来たばかりの乗鞍岳に再び登ることになった。といっても、今回は夜明け前に登山を開始する。
夜中に起き出して宿を出る。呼んでおいたタクシーに乗り込み、畳平で下してもらうと、頭上には満点の星が輝いていた。

肉眼でも天の川が確認できる。なんてたくさんの星だろう。機材が足りず撮影できないのが残念だ。
ヘッドライトの明かりを頼りに歩いているうちに、東の方角が徐々に白んでくる。

さっきまで見えていた満点の星々が順番に姿を消して、藍色とオレンジのグラデーションからあっという間に世界は淡い色彩に包まれていく。いつしか足元もはっきりと見えるようになっているから、ライトを消した。

 

すいすいと山頂にたどり着き、日の出を待つ。それにしても寒い。9月も後半になると3000mの山の上はもうあっという間に冬が来る。踏みしめる地面にはぱりぱりと霜柱がたっていて、気温は氷点下近いとわかる。
ちょうど東側の空のオレンジが最も濃い部分、日の出の方角に高層雲がかかっている。
日の出の時間になったがやはり太陽は雲に隠れていた。空の色は刻一刻と変化していく。オレンジから淡いピンク、そして水色。
ダークグレーのシルエットだった穂高連峰の岩稜の細部が見えてくる。笠ヶ岳の端正なピラミッド型の山体が淡いピンクに染まっていた。モルゲンロートというには色が薄いが、それでも美しい。あちらからはくっきりと日の出が見られたことだろう。

権現池に映る空
朝日を浴びる笠ヶ岳と北アルプスの山々

 

あまりにも寒かったので山頂小屋でココアを飲んで出ると、雲の隙間から太陽が顔を出した。思いがけずまぶしくて目を細める。
雲間から差し込む光に照らされ、雲海が黄金色に輝いていた。体がどんどん温まっていく。
朝というのはなんと劇的なのだろう。素直に心が震える。
南に目を向けると御嶽山がその雄大で美しい山容をあらわにして、のびのびと朝日を浴びていた。なんと大きな山か。恐るべきエネルギーを内に秘め、ついこの間噴火で大勢亡くなったとは思えない穏やかな姿だった。そっと手を合わせる。来年には登れるようになりそうらしい。

黄金色に輝く雲海
御嶽山

 

畳平に戻る途中、行きがけには暗くて見えなかった位ヶ原の紅葉が鮮やかだった。
ハイマツの隙間にリボンのようにオレンジの帯が走っている。ナナカマドだろうか。
イワヒバリたちがちょろちょろしていてかわいい。ホシガラスたちは冬支度のためにハイマツの森を忙しく飛び回っている。今のうちにハイマツの実をたくさんの場所に貯蔵しておくのだそうだ。その食べ残しから新しいハイマツが芽吹く。厳しい自然環境のためハイマツの生育スピードはとても遅いが、そうして何十年何百年をかけて森が広がっていくのだという。大自然の営みはささやかなのにダイナミックだ。
つい先日来たばかりの山だが、少し季節が進めばこうも鮮やかに変わるもので、同じ山でも何度でも登って損はないのだ。
乗鞍岳はすっかり私の好きな山になった。そのうち下から歩いて登りたいなあと思う。

位ヶ原の紅葉
山頂を振り返る

【テーマ】つきをつかまえろ!  Mr.マルーン

  • 2017.09.29 Friday
  • 00:00

9月のお題が「ツキ」と聞いて私は残念な気分だった。10月であれば、美しい中秋の名月を撮影しに行ったのに。
天気も良くないし…「ツキ」がない。なんちゃって。

とはいえどうしようかな、と空を見上げて考えていると雲がすっと切れて満月がポロリと顔を出した。コロコロ転がっていく。
あっと思っているとウサギたちがその満月を手に取って卓球を始めた。片方がスピード感のあるサービスを出すとよく切れたツッツキでレシーブしている。
なんだこりゃあ、と思っていたらすぐに飽きてしまったのか今度は玉突きを始めた。10個に分裂増殖した月が小気味よい音を立ててはじけ飛ぶと、台から一つ転がり落ちた。

ころころ転がるそれを追いかけていくと一面にちらばったくっつきむしの上を転がったひょうしにくっつきまくってトゲトゲの塊になってしまった。
持ち上げようにも素手じゃもてない。いてて。
仕方ないので分厚いゴム手袋を持ってきて、いがぐりみたいになってしまったそいつを手に取る。やっと月が私のものになった。フフフ、とほくそ笑むも見た目には月とは似ても似つかない。がっちりと絡み合ったくっつきむしは全然取れないので困惑しながら手でもてあそんでいると軽薄なパツキン男が話しかけてきた。ホテル?行かない。喫茶店?行かない。
つきまとわれて面倒だったのでむーんぷりずむぱわーめーいくあっぷ!からの円月殺法からの鮮やかなムーンサルトプレスで昏倒させたのちくっつきむし付き月を秒速1.022kmで投げつけてこの上なく晴れやかな気分で立ち去った。
気が付いたらすっかり雲が晴れて、見上げる空にはまん丸な月が浮かんでいる。
うん。いとつきづきし。あ、これは冬の朝に使うのだったかな。
じゃ、そろそろネタがツキたので、つづきはまた今度。

最優秀作品賞受賞を受けて Mr.マルーン

  • 2017.09.23 Saturday
  • 14:30

こんにちは。マルーンです。

日に日に清々しい秋の気配が強まる中、皆様どのようにお過ごしでしょうか。朝晩は冷えるようになってまいりましたので風邪等召されないようくれぐれもお気を付けください。

さて、このたびは最優秀作品賞にお選びいただきましてありがとうございました。

少し普段のやまがあるシリーズとは毛色を変えてみたのが良かったように思います。

夜に山にいると山というのはそもそも伝統的に「異界」であったのだとしみじみ感じます。夜の光のない時代にはさぞ恐ろしかったことでしょう。不思議な空気感がちょっとでも伝わったでしょうか。

そしてテーマコンテストとMVPを獲得されたがりはさん、おめでとうございました。さすがの貫禄です。お疲れ様です。

がりはさんのインタビューでは私やアールさんが非常に凶暴な人物として描かれておりますが、山籠もりをしたところで超常的な力を身に着けることも伝説の武器を手に入れることも基本的にはできません。頂上には行きますけどね。なんちゃって。

私は徐々に執筆数を減らしていく中でついに先月は序盤に一本しか書かなかったので、それが最優秀をとってしまうというのもありがたいような申し訳ないような。

このご挨拶を書く傍ら、恩田陸の「蜜蜂と遠雷」を読みました。中高生の頃、この人の書く現実味がないほど透明感のある美しい登場人物たちと文章がとても好きだったことを思い出しました。このように書ければいいのにと思いましたが、当然そうはできず、世界は他にも読み切れないほど素晴らしい文章に溢れていて、私は諦めが早い方なのでさっさと享受する側に回ることを選んで物を書くのをやめました。

何のご縁か今になって文章をまた書く機会があるとは思いませんでした。しかしあらゆる面で中途半端な自分が、地を這う凡百の徒として表現していくことの難しさとむなしさばかり感じています。それは私が常に引き受けていかねばならないものでしょうが、そういうのと皆さんはどう戦っているのか、個人的気になりポイントです。

がりはさんならトランキーロとおっしゃるのでしょうけれど。

うーん。

ええと、何を言いたかったのかわからなくなってきましたが、マルーンは一応生存してます。ぼちぼちやっていきますので、よろしくお願いします。

やまがある日記〜北アルプス表銀座縦走‐鑁鯵戞2857m) Mr.マルーン

  • 2017.07.22 Saturday
  • 12:02

梅田駅から夜行バスでおよそ6時間。朝の5時過ぎ、安曇野穂高駅のバス停に降り立つと正面に雄大な山並みが見える。そこからタクシーで一の沢登山口までおよそ30分。
予報はぎりぎりまでわからなかったが、とりあえず今日は天気がよさそうだ。タクシーの窓から今日目指す常念岳の山頂が見えた。ザックにぶら下げたてるてるぼうずのおかげだろうか。期待に胸がふくらんでくる。やっと来られた。憧れの北アルプス!
登山口で登山届を提出して(長野県は登山届の提出が義務付けられている。罰金もあるため必ず提出のこと)、トイレを済ませ、準備体操して出発だ。
最初はなだらかで歩きやすい登山道を沢沿いに登っていく。雪解けで水量が多く、沢の近くはどうどうと会話が聞こえないぐらい。なんてダイナミックなのだろう。顔を洗うと冷たくて気持ちいい。この水の流れが険しい山を形作っていく。
ニッコウキスゲ、ツマトリソウ、マイヅルソウ、イブキトラノオ、ゴゼンタチバナ、ハクサンチドリ等様々な高山植物が咲く道をどんどん登っていく。傾斜が厳しくなってきた。高度が上がるにつれ、徐々に空気が薄くなってきたのを感じる。休憩してもすぐに息が上がるが、深い呼吸を意識しながら、ペースを維持して登ってゆく。

イブキトラノオ


昼が近づいて気温が上がってくると雲がわいてきた。雪渓を見下ろしながら最後の急登を登り切ると、やっと常念山脈の主稜線に出る。いきなり視界が開けて正面に槍ヶ岳の姿が目に飛び込んだ。私たちは歓声を上げた。鋭い尖峰は登山家の憧れだ。残雪と岩のコントラストが美しい。こんな間近で見られるなんて。
左手には常念岳の穏やかだが巨大な山体が鎮座している。
とりあえずどうにも空腹だったのでベンチで昼食を済ませ、常念小屋にチェックインした。少し休憩したら、荷物を減らして山頂へアタックだ。
常念小屋から常念岳山頂までは石が積み重なったガレ場を慎重に登っていく。時々トレッキングポールが岩の隙間に挟まって厄介だ。
東側はガスが出ているが、西側は景色が開けて北アルプスの雄大な山並みが見渡せる。遠く水晶岳や鷲羽岳までも見えた。登れば登るほど、見える山も増えていく。
岩の隙間にはミヤマキンバイやミネズオウ、コケモモと言った稜線に咲く小さな高山植物達が目を楽しませてくれる。ライチョウがいないかなと思って探したが、残念ながら見つからなかった。


高地順応がまだできておらず、たびたび休憩しながらコースタイムよりもずいぶん時間をかけてたどり着いた山頂は、まさに北アルプスの特等席というにふさわしい展望で、槍ヶ岳から大キレットを経て奥穂高に至る荒々しく険しい岩稜に心を奪われる。涸沢カールにはまだ分厚く積もった雪が残っている。
安曇野側からは絶えず雲がわきあがり、稜線上でくっきりと空気の壁が見てとれて面白い。
展望を十分に堪能してから、小屋に引き返した。

山頂への道中一緒になった初老の男性3人組にビールをごちそうになったりしながら、のんびりと過ごした。
夕食を終えて外に出ると、常念岳にかかっていたガスがすっかり切れて、美しい曲線があらわになっていた。遠く、もくもくとした積乱雲が夕陽に照らされている。

ああ、私は今、北アルプスにきているのだ、とじんわりと実感がわいてきた。
明日も頑張って歩かなければ。

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