サウジアラビア紀行(11)治安 Mr.ホワイト

  • 2019.03.15 Friday
  • 00:00

 サウジアラビアは危険な国だというイメージがまずあるため、帰国すると「治安はどうだったか」ということをよく聞かれた。「うーん、まあ、治安は良かったですよ」などと適当に答えるのだが、「治安」とは果たして何を意味しているのか、彼らは一体何が聞きたいのかを考えると「うーん、まあ」が頭についてしまう。

 

 私が行った中でもっとも治安が良いと感じた国はロシアである。理由は簡単で、街中をバカでかい警察犬を連れた警官が常にウロウロしているから。これでは悪事はできない。ロシアは今もやはり管理社会・監視社会であって、安全度は高いが居心地は良くない。

 逆に治安が悪いと感じたのはスペインのマドリッド。地下鉄でネオナチのようなスキンヘッドの若者達が老人を囲んでいた。なんとなくという感覚でしかないのだが、夜出歩くのは怖かった。パリも少し裏手に行くと良くなかった。友人はスリにあいかけたし、路上で普通にドラッグが売買されていた。ただ、だからといってマドリッドやパリの人たちが悪人だということはまったくなく、むしろ非常にフレンドリーで優しく、居心地は良かった。

 

 つまり、安全であることと居心地が良いことは必ずしもイコールじゃないし、治安は「人々が心優しいかどうか」だけでは決まらない。むしろ、その社会がどれだけ厳しいか、その社会がどれだけ裕福か、その社会がどれだけ平等かというような、制度や経済の問題が重要な要素になるように思う。

 

 サウジアラビアは世界でもっともイスラム教に厳格な国なので、社会のルールが厳しい。酒を飲んじゃダメ、賭け事をしちゃダメ、男性は女性と話しちゃダメ、ちゃんとお祈りしなきゃダメ。しかもムタワと呼ばれる宗教警察がタクシー運転手や店員などに化けて人々を監視している。そして何よりも、彼らは敬虔なムスリムであるため、自身の宗教心や道徳心が彼ら自身の行いを監視している。

 こんなに宗教に厳しく裕福な国の治安が悪いはずがなく、治安が悪い場所にあるような怖さはほとんど感じなかった。ただ、厳しい国であるためやはり不自由だし、自分がそのルールに抵触しないようにリスク管理する必要があり、居心地は良くない。例えば街中で写真は撮らないよう気をつけていた。偶像崇拝を禁止しているというだけでなく、街中のどこに軍事施設があるかわからず、それが写真に写りこむと捕まる要因になる。このあたりが冒頭の「うーん、まあ」に出てきてしまう。

 ちなみにサウジにはなんとなくテロのイメージがあるが、外国人に死者が出るようなテロは長年起きておらず、現地ではみんなテロのリスクは認識しているものの、別になんとも思っていないようだった。北朝鮮からミサイルが飛んでくるかもしれないとなったときに、日本から逃げた外国人はいたが、日本人は平気だったのを思い出した。

サウジアラビア紀行(10)ファッション Mr.ホワイト

  • 2019.03.08 Friday
  • 00:00

 中東のファッションというとみんながみんな真っ白な民族衣装を着て、頭に布を被っているイメージを抱かれると思うが、これはもう本当にイメージ通りというかイメージ以上で、サウジアラビア人男性はほぼ間違いなくこの「オバQ」を着ている。日本人はみんなこの民族衣裳のことをオバケのQ太郎にちなんでそう呼んでいるが、正しくは「トーブ」という。彼らは仕事中は必ずトーブを着ているが、だからといって仕事着というわけでもないようで、街ゆく人もカフェで喋っている人もみんな常にトーブを着ている。年のいった男性はお腹が出て来るのでダボっとしたものを着ているが、若者は細身のものを着ていてシュッとしているので何だか格好良く見えてくる(アラブ人の若者は男前が多い)。ちなみに外国人はトーブを着ないので、服装を見ればサウジアラビア人かどうかはすぐにわかってしまう。

 

 私はこのトーブはイスラム教の宗教衣裳のようなもので、だからこそ彼らは常にトーブを着ているのだと思い込んでいたのだが、実はそうではない。女性が着ている真っ黒なアバヤという服は宗教衣裳であるが、トーブは単なる民族衣裳であって宗教とは関係がないらしい。

 

 となればやるべきことはひとつ。着るしかない。トーブを購入したい旨を伝え、トーブ版の「SUITS SELECT」のようなチェーン店に連れて行ってもらった。トーブの選び方は紳士シャツのようなもので、首回り、袖の長さ、細身かどうかなどで様々なサイズがラインナップされている。トーブの場合もっとも重要なのは着丈(長さ)であって、足首が見えるか見えないかというくらいスレスレのものを着なければいけない。なお、私が購入したのは安いものだが、実はこのトーブのマーケットは東洋紡などの日本企業が握っていて、高級トーブはほぼすべて日本製である。

 

 翌日は購入したトーブを丸一日着ていたのだが、これは現地の人、特にサウジアラビア人にバカ受けした。嬉しかったようである。外国人がトーブを着るのは非常に珍しいらしく、街を歩いていても知らない人から声をかけられる(笑われる?)始末だった。ちょっと怒られたりするかもと思っていたので、この反応には安心した。

 

 インドでクルタという民族衣装を着た時も思ったが、やはり民族衣装というのはよく出来ている。トーブは肌触りがサラサラとしていて風通しが良く、日差しの厳しいサウジアラビアではちょうど良い。でも、鏡を見て思ったけれど、やっぱり日本人には似合わない。トーブは彼らが着てこそ格好良い。

 

サウジアラビア紀行(9)食べ物 Mr.ホワイト

  • 2019.03.01 Friday
  • 00:00

 

 

 海外に行くと必ず人に聞かれるのが「食事はどうだった?」ということで、もっと早くお話ししておけばよかったのかもしれないが、少し食事について触れておく。

 

 まずサウジアラビアでは酒と豚肉は完全に禁止されており海外から持ち込むと捕まる。みりんですらダメ。酒好きには辛い国だが私はあまり酒を飲めないのでまったく問題なく、むしろ酒を飲んでしんどい思いをすることがなかったので非常に快適だった。ちなみに豚肉はなくても気になる人はいない。

 

 ではサウジアラビアにはどのような料理があるのかというと、実は大体何でもある。日本に大体の料理があるのと同じ。洋食も普通にあるし中華・韓国・タイ・インド料理もたくさんある。和食は少ないけどあるにはあった(行ってないけど)。外国人が多いので各国の料理が揃っているらしい。私は現地の中華料理と韓国料理を食べたが、これは日本の平均的なお店よりも美味しく非常にレベルが高かった。また、サウジアラビアは完全にアメリカナイズされているので、マクドナルドもKFCもスターバックスもたくさんある。スタバも行ったけど日本のスタバと完全に同じ味だった。

 

 ただ、サウジアラビアのメインはやはり中東料理。これは日本では食べられない。現地ではほとんど中東料理を食べていたのだが、これはもう抜群にうまかった。「カブサ」と呼ばれる料理が基本なのだが、これは非常にシンプルなもので、とんでもない量のサフランライスの上にとんでもない量の肉や魚をドンとおく、というものである。肉は羊やヤギやラクダの肉を丸焼きしただけのものだが、これがめちゃめちゃうまい。彼らは店でしめたばかりの肉だからうまいのだと言っていたが、遊牧民の肉食の歴史を感じる味だった。魚の場合もおなじようなもので、丸ごと塩焼きにするか丸ごとフライにしてそいつをドンとライスの上に置くだけなのだが、これもフレッシュな魚を調理するからか抜群にうまい。意外だったのだが、サウジアラビアでは肉だけではなく魚もよく食べられている。すでに書いたようにジェッダは紅海に面しており、スーパーに行っても派手な色をした魚が氷の上にズラッと並んでいる。

 

 ちなみにサウジアラビアのすべてのレストランは「男性だけのスペース」と「ファミリーのためのスペース」に完全に区切られており、入り口もふたつに分かれているし受付もふたつある。これも女性から野蛮な独身男性を遠ざけるため。単なる女性差別であればこうはならないはずで、我々の目からすると女性差別のように見える慣習も多いかもしれないが、彼らとしてはやはり女性を守るべきものとして扱っているのだ。「価値観の違い」と一言で片付けてしまいがちではあるが、実際にそれにぶつかってみると、自分は自分の価値観をあまりにも当然のように思っていたことに気がついて唖然とする。ああ、自分もずっと、自分が「正しい」のだと思い込んでいた。

 

サウジアラビア紀行 補遺  Mr.ホワイト

  • 2019.02.28 Thursday
  • 21:58

 1月の最優秀作品に選んでくださり、ありがとうございました。今回のサウジアラビア紀行ではテーマごとにまとめていますが、端々のことは本筋から離れてしまうので書ききれていません。せっかくなのでこの場を借りて語り漏れたことを補足いたします。

 

サウジアラビア紀行(1)熱風

 文中で「におい」について少しだけ触れていますが、サウジから帰国して荷物を開けてびっくりしたのがこのにおいのきつさでした。サウジにいたときには鼻が麻痺してわからなくなっていましたが、持ち帰った服などすべてのものからなんとも言えないきついにおいがするのです。部屋に焚かれている香のにおいなのか、あるいは人々がつけている香水のにおいなのか、いまだによくわかりません。

 サウジアラビア人はヤギや羊を好んで食べますが、基本的に新鮮な肉をそのまま焼くだけですので、こういう食事をしていると人間の体臭も獣臭くなってしまうのではないか、その獣臭さをやっつけるためにきつい香水をつけているのではないかと想像しています。

 

サウジアラビア紀行(2)海と陸

 よく考えれば当たり前なのですが、サウジアラビアのほとんどの街は沿岸部にあります。首都リヤドは内陸部ですがこれはかなり例外。沿岸部でも過酷なのに、内陸部は砂漠気候ですのでとにかく暑く、乾燥がひどく、昼夜の寒暖差が激しいというさらに過酷な環境です。海は石油というキャッシュを生み出すだけではなく、飲料水や生活用水をも生み出してくれる重要な存在です。そして物資は海を渡って北米からやってきます。ラクダに乗って砂丘をわたるあのイメージはどこかにやってしまったほうがよいように思います。

 

サウジアラビア紀行(3)宗教

 イスラム教には聖地が3つあります。エルサレム、マッカ(メッカ)、メディナです。このうちの2つ、マッカとメディナはサウジアラビアにあります。これはサウジアラビアにとってはきわめて重要なことで、サウジアラビア国王はイスラム教の世界ではCustodian of the Two Holly Mosques(二聖都の守護者)と呼ばれています。イスラム教には色んな宗派がありますがおそらくどの宗派でも聖地はこの3つであって、だからこそサウジアラビア国王はイスラム世界においては決定的なパワーを有することとなります。私たちには聖地というものがうまく理解できませんが、聖地を巡礼することはイスラム教徒にとってはひとつの夢で、世界中のイスラム教徒は一生に一度は行ってみたいと思っています。ちなみにテレビでは常にマッカの様子が放映されていて、たとえばレストランのテレビでもずっと流れていました。

 

サウジアラビア紀行(4)国家と歴史

 教科書では習わないサウジアラビアの歴史。初代国王のアブドゥルアジーズは怪力の大男でした。体力的にもちょっと人間離れしていたようで、過酷な環境にあるサウジアラビアでは異例の長命で、その子供達も大柄で寿命が長い人が多いです。




 

サウジアラビア紀行(8)外国人 Mr.ホワイト

  • 2019.02.22 Friday
  • 00:00

 すでに書いたように思うが、サウジアラビア人はとにかく働かない。国家歳入の9割を占める石油収入を国民に分配しているので、サウジアラビア人には税金も教育費もかからないし福祉は非常に手厚いしなんなら公務員として雇ってしまう。さらにサウジアラビアは人的関係が濃い社会なので、外国企業がサウジでビジネスをしようとする場合に紹介料をとったり(いま日産のゴーン事件で問題になってるのもこれ)、縁故入社したりさせたり、不動産を転がしたりと、「サウジアラビア人であること」を利用して色々と金を稼いでいる。やはり彼らは商人なのだ。

 

 これだけ働かないサウジアラビア人だけでは世の中がうまく回るわけがないので、サウジアラビアにはとんでもない数の外国人労働者が集まって3Kの仕事のすべてを請け負っている。実に労働者のおよそ半分が外国人であり、工場労働者、建設作業員、オフィスワーカー、ドライバー、ウェイター、看護師など、どこに行っても外国人だらけ。国籍はインド・パキスタンがもっとも多く、周辺国のイエメン・スーダン・シリア・レバノン、アフリカのエジプト・モロッコ、英語が話せるフィリピンなども多い。ミーティングをすると4〜5カ国の国籍の人間が集まってそれぞれの訛りの英語を話すので、これはなかなか辛い経験だった。訛りがどうこう以前に単に英語ができないだけではあるのだが・・。

 

 サウジアラビアでも外国人労働者は低賃金で働いており厳しい状況にあることには違いない。外国人労働者の仕事は3Kの仕事が多く賃金も低い一方、サウジアラビア人は働かないくせに裕福だという歪んだ社会になっている。ただ、裕福で何もできないサウジアラビア人が会社のトップに居座って、外国人労働者を奴隷のように働かせているかというと必ずしもそうではない。少なくとも私が現地で目にしたのは、レバノン人の上司にサウジアラビア人の部下がついているという状況だった。

 

「外国人が上司でサウジアラビア人が部下、というのは珍しいんですか?」

「いや、別に普通にあると思うけど。」

「あ、そうなんですか。」

「え?だってそうじゃない?」

 

 また馬鹿な問いかけをしてしまった。サウジアラビアには聖地マッカ(メッカと発音するのは日本人だけ)があるため大昔から外国人が多い。そしてサウジアラビア人は商人であるため外国人とやりとりする機会も昔から多かった。外国人が国内にいるのは彼らにとっては普通のことで、おそらく我々がイメージする「外国人」とは捉え方が違う。

 

 いま、日本で働く外国人労働者もほとんどは低賃金できつい仕事をしている。出入国管理法を改正して外国人労働者を増やそうとしているけれど、これは建設とか介護とか日本人が嫌がる仕事を外国人にさせようというもの。まるで奴隷を輸入するみたいに。たぶん、サウジアラビア人よりも日本人の方がはるかに外国人労働者を差別している。低賃金だし差別されるし英語は通じないし外国人に厳しいので、僕が思うに、インド人やフィリピン人の「部下」は日本に来ない。おそらくこれから日本にやって来るのは、中国語と英語しか喋れない中国人の「上司」だろう。「部下」になるのは我々のほうだ。

 

サウジアラビア紀行(7)女性 Mr.ホワイト

  • 2019.02.15 Friday
  • 00:00

 もうひとつ驚いたのは、女性が思ったよりはるかに活き活きしているということ。私も完全に誤解していたのだが、女性は「差別」などされてはいない。サウジアラビアでは女性は「守られている」のだ。

 例えばサウジアラビア人女性はアバヤという全身を覆う真っ黒な服を着ている。これは「我々」からすると宗教上の理由でそのようなものを「着せられている」という風に見える(また、一部の女性はそのように思っているであろう)が、これは女性を野蛮な男どもから守るためのものである。女性たちはあのアバヤの下にブランド物の服を着込み、宝石類をジャラジャラ身につけておしゃれを楽しんでいるのだ。

 どうも話を聞いていると、サウジアラビアの家庭では完全に女性のほうが立場が上で、旦那は奥さんに奉仕するのが当たり前の文化のようである。サウジアラビア人の男たちは、奥さんの長時間の買い物に黙って付き合う。また、サウジアラビアでは家事も家政婦に任せるため、実は妻たちは優雅な生活を満喫している。サウジアラビアでは女性は一人で外出しにくいと聞いていたが、私が街中を歩いている限りでは女性たちは一人でもぶらぶら歩いていたし、何なら深夜12時を過ぎても一人で歩いている女性もいて、「これは日本でもできないな」と感心していた。

 イスラム教では一夫多妻が認められていることも女性蔑視というイメージがつきまとう理由のひとつだが、これも実は女性を守るための制度である。女性は自ら収入を得ることができないので結婚して旦那に稼いでもらうことになるのだが、例えば旦那が急死したりすると妻は再婚しなければならず、そのような場合に裕福な男性の二番目の妻となるのである。そして妻たちは完全に同じ扱いを受けなければならない。要するに「金持ちは多くの女性を支えよ」ということで、男からすればハーレムなどではまったくなく、単に扶養家族が増加するにすぎないので男性のほとんどは実は二人以上の妻を求めてなどいない。「一人でも大変なのに、二人なんて到底無理だよ」と笑っていたけど、お金だけの話じゃなさそうだった。

サウジアラビア紀行(6)話好き Mr.ホワイト

  • 2019.02.08 Friday
  • 00:00

 中東の人というと何かムスッとしているイメージを私は持っていた。これはTED TALKでマズ・ジョブラニというイラン系アメリカ人のコメディアンが言っていたことでもあるが、アメリカの映画では中東の人間はまず笑わない。新聞記事などで中東の人が写っている写真を見てもやはり険しい顔をしていることが多いように思う。

 ところがこれが実は大間違いで、中東の人はとにかくよく喋るし、よく笑う。サウジアラビア人に話をさせると一人で延々と喋り続けるのだが、話も面白いしユーモアのセンスももちろんある。話がいつまでたっても終わらないのが難点ではあるのだが。

一体これは何なんだ、自分が持っていたイメージは一体どこから来ていたんだと思っていたのだが、数日過ごしてなんとなくわかってきた。彼らは無意味に笑うということをしないのだ。だから、写真を撮るからという理由で笑顔を見せることもない。欧米人やアジア人はカメラの前でスマイルを決めるが、中東の人、特にある程度年を取っている人は笑わない。これにはおそらく偶像崇拝の禁止というイスラムの教えが強く影響していて、サウジアラビア人を許可なくカメラで撮ってはいけないくらいなので、写真を撮影されるときに笑うなど不謹慎だということなのかもしれない。

 よく考えてみれば彼らが話好きなのは当然で、かつての日本人のように黙って畑を耕していれば飯を食えるわけではなく、彼ら遊牧民の収入はもともと通商に大きく依存していた。彼らは農民ではなく商人なのである。しゃべりでどうにでもしてやるというのは中東の人のひとつの特徴で、彼らは非常に交渉に長けている。一方で日本人はとにかく交渉がニガテ。これが中東におけるビジネスのしにくさの最大の要因であろうと思われる。

 ただし、中東では日本人は非常に尊敬されている。これは私が数日滞在しただけでもなんとなく感じた。聞くところによると、やはり日本人の勤勉さや謙虚さは彼らから見るととんでもないもののように感じられるらしく、「特に信仰している宗教があるわけでもないのにそれだけ勤勉なのはなぜだ?」となるらしい。中東ではイスラム教が人を律している。日本では何が人を律しているのだろう。世間、かな。いずれにせよ私が感じたのは、この数十年の間、サウジアラビアで政治も宗教も関係なくただ黙々と丁寧に仕事をやってきた日本人たちの仕事の重みだった。

サウジアラビア紀行(5)王位継承戦 Mr.ホワイト

  • 2019.02.01 Friday
  • 00:00

 小難しい話をしたついでに、今回の記者殺害事件の背景となる「王族」について話しておこう。すでに述べたように現国王のサルマーンは初代国王アブドゥルアジーズの子であり、記者殺害の黒幕と言われるムハンマド皇太子はサルマーン国王の子(=アブドゥルアジーズの孫)である。

アブドゥルアジーズには子供が89人、うち52人が男子であるとされている。初代国王は建国したアブドゥルアジーズだが、その後、2代目から7代目まではアブドゥルアジーズの息子たち(「第2世代」という)が国王となってきた。国王が亡くなると、少し年の離れた弟が国王になるということを繰り返してきたのである。もちろん「誰が国王になるか」を巡って内部で激しく争いながら。

ここまでは自然な流れだが、アブドゥルアジーズの息子たちも年をとった。このため、いつかその次の世代、アブドゥルアジーズの孫の世代(「第3世代」)を国王にしなければならないということがずっと課題として認識されてきた。ところがこの第3世代は候補者の数が多すぎるのである。誰を次期国王としても争いが起こるし決めきれないので、この第3世代へのバトンタッチはずっと棚上げにされてきたが、サルマーン現国王はこの最重要課題に取り組み、息子であるムハンマド現皇太子を次期国王とすることに成功した。これはサルマーン国王が単に好き放題して自分の息子を選んだというわけではなく、ムハンマド皇太子がサウジ国内できわめて高い人気を誇っていることを背景とした戦略的かつ現実的な対応だった。

だがもちろん、このバトンタッチがそんなに簡単にいくわけがない。まだ次期国王が決まったわけではないのだ。権謀術数に長けた王族たちが何もせず黙っているわけはなく、その座を蹴り落とそうとする動きは当然出てくる。2017年11月にサウジの王族が大量に拘束されたのもそのような動きを牽制するものと見られている。

今回殺害されたジャマル・カショギは単なる「善良なジャーナリスト」ではない。カショギ家はサウジアラビアの有力なビジネス一家であり、ジャマル・カショギ自身も王室とつながっていた。そしてジャマル・カショギは明らかな反体制派であり、彼もムハンマド皇太子を蹴落とそうとしていた。そこには他の王族の意向が影響していた可能性もある。パワーを有するファミリー出身の反体制派が自分を蹴落とそうとすれば、サウジアラビア王家は当然彼を消しにいく。それは「我々」からすれば理解できないし許しがたいことだが、彼らにしてみれば当然の論理なのだ。他の部族(=ファミリー)を制圧してきたのがサウジアラビアの歴史であり、そして王位継承戦はまだ終わっていないからだ。

もうひとつ付け加えておけば、トルコはこの記者殺害事件を正義感たっぷりに情報開示しているが、トルコのエルドアン大統領は国内で大粛清を行なった独裁者であり、ジャーナリストを殺しまくっている。トルコが提供する情報はすべて大使館を盗聴していなければ入手できない情報であり、サウジと対立するトルコの動きはきわめて戦略的かつ政治的なものだということは理解しておく必要がある。彼らの言うことを正面から受け取ってはいけない。中東では騙し合いも知らぬふりも二枚舌も誰もが平気でやるのだということが、この事件だけでもよくわかっておもしろい。

サウジアラビア紀行(4)国家と歴史 Mr.ホワイト

  • 2019.01.25 Friday
  • 20:07

サウジアラビアとは「サウード家のアラビア」という意味で、正しくはサウディアレイビアと発音する。今回の記者殺害事件により悪い意味で有名になったが、サウジアラビアはサウード家が支配する王国である。今年でまだ建国88年であり、100年にも達していない。建国したのは初代国王アブドゥルアジーズ・イブン・サウード、現国王サルマーン第7代国王の父である。

アラビア半島は元々、ベドウィンと呼ばれるアラブの遊牧民たちの部族社会だった。数多ある小さなベドウィンの部族同士は争いに暮れていた。またベドウィンは簡単に定住民を襲撃できた。彼らは砂漠から現れ、定住民から略奪して、また砂漠に消えてゆく。圧倒的に有利なベドウィンに太刀打ちできないため、アラビア半島では定住が根付かず、結果として町も経済も発展しなかった。

18世紀、このような状況の中で定住民の強大なネットワークを構築し、ベドウィンに対抗したのがサウード家の祖先であった。これにより定住が進み町は発展したが、内紛や他部族からの攻撃によりサウード家は衰退する。衰退してゆくサウード家に生まれたアブドゥルアジーズはまだ子供だったが、命からがら首都リヤドを逃れ、砂漠を放浪したのちクウェートにたどり着く。サウード家再興の野望を胸に秘めながら。

クウェートでの苦難の日々の中で、アブドゥルアジーズは政治力と軍事力と経済感覚を身につけて青年となった。1902年のある夜、アブドゥルアジーズはルブアルハーリー砂漠に姿をくらました。隠密行動の後、彼はたった40名の手勢とともにリヤドのマスマク城を奇襲し、居を構えていたアジュラーン提督を討ち取り首都奪回に成功した。アブドゥルアジーズは朝の祈りの後にアジュラーン提督の首を取り、その頭部をリヤドの人々に向けて放り投げたという。この「リヤドの戦い」に勝利したアブドゥルアジーズはナジュド国王となる。その後、ナジュドに隣接するヒジャーズ王国を制圧し、これらを統一したのがサウジアラビアである。

なぜこんな歴史の教科書のようなことを書いたかというと、これがたった100年ほど前の出来事で、この織田信長のような人物が現国王の父だから。それまではアラビア半島は遊牧民たちが争う混沌の世界でしかなかった。そしてたった100年で人々の本質は変わらない。記者殺害事件は全世界から非難されたが、おそらく中東に詳しい人は「確かに無茶苦茶だけど、まあ、サウジだし」ぐらいにしか思わなかったのではないか。サウジアラビアの人々は「我々」とは違う歴史を生きている。



サウジアラビア紀行(3)宗教 Mr.ホワイト

  • 2019.01.18 Friday
  • 00:00

 サウジアラビアではとにかく何を差し置いてもイスラム教が重要で、人々はイスラム教中心の生活を送っている。サウジアラビアは世界でもっとも厳格なイスラム国家であり、サウジアラビアにいると宗教を感じないことはないというか、何についても宗教を感じてしまう。例えば彼らは1日5回の礼拝を必ず行う。礼拝の時間は季節や日によって異なるようだが、おおむね5時、12時、15時、17時、19時あたりに行われる。1度の礼拝には大体20分〜30分程度かかるのだが、礼拝はすべてに優先されるので、この時間はみんな仕事を中断してモスクに行く。驚くことに店もすべて閉まってしまう。スーパーで買い物していてもガラガラとシャッターが閉められるし、レストランで食事をしていても礼拝の時間は何も注文できないし何も料理は出てこない。出入り口に鍵がかけられてしまうので、店から出ることすらできなくなってしまう。

 彼らにとってはお祈りが仕事よりも優先されるのは当然のことで、これだけ礼拝ばかりしているとまあ仕事なんてあまりできない。そもそもサウジアラビア人の定時は10時〜16時が一般的なので、いよいよ仕事をしている時間などない。中東のビジネスは一般に時間管理が難しく「遅れて当然」の世界なのだが、なるほど、彼らは礼拝で忙しく、仕事なんてやっている暇がないんだなということがよくわかった。そう、サウジアラビアではやはり何を差し置いてもイスラム教なのだ。

 彼らは家やオフィスでお祈りするのではなく、基本的に町のいたるところにあるモスクに出かけてお祈りをしている。サウジアラビアには観光用のモスクなどはなく、イスラム教徒のための祈りの場である。イスラム教徒以外が入ることなどできないと思っていたのだが、今回、あるモスクに入れてもらえる機会があった。これには本当に驚いた。かなりためらいつつ、「彼らは日本人なんだけどモスクに入ることは可能だろうか」と聞いてもらったところ、サウジアラビア人の若者は何事もないように「どうぞ、ぜひ入ってください」と答えた。モスクは広く、シンプルで美しかった。私たちは明らかに異教徒だったが、私たちが何かを言われたり奇異の目で見られるようなことはまったくなかった。イスラム教徒が異教徒に攻撃的だって?イスラム教は怖くて危険で過激だって?全然違うじゃないか。「イスラム教徒が異教徒に攻撃的」なのではなく、「我々がイスラム教徒に攻撃的」だった。「異教徒」を差別しているのはイスラム教徒ではなく「我々」だったのだ。私はモスクの絨毯に座りながら、彼らの寛容さへの感動と自分への情けなさがないまぜになって、頭の中が一杯になっていた。

calendar

S M T W T F S
     12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31      
<< March 2019 >>

カウンター

ブログパーツUL5

selected entries

categories

archives

recent comment

links

profile

search this site.

others

mobile

qrcode

powered

無料ブログ作成サービス JUGEM