【テーマ】月夜の下で(上) Mr.X

  • 2018.12.01 Saturday
  • 08:23

ある日、研究室に試薬を届けに業者が「Mr.Xもバイオロギング、始めてみません?」と言いつつ、試供品のGPSロガーを置いていった。数日後、旅行先の奈良のホテルでリュックの底からこのGPSロガーが出てきたので、深く考えることなく公園の木のそばで寝ている鹿の角にこっそりつけた。
 
”バイオロギング(Bio-logging)”という研究手法がある。ペンギンなんか器具を取り付けてどんな深度で泳いでいるのかを明らかにしたり、渡り鳥につけてその移動速度を計測したりしてその生態を研究する。最近では、クジラに小さなカメラを取り付けて狩りの様子を録画する、といったものもあるから、GPSだけじゃああんまり評価されんかなぁとぼんやりそんなことを考えた。
 
数日後、アプリを起動させて鹿の位置を確認したとき、思わず声を上げた。
アプリはロガーが広島の宮島を指していたのだ。いくら何でも数日でこんなに移動できるわけがない。しかも、ログを見ると数分で奈良から広島にまっすぐ移動している。なんだ、不良品か、業者も変なもの持ってきたな、と当初は考えたが、その後しばらく宮島内での移動に変な様子はない。機械は正常なのか?いやしかし、と不思議に思っていると、その数日後、再び数分間で奈良公園まで移動していた。
 
居ても立っても居られなくなり、再び奈良へ向かった。あの鹿は前と同じ木の下で、同じように寝ていた。スマホで確認したが、アプリは正しくGPSロガーが目の前にあることを示している。

「なんなんだよ、お前は」と思わずつぶやきが漏れる。すると鹿はゆっくりと首をもたげて私を見た。
「なんだ、お前。気が付いているのか?」と鹿が言った。
「すまんが、気が付いた人間は、必ず連れて行く約束なんでね」という言葉が聞こえたかと思ったら、その大きな角で持ち上げられ、そのままロケットのように猛烈なスピードで飛び上がった。
 
訳も分からず、落とされまいと無我夢中で角にしがみついた。気が付くと、雪が降り積もった森に佇む一軒家の前に落とされていた。煙突からは煙がまっすぐ伸びている。かなり古い家だ。中から赤い服を着た老人が出てきた。
 
『あんたが私の後継きか』日本語じゃないのに、なぜか理解できた。
「あなたは…。」

 

 

【テーマ】月夜の下で(下)  Mr.X

  • 2018.12.01 Saturday
  • 08:22

 

『私もな、数年前にトナカイに誘拐されてここまで来たのだ。日本の鹿はトナカイの仲間で、人材を斡旋するよう頼まれていたのだろう』とその老人は言った。
「そんなバカな!」
『ここでの生活は厳しいぞ。夏の労働は辛い。一日中植物を刈り込んで、冬に備えたトナカイの保存食を大量に用意する。髭を剃る暇も、髪を切る余裕もない。冬は、世界を飛び回るあいつらのお供で凍えそうになる。・・・あんた、私が何歳に見えるかね? 髪が真っ白になってしまったが、こう見えて40歳なんだ』
「トナカイたちはどうして空を飛び回るんですか?」
『本当のところはわからんが、おそらくただの趣味だろう』
「馬鹿げてる..。どうしてここに居続けるんですか!? 逃げ出しましょうよ!」
『すぐに分かるさ。トナカイは森の狼どもを手下にしている。森から走って逃げ出そうとしても、狼に追われ、死なない程度に血まみれにさせられるだけさ。先代たちがどういう目にあったのか、受け継いできたこの服をみれば分かるだろう』
と両手を広げた。赤くまだらに染まったその服には無数の縫い跡があった。
 
それ以来私はトナカイに奉仕し続けている。トナカイが支配している鳥や狐に盗ませていたので、人間用の食料と酒は大量にあった。「寒空の下を飛び回る上で脂肪を蓄えることが必要だから」というのは後付けで、他にうさを晴らす方法も無く、暴飲暴食し続けた。先代たちも、きっとおなじだったろうな、と思う。
 
月日が流れ、全てを教えてくれた先代も「帰りたい」言いつつ息を引き取った。
私は心に決めた。毎年、トナカイたちが空を飛び回るおよそひと月前にソリを作り始めるのだが、一緒にこっそりスキーを作り、月夜の下、一目散で逃げ出したのだ。以来、狼たちに追われ続けている。暗くなるたび、遠吠えが聞こえる。「もうすぐだ、もうすぐだ」と狼たちが楽しそうに声を上げていることがわかる。狼たちは私の匂いを嗅ぎ、積もり続ける雪の中からスキーの跡を見つける。奴らは執拗だ。決して諦めることなく私を追い続ける。今日も日が落ちると遠吠えが聞こえた。一日中寝る間も惜しんで私は逃げ続けているというのに、その声は、日々大きくなり続けている

【テーマ】「ガチンコ」とか「プロレス」とか静かにしててくれよ がりは

  • 2018.11.30 Friday
  • 23:26

ガチで、と軽々しく使う輩が増え、そのたびに私は違和感を覚えその後の話がちっとも入ってこなくなるので困っています。

ガチンコ、は相撲に語源があり、八百長の対義語であることは今では割合広く知られています。

ガチンコで有名だったのが貴乃花若乃花であり、彼らが所属していた藤島部屋の力士でした。

今回の騒動で貴乃花部屋の力士が千賀ノ浦部屋に移った初日、稽古内容の違いに驚いたそうですね。

貴乃花部屋では基本的にぶつかり稽古が場所前も場所中も中心だったそうですから。

逆に八百長を駆使して長期政権を築いたのが千代の富士であったと言われます。

八百長をするにも実力が必要だ、何をもって八百長とするのか、人は土俵に何を見に来ているのか、モンゴル勢はどうだったのか、など語りたいことはたくさんあるがここは措きます。

年6場所、15日間の興行をあやふやなルールの中で続けていくために、彼らがどんな工夫を重ねているか想いを馳せてからガチンコと言いなさい、と。

興行側がちゃんと考えないから力士がうまくやらなくてはならなくなったのでしょう。

その結果どんどん汚れていった面もあるとは思いますが、考えてみれば八百長なんて実力差がないと成立しない話なのです。

相撲界で圧倒的に強いのにわざと負ける必要はありますか?

100kgを超える鍛え上げた肉体同士が全力でぶつかる競技自体の負荷もそうですが、土俵という舞台装置を改善しなければ安定的に興行を続けることは難しいのは、土俵に上がってみてよくわかりました。

境川部屋の稽古場にお邪魔したのですが、踏み固められて物凄く固いし滑りやすいです。

さらにここに塩がまかれるわけで、あそこに投げ捨てられて怪我しない方が難しいと思います。

怪我を誰もが抱えながら相撲を取っている状態で、興行には相撲を見に来るファンもいますが、贔屓の力士を見に来る人も多くて、人気者の有無が興行を左右します。

人気者が出場しないと業界全体が傾くんです。

 

ガチの対立概念は先ほども上げたように八百長です。

勝敗が決まっている、という意味だとおもいます。

まあ、それもいいでしょう。

私が我慢ならないのはガチの対立概念としてプロレスを置かれることであり、そんなたとえをする人の話は他がどんなに良い内容でも全く信用できません。

 

相撲であれば立ち合いこう立って、張って張って張ってをこらえて下手をつかんで引き付けて一気に寄るね、という打ち合わせは可能に思えます。

一分を超えれば大相撲と呼ばれる世界であり、大抵は十秒程度の試合なわけで、観る人が観ればわかるのでしょうが、多くの人はその力士らしさを楽しめれば満足するのでしょう。

それに全部が全部八百長なわけではないし。

プロレスで開始十秒で試合が終了したら暴動が起きます。

通常の試合で十分程度、通常のメインイベントなら二十分程度、タイトルマッチになると三十分を超えることもざらです。

もし、勝敗が決まっていたとして、この長さの時間数千人の観客を熱狂させることができるでしょうか。

そしてそれができるのであれば、それがどこかのくだらない誰かが使っているプロレス≒八百長のニュアンスとあっているでしょうか。

プロレスをちゃんと観たことがない奴ほど知ったかぶりで「ああ、この間部長同士でもめてた奴、プロレスなんでしょ?」なんて平気で言うのです。

「がりはさんは若手の成長を促すためにわざとあんなにきつく言ってくれてるんだよ!わかれよ!」「なるほど、プロレスですね!」という会話をトイレの個室で聞いた時の私の悔しさ。

二人とも間違ってるからな!!

 

ガチンコ、ガチ、という単語を耳にした時に頭にくるしもやもやするのは、「じゃあ君の普段は全て八百長なのかね」「君の言うガチンコとは何かね」「勝負が決まっているからこそ真剣にやらなくてはならないということに気が付かないのかね」とポンポンポンポン疑問が頭に沸くからであり、そんな軽い言葉の使い方をしてほしくないなあと思うからなのだけど、プロレスファンにもいるんですよ。

「NOAHだけはガチ」

なんて言う人たちがね。

 

相撲、プロレスに限らず肉体の表現者は怪我や死と隣り合わせで真剣に戦っています。

それはフィギュアスケートとてそうでしょう。

そこにガチンコという言葉や八百長という言葉が入り込む隙は無いと思うのです。

ガチンコなんて言葉、忘れ去られればいいと思っています。

黙ってプロレスを観てくれればいいのに。

【テーマ】まるーんちゃんのフィギュアスケート鑑賞講座〜GPS雑感

  • 2018.11.30 Friday
  • 19:30

今月のテーマはGPS!

 

GPSといえば!ISUグランプリシリーズ!
ぐろーばるぽじしょにんぐしすてむ?なんですかそれは。
まさにこの季節うってつけのテーマというわけで、ちょうど予選が全戦終了し、ファイナルの出場者が出そろいました。今年もいろいろありました。ほんとに色々あった…

とりあえず男女シングルのファイナル出場者を見ていきましょう。

 

男子
日本 羽生結弦(フィンランド大会1位・ロシア大会1位)→怪我にて欠場
日本 宇野昌磨(カナダ大会1位・日本大会(NHK杯)1位)
USA ネイサン・チェン(アメリカ大会1位・フランス大会1位)
チェコ ミハル・ブレジナ(アメリカ大会2位・フィンランド大会2位)
ロシア セルゲイ・ヴォロノフ(アメリカ大会3位・日本大会(NHK杯)2位)
韓国 チャ・ジュンファン(カナダ大会3位・フィンランド大会3位)
カナダ キーガン・メッシング(カナダ大会2位・ロシア大会5位)→繰り上がり出場

 

女子
ロシア アリーナ・ザギトワ(フィンランド大会1位・ロシア大会1位)
日本 紀平梨花(日本大会(NHK杯)1位・フランス大会1位)
日本 宮原知子(アメリカ大会1位・日本大会(NHK杯)2位)
ロシア エリザベータ・トゥクタミシェワ(カナダ大会1位・日本大会(NHK杯)3位)
日本 坂本花織(アメリカ大会2位・フィンランド大会3位)
ロシア ソフィア・サモドゥロワ(アメリカ大会3位・ロシア大会2位)

 

男子は間違いなくメダルの色を争ってくるであろう上位3人が予選で全くかぶっていなかったことがわかります。
羽生君も実はGPS2戦で1位をそろえるのは初めてのこと。ロシア大会のFS前の練習中足首を痛めたため、ファイナルは欠場になってしまいました。単に足のことを考えればそもそもFSをやめておくべきだったのでしょうが、ロシアという約束の地でOriginを滑る機会を逃すわけにはいかなかったのだと思います。転倒こそありましたが演技やステップの面では素晴らしく向上しており、胸に迫るものがありました。とにかくしっかり治してほしい。

SP「秋に寄せて」、凄まじい演技でした。あの美しい4Sを見たでしょうか。本人以外にはしばらく抜けそうもない得点です。彼の目指すパーフェクトパッケージの演技の意味を見せつけられたように思いました。

彼の演技はもう一つ一つが我々ファンにとってはかけがえのないギフトなので、体を大事にしてほしいです。
同じく1位1位通過の宇野選手、シーズン序盤にはお遊戯会みたいだった(失礼)月光がすっかり板についてきました。NHK杯では正直一人だけオーラが違っているなと感じました。コンビネーションが足りなかったのが惜しかった。ありえない角度で着氷しても降りてしまう膝のやわらかさが彼の強みですが、出来栄えが重視される今回のルール改正に合わせてジャンプの完成度を高める必要もありますね。全体的にジャンプがもう少し安定するとよいのですが、シーズン後半戦仕上げてくると思います。
今年からエール大学医学部に進学したネイサン・チェン選手。まさに文武両道眉目秀麗好青年と三拍子そろった彼ですが、最近はちょっと大人なグラビアに挑戦したりとかもして。
新生活ではラファエルコーチと離れてなかなか思うように練習ができておらず、なかなかパーフェクトな演技とはいかないようです。特にショートが安定せず、フリーで取り返す場面が多く見られました。今シーズンのSPがゴージャスでめっちゃ好きと思ってたけどFSも見れば見るほどほれぼれします。七分袖ずるい。
チェコのブレジナ選手とロシアのヴォロノフ選手は二人ともベテラン。ブレジナ選手は最近結婚して公私ともに充実しているのか、ベテランらしい落ち着いた演技を見せてくれています。
ヴォロノフ選手は去年に引き続いてのファイナル進出。今年もファイナルでセリョージャの演技が見られるなんて夢のよう。最年長のくせにNHK杯の公式練習でぎりぎりまで滑っていた姿が素敵でした。突然の死をとげたカザフスタンのデニス・テン氏の振付でFSを滑ります。テン君のことを思い出すと今でも胸が痛みます。多くのスケーターがショーやエキシビションで彼への追悼のプログラムを滑っていて、どんなに愛された人だったのかと、そんな風に実感して悲しくなってしまうのです。
韓国のチャ・ジュンファン選手は羽生選手と一緒にトロントのクリケット・クラブで練習中の17歳。細身の長身でナイーブな印象ですが、力強さも持っています。同じ場所で練習しているだけあって羽生選手にスケーティングが少し似ているところも。男子には珍しくセカンドにトリプルループを跳んでくるのでそこも注目です。ジュリエーーーーーーーット!
羽生選手欠場の繰り上がりで代表の座を得たキーガン・メッシング選手。地元開催のファイナルに出場出来て素直に良かったなあと思います。パトリックが引退した今カナダのエースはキーガンです。軽やかで柔らかいスケーティングと、コミカルな表情の変化に注目です。

 

もちろんファイナルに進出叶わなかった選手たちの中にもドラマがありました。

今年からクリケット・クラブに拠点を移したジェイソン・ブラウン選手は髪型を変えて心機一転といきたいところですがなかなか環境を変えてすぐに結果を出すのは難しい。そんな中フランス杯で見せたSPは本当に素晴らしかった。彼のしなやかでやわらかな表現が余すところなく出ていました。4回転を入れない構成にもかかわらず得点は96点。SPの時点では2位のネイサン選手を10点も引き離しました。ブライアン・オーサーコーチの誇らしげな笑みが印象的でした。これからもっと強くなっていくと思います。
ロシアのミハイル・コリャダ選手はこのグランプリシリーズは厳しい内容でした。ひょっとしたら実力全て出し切ったら一番羽生選手をガチンコで倒せる選手かもしれない、それぐらい高い技術を持っているのに、なぜか安定しない。ノーミスの演技がほぼなかったと思います。そろそろ演技の終わりに自分に心底失望した顔以外を見せてほしいのですが。

 

男子選手は全体的に今回のルール改正に苦戦している選手が多い印象でした。

30秒演技時間が減って楽になったかと思いきや、かえって体力的にはきつくなってしまいました。ジャンプも1本減っていますがジャンプ1本にかける時間は10~15秒程度ということで、30秒の演技時間短縮は間の時間を削ってしまって選手には休憩が少なくかなりきついようです。
また、転倒による減点が多くなったのもありますし、スピンやステップのレベル判定がかなり厳しくなったように思います。
広島まで見に行ったNHK杯でも、女子の激闘に比べるとちょっと男子は残念な内容でした。

ファイナルでは皆の素晴らしい演技を期待したいですね。

 

次に女子。今シーズンのグランプリシリーズは本当に読めない展開でした。

最後の4枠が決まるのに最終戦のフランス杯までもつれ込む大混戦。ふたを開けてみるとロシアと日本で3つずつ枠を分け合う形となりました。おおよそ順当に予想通りと言えるのはザギトワ選手と宮原選手ぐらいじゃないでしょうか。
今シーズンのザギトワ選手は身長が大きく伸びました。多くの女子選手は体型の変化でスランプになりますが、それを全く感じさせない安定感。もちろん五輪シーズンほどの完全無欠さとはいきませんが。

個人的にSPのオペラ座の怪人は編集がイマイチだと思っていて、彼女の技術はもちろん素晴らしいもののあまり好みではないです。忙しい人のためのファントムって感じで、短い時間に詰め込みすぎて余韻がなくどうにも落ち着かない。ユーロチームのプログラムはちょいちょいこういうのがある。

全然関係ないけどマサルとじゃれてる写真をもっとインスタにあげてほしい。
今シーズン前半でいちばん嬉しかったのは、私がずっと大好きだったエリザベータ・トゥクタミシェワ選手の復活です。最推しと言っていいかも。NHK杯で生で見られて本当に感激しました。FS中に観客に拍手を煽る自信に満ちた姿が素晴らしかったです。17歳で世界女王になって以降、ロシアの次々現れる若い選手に押され、怪我もあり、なかなか勝てていませんでした。その彼女が持ち前の3Aとセクシーな演技で帰ってきてくれました。こんなに調子がよさそうなリーザを見るのは数年ぶりです。本当にうれしい。エキシビションのToxicも注目。かなり刺激的。ミーシン門下はエキシで脱ぐ伝統でもあるのでしょうか。好き。
ロシア3人目は16歳のサモドゥロワです。私もまだ彼女についてさほど詳しくないのですが、無尽蔵に強力な若手が供給されるロシア女子の新たな目玉の一人です。
日本女子からは3人がファイナル出場を決めました。

宮原選手のSPは今シーズン全選手のプログラムの中で一番好きです。彼女の技術と表現力の粋が詰まった素晴らしいプログラムで、演技の最初から最後までスケーティングがとぎれることなく流れる。まるで繊細で精工な工芸品のようなのに、水や風や、そういう自然の力強さも感じます。さっとんは日本のエースとしての自覚がありすぎだと思う。

序盤で使っていた衣装の色と背中のドレープがとてもすてきだったので変えてしまったのは少し残念。海外からコーチを招いてURを取られがちだったジャンプの改善にも取り組んでいます。
坂本花織選手はGPS序盤に2試合を終えてなかなか代表が決まらずやきもきしていたのではないでしょうか。出られてよかったです。溌剌としたイメージですが今シーズンのテーマは大人っぽい演技、と言いながらまだまだかわいさが残ってて、それも好ましいですね。ダイナミックなジャンプを決めてほしいです。
そして、おそらく彼女が今回の台風の目だと思われる、紀平梨花選手。FSのプログラム名もA beautiful Stormです。

シニア上がりたての15歳がグランプリシリーズ初出場にして2連勝を飾りました。今、シニア女子全体を見渡しても技術点で女王ザギトワと真っ向からやりあえるのは彼女しかいないでしょう。NHK杯FSで見せた2本の3Aは鳥肌が立ちました。それ以外の要素でもほとんどGOEで加点をもらう技術力の高さ。もともとの身体能力の高さがいかんなく発揮されています。NHK杯でもフランス杯でもSPで出遅れてからのFSで取り返す、というパターンでしたが、ザギトワ相手にはそれでは厳しい。

難しい戦いですが、チャンスは大いにあります。期待しましょう。

 

グランプリシリーズは予選大会のオーダーによってメダルのボーダーが大きく動くため、そういった意味では運もあります。NHK杯の女子は本当に素晴らしい戦いでしたが、代表争いとしては厳しい潰し合いとなってしまいました。アメリカのマライア・ベル選手もとても素晴らしい演技で200点近くをマークし、会場は大変な盛り上がりでした。ほかの大会ならメダルをとれていたかもしれない。メダルのボーダーが209点は厳しすぎました。
特に三原舞依選手はオーダーで不運だったのは否めない。でもフランス杯ではずっと目標だった200点超えられてよかったです。全日本で頑張ってほしいですね。
メドベージェワについてはまさか彼女がファイナルに残らないなんてことを誰が想像したでしょうか。エテリコーチの下からクリケットにうつって、技術的に新しいことをやろうとしている時期ですからミスや不安定は仕方がないと思っていましたが、それだけではなかったようです。ロシアを離れたことでSNSで心無い言葉を投げられたりもしたようで、まだ20歳にもならない彼女の心にそれがどれだけ負担だったでしょうか。

たくさんの才能あふれるロシアの女子選手が若くして引退していくのを見てきました。だからこそリーザの復活が嬉しかった。ジェーニャもきっとまたあの自信に満ちた演技を見せてくれると信じています。

 

フィギュアに関しては語りたいことがありすぎてとりとめもなくなってしまいがちなのを改善しないとなあと思いつつ、書き始めるとあの選手のこともこの選手のことも書いておきたくなって困ってしまいますね。

あとこの記事を書いている間にハビエル・フェルナンデス選手の引退宣言とゆづのファイナル欠場が報道されました。つら。

パトリックもアダムもハビエルもいなくなってしまった…本当に一時代終わってしまったんだわと思うととてもさみしいです。

もちろん素晴らしい選手がたくさん出てきているのですが、彼らのスケーティングや表現をどうしようもなく恋しく思う瞬間がしばらくは続くだろうなあと思います。

 

でも今がんばっている選手たちを精いっぱい応援しなくっちゃ。
というわけでグランプリファイナルは12/7からスタートです。どの選手が勝ってもおかしくないとても面白い大会になると思います。

皆さま注目してくださいね。

【テーマ】位置情報確認板(上) Mr.Indigo

  • 2018.11.29 Thursday
  • 19:38
亀山城の一室で、明智光秀は苦悶の表情を浮かべていた。天正10年6月1日の夕刻のことだ。
光秀は重大な決断を迫られていた。彼自身のみならず一族や配下の諸将、一兵卒に至るまで陣営のあらゆる者の運命を左右する決断である。容易に結論を出せるはずがない。しかし彼には時間がなかった。無難な道を選ぶか、それとも危険を承知で勝負に出るか、夜半までには決める必要がある。
彼は傍らにある小さな板を見つめた。ほぼ中央で青い印と赤い印が隣り合っている。青い印は自分の居場所、赤い印は主君・織田信長の居場所だ。
 
「日向殿、少しお時間よろしいですかな」
羽柴秀吉に声をかけられたのは3年ほど前のことだ。
「何事でござろう」
「実は拙者、このほど織田家位置情報管理奉行を仰せつかりましてな」
「ほう」
「それで、位置情報確認板なるものをお配りしておりまする」
「位置情報確認板?」
「ちょっとこれを見てくだされ」
秀吉は軍配ほどの大きさの板を取り出した。
「これは…地図?」
「左様。ここが安土。この赤い印が上様のいらっしゃる場所でござる」
「なるほど。ではこちらの橙と青の印は何でござるか?」
「橙はそれがし、青は日向殿でござる。この紫は越前の修理殿、東のこれは三河殿。このように主だった面々がいる場所がわかる仕組みになっております」
「ふむ。便利な物でござるな」
「これを常に持って行動せよとのお達しでしてな、破壊・紛失および悪用の場合は切腹なのでご注意くだされ」
「承知いたした」
 
あの時秀吉から位置情報確認板を受け取ったのは、ここで決起せよという天命なのかもしれない。論理的な現実主義者である光秀だが、2つの印を見ているとそう思わずにはいられなかった。亀山から京までの道のりはほんの5里ばかり。信長が滞在する本能寺を守る兵はせいぜい数百だろうし、周囲に他の印は全くないから援軍が現れることもない。千載一遇の好機であることに疑いの余地はなかった。
問題は信長を逃がさないことと、その後の体勢を迅速に整えることだ。光秀としてはそこまで見通しを立ててから事を起こしたいところだが、あいにくそこまでの猶予はない。
光秀は1万3千ほどの兵を率いて城を出た。備中・高松城を攻めている秀吉に加勢せよという指令を受けて準備をしていたから、出陣するのは予定通りのことだ。しかし、進軍先も予定通りにするかどうかは決めかねていた。彼は何度も位置情報確認板に目を運び、赤い印が動いていないことを確認した。
夜が更け、決断の時が迫ってきた。赤い印は全く動かない。おそらく信長はもう床についただろう。すぐに本能寺を急襲すれば、逃げられる可能性は低い。
もうひとつの懸念についても、位置情報確認板が強力な味方となってくれるに違いない。四方に敵を抱えることになっても、敵の居場所がわかれば対策を立てやすい。
「よし」
光秀は意を決した。配下の諸将を呼び、西国ではなく京を目指すことを告げた。諸将は自らの率いる部隊に戦闘の準備を命じた。


【テーマ】位置情報確認板(下) Mr.Indigo

  • 2018.11.29 Thursday
  • 19:35
行軍は極めて順調だった。深夜ということもあり、何の妨害もなく洛中に入ることができた。
ところが、そこで光秀は異変に気づいた。本能寺はもう目と鼻の先だというのに、赤い印と青い印が全く重なっていないのだ。よくよく見ると、信長の居場所は少し東に移っている。おそらく大津あたりだろう。安土に向かっている可能性が高い。
「うっ」
冷静な光秀も顔面蒼白になった。光秀の軍の動きを信長は細かく見ていたのだ。そして、謀反を警戒して京を脱出したに違いない。
信長のことだから、もう弁解しても無駄だ。何もできず犬死にするくらいなら、武士として戦って死ぬべきだろう。ならば赤い印を追い安土に向かうか。しかし安土城は一気に攻め落とせるような城ではない。そのうちに配下の諸将が戻ってきてしまう。彼らも位置情報確認板を持っているから、異変にすぐ気づくはずだ。
では他に手はないか。咄嗟に思いついたのが至近距離にある二条城に入るという策だった。二条城を支配下に置いて天皇と皇太子を保護すれば、織田家の面々も容易には手を出せまい。夜が明ける頃、光秀は手勢を引き連れ城門に向かった。
「明智日向守にござる。城の護衛を命じられたゆえ、開門願いたい」
事前の通告はなかったが、光秀を追い返しては後で信長に何をされるかわかったものではない。門番はあっさりと光秀らを中に通した。
目論見通り二条城を支配下に置いた光秀は、位置情報確認板を見た。赤い印は安土ではなく伊賀の方へ向かっていた。
「わからぬ」
伊賀は前年の戦乱で荒廃している。なぜ安土ではなく伊賀なのか。光秀には全くわからなかった。しかし、伊賀であれば大軍を調達するのは不可能だ。伊勢まで行くなら時間の猶予がある。慌てることはない。
光秀はいったん武装を解かせた。近隣に強敵がいない今のうちに、兵を休ませておく必要がある。一息ついた彼は正装して御所へ向かった。織田軍と戦うためには、まず天皇を巻き込まなければならない。
 
「何事じゃ!?」
御所の手前で光秀は不穏な物音を感じた。ほどなく数百の兵が現れ、光秀らの行列に襲いかかった。
「わしを明智日向守光秀と知っての狼藉か!」
「左様」
馬上から低く鋭い声を発したのは、光秀のよく知っている男だった。
「な…なぜここに…」
「何を寝ぼけておる。余が本能寺におったことは存じておろう」
「…位置情報確認板は…」
「ああ、あれか。盗まれた!」
「えっ!?」
「逃げ足の早い奴でな、捜させたが見つからぬ」
赤い印は信長ではなく、ただの泥棒だったのだ。光秀は愕然とした。
「…」
「ところで日向…」
もう観念するよりなかった。

【テーマ】GPSを皆様に(下)  Mr.アールグレイ

  • 2018.11.28 Wednesday
  • 21:45

マルーンさんへ
「G:ガチンコで山登ってるのに、P:プリティなところが、S:最高」
マルーンさんはずっこいと思います。
あんな高く険しい場所まですいすいと登っておられるように見えますが、きっと血のにじむようなトレーニングをされていると思うのです。
常人だと三か月はかかるところを一週間で体得するようなトレーニングを。
通勤も重い荷物を背負って全部徒歩。
往復四時間。
アップダウンが激しい梅田の迷宮も一切エスカレーターを使わず移動。
何なら早すぎて常人には感知できないようなスピードで、一陣の風のように過ぎ去っていく。
なのに、紅葉を集めて空に向かってぱっとやったり、リンボーダンスしたり、イライラしながらライス中を頼んだりするんですよ。
可愛くないですか?
山を登る前の準備体操だってかわいいに違いない。
私はそうにらんでいます。
そのかわいさがきゃりーぱみゅぱみゅのそれのような可愛さなのか、ラジオ体操をきゅっきゅと行うようなオフビートの可愛さなのかはわかりませんが、かわいいことには違いないでしょう。
最近はこういう気持ちを「最高かよ。」というらしいですね。
新入社員とのランチで教えてもらいました。
最高ですか!というと意味が違ってしまいそうですけど。

X「G:群を抜いて詳しい世界をお持ちですよね。 P:ポピュラーな題材で勝負するのはなぜですか。S:すみませんがテーマコンテスト獲るのに邪魔なのでおとなしくしててもらっていいですか?」
多足類のシリーズを読んだ時に私は仰天しました。
なんと豊饒な世界が私のそばで、私の意識していない所に広がっているのかと。
私は脚が多い生物が全部生理的にダメなのですが、多足類のシリーズは最後まで興味深く読めました。
今どんな研究をしていらっしゃるのか、是非また教えてほしいのです。
その、唯一無二のジャンルを持ちながら、この一年くらいはどちらかというとポップな題材で書かれています。
溜めですか?
私は最優秀作品賞を狙えるような素晴らしいものは書けないですが、テーマコンテストには活路があると思っています。
正直かつ端的に申し上げて、Xさん邪魔です。
必ず斜め上の発想で書いてこられるので。
アイディアを転がしている時にも、先にXさんのを読んでしまうと、そっちに寄ってしまうんです、ついつい。


がりはさんへ。
「G:がりはさんは自分のことを P:PREMIERで S:最強って思ってますよね?」
ですが、今のPREMIERをちゃんと読むと、もうがりはさんが最強の時代ではありません。
小説を書けばヤマブキさんやホワイトさん、Xさん、うべべさんが待ち構えています。
マルーンさんだって書けばすごいことは証明済みです。
エッセイはIndigoさんが歴史と絡めたり旅と絡めたりお子さんと絡めたりと強大化してますし、何よりたりきさんの競馬があります。
テーマコンテストだって以前の憎らしいほどの強さはありませんよね。
確かに明るい悩み相談室300回はすごいと思います。
面白いものも結構あります。
歴史と伝統の味に頼るあまり、最近仕事が雑になってるんじゃないですか?
あなたは現在最強ではないです。
しかしあなたが最強であるべきだと思います。
あなたに必要なのは個性ではありません。
個性はあなたがしっかりしていさえすれば、ライバルたちとの対比で見えてきます。
Indigoさんほど緻密じゃない、たりきさんほど競馬外さない(笑うところです。)、ヤマブキさんほど文章がキレない、マルーンさんほどかわいくない、Xさんほどの深い知識も斜め上の発想もない、だけど強いのがあなただと思います。
いつか「って思ってますよね」の部分を削除できる日を楽しみにしております。
おほほ。
 

【テーマ】GPSを皆様に(上)  Mr.アールグレイ

  • 2018.11.24 Saturday
  • 21:09

テーマがGPSとなったことで私は頭を抱えました。
誰ですかこんなテーマにしたのは!

私でした。

ほんのちょっとした出来心だったんです。
がりはさんを煽れればいいかな・・・と。
深く考えていなかった私に天罰が下りました。
GPSアプリを使ったストーキングの話はXさんに書かれてしまいそうですし、GPSについてのガチの雑談はマルーンさんがやるでしょう。
私がぼんやり構想していたのはGPSを使って何か奇妙なことに巻き込まれて帰ってこれなくなるようなお話ですが、三行目くらいで行き詰ってしまい、私が会議に戻ってこれなくなりそうなのでやめました。
きっとヤマブキさんが素敵な作品を書いてくれるでしょう。

傾向から言ってがりはさんがGPSであいうえお作文的なことをしてくるのは見えています。
私は彼にはいつまでも高い壁、システムとして卵をぶつけられる壁として機能していてほしいと思っています。
はいはい、尊敬しています。
ですので、きっと彼が用意しているあいうえお作文は私の書くものより上質だと信じて、出鼻をくじいてやろうと思います。

取り組んでみて絶望的に難しく考えあぐねた結果、執筆陣にメッセージを出すことにしました。
みなさん、GPSですよ。

インディゴさんへ。
「G:我慢強く取り組んでおられますね。P:パーソナルな話の頻度が減って読みやすくなりました。S:信じる道を往く感じが素敵ですね。」

毎月Pスポから始まり、振り返りを読むとひと月が終わるんだな、と思います。
予想の中では毎月おすすめの自作を推されていて、私はそれがすごいなあといつも感心しています。
やはり書く人としてはかくあらねばならないと。
これが自分の一番良いものです、と人に示せるものに仕上げてから出すというプロ意識なのだと。
投票の結果に表立って反応するのもインディゴさんで、最近は悔しいことが多いようですが、賞を取って号泣するところを私はまた見たいです。
最近の作品の中では視線の交点とアグリッパの話が面白かったです。


たりきさんへ
「G:外人騎手だけペアにして買ってれば勝利しそうですけど・・・。P:パドックを見なくても(たまに)当たるのはなぜですか?S:サスティナブルというのはたりきさんの活動を示すための言葉ですね。」

競馬を少し見るようになりました。
馬って素敵ですね。
思っていたよりもずっとずっと筋肉質で、最後の直線に向いてくるところを正面から捉えた映像が私は大好きです。
この間、エリザベス女王杯(女王つながりで興味がわきました。)で勝ったリスグラシューに騎乗したモレイラ騎手は、今年度の勝率が.377、二着までにくる率が5割を超えています。
その日は10レース乗って5勝。
これはもう競馬ではなくてモレイラという別のゲームなのではないでしょうか。
少し前まではルメール騎手がG1を連勝していましたし。
また、競馬番組を見ていると当日の体重だとか、当日馬が歩いている様子だとかがとても重要な情報のように扱われています。
箱根駅伝でも当日にエントリーする選手が変わるくらい研ぎ澄まされたアスリートにとって体調は大事だし繊細なのだと思います。
しかしたりきさんは当日の様子を見ないで予想するわけで、それがすごいなあと思います。
コンビニには競馬雑誌や競馬新聞が置いてあって、それはおそらく前の週くらいから書いてあった記事の塊なのだと思いますが、それが売れるのはたりきさん寄りの人が多いからなのでしょうか。
いつかそのあたりの機微についても教えてくださいね。
競馬って当日の体調なのか、騎手なのか、血筋なのか、その他なのか。

 

ヤマブキさんへ。
「G:元気な人もたまには相手にしてください。 P:ペールフェースじゃないと診ていただけませんか? S:好きです。」

鉄の海のテンションを持続されているのが本当にすごいと思います。
本が出たら買います。
本が出る前にリライトされると思うので、こっそり私にだけわかるように私を登場させてほしいです。
白衣着たいな、看護婦やってみたいなー、というとベタベタな漫才コントが始まりそうですが。
ヤマブキさんの作品にメインで出てくる人はみんなどこかおかしいです。
みんなまともな作品というとミルクティの正しい作り方の話をする美容師がすぐに浮かぶくらい、みなどこか悪い感じがします。
私、かなり健康なのですが登場させてもらえるものでしょうか。
椎名林檎よりも見事な正拳突きを身に着けてお待ちしております。

【テーマ】消えたGPS Mr.ヤマブキ

  • 2018.11.22 Thursday
  • 00:00

「ただいま」

「遅かったね。また仕事?」

「ああ、そうだよ。ご飯は食べてきた。明日も早いしもう寝るよ。風呂は明日にでも入る」

「そう……、じゃあ、おやすみ。先に寝てるね」

 

 結婚して三年、最近夫の帰りが遅いです。仕事なので、年の瀬に忙しいとかなら分かるのですが、全く繁忙期でもない時期に、ほとんど終電で帰ってきます。こっそりシャツを嗅いでみると、煙草の臭いの中に女の臭いが混じっているような気がしました。スマホも鍵がかかっているし、ラインの通知も来ないようにしていて、徹底的です。証拠はありませんが、証拠がないこと以外すべてが浮気だと思えます。そのうち、証拠がないことすら証拠みたいに見えてくるのです。

 

「ねえ……まさか、浮気なんかしてないよね?」

「え?そんなわけないだろ!最近遅いからか?お前のためにも頑張って遅くまで働いてるのを浮気だっていうのか?ありえねえ!」

 

 確かに、彼の言うことはもっともです。でもこのムキになり方。それに、服に付いたあの香気は……。

 

 夫がロックを外すのをこっそり盗み見て、朝のシャワーのときにスマホを開きました。ラインやメールには、特にそれらしき痕跡はありませんでした。でも削除したりして隠しているのかも?短時間でしたし、それほど詳しくは調べられませんでした。それよりもGPSを利用して、スマホの位置情報を私のスマホで探知できるようにする必要がありました。スマホ内に登録されたアカウントを借りるだけでいいのです。これで、彼がどこにいるのか、手に取るように分かります。今日こそは確実な証拠を手に入れることができそうで、小躍りしたい気持ちでした。

 

 その夜、今日も遅い?と連絡すると、終電くらい、と返ってきました。スリルを伴う正義ほど楽しいものはありません。夜ご飯を食べて、じっと夫の位置情報を見ていると、20時くらいにはもうすでに会社を出ました。夕食の後また仕事を続けるつもりかもしれないなとは思いましたが、周囲のコンビニを素通りして駅に来ました。少しの時間立ち止まっていたかと思うと電車に乗って家とは逆方向に動いていきます。これはもう確たる証拠だと心臓は鐘を打っていました。この履歴を見せつけてやろうか、いや、場所が分かっているなら直接行って驚かせるほうが痛快ではないかなどと思っていると、ぴたりと点が立ち止まりました。駅と駅の間なので信号待ちか、人身事故かと思いしばらく待っていると、今度は夫からラインが来ました。

 

「だして」

「こわい」

 

 もしかしてGPSで追跡していることに気づいたのでしょうか。その直後にGPSは目標を失い、それから一度も表示されませんでした。電源を切ったのでしょう。それから、夫は帰ってきませんでした。

 

 その後、二日、三日と経っても夫は帰ってきませんでした。会社からも無断欠勤で電話がかかってきました。警察に捜索願いを出しましたが、一向に夫は見つかりませんでした。通帳や印鑑も家に置きっぱなしで、駆け落ちしたということはなさそうです。そのうち周囲から神隠しだと言われるようになり、私も徐々にそんな気がしてきました。怯えた夫のメッセージ。一体どこに連れられて、何を見たのでしょう。時々、だして、こわい、と書かれたラインの画面を見直すのですが、何度見ても身震いが止まりません。

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