やまがある日記〜鈴鹿2座周回 ̄乞岳(1237m)

  • 2017.10.21 Saturday
  • 00:02

2017年10月上旬 晴れ

 

滋賀と三重の県境に1000m級の山々が連なっている。おおよそ名神高速と新名神高速に挟まれたエリアにあり、関西を隔てるそれらを総称して鈴鹿山脈という。
登山をしない人からするとあまり知名度の高い山地ではないかもしれない。標高こそさほど高くないが奥深い山地である。
今回はその鈴鹿山脈の2座、雨乞岳と御在所岳を周回する。計画時点でコースタイム8時間超のタフなコースだ。

 

夜明け前に大阪を出発し、2時間ほど車を走らせる。鈴鹿スカイラインの武平峠駐車場に車を停めて、準備をして出発だ。

鈴鹿は関東の丹沢山地と並んでヤマビルの生息地として知られるエリアでもあるため、ズボンのすそを靴下に入れ込んでからゲイターを装着し、さらにヒル除けスプレーを足元にかけておく。リュックには塩水を入れたスプレーボトルを入れてある。

ここまでやっても、できるなら出会いたくないのがヒルである。
まずは雨乞岳を目指す。
雨乞岳はその美しい山名にふさわしく水の豊かな山だった。序盤はほとんど高度を稼がず幾筋もの小さな沢をわたって長いトラバースの道を行く。道は細く斜面は急なので慎重に進まなければならず、ペースは遅い。
途中開けた谷に出る。落葉広葉樹の明るい森はあと2週間もすれば紅葉がピークだろう。今はただ静かなばかりだった。
武平峠から1時間半ほど歩くとようやく東雨乞岳への急登にさしかかる。今まで標高を稼げていない分一気に登る。
豪雪のために低木しか生えない稜線から笹原に出るともう東雨乞岳山頂はすぐそこだ。東雨乞岳と雨乞岳は笹原が広がる短い尾根でつながっており、雨乞岳の方が標高が少し高いが、展望は東雨乞岳の方がよい。時折雲がかかるが景色はよかった。
東側には御在所岳のずんぐりとした巨体が迫っている。これからあれに登るのだ。
いったん400mほど下ってほとんど標高をリセットしなければいけないので、結構うんざりした気分になる。
西側には雲の下に琵琶湖と東岸の街、その向こうには比良山地も遠く見えている。あまりこのアングルから琵琶湖を眺めることはないため面白い。
羽虫が多いしまだ時間的に少し昼食には早いため、小休憩だけで出発した。
笹藪の稜線を歩いてあっという間に雨乞岳山頂へ着いた。この日の一つ目の目的地だったが、聞いていた通り背の高い笹藪に囲まれて展望はない。休めるようなスペースもないので、山頂の標示だけ写真に収めて先に進むことにする。
 

色づきかけ
東雨乞岳から雨乞岳への稜線

やまがある日記〜鈴鹿2座周回道中

  • 2017.10.21 Saturday
  • 00:01

雨乞岳からは杉峠を経ていったん登山口とほぼ同じ標高まで2時間ほどかけて谷を下り、そこから国見峠へと登り返すがこのコースが厄介であった。
杉峠までは黒土の滑りやすい急斜面の尾根を下り、そこから右に折れて谷に降りる。

まっすぐ尾根を縦走しても御在所にはたどり着けるが、コースタイムはそちらの方が長いのだ。

足を滑らせてトレッキングパンツが真っ黒になってしまった。
薄暗い谷筋を、何度も沢を渡りながら歩いていく。トリカブトがそこかしこで咲いている。猛毒で知られるが、秋の山ではよく見かける花だ。マムシグサの毒々しい赤い実も見かけた。これも食べると中毒を起こす。正体のわからないキノコもたくさん生えているし、毒なんてものは世界にありふれているのだと、山を歩いていると実感する。

トリカブトの一種

途中、人気のない山奥にいきなりいかにも人工物の石垣が現れておやと思っていたら、看板が立っていた。御池鉱山の遺構であった。明治大正期には300人もの人々がこの山深い場所に住み銀や銅を掘っていたのだという。ここまでの険しい道のりからもわかる通り搬出は困難を極めたことだろう。銀銅の価格下落に伴い廃坑になったそうだ。今はただ静かに朽ちている。
人が住んでいただけあって開けた箇所もあり、キャンプには適しているようだ。薪の後もある。前の登山者にぼんやりと着いて行っていたら道を見失った。テント泊らしい青年が正しいコースを教えてくれた。
さらに下っていく。登山者が少ないため、踏み跡が不明瞭でわかりづらい。GPSで常に現在地は確認しているし、沢筋を外れなければコースからはそれないこともわかっているが、V字に切れ込んだ谷はどこでも歩けるというものでもない。少し歩いては立ち止まって顔をあげ、木に巻かれたビニールテープの道しるべを探す。

川の反対側にテープを見つければ渡渉し、またすぐに渡りなおす。雨乞に登る途中の細かい沢とは違って川幅も水流もそれなりにあるため、毎回ポイントをよく見極めて渡らなければならない。登山靴は防水なので多少水につかってしまうのは気にせず、ストックでバランスを取りながら慎重に足を置いていく。

この沢を何度もわたって進む
秋だ


こういう集中力を要するコースではパーティの先頭の負担が大きいため、交代しながら進んでいく。道を探すのも複数人の目で探す方が効率がいいし、単独行でなくてよかった。
とはいえペースを上げるのは難しく、じりじりとコースタイムから遅れていった。1時半も過ぎると日が傾いて北側の谷筋は徐々に暗くなってくる。うっかり山の中で日没を迎えてしまったらどうしよう。不安が募ってきた。
中々ゆっくり休憩できそうなポイントがなかったので昼食の時間が遅くなってしまったが、河原の開けたポイントがあったのでここで休憩することにした。今日のメニューはツナマヨチーズのホットサンドとコーヒーだ。バターを塗った食パンにたっぷりと具材を挟み、アウトドアバーナーで焼いていく。
川のせせらぎも涼し気で心地よい。ゆっくり楽しみたいところだったが、時間がおしていた。食事をしながらこの後の行動プランを相談する。
今いる谷から武平峠まではコクイ谷を抜けて直接アクセスすることもできるが、そちらの道は危険箇所あり道迷い遭難多発、とリスキーだった。ただでさえ現状難しいのにその更に難易度の高いやつ、と言われるとかなり腰が引ける。逆算して、普通に行けばぎりぎり間に合いそうだったのでプラン通りのコースを続けることにした。御在所まで登ってしまえば最悪ロープウェイで降りてタクシーで駐車場まで運んでもらうという手もある。

 

 

やまがある日記〜鈴鹿2座周回8羣濬螻戞1212m)

  • 2017.10.21 Saturday
  • 00:00

食事を終えて出発する。

上水晶谷を抜けて分岐を右に曲がり、国見峠に向かって沢筋を登り始めるが相変わらず道は不明瞭だった。

以前最もスタンダードなコースから登ったときは人も多く開けていてこのようなことはなかったが、同じ山でも道を変えれば表情もがらりと変わる。
整備され尽くした登山道とは違った面白さがあるが、やはり遭難リスクは高い。同コースで道迷いをしたというブログ記事も多かったし、雨が降れば増水や鉄砲水の恐ろしさもある。

小さな滝があった

 

黙々と歩いていくと周囲の岩石がごろごろした花崗岩に変わり、ようやく御在所岳にとりついたのだとわかる。4時までに山頂につければ下山が間に合う計算だ。どうやらなんとかなりそうだ。
焦る気持ちはあるが、疲労もたまっていて適切な休憩も必要なので、適宜立ち止まる。
長い登山は自分の身体と向き合う時間だと思う。普段何気なく行っている「歩く」という単純な動作の難しさ、摂取した糖質がすぐさま燃料として消費される感覚、消耗した体力で持ち上げる自分の足の重さ。暑ければ汗をかき寒ければ震える。そういう身体の訴えに常に耳を傾けてコントロールしていかなければならない。
下山して一番に食べたいものは酷使した筋肉を回復させるために絶対に動物性たんぱく質だ。どうしようもなく私という存在は肉体なのだと実感する。
最後の登りはガレ場の急登で、あとひと踏ん張りの一歩がつらい。それでも登るしかない。振り返って見上げる国見岳の色づきかけた山体が、あとちょっとだと励ましてくれた。

最後の急登だ
山頂は観光地化されている


登りつめた山頂はいきなり観光地で、知ってはいたがギャップに驚く。スキー場のリフトに乗ってくる観光客がにぎやかだ。
残念ながらガスがかかって展望はなかったが、やっと一息つけた。達成感よりほっとしたという感じだ。
下山は1時間半ほど、御在所らしい花崗岩質の岩場ザレ場を下っていくと、夕日に照らされる四日市の街が美しかった。

鎌ヶ岳も目の前に凛々しく立っている。3月に登った霊仙もそうだったが鈴鹿の山はそれぞれなんとも個性的だ。
武平峠の駐車場にたどり着いた時には日没まで1時間を切っていた。休憩込の総行動時間は9時間半を超えており、移動距離は13km、累積標高差は上り下りそれぞれ1400mだった。1000m程度の低山だからと言って、なめてかかってはいけないとしみじみ実感した。
きつい山旅だったが、ここまで長い登山はこの先日がもっと短くなるので中々計画できない。挑戦できてよかったと思う。

 

夕日に照らされる鈴鹿の山々

最優秀作品賞受賞を受けて Mr.マルーン

  • 2017.10.14 Saturday
  • 14:55

こんにちは。マルーンです。
秋が深まってまいりました。秋の味覚は皆さまお召し上がりになりましたか?
秋鮭、きのこ、お芋、秋刀魚、かぼちゃ、梨、ぶどう、新米…等々。うーんおいしそう。よだれが出てきますね。
私はこの間NHKの今日のりょうりで土井先生が作ってらした栗ジャムからみ餅が食べたくて食べたくて、とりあえず栗を調達してみたところです。今週末は生憎のお天気で山にも行けませんし、おうちで楽しめる秋を楽しもうと思います。

さて、このたびは最優秀作品にお選びいただきありがとうございます。投票してくださった皆さまに心より御礼申し上げます。
私の拙い文章と写真で「山に行きたくなった」というコメントをいくつも頂いて、山に興味を持ってもらえてうれしいなあと思いつつも「山に行きました」というコメントはなかなか頂けませんね。
行きたいと思ったら行ったらいいのに!行きましょう?ね?
今、一番いいシーズンですよ。
山の秋は緯度と標高の高いところから順番にやってきます。今、標高2000mあたりを過ぎたぐらいかな?
低山でも涼しいですし空気が澄んでいるから晴れれば遠くまで見えますし、紅葉にススキの原はもちろん、ドングリを拾ってみたり、道端のきのこを眺めてみたり、虫の声に耳を傾けてみたり、いろんな楽しみ方があります。
味覚に視覚に聴覚に触覚に、秋は楽しいことだらけ。
皆様もぜひあたたかくしてお出かけくださいね。
魔法瓶にあたたかいコーヒーやミルクティを入れて山の上で飲んだりするととても満ち足りた気持ちになりますよ。
ああっ私も山に行きたくなってきました。オールドファッションシナモンとコーヒーをまったりとやりたいところです。
まあ、つい先週死ぬ思いをしたところなのですけど。
むー秋雨前線が憎い。早く晴れないかなー。

やまがある日記〜山の朝 乗鞍岳にて

  • 2017.10.07 Saturday
  • 00:00

縁があってつい先日来たばかりの乗鞍岳に再び登ることになった。といっても、今回は夜明け前に登山を開始する。
夜中に起き出して宿を出る。呼んでおいたタクシーに乗り込み、畳平で下してもらうと、頭上には満点の星が輝いていた。

肉眼でも天の川が確認できる。なんてたくさんの星だろう。機材が足りず撮影できないのが残念だ。
ヘッドライトの明かりを頼りに歩いているうちに、東の方角が徐々に白んでくる。

さっきまで見えていた満点の星々が順番に姿を消して、藍色とオレンジのグラデーションからあっという間に世界は淡い色彩に包まれていく。いつしか足元もはっきりと見えるようになっているから、ライトを消した。

 

すいすいと山頂にたどり着き、日の出を待つ。それにしても寒い。9月も後半になると3000mの山の上はもうあっという間に冬が来る。踏みしめる地面にはぱりぱりと霜柱がたっていて、気温は氷点下近いとわかる。
ちょうど東側の空のオレンジが最も濃い部分、日の出の方角に高層雲がかかっている。
日の出の時間になったがやはり太陽は雲に隠れていた。空の色は刻一刻と変化していく。オレンジから淡いピンク、そして水色。
ダークグレーのシルエットだった穂高連峰の岩稜の細部が見えてくる。笠ヶ岳の端正なピラミッド型の山体が淡いピンクに染まっていた。モルゲンロートというには色が薄いが、それでも美しい。あちらからはくっきりと日の出が見られたことだろう。

権現池に映る空
朝日を浴びる笠ヶ岳と北アルプスの山々

 

あまりにも寒かったので山頂小屋でココアを飲んで出ると、雲の隙間から太陽が顔を出した。思いがけずまぶしくて目を細める。
雲間から差し込む光に照らされ、雲海が黄金色に輝いていた。体がどんどん温まっていく。
朝というのはなんと劇的なのだろう。素直に心が震える。
南に目を向けると御嶽山がその雄大で美しい山容をあらわにして、のびのびと朝日を浴びていた。なんと大きな山か。恐るべきエネルギーを内に秘め、ついこの間噴火で大勢亡くなったとは思えない穏やかな姿だった。そっと手を合わせる。来年には登れるようになりそうらしい。

黄金色に輝く雲海
御嶽山

 

畳平に戻る途中、行きがけには暗くて見えなかった位ヶ原の紅葉が鮮やかだった。
ハイマツの隙間にリボンのようにオレンジの帯が走っている。ナナカマドだろうか。
イワヒバリたちがちょろちょろしていてかわいい。ホシガラスたちは冬支度のためにハイマツの森を忙しく飛び回っている。今のうちにハイマツの実をたくさんの場所に貯蔵しておくのだそうだ。その食べ残しから新しいハイマツが芽吹く。厳しい自然環境のためハイマツの生育スピードはとても遅いが、そうして何十年何百年をかけて森が広がっていくのだという。大自然の営みはささやかなのにダイナミックだ。
つい先日来たばかりの山だが、少し季節が進めばこうも鮮やかに変わるもので、同じ山でも何度でも登って損はないのだ。
乗鞍岳はすっかり私の好きな山になった。そのうち下から歩いて登りたいなあと思う。

位ヶ原の紅葉
山頂を振り返る

最優秀作品賞受賞を受けて Mr.マルーン

  • 2017.09.23 Saturday
  • 14:30

こんにちは。マルーンです。

日に日に清々しい秋の気配が強まる中、皆様どのようにお過ごしでしょうか。朝晩は冷えるようになってまいりましたので風邪等召されないようくれぐれもお気を付けください。

さて、このたびは最優秀作品賞にお選びいただきましてありがとうございました。

少し普段のやまがあるシリーズとは毛色を変えてみたのが良かったように思います。

夜に山にいると山というのはそもそも伝統的に「異界」であったのだとしみじみ感じます。夜の光のない時代にはさぞ恐ろしかったことでしょう。不思議な空気感がちょっとでも伝わったでしょうか。

そしてテーマコンテストとMVPを獲得されたがりはさん、おめでとうございました。さすがの貫禄です。お疲れ様です。

がりはさんのインタビューでは私やアールさんが非常に凶暴な人物として描かれておりますが、山籠もりをしたところで超常的な力を身に着けることも伝説の武器を手に入れることも基本的にはできません。頂上には行きますけどね。なんちゃって。

私は徐々に執筆数を減らしていく中でついに先月は序盤に一本しか書かなかったので、それが最優秀をとってしまうというのもありがたいような申し訳ないような。

このご挨拶を書く傍ら、恩田陸の「蜜蜂と遠雷」を読みました。中高生の頃、この人の書く現実味がないほど透明感のある美しい登場人物たちと文章がとても好きだったことを思い出しました。このように書ければいいのにと思いましたが、当然そうはできず、世界は他にも読み切れないほど素晴らしい文章に溢れていて、私は諦めが早い方なのでさっさと享受する側に回ることを選んで物を書くのをやめました。

何のご縁か今になって文章をまた書く機会があるとは思いませんでした。しかしあらゆる面で中途半端な自分が、地を這う凡百の徒として表現していくことの難しさとむなしさばかり感じています。それは私が常に引き受けていかねばならないものでしょうが、そういうのと皆さんはどう戦っているのか、個人的気になりポイントです。

がりはさんならトランキーロとおっしゃるのでしょうけれど。

うーん。

ええと、何を言いたかったのかわからなくなってきましたが、マルーンは一応生存してます。ぼちぼちやっていきますので、よろしくお願いします。

やまがある日記〜乗鞍岳(3026m)

  • 2017.09.09 Saturday
  • 00:00

2017年8月下旬 晴れ

 

燕岳以降ほとんど登山できていなかったが、8月も終わりになると夏山シーズンも残り短い。

ということで、いつもの仲間と大阪から日帰りで乗鞍岳登山を強行することにした。
始発のバスを目指して夜中の1時に大阪を出発する。同行者二人が交代で運転してくれる間私は後部座席で夢の中だった。およそ4時間半のドライブを経てほおのき平バスターミナルに到着。早朝のためかなり肌寒い。
駐車場にはすでに多くの車が停まっていたが、畳平行バスは臨時便が出ていてすぐに乗ることができた。乗鞍スカイラインを走るバスは40分で2700mの高度まで連れて行ってくれる。
この日は素晴らしい快晴で、車窓から笠ヶ岳、槍ヶ岳、穂高岳がくっきり見える。同行者二人はすっかり寝入っていた。
畳平に到着した。既に森林限界は越えている。いきなり登り始めると高山病のリスクが高いため、まずは畳平からすぐのお花畑周遊路をゆっくりと歩いて、高地順応をする。お花畑は既に夏の隆盛からは落ち着いて、代わりに秋の花々が彩っている。チングルマの赤い綿毛がふわふわと愛らしい。先日の表銀座縦走路で見た白い花がこんな風に変わるのは、知っていても不思議に思える。バイケイソウの葉はオレンジに紅葉して日光を透かしている。私の好きなトウヤクリンドウも、涼やかな姿を見せてくれた。

チングルマの綿毛
コバイケイソウ
トウヤクリンドウ


乗鞍岳は富士山、御嶽山に次いで日本で3番目に高い火山だ。広大なすそ野と多数の峰・火口を持ち、北アルプスの一員として数えられるがその端正かつ雄大な山容はほとんど独立峰のような貫録を持っている。
肩の小屋までは広々と歩きやすい砂利の遊歩道を歩く。かつてはマイカー規制もなく、多くの観光客が押し寄せたそうだ。現在も中央アルプス木曽駒ヶ岳と並んで気軽に行けるアルプスであることには変わりない。
長野側の斜面に出ると、まるで水彩画のような空と雲海に浮かぶ信州の山々が広がった。足元を見下ろすと、たくさんの自転車がエコーラインを登ってくるのが延々と下まで続いている。この日はヒルクライムイベントだったそうだ。今日みたいな天気ならばさぞかし爽快なことだろう。登山家とヒルクライマーは、しない人からすると似たようなものなのだろうが、私にはまねできないなあと思う。

 

八ヶ岳をのぞむ
ヒルクライマーたち


肩の小屋で休憩して、いよいよ目の前の剣ヶ峰の頂を目指す。道は火山らしい石のゴロゴロした歩きにくい登山道に変わる。
標高が高いためすぐに息が上がる。観光地化されているとはいえ3000m峰である。ゆっくり、休み休み登っていく。振り返ると摩利支天岳の観測所の向こうに少しずつ槍ヶ岳と穂高岳が顔を出し始める。常念岳から見た姿とはちょうど裏側になる。穂高はこちら側からのほうが、整って美しく見えた。

自転車から山頂が見えて登りたくなった、というヒルクライマーがあっという間に追い抜いて行った。その後も続々登ってくる。筋肉と体力の付け方が違う。半ばあきれて見送る。
山頂直下の巨大な火口にたたえられた権現池はエメラルドグリーンに輝き、空の色を映している。その向こうには白山の堂々とした姿。山頂はもうすぐそこだ。
登りつめた狭い山頂は360度の圧倒的な大展望だった。そうそうたる山々の名前を数えていたら時間を忘れそうだ。
未だ知らぬ南アルプスや八ヶ岳連峰の峰々が私を誘っている。北岳の肩からちょこんと富士山が頭を出していてなんだかかわいい。中央アルプスの宝剣岳の尖峰は小さくてもよく目立つ。御嶽山は少し雲を被っている。白山は颯爽と雲の上に浮かんでいる。
北に目を向ければ北アルプスの山々が目前に迫り、槍ヶ岳、穂高岳、手前に少し下がってドーム状の焼岳、奥に常念岳、立山、剱岳、さらに奥に白馬岳、黒部五郎岳と惜しげもない。あまりの広がりに目がくらみそうだ。
ああ、登山がしたい。やはり山に登らなければだめだ。

北アルプスの盟主、奥穂高岳
権現池の先に白山


私たちはすっかり満足して帰路についたが、大阪までの道のりは遠く、帰り着いた頃には日付が変わろうとしていた。ほとんど24時間の活動時間である。3人とも登山自体よりも前後の移動で消耗しきってしまった。
やはり飛騨まで大阪から日帰りするというのは不可能ではないが無理があった。

登山計画だけでなく、旅程そのものも無理のないスケジュールが大切だなあという学びであった。

やまがある日記〜山の夜〜  Mr.マルーン

  • 2017.08.05 Saturday
  • 01:06

夜更けに寝苦しくて目が覚めた。隣のグループの男のいびきがうるさい。ハイシーズンで混雑した部屋は人の体温で暑い。すぐには寝直せそうもなかった。
音を立てないように部屋を出て、廊下に置いたザックの上にかぶせておいた上着を羽織り、サンダルで外に出た。
靴下をはかずに出てきてしまったが風もなく意外に寒くなかった。玄関でヘッドライトを忘れたことに気付いたが、まあいいか、と出てきてみると、ひどく明るくて驚いた。地面が月明かりで青白く照らされている。私はそのままふらふらと歩き始めた。
夜の山は恐ろしい。常念岳の黒々とした怪物めいた巨体が、昼間見たあの優しげな山容とは全く違ったように見える。まるで覆い被さってくるようだ。少し足がすくむ。
常念岳の上に、白々とした月が浮かんでいる。少し雲があるのか、輪郭がぼやけていた。月が明るすぎて、星はあまり見えない。新月ならば三脚を持ってこなかったことを後悔していたかもしれない。槍ヶ岳も煌々と光る月に照らされて雪渓の模様までくっきりと見えている。立体感を失ってなんだか絵のようにのっぺりしていた。
ゴロゴロとした石につまずかないように稜線の縁までいくと、安曇野の街の明かりがぼんやりと見える。ヒトの世界が近いようにも遠いようにも、つながっているようにも隔絶されているようにも思える。
静まり返った山小屋の周囲には、私のようにうっかり起き出してしまった宿泊者、一言も交わさずにベンチで何か調理する二人組、朝を待つテント場の登山者、それぞれがひっそりと息を殺してうごめく気配で満ちている。この夜は、都会にはない夜だ。騒がしい街中にいるよりずっと、人の気配に敏感になっている。
思ったほど寒くなかったとはいえ2500mを超える高山の夜は真夏でも冷える。しばらく夜風に当たっているとぶるりと身震いがした。もう一度空を仰いで、部屋に戻ることにした。
部屋に戻ると、相変わらず、いびきがうるさい。今時いくらでもいびき対策の手段があるのだから、こういうところでは対処してほしいと思う。それとも自分がいびきをかいていることを知らないのだろうか。
耳栓をしてもすっかり目がさえて眠れなかった。今回は運が悪かった。布団に潜り込んでスマホの時計を確認したら、まだ夜明けまで2時間もあった。
光が漏れないように布団の中でスマートフォンを開いてみても、バッテリーを節約しなければいけないからそう長くも触っていられない。
皆眠っていて、この世界で私一人だけが起きているような、奇妙な感覚に襲われる。
実際にはさっき見た通りたくさんの人が起きてうごめいているし、その気配もわかっている。
横になって無理やり目をつぶり、しばらく寝直す努力をして、そっと時計を見ても少しも時間が進んでいない。
じっと朝を待っている。
山の夜は長い。

 

やまがある日記〜北アルプス表銀座縦走‐鑁鯵戞2857m) Mr.マルーン

  • 2017.07.22 Saturday
  • 12:02

梅田駅から夜行バスでおよそ6時間。朝の5時過ぎ、安曇野穂高駅のバス停に降り立つと正面に雄大な山並みが見える。そこからタクシーで一の沢登山口までおよそ30分。
予報はぎりぎりまでわからなかったが、とりあえず今日は天気がよさそうだ。タクシーの窓から今日目指す常念岳の山頂が見えた。ザックにぶら下げたてるてるぼうずのおかげだろうか。期待に胸がふくらんでくる。やっと来られた。憧れの北アルプス!
登山口で登山届を提出して(長野県は登山届の提出が義務付けられている。罰金もあるため必ず提出のこと)、トイレを済ませ、準備体操して出発だ。
最初はなだらかで歩きやすい登山道を沢沿いに登っていく。雪解けで水量が多く、沢の近くはどうどうと会話が聞こえないぐらい。なんてダイナミックなのだろう。顔を洗うと冷たくて気持ちいい。この水の流れが険しい山を形作っていく。
ニッコウキスゲ、ツマトリソウ、マイヅルソウ、イブキトラノオ、ゴゼンタチバナ、ハクサンチドリ等様々な高山植物が咲く道をどんどん登っていく。傾斜が厳しくなってきた。高度が上がるにつれ、徐々に空気が薄くなってきたのを感じる。休憩してもすぐに息が上がるが、深い呼吸を意識しながら、ペースを維持して登ってゆく。

イブキトラノオ


昼が近づいて気温が上がってくると雲がわいてきた。雪渓を見下ろしながら最後の急登を登り切ると、やっと常念山脈の主稜線に出る。いきなり視界が開けて正面に槍ヶ岳の姿が目に飛び込んだ。私たちは歓声を上げた。鋭い尖峰は登山家の憧れだ。残雪と岩のコントラストが美しい。こんな間近で見られるなんて。
左手には常念岳の穏やかだが巨大な山体が鎮座している。
とりあえずどうにも空腹だったのでベンチで昼食を済ませ、常念小屋にチェックインした。少し休憩したら、荷物を減らして山頂へアタックだ。
常念小屋から常念岳山頂までは石が積み重なったガレ場を慎重に登っていく。時々トレッキングポールが岩の隙間に挟まって厄介だ。
東側はガスが出ているが、西側は景色が開けて北アルプスの雄大な山並みが見渡せる。遠く水晶岳や鷲羽岳までも見えた。登れば登るほど、見える山も増えていく。
岩の隙間にはミヤマキンバイやミネズオウ、コケモモと言った稜線に咲く小さな高山植物達が目を楽しませてくれる。ライチョウがいないかなと思って探したが、残念ながら見つからなかった。


高地順応がまだできておらず、たびたび休憩しながらコースタイムよりもずいぶん時間をかけてたどり着いた山頂は、まさに北アルプスの特等席というにふさわしい展望で、槍ヶ岳から大キレットを経て奥穂高に至る荒々しく険しい岩稜に心を奪われる。涸沢カールにはまだ分厚く積もった雪が残っている。
安曇野側からは絶えず雲がわきあがり、稜線上でくっきりと空気の壁が見てとれて面白い。
展望を十分に堪能してから、小屋に引き返した。

山頂への道中一緒になった初老の男性3人組にビールをごちそうになったりしながら、のんびりと過ごした。
夕食を終えて外に出ると、常念岳にかかっていたガスがすっかり切れて、美しい曲線があらわになっていた。遠く、もくもくとした積乱雲が夕陽に照らされている。

ああ、私は今、北アルプスにきているのだ、とじんわりと実感がわいてきた。
明日も頑張って歩かなければ。

やまがある日記〜北アルプス表銀座縦走大天井岳(2921m) Mr.マルーン

  • 2017.07.22 Saturday
  • 12:01

 

夜明け前に起き出して窓から槍ヶ岳を見ると、まさにこれから登ろうとしているのであろうヘッドライトの明かりがぽつぽつと光っている。すごいなあ、と素直に感心する。
防寒着を着込んで小屋から出ると高層雲がかかっていてご来光は見えなかった。しかしピンク色の雲海に淡く浮かんでいる八ヶ岳や浅間山、美ヶ原の姿は幻想的で、とても美しい。

 

朝食を食べたら出発だ。この日は常念山脈の主稜線をひたすら北上し、燕岳まで縦走してゆく。
常念小屋を出てまず手前の横通岳の斜面を登っていく。ハイマツの森を縫うように高度を上げていくと、常念岳の巨体の全貌とともに、奥穂高の向こうには乗鞍岳や御嶽山まで見えてくる。
登り切ると、稜線の西側斜面にずっと先まで登山道が走っている。アルプスらしい美しい縦走路だ。爽快な気分で進んでいく。

奥穂高から大キレットを経て槍ヶ岳へ

 

この日の予報は昼前から荒れるとのことだった。奥穂高に不吉な傘雲がかかり始めた。近いうちに雨が降る合図だ。急がなければならない。

高山植物の女王とも呼ばれるコマクサが稜線を彩っていた。ピンク色の花弁がくるりとひっくり返った独特の形状をしている。この花に会いたくてこの時期を選んだのもあったのでうれしかった。コマクサ以外にも様々な高山植物が目を楽しませてくれた。
大天井岳を目の前にしたあたりで強い風と雨がぱらつき始めた。とりあえず山頂直下の大天荘に避難する。
予定ではここで評判のカレーを食べるつもりだったが、ランチの時間には少し早かった。カップラーメンにお湯を入れてもらってとりあえず食べる。
天候は微妙だったが、大天井岳から直に下山する道はなく、この小屋に泊まるのでなければ燕山荘まで行ってしまうしかない。今のところ雨はそこまでひどくなく雷も鳴っていないため、行ってしまおうという結論を出した。
小屋を出て、レインウェアを着込みザックカバーも装着する。
せっかくなので大天井岳山頂にも立ち寄った。ガスで展望はない。山体の立派さ、雄大さでは常念岳に軍配が上がるだろうが、それでも常念山脈の最高峰、悪天候でなければさぞ素晴らしい展望だったことだろう。少し残念だ。すぐに退散する。
大天井岳からしばらくは急坂を九十九折に下っていく。とにかく風が強い。時折西側から吹きあげる突風に身体を持っていかれそうになりつつ、慎重に下る。はるか遠くに燕岳が見える。まだこんなにあるのか、という気分になるが、行くしかない。
幸い稜線より高いところに雲があるため先まで見えていて、視界は良好だった。

コマクサ
チングルマ
アオノツガザクラ
あとすこし


ようやく山小屋にたどり着いた頃には2時になっていた。
間近に見る燕岳はまさに北アルプスの女王の名ににふさわしい優美な姿で、白く輝く地面とハイマツの緑のコントラストが美しい。
天候もやや回復気味だったので、小屋の喫茶コーナーで腹ごしらえをして燕岳の山頂を目指そうという話になった。
燕山荘はきれいな小屋と優れたサービスで知られた山小屋で、なんと山の上でケーキが食べられる。疲れた体に甘いケーキが沁みた。何しろ強風でしっかりした休憩も取れなかったのだ。
食べ終わって荷物を用意し小屋を出ようとすると、雨が本降りになっていた。
仕方ないので山頂アタックは翌朝に回すことにする。歩かないと決まれば生ビールを飲むのであった。山上のビールはなぜこんなに美味いのか、平地の倍はする価格でも飲んでしまう。
夜には雨がやみ、安曇野の控えめな夜景が見られた。
明日は晴れてくれるといいのだが、と思いつつ早めに就寝する。
 

北アルプスの女王、燕岳

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