【テーマ】夏の日の出来事  がりは

  • 2017.07.31 Monday
  • 07:18

夏。

あれは夏の日の出来事だった。

良く晴れた日の名残りが窓の外に薄紅色に残っている。

遠くから花火の音が聞こえる。

人が少なくなったオフィスで、周囲の島からは人がいなくなり、隣の席の後輩と俺だけになった。

くりくりとした目が特徴的で、明るい茶色の前髪を横に流している。

机の上にそっと置かれたスマホが小さくうなり、後輩は中を確認し、大げさなため息をつく。

「デート行きましょ、デート!」

「はあ?」

 

デートという単語をそもそも久々に聞いた。

昔はもっと大事に扱っていた単語だった。

さらっと使えるようになってもう二十年くらい経つだろうか。

 

「夏ですよ。花火とか上がっちゃってるじゃないですか。デート行くしかないでしょう。」

「仕事しろよ仕事。終わったんかよ。」

「終わったか、終わってないのか、答えはもちろん」

「トランキーロ!!て俺がいつも使ってるやつ!!パクるなよ。」

 

我々のようなポスト高度成長のデスクワークはどこまでやれば終わるのかは割合本人の裁量だったり、最終承認者の機嫌に左右されることが多く、最終承認者がオフィスを後にした今日のような日の仕事はいつ上がっても良いと言えば良い。

 

「気持ちよく晴れた日に一日中で仕事して、どうかしてますよ。デートですよ。デートしかないですよ。わかりました。二人きりだと気まずいとか思ってるんでしょ。お子様か。いい年してお子様か。安心してください、あと二人、用意してますから。傍から見たらデートに見えませんから。」

 

デートって恋人同士でするものじゃなくて、少なくとも片方が恋人になりたいなと思って誘い、距離を詰めていく時に行われる行為だったなあと懐かしく思い出した。

こいつは何を考えているんだろうか。

 

「こんな日に二人で残ってるのもディスティーノですよ、先輩。私割とかわいい方だし、いろいろとわかってる方だし、デートしたら楽しいですよ?」

「確かに誰もいねえな。いろいろとわかってるってなんだ!おそろしい。他のやつ誘えよ。いるだろ、もっと若いの。」

「ひっどーい!私は先輩を誘ってるのに、どうしてそんなこと言えるんですか?」

「それはね」

後輩の方に向き直り、両肩に手を置き、しっかりと目を見つめながら言う。

「お前はたしかにとてもかわいい後輩だ。だーけーどー」

左目を閉じながら、ゆっくりと言い渡す。

「お前がただの麻雀好きの男で、メンツが三人そろったから俺を麻雀に誘っているだけで、残りの一人は俺じゃなくても誰でも良いってことを俺は知ってるからだよ。」

「ぐぬぬ。」

「そしてそれをデートとは言わないんだ。今日をお前の敗戦記念日にしてやる。覚悟しとけ。」

「ということは?」

「15分で片付けて上がるぞ。お前のデータ麻雀を俺の魂のツモで粉砕してやる。」

「わーい☆こわーい☆」

 

四角い緑のジャングルに消えていく二人、夏の日の出来事であった。

【テーマ】3D連携 Mr.Indigo

  • 2017.07.28 Friday
  • 12:00

「あ〜あ、なんとかならんかなぁ…」

閑古鳥の鳴く店で、大は溜め息をついた。大はきりたんぽ鍋の店を営んでいて、秋田犬のブリーダーでもある。しかし、どちらも売上が芳しくないのだ。

とりあえず客が来ないことには話にならぬのだが、大にはハンデがあった。立地があまりにも不便なのだ。いろいろと手を尽くしてはいるが、改善の兆しは見えない。

大は誰も見ていない店のテレビに目を遣った。洒落た洋風建築に住む函という男が紹介されていた。古いけどいい家だな。大は素直に感心した。どうせ暇なんだし、ちょっと見てみるか。

美人リポーターを連れた函が敷地を案内していく。海に沿って煉瓦造の赤い倉庫が並んでいた。海はいいな。内陸に住む大は羨ましく思った。ウチの店にあれがあっても、虫だらけのボロ倉庫だよ…。

やがて、函はリポーターを裏山へと案内した。

「…うっ……」

絶句するリポーター。その視線の先には大海原が広がっていた。

「夜はこっち側がすごいんですよ」

函は得意気に言った。そして画面は夜の動画に切り替わる。山から見下ろす風景は例えようのない美しさだった。大はもう素直に感心できなかった。自分にない客寄せの手段をあの男はいくつも持っている。

「くそっ、つまらん」

テレビを消そうとした大は、ある事実に気づいた。

「あっ」

閃いた。起死回生の策が。

「よし!」


翌日、大は近くに住む角という男を訪れた。近くといっても彼らにとっては近い部類に入るというだけで、車でかなりの時間を要するのだが。

「角さん、お願いがある」

大は両手を畳について頭を下げた。函の家と違って角の家は純和風だが、こちらもなかなか風格のある建物だ。趣深い庭や立派な蔵もある。春には桜並木を見に多くの人が来るらしい。これまでの大にとっては角も羨望の対象であったが、起死回生の策のためには角に一肌脱いでもらわなければならなかった。

「一緒に函さんのところへ行ってくれんか」

大が単身で函のもとを訪れても、歯牙にもかけられぬ可能性が高い。しかし、人気者の角ならば一目置いてもらえるのではないか。これが大の目論見だった。

「よし、わかった。行こう」

角にとっても大の提案は魅力的なものだった。函の口利きがあれば、角も儲かるに違いない。


「どうも、初めまして」

「おぉ、あなたが角さんですか。お噂はかねがね伺ってますよ。なかなかの人気だそうで」

「いやいや、函さんにはかないませんよ」

「まあ、角さんと手を組むのは大歓迎ですよ。お互いにお互いをPRしていけば、どちらも集客アップ、収益アップ間違いなし!」

会話は弾む。函と角はすっかり意気投合したようだ。しびれを切らした大は口を挟んだ。

「あの…ワタクシは?」

「あ、えーと、大さんでしたっけ。あなたと組んでも別に損するわけじゃないし、一緒にやっていきましょう」

「おお!ありがとうございます」

「ウチに得があるかはわかりませんが、DATEの仲間ですからね」

こうしてDATEという共通項を持つ3者は手を結んだ。

この連携はDATEの頭文字から「3D連携」と呼ばれ、地方新聞の記事にもなったが、成果のほどは未だ明らかでない。


※この作品はフィクションですが、実在の人物や団体などとは関係があります。秋田県大館市、秋田県仙北市(角館)、そして北海道函館市の3市による「3D連携」、特に大館市の今後にご注目ください。


【テーマ】鉄の海(58) by Mr.ヤマブキ

  • 2017.07.27 Thursday
  • 00:00

「先生の言うことは聞くものですね」

 例のしわくちゃの笑顔だ。Mさんは言う。

「痛くないと気分も違いますね」

「今度からは僕を信用してください」

 そう言って笑い合う。

「たまに痛むこともあるんですけど、前とは違っていい感じですね。この前までは麻薬なんて使うほどじゃないと思ってたんですけど、使ってみると結構我慢してたなって思うんです。おかげで旅行も楽しく過ごせました」

「二条城近くの喫茶はまだありましたか?」

「なかったですよ。仕方のないことです。……それで、雨だったんですよ」

「それは生憎でしたね」

「いえいえ、出会ったときも雨でね」

 うつむきがちなMさんの奥さんはいつもよりいっそう首の角度が深い。

「そうだ、この前そうおっしゃってましたね、思い出しましたよ。でも歩くのも大変でしたでしょう」

「先生、濡れたくないと思うから雨は不快なんです。濡れてもいいと思えたら雨の日なんてこんな楽しいことはないですよ」

「体だけは冷やさないようにお願いします」

「そこはばっちりでした。厚着していると今度はどんどん上気してきて雨が気持ちいいんですよ、ほんとうに。色々と思い出しました」

「楽しい旅行だったようですね」

「いや、これは失礼。お忙しいところにこんな話を」

「お話いただけなければこちらから伺っていたところです。でもまあそろそろ治療の話に戻しましょう」

 二人の顔が途端に引き締まる。

「と、その前に。奥様は旅行、いかがでしたか」

「えっ、……それは、うれしかったですよ。あんなに楽しそうなの久しぶりでしたから……」

「それはよかったです」

 まだ言い足りないような表情だったので、数秒待った。

「今日入院する前に、主人と、次の抗癌剤もがんばろうって言ってたんです。先生が旅行に行ってくださいとおっしゃったから」

 Mさんが引き受ける。

「覚悟できたような気がしてね」

 頷くことしかできない。

「分かりました。週明けに入院して抗癌剤治療をしましょう」

「もうあとは先生にお任せですよ。よろしくお願いします」

 

 お任せします、の言葉に心に潜む大魚が蠢く感じする。

calendar

S M T W T F S
  12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  
<< August 2017 >>

カウンター

ブログパーツUL5

twitter

selected entries

categories

archives

recent comment

links

profile

search this site.

others

mobile

qrcode

powered

無料ブログ作成サービス JUGEM