ザ☆プリミエール「コーンフレーク」 Mr.ヤマブキ

  • 2020.04.02 Thursday
  • 00:00

ヤ「はい、どうもー」

が「はい、こんにちはー」

ヤ「あなたの心の薬箱、ザ☆プリミエールです」

が「らいおんハートみたいなこと言うな。それいつ考えたねん」

ヤ「まあまあ。それはさておき、ちょっと気になることがありまして」

が「ほうほう」

ヤ「最近、おかんの朝食を当てるクイズが流行ってるみたいでして」

が「わっかりますわっかります。コーンフレーク、ですね?」

ヤ「あんな風に日常の謎を考えるの、やってみたいんですよね」

が「やりましょうやりましょう」

ヤ「じゃあ僕の好きなアレでいきますよ」

 

得心した顔で大きく頷くがりは。

 

が「アレですね、アレ」

 

ヤ「あー、おとんの好きなもん忘れてしまったなー。確か、おとんが言うには……」

が「なんですかなんですか」

ヤ「極大と極小が入り混じり、神秘の花が咲く」

 

狼狽して会場を眺めまわすがりは。

 

が「……は?」

ヤ「……え?」

が「なんやねんそれ」

ヤ「四次元ですよ。極大と極小が入り混じり、神秘の花が咲くなんて四次元しかないやないかい、ってなんで言ってくれないんですか」

が「んなもん分かるかい!」

ヤ「僕の好きなものって言ったじゃないですか」

が「普通好きなものって言ったら食べ物とかそういうのやろ。誰が自己紹介で好きなものは四次元でーすなんて言うねん。寿司かなんかかと思ったわ」

ヤ「分かりました。じゃあちょっと仕切り直しましょう」

が「大丈夫やろうな?」

 

ヤ「おとんが言うには、急に頭上から白く丸い手が来て、あらゆるものを吸いつけていくらしいんですよ」

 

閃いた顔のがりは。

 

が「それは四次元やないかい。頭上から丸い手が来るのはドラえもんが四次元ポケットに手を突っ込んだからや」

ヤ「でも分からないところもありまして」

が「なんや」

ヤ「おとんが言うには、超ひも理論で重要な部分らしいんですよ」

が「ほな四次元とちゃうな。超ひも理論から導かれるのは十次元の宇宙やからな」

ヤ「……一周しましたね。満足しました。ではみなさん、どうもありがとうございましたー!」

が「ちょっとまてまて」

ヤ「なんでしょう」

が「もうちょっとやろうや。ちょっと楽しくなってきたやんか」

ヤ「でもがりはさん、四次元見たことないでしょう?最初上手くいかなかったのも四次元経験の差が」

が「四次元経験ってなんやねん。普通ないわ。けど何が来るかもう分かってるから大丈夫や」

ヤ「分かりました。続けましょう」

 

ヤ「それでね、おとんが言うには、H・G・ウェルズの代表作と深く関わりがあるらしいんですよ」

が「それは四次元やないかい。ウェルズの代表作のタイム・マシンでは時間が四次元って言われてんねん」

ヤ「でもちょっと分からないところが」

が「なんや」

ヤ「おとんが言うには、オタクの嫁が住んでるらしいんです」

が「ほな四次元とちゃうやないかい。オタクの嫁が住んでんのは二次元や。そもそも向こうはそいつのこと夫と思うとらんわ。他は何かないんか」

ヤ「おとんが言うには、ワープ航法に必要なものらしいです」

が「それは四次元やないかい。四次元を通って近道するんがワープ航法や」

ヤ「でもちょっと分からないところが」

が「なんや」

ヤ「おとんが言うには、ルパンの仲間で射撃が上手いらしいんです」

が「ほな四次元……どころやない!次元大介やろが!!次元違いか!!そんなもん絶対四次元ちゃうわ!」

ヤ「いや、でも、おとんが言うには、極大と極小が入り混じり神秘の花が咲くらしいんですよ」

が「それは絶対四次元やないかい!!四次元以外にそんなところないやろ!行ったことないけどな!!」

ヤ「しかしおとんが言うには、原爆を扱った漫画らしいんですよ」

が「はだしのゲンやろが!!ゲンしか合っとらんわ!!神秘の花なんか咲くわけないやろが!!」

 

がりは、息を切らす。

 

が「はあ、はあ」

ヤ「……ちなみに僕が思うには」

が「うん」

ヤ「コーンフレークだと思います」

が「絶対ちゃうわ」

ヤ・が「どうもー、ありがとうございました」

ザ・プリミエール「寝耳に水」 Mr.ヤマブキ

  • 2020.03.12 Thursday
  • 07:00

ヤ「どうもー、こんにちはー、ヤマブキでーす」

が「はい、こんにちは、がりはでーす」

ヤ「えー僕たちヤマブキのヤマとがりはのがりを合わせまして、ザ・プリミエールといいまーす」

が「どこがやねん!ぜんぜんちゃうやろが!」

ヤ「すみません、O型は細かいことは気にしない性格で」

が「自分のコンビ名の由来くらい気にして。ほんまびっくりするわ」

ヤ「まあそう気を落とさず頑張って漫才やりましょうよ」

が「お前のせいや。まあでも頑張ってやっていこか」

ヤ「早速ですけど、ちょっと聞いてほしい話がありまして」

が「なになに」

ヤ「ここの会場出てびーっと真っ直ぐ行ったとこに信号ありますよね?あそこの横断歩道……」

 

ヤマブキの顔に恐怖の色が浮かび、目が大きく見開かれる。

 

が「え……なに?あそこなんかあんの……?」

ヤ「を、渡った話」

が「……ここ来るときな」

ヤ「そう、今日ここ来るとき渡りました」

が「そんなんええねん。誰が興味あんねん」

ヤ「いや、ともかく聞いてくださいよ。まずね、僕の叔父さんがビルゲイツの飲み仲間なんですけど」

が「ちょっとまてまて。ビルゲイツの飲み仲間?お前の叔父さんが?寝耳に水やわ。ちょっとそれどういうことやねん」

ヤ「こちらこそちょっと待ってください。寝耳に水?なんですかその表現は」

が「え?寝耳に水って言うやろ。唐突に驚いたときの表現や」

ヤ「寝た人の耳に水を入れるんですか?それちょっと人道から外れかけてませんか?」

が「いや、そうやけど昔からそう言うんや、やったことはないから」

ヤ「やったかどうか聞いてないのになぜ急に申告するんですか?それはそうと、寝耳に水って凄い表現ですね。だいぶやばいですよ。」

が「みんな知ってる慣用句やで?一回も使ったことない?」

ヤ「似たようなのなら、うちでは背後から浣腸って言ってましたね」

が「いやいやいや、それこそ人道外れてるやん!お前んちおかしいで」

ヤ「浣腸は医療行為なんですよ、ただちょっと機を見るに不器用なだけで。寝耳に水なんて未来永劫常時不適切ですよ」

が「もう分かった分かった。ほんで、どうなったんや。とても横断歩道に辿り着かんぞ」

ヤ「ビルが叔父さんと飲みに行きたいねって」

が「ビル言うてるよ」

ヤ「日本にお忍びで来ることになったんですよ」

が「ほうほう」

ヤ「僕らいつも大富豪と飲みに行きてえなあとか言ってるじゃないですか。そしたら叔父さんから、お前も来るか?って言われたんですよ」

が「マジか!ひょうたんから駒やな!」

ヤ「え?」

が「ひょうたんから駒やんか。冗談が実現しちゃうっていう」

ヤ「うちは耳から地球儀って言ってましたよ」

が「それどんな故事やったら出てくるねん」

ヤ「とある中国の仙人がいつも耳に地球儀をしまっていたという……」

が「もうええもうええ。ほんで行ったんか?」

ヤ「その話が1ヶ月前くらいだったんですけど、多忙なんで、三日前に日本に来ることになったんですよ。でもビルって普段仕事きちきちしないとだめでしょ?だからプライベートは自由気まま、やりたい放題なんですよ。急にトランジット降りて遊んでから行くって」

が「道草食ってんなあ」

ヤ「え?」

が「広辞苑第七版。途中で暇を費やす。横道にそれて手間どる」

ヤ「道端の草食べてまで行くの渋るなんて、よっぽどですね。出頭する心境ですか?」

が「馬の話や。お前んとこはなんて言ってたんや」

ヤ「おしゃれカフェで一服って言ってました」

が「なんかむかつくなあ。いつまでおしゃれカフェで一服しとんやー!とか言うか?まあもうええわ。お前んちが考えることはよく分かってきた。それでどうなったんや」

ヤ「それで実は、今日日本に着いたところで、この辺りで飲むみたいなんですよ。あそこの横断歩道渡ろうとしたらビルと叔父さんに呼び止められて、一緒に行こうよって誘われたんです。めっちゃ行きたかったですよ。もしかしたら大金もらえるかもしれないし。でもお客さんが待ってくれてるわけじゃないですか。この横断歩道を渡らずにビルについていったら美味しい思いできるかもしれないけど、でも僕は横断歩道を渡ったんです。渡って、この会場に来たんです」

 

会場、拍手。

 

が「えらいな。気持ち分かるわ。後ろ髪引かれるよなあ」

ヤ「え?」

が「もうそろそろええやろ!」

ヤ「お得意のプロレス技ですか?凄い暴力的な慣用句ですね」

が「じゃあなんて言ってたんや」

ヤ「うちではニュートンのりんごって言ってました」

が「知的か!」

ヤ「紳士の家に育ちましたから」

が「やかましいわ。しかし、残念やったな。漫才終わったら俺と飲みに行くか?意外と二件目に誘われたりしてな」

 

ヤマブキのポケットが振動する。

 

ヤ「はい、もしもし?Hi, Bill!! Oh, really? Sure!! See you soon!!」

が「……なんや?」

ヤ「二件目行くことになりました」

が「……耳から地球儀!」

【テーマ】冬の宅急便 Mr.ヤマブキ

  • 2020.02.27 Thursday
  • 00:00

 Amazonで買い物をすると、通常配送と会員限定のお急ぎ便の他に日時指定便というものがある。仕事の都合で夜や休日しか受け取れない荷物があって、これ幸いと選ぼうとすると一回につき500円ほどとられる。こちらとしては配達員に気を遣って、親切心のつもりだから、そこまで入れ込むつもりもなく、砂まみれの気持ちになって通常配送を選ぶ。

 だから、インターホンに見たくもない配達員の顔ばかり記録され……。見ないのも手だが、新しい録画があるとインターホンのランプが青く光り、どうしても見なければいけない気になる。スマホのランプの点滅やSNSの新着記事の通知など、とにかく何でも新規情報のアラートがあれば確認して消しておきたくなる。現代病だ。そして今日もこの通り……、蜂?

 録画の一件目は昼前に来たヤマトの宅急便、二件目は数匹の虫が画面に飛び交っているだけの動画だ。はっきりは見えないが、その虫は蜂のように思えた。まだ二月というのに蜂が飛ぶなんて。いや、それよりも誰がインターホンを押したのか。まさか蜂がたまたまインターホンのボタンにぶつかったとか、そういうことなのだろうか。それしかない。誰も映っていないのだ。初めて見れば気味の悪い動画だが、謎が解ければ何てことはない。暖かい日が続いていたためにたまたま起こった冬の珍事。異常気象で見られた笑い話。テレビでこの動画が流れたなら、ひな壇の笑い声ととぼけたナレーションが追加されて、何だか温かみのある間抜けな雰囲気に包まれるだろう。心配することはない。

 しかし、二日後、また蜂が録画されていた。今度はさらに近く、はっきりと蜂だと分かる。これも偶然だろうか?ボタンに蜂を呼ぶ何かがあるのだろうか?アパートのオートロックを出てボタンを眺めたり嗅いでみたりするが別段変わったところはない。さすがに舐めてみる気にはなれなかった。どうせ蜂のフェロモンだったら分かりはしないのだ。

 その翌日、今度はオートロックの中、自室の扉の前で蜂の飛ぶ動画が記録されていた。中に入ってたまたまこの家のインターホンを押してしまうだろうか。さすがにおかしな感じがするのだが、だから何が起こるというわけでもなく、強いて言えば蜂に刺される心配くらいだが、自分が家に出入りするときには蜂はいないし、巣がないかよく調べてみたがそれもなさそうだった。しかめ面の人間なら何か予感めいたものを感じて鬼門を避けたりするのかもしれないが、そんなタイプでもない。きっと、今日は蜂がアップで映って驚きでもするのだろう。

 案の定、大きな蜂の頭が映っていた。しかしそれはモニターから距離があった。30cmほどはありそうな大きな蜂の頭。その下はシャープだが屈強な肉体が繋がり、黒のタートルネックに包まれている。モニターへと近づいてきて、黒く乱反射した眼球がじっとこちらを見つめ、そして画像が途切れる。

 

「暖冬か……」

 

 私はすぐに荷造りを始めた。インターホンが鳴る。

2019年12月度最優秀作品賞およびテーマコンテスト受賞記念 Mr.ヤマブキ

  • 2020.01.23 Thursday
  • 00:00

 二つも賞をいただきありがとうございました。テーマは一番受賞可能性が低いかなと思っていました。デジタルツインとバラが強かったので、どちらかかと思っていましたが、テーマのつなぎ方だけで得票した感じでしょうか。技巧的かもしれませんが、僕の作品、読んで面白かったですか?せっかく受賞したのにこういうことを言うのもハリネズミみたいで刺々しいですが、二作品には負けていたように思いました(言及しない作品もそれぞれよかったと思います)。もちろん、どのように選ぶかは自由なので、その上で技術的に評価していただいたことはうれしく思います。

 あと、Xさんはいつもテーマ制作を楽しみにされていたと思うので、無理すぎるテーマにして申し訳ありませんでした(そのこととテーマ作品にXさんの作品を選んだのは全く関係なく、作品自体の文学性です。例えばBlackさんのコメント、延喜三年何食べた?が好き、に表れるように、メタ的なアイデアに終始した作品ではなく言葉のチョイスが最後まで緩まなかった)。一度は難しすぎるテーマをやってみたかったので(と言っても宇多田ヒカルで書けずに撃沈しましたが)、次回以降は通常の幅のあるテーマになります。

 というわけで、次回はタイムリーな「暖冬」でお願いします。

 

 最優秀作品賞は四票の得票で、次が二宮金次郎厳罰化の三票ですが、今回僕は自作に投票していたので、仮にがりはさんが二宮金次郎に投票していれば最優秀作品賞は二宮金次郎にも送られていました。面の厚さの差で受賞したと言われてしまうと辛いものがありますが、それもやむを得ません。テーマとは逆にもう少し得票できるかと思っていたのですが、全て突き詰められていく時代に読者が犯人という展開もさほど斬新さはないのかもしれません。第四の壁という点で言っても2019年のノーベル文学賞受賞者であるペーター・ハントケの代表作「観客罵倒」はその名の通り四人の演者がひたすら観客を罵倒する作品で、1960年代にすでに何度も乗り越えられた壁であり、やはり新規性は薄いでしょう。

 しかし、その中でも投票していただいた三名の方にお礼申し上げます。これくらいの分量になると、当然一つのトリックだけで話を成立させることは難しく、謎から謎を連想させるプロットの順序、登場人物を形作るエピソードや描写(の一貫性や端的に表現できているか)、作品の雰囲気に適した比喩や言葉の選択、等々、様々な課題があり、今振りかえるともう少しよくできそうなところもありそうですが、具体案を出すのは難しく、その辺りが今の筆力なのだろうと思います。それでも総合的に評価していただいてありがとうございました。自分の中では、鉄の海ではできなかった登場人物の造形というところは進歩しているように感じるので、またこうした短編はやってみたいと思います。

 

 ちなみに、H氏のモデルとなったH.ハッガリーニ氏宅に伺うことがあったのですが、PREMIERのアクセスを音に変換するシステムは実際に使っておられました(これは本当です)。

新年のご挨拶 Mr.ヤマブキ

  • 2020.01.09 Thursday
  • 01:52

 あけましておめでとうございます!

 

 返事も聞かずにそろりと叔父宅の玄関を開けると、そこは真っ暗闇の空洞になっていた。えっ、これ……なに、どういうこと?出した右足はつま先が暗闇にかかっていて、体重をかければ無へと踏み抜いてしまいそうだった。

 きっと時代に乗り遅れたのよ。姉が僕の右腕を掴んで引っ張り戻す。時代?そうよ、2020年に乗れなかったの、だってあの人たち、いまだにガラケーだったじゃん。えー、そんなことで時代に乗れないなんて嫌だなあ。仕方ないじゃない、時の流れって残酷なものなのよ。

 

 どうにもできることはなさそうだったので、祖父母の家に向かうことにした。その車中。姉ちゃん、時代に乗れなかったらどうなるのかなあ?知らない。まだ2019年なのかな。きっとそうじゃないかしら。131日なのかな。分かんないわよ、乗り遅れたことないんだから……というより乗り遅れないように努力してるのよ。ああ、姉ちゃんそれで似合わないタピオカ飲んでたんだね。あんた張り飛ばすわよ。

 

 祖父母宅は普段から鍵が開いていて勝手に入ることになっているが、あけましておめでとうございます、と引き戸を開けてもさすがに足はすくんで敷居の外に貼りついていた。からっぽじゃなかったね。当たり前よ、おじいちゃんたち秋のヨーロッパ旅行にイモトのwifi持って行ってたんだから。これで一安心だね。そう言って二人して家に入るが、返事がない。祖母がいるだろうとふんで、広い玄関から真っ先に台所に向かうが誰もいない。おばあちゃん?……おじいちゃん?どの部屋にもいない。庭にもいない。丁寧に刈り揃えられた松の木がわずかに揺れているばかりだ。やっぱり、おじいちゃんたちも……。演技めいた大きなため息一つ。そうみたいね、だってあの人たち、パプリカのことピーマンって言ってたじゃない。急に手のひら返すなよ。ほんとのことなんだからしょうがないじゃない、さ、行くわよ。

 

 姉ちゃん、でも、行くあて無いんでしょ。何言ってんのよ、お寺さんに挨拶しなきゃいけないじゃない。そうじゃないよ。いいから、車に乗って。姉は怯えているのだ。ねえ、俺ら年越しそば食べたっけ。え、そんなのどうだっていいのよ、あんなのせいぜい江戸時代くらいの浅い文化じゃないの、昼までにお寺に行かなきゃいけないんだから、あんたも急ぎなさいよ!そうだよ、もう11時半なんだから……だから、何で、町中真っ暗なんだよ?明けてなくないか?本当におじさんやじいちゃんたちが乗り遅れたのか?うるさい、うるさい!いいから来ればいいのよ、来れば分かるわよ!私がお寺の敷居の奥をしっかり踏みしめるところを見てなさいよ!

【テーマ】セーラームーン誕生秘話 Mr.ヤマブキ

  • 2019.12.31 Tuesday
  • 13:41

「我が世をば 隈なく照らしし 望月よ 花の香りぞ 白く染めぬる」

 

 神童と謳われ政治にも大きく関わった菅原道真が政略により失脚した際に詠んだ歌です。花とはもちろん都のことであり、最も有名な歌「東風吹かば 匂ひおこせよ 梅の花 主なしとて 春な忘れそ」でも都の象徴として梅の花が登場します。日本人の花と言えば現代では桜を思い浮かべますが、当時、花と言えばあえて言わずとも梅を差しました。要するに、順風満帆だった頃の私の象徴である望月が今の都を白く照らし染めるという意味の歌です。セーラームーンの作者である武中直子は、「月にかわっておしおきよ!」という名セリフがこの歌をきっかけに生まれたものだと語っています(なかよし19974月号)。

 

 はい、カット!いやーやっぱりちょっと冗長なんじゃないの、このシーンは。テレビ朝日七十三.五周年企画「セーラームーン誕生秘話」で突然和歌ばっかり並べられても退屈しちゃうでしょ。監督、でもこれは大事なシーンなんですよ。漫画やアニメにも歴史の重みがあるということを分かってもらうには、和歌の意味が分からないと伝わらないじゃないですか。うーん、じゃあこうしよう、ドラマ仕立て。うん、そうだよ、ドラマ仕立てにすりゃいいじゃん。いいか、こんな地味な脚本じゃ視聴率なんか取れねえんだよ。恋の一つくらい脚色してでも入れておけよな。どれ、脚本貸してみ。ここをああしてこうして……。はいじゃあこれで撮り直しスタート!

 

「あーあ、決めセリフ、決まんないな〜」

「これなんかいいよ」

「え、太平記?」

「僕も必殺技に悩んでたんだけど、これを参考に、ね。適当にページを開いてみて、例えば……ほら。これ菅原道真だね」

「ふーん、我が世をば隈なく照らしし望月よ花の香りぞ白く染めぬる、ね。都を恨んだような歌かしら。そうねえ、これをセリフにするなら……満月……」

「月が代弁しているわけだろう?」

「月に代わって、ね。いいわね。うん、そう、おしおきよ。月に代わっておしおきよ!」

「いいじゃないか。とても君らしいセリフだね」

「ちなみに、富樫さんは?」

 

 画面は男の顔にクローズアップされていく。

 

「霊を願うと書いて霊願という言葉があるんですよ。怨霊めいたものですよね。まあこれを拝借しようかと」

 

 そして、戸愚呂にレイガンを放つ浦飯幽助のシーン。

第四の壁 終章 ー氷解ー Mr.ヤマブキ

  • 2019.12.26 Thursday
  • 00:00

 一同が理解できないという顔で立ち尽くしていた。

 

「事件の日のことを振り返ってみましょう。まず、がこの小説を読み始め、その地点であるサイトにアクセスがあった。H氏の運営するサイトです。H氏は奇妙な趣味を持っており、それがサイトへのアクセスを音に変換して実感するというものです。もちろん、普段からそうしていることですから、特段その点については変わりありません。しかし、その日に限って言えば、窓が開き、音量は最大になっていました。途轍もない音量の鐘の音が、ホシガラスの住む林に響き渡ったのです。

 なぜそうなってしまったのか?H氏の息子です。年端もいかない少年は、普段から父の部屋には入らないようにと言われていたようですが、それが仇となり、かえって父の出張した日に忍び込みたくなったようです。氏の部屋に置かれた大きな音響装置に目を輝かせたのでしょう。機械には大量の彼の指紋が付着していました。そしてそれは音量を調節するつまみにもしっかりと付いていました。また、窓にも彼の指紋が付いており、そちらも彼の仕業だと推測できます。

 そんなわけで、不幸にも大音量の鐘の音が林に響き、ホシガラスたちは当然驚いて飛び立ちます。たまたま向かった先が、第一の被害者である○川×三さんのもとでした。部屋を出た理由は定かではありませんが、酒を買いに行ったのかもしれません。そのすぐそばを後ろから大量のカラスたちが羽ばたき抜けたのです。さぞ驚いたことだろうと思います。普通の人ならそれで終わったのかもしれませんが、○川さんには心臓の重い持病があった。それをきっかけに心臓がもたなくなって、ついには心不全で亡くなったのです。

 ×さんも同じです。あの時は、第二章を読むためにがアクセスし、それが再びホシガラスを飛び立たせたんです。それが起きてしまったのは、一人目の事件のとき、H氏夫人が外出していたからです。そのために音量調節がなされず、第二の事件が起きてしまったのです。しかし、その頃にはすでにH氏夫人が戻っており、無事機械の音量は元に戻され、窓は閉められたため、それ以降事件は起こっていません。これが、事件の全貌です」

 

 この場にいる五人・・全員が複雑な思いを抱えていた。

 

「犯人とは言っても、偶然の産物です。私はあなた・・・を捕まえるつもりは毛頭ありません。ただ、そんな偶然だとしてもこんな不幸なことが起こってしまったということを知っていてほしいんです。誰かが死の経緯を解明し、かかわった人全てにそれを知ってもらうことが、被害者への弔いになるのだと思うんです」

 

 

 警部が引き上げた後、ポメはH氏宅を訪れた。H氏とH氏夫人に事の経緯全てを話した。

 

「そうでしたか。私の趣味がそんなことに……。分かりました、今後こうしたことが起こらぬよう、音を鳴らすのは止めます」

「あなた……それが大きな楽しみだったのに……」

「いや、いいんだ。人命には変えられないよ。それに、もはやあんな音が無くとも、たくさんの読者に支えられているからね。いい機会だと思う」

 

 心配そうにH氏夫人が見つめる中、H氏は大きくゆっくりと頷いた。

 

 

「そうは言っても、カラスたちは分かっちゃいないんだろうな」

 

 H氏宅を後に、駅まで歩いていく。

 

「そもそも、カラスにしてみれば色んな生き物が死んでいくことなんて日常茶飯事だろうからなあ」

 

 駅で別れた狸警部を思い出す。

 

「新人だからと舐めて悪かったな。その熱意買ったよ。また仕事しようじゃないか」

「こちらこそ生意気ばかりですみませんでした!」

 

 一匹のホシガラスが飛んでいく。黒い羽に白い斑模様。なぜかこんな低地に住み着いてしまった生き物の因果な事件。

 

「ぎゃっ」

 

 頭上に生暖かいものを感じる。フンだ。宿も出てしまったし、水道のある公園なんかも駅まではない。

 

「温かい贈り物に泣けるよ……」

 

 H氏の鮮やかな山高帽を心底羨みながら、ポメはとぼとぼと駅まで歩くのだった。

第四の壁 第六章 ー終着ー Mr.ヤマブキ

  • 2019.12.23 Monday
  • 00:00

 調査を終えて宿に戻り、真っ先に風呂に向かった。浴場には先客がいた。狸警部だった。

 

「お疲れ様です!」

 

 ポメは相変わらずの直角でお辞儀をしたが、眼鏡を外した警部に見えていたかは分からない。

 

「お前か。……しっかり勉強してきたか?」

「はい」

「基本を忘れるといつか足元を掬われる。どの職業でも同じだ」

「よく分かりました」

 

 ポメが大きく息を吸う。

 

「でも、明日、見ててください」

 

 狸が浴槽の湯で顔を洗う。

 

「そうか」

 

 それだけ言って、さっとシャワーで体を流し、浴場を後にした。

 

 翌朝、旅館を発つ時間になった。行きと同様、地元の警察が見送りに来る。

 

「このたびは本当にお世話になりました。警部のお力添えで無事、病死と処理できることとなりました」

「困ったらいつでも呼んでくれ」

 

 狸は品定めでもするように二人の警官をじっくり眺め、そう言った。他殺ではなかったことへの非難が隠せていなかった。

 

「ちょっと待ってください」

 

 ポメが三人を引き留める。

 

「この事件には真犯人が存在します」

 

 狸は眉を寄せ、明らかに不機嫌な様子だった。残る二人の警官も、発言の真意を図りかねているというよりは、新人が、という雰囲気を漂わせていた。

 

「そして、皆さんがおっしゃるように、彼らは病死しました」

「何を言っているんだね」

 

 狸が切り上げようとする。三人は駅へと向かう鈍足のバンに乗り込もうとする。

 

「待ってください。聞いてください」

「病死で真犯人がいるだと?まさか、病気が犯人だとでも言うんじゃないだろうな?あるいは、主治医の管理が悪かったとでも?」

「いえ、病気以外のことですし、二人の主治医は別々です。私が何か医療の質まで追求することはできません」

「じゃあ何だと言うんだ」

 

 ポメは深呼吸した。こんなことは初めてだったからだ。

 

「いいですか、真犯人を告げますよ。二人を死に追いやった犯人は……それは、だ!そう、、今この小説を画面越しに読んでいる、読者の君・・・・だ!」

第四の壁 第五章 ーS病院の謎ー Mr.ヤマブキ

  • 2019.12.21 Saturday
  • 00:00

「そういえば、あなた、出張してる間、もの凄く大きな音で通知が鳴ってたわよ。あの子が凄くびっくりしちゃって」

「おかしいな、特に音量をいじった覚えはないんだが」

「じゃああの子、自分でいたずらして自分でびっくりしてたのかしら。おかしい子」

 

 そう言ってH氏夫人は母の顔で微笑む。

 

「あの子と言うのは?」

「息子ですよ。今は友達の家に行っていませんが」

「奥様、もしかして、窓は開いていませんでしたか?」

「え、あ、はい。そうだったんです。でも、こうして刑事さんが殺人の調査で来られているのですから、本当に危ないことでした。よおく叱っておかないと」

「あいつ、きっとすぐ甘えだすだろうな」

「ほんと、そうね。甘えん坊なんだから」

 

 その親しげな様子が微笑ましくもあり、疎外的でもあった。

 

「も、もう少しだけ部屋を調べさせてください。それで引き上げますから」

 

 H氏宅を出た頃にはいい時間になっていた。ホシガラスがわずかにガア、ガア、と鳴いていた。二人目の被害者の調査結果を聞こうと、警察署に寄った。

 

「彼女も心不全です。やはり外傷はなく毒物も検出されませんでした」

「……つまり、病死しかないと」

「そういうことになりますね」

「む、これは……?」

 

 机に置かれた被害者の所持品。その中の診察券。

 

「確か、一人目の被害者もS病院の診察券を」

「はい、そうですが……しかし、この年齢になれば病院くらい誰でも通っているものですよ」

「しかし、住所を考えればもう少し近い開業医でも良かったわけで、S病院に通うということは、それができない何か大きな持病があったということかもしれません」

 

 S病院に電話すると、主治医は不在だが院内の代理医が対応するとのことだった。

 

「急にすみません、○川さんと×山さんがこちらに通われていたと伺っております」

「どうかされたのですか?」

「実は二人とも外で倒れて亡くなられていたのを発見されました」

「そうでしたか……カルテを見てみます」

 

 医者は分厚い紙のカルテを取り出してめくっていく。ちらりと覗いてみるが、悪筆の専門用語でとても読み取れたものではない。

 

「○川さんはだいぶ心臓が悪かったようですね。10年前に心筋梗塞を発症してカテーテル手術を受けています。その後去年にも心筋梗塞を再発。それからはかなり不安定で主治医の苦労が伺えます。酒も止められなかったようですしね。急に状態が悪化しうる不安定な状況にあったとは言えると思います」

 

 熱心にポメがメモを取る。

 

「×山さんは……×山さんも似たようなものですね。8年前から糖尿病の治療を受け、3年前に重症の心筋梗塞。薬の処方数が日数と合わないので、きっと飲み忘れが多かったのだと思います。よくあることです。ここ最近は特にほとんど飲んでなかったんじゃないでしょうか。だいぶ良くない状況だったとは思います」

「ありがとうございます。ズバリお伺いしますが、先生から見て、二人が外で急に亡くなるということは十分あり得ると思われますか」

 

 少し黙ったあと、医者ははっきりと言った。

 

「ないとは言えません。ただ、二人続けてはかなり珍しいと思います。偶然でもいいけど、事件でもいい。そのレベルです」

第四の壁 第四章 ーH氏宅ー Mr.ヤマブキ

  • 2019.12.19 Thursday
  • 00:00

 出張帰りか、H氏はスーツケースをどすりと下ろして握手を交わす。

 

「何かお役に立てることはありましたか?」

「ホシガラスのことが分かっただけでも大収穫です。なんでも、御主人の部屋からはホシガラスの住む林が近いとか。よければどんな様子か伺いたいのですが」

「ほう、ホシガラスですか。結構ですよ。散らかってますが、お役に立てるのであれば」

 

 H氏の部屋は確かに散らかっていた。本が自律的に繁殖したかのように所狭しと積まれており、もはや本棚も役に立たなかった。その中にひときわ大きな音響装置が置かれ、そのコードは窓際の机に置かれたパソコンへとつながれていた。

 

「この音響は音楽を聞くためではないんですよ」

 

 H氏はすらりと帽子を取って壁に引っ掛ける。

 

「サイトのアクセスを知るためらしいですね」

「なんだ、妻から聞かれていましたか」

 

 得意げな様子から一転、ふてくされた表情を隠さない。その茶目っ気が気高い花のような夫人を惹くのだろう。

 

「さっきも鳴っていましたよ。人気なんでしょうね」

「いやいや、本当にコツコツと、ですよ。ようやく頻繁に鳴るようになりましてね。初めは日に数回しか鳴りませんでしたから、今でもこの音が鳴ると嬉しくなるんですよ」

 

 そう言って、H氏は音響装置を撫でる。

 

「こちらで執筆を?」

「そうですよ。この林も、カラスはいますが静かなものです」

「そんな贅沢の時間の中で鐘のような音がして心湧きたつと」

「パブロフの犬ですね。これは恥ずかしい」

 

 H氏の照れ笑いに一通り笑いあった後、窓を開けてみる。木々の香気が通り抜けていく。ホシガラスの鳴き声が響き渡る。ポメが窓の指紋を取る。

 

「え?」

 

 ある種、攻撃的な行為にH氏はあからさまに不快感を示した。

 

「ホシガラスに何の関連があるか知りませんが、まさか、その生き物だけで私を犯人扱いするつもりではないでしょうね?」

「いえ、決してそのつもりはありません。私は全ての真実を明らかにしたいだけです」

「そこに真実はありませんよ」

「不在こそが他の存在を浮かび上がらせることもありますから」

 

 粘液質の沈黙。

 

「お茶でもいかがですか?」

 

 H氏夫人の呼びかけに、助け舟とばかり二人とも従うことにした。

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